『 雨の日は ― (2) ― 』
ことん ことん ことん ・・・
自転車の両脇で 彼と彼女はゆっくりと坂を下ってゆく。
相変らず弱い雨が 宙に舞っているが 二人とも傘はさしていない。
ぴちょん。 自転車ごと水溜りを跨いでゆく。
「 ・・・ あ 自転車、大丈夫? 」
「 平気 平気〜〜 これ、オール天候用 なんだ 」
「 え そんなの、あるの? 」
「 ふふふ ・・・ 博士の発明さ。 」
「 へえ なんでも作っちゃうのねえ 」
「 発明とか大好きみたいだよ? もう趣味の領域だよね
あ あの スプレー どう? 」
「 え・・・ ああ 本当に雨が弾いてゆくわね
ほら ・・・ コートの上をね 水玉が転がっているわ 」
彼女が裾を引っ張ると 水色のコートから
ころころと 水滴が落ちてゆく。
「 ほんとだ あは キレイだなあ ・・・ 」
「 ね? 傘 差さずに雨の中を歩くって 不思議ねえ
なんだかいつもと違う世界にいるみたい ・・・ 」
「 そうだね ・・・ あはは チビの頃って
雨の日は かえって喜んで外にでて ゲデゲデになって
寮母さんにめっちゃ怒られたっけ 」
「 うふふ 悪戯っこ・ジョー だったのね 」
「 ・・・ いや。 イイコぶってて 陰で悪さする・いやなヤツだったさ 」
「 あらあ そう? そんな風には見えません? 」
「 きみがそう思うなら ぼくってグレート並のアクターかも
イイコな坊やにみえる? 」
「 ?? ジョーがそんなこと言うの、初めて聞いたわ 」
「 イヤな気分になったら ・・・ごめん 」
「 そういう意味じゃないけど・・・ 」
ちょっとだけ言葉を切ったけれど 彼女はすぐに明るい声で
話題を替えた。
「 ね? 雨の日はねえ やっぱりいつもとは違う世界なの。
だって 雨のカーテンの向うはいつだってぼやけているわ?
・・・ こっそり妖精が遊んでいるのかも 」
「 オンナノコって〜〜 ものすごくメルヘンチック〜〜 」
「 もう〜〜〜 だってステキだわ?
ほうら ・・・ 空から細かい宝石が落ちてくるの 」
こくん。 ・・・ ほろほろ ほろり
ちょっと首を傾げると 金色の髪から雨粒がすべり落ちる。
・・・ うわ 〜〜〜
な な なんて キレイなんだ〜〜〜
ジョーはもう言葉も出ない。
視線は彼女に張り付いてしまい、渾身の努力をしても引き剥がすことが
できないのだ。
! あ あの時と 同じ だ
あの時と ・・・
ぼくの眼はどうしたって動かなかったんだ!
「 ・・・・ 」
「 ? ・・・ どうか した? 」
口をつぐみ じっと見つめてくる彼に 彼女は少しばかり驚いた。
「 具合、悪いの? 戻りましょうか ・・・? 」
「 ・・・ あ あ ご ごめん ・・・
うん なんでも ・・・ か 買い物、行かなくちゃね 」
「 そうね ・・・ 雨の中のショッピングって ステキだわ〜〜
ねえ この時期のお野菜って ・・・ 」
彼女の楽し気なおしゃべりは 彼の耳を通りすぎてゆくだけだった。
だって!
あの時も ― こうだったんだ
・・・ あの時。 あの島で。
それは ― あまりに あまりにも 衝撃的過ぎた。
あなたも こちらに いらっしゃい
あのコトバ あの声 そして あの淡い笑み。
彼は 生まれて初めて 全身を熱い炎に貫かれるのを感じていた。
視覚も聴覚も 勝手に照準をその人に合わせてしまい
どんなに努力しても 引き戻すことはできなかった。
脳髄に入ってくるのは あの言葉 のみ。
こちらに いらっしゃい
― 考えたり 迷ったりする余裕は なかった。
もう手足が勝手に動きだす。
ズ ズ ズ ・・・ 砂地を踏みしめ 進んだ。
そして。 < 仲間 > になった。
なにがなんだか 全然わからなかったけど。
同じ赤い服のオトコ達が 次々に いろいろと話かけたが
全然アタマに入らない ・ 理解もできない。
ただ ただ ひたすら 彼女を見ていた。
そのうち 否応なしに戦闘が始まった。
??? な な なに〜〜〜
これ ・・・ 特撮??
え!? う ウソだろ〜〜〜
・・・ マジ ??
ホンモノ じゃないか!
面喰う事実の連続に アップアップし ― 溺れるモノは藁をもつかむ
で 仲間たちの最後尾に必死でひっついて・・・
なんとか ここまで 辿りついたのだ。
・・・ 彼女の瞳 ・・・・
あんまりキレイでさ
時々 見惚れちゃってさ
でも。 ・・・ 怖いんだ
ぼくの 心の中まで < 見て > るみたいで
本当のぼく を 見透かしているのか って
「 ・・・ いつも優しい笑顔、向けてくれるんだよなあ
大丈夫? って 顔を覗きこんで・・・
でも さ。 ぼくは きみに見えるぼく とは・・・ 」
< そんな イイコ じゃないんだ! >
それはずっとの彼の叫びだ。
純粋無垢な青少年 ― じゃない! 彼は心の中で絶叫していた。
イイコ のフリをして
なんにも知らないんだ・・・って顔で
・・・ 護ってたんだ。
誰にも ぼくのこころの中を
知らない 知らせない
だって ぼくは ―
純朴な青少年 なんかじゃ ない。
― あれは やっぱりこんな雨の夕方だった。
ふらり ・・・と施設から黙って出てくるのはいつものこと。
こんな日は なんとなくコンビニで時間を潰す。
冷暖房完備 だし 雑誌コーナーは隅の方にあるので目立たたない。
立ち読みしまくるのはいつものこと ― 丁寧に読んできちんと棚に返すので
店員さんは 黙認してくれている。
「 − あらあ ・・・君 ここにいたの 」
やたらに親し気な調子の声と一緒に ど〜〜〜! っと。
濃い香水の香が 襲ってきた。
「 ・・・ ? 」
「 ・・・ 元気そうね 」
一目でわかる高価な服の オバサン が立っていた。
およそコンビニとは 縁のない人種だ と思った。
「 あら 忘れちゃった? ねえ お腹 減ってない? 」
「 ・・・ あ ・・・ 」
思い出した・・・ 最近 この辺りでよく会うオバサンだ。
近所の住人とは思えないけれど・・・
なにかと彼に声をかけ チョコレートだの高級ポテチだのを袋丸ごと
ふ・・・っと押し付けてゆくのだ。
?? なんだ あのオバハン ・・・?
別にそれ以上の接触はないし、万引き犯とも思えない。
最初は用心して押し付けられたスナックを そのままそこに置いて逃げた。
・・・ なんの騒動も起きなかった。
・・・ ただのモノ好きなオバハン か・・・?
すこし安心したけれど余計なことに巻き込まれたくないので
そのコンビニは しばらく敬遠していた。
しばらくして ― 彼自身も忘れ始めていたころ ・・・
連日雨が続いた。 それも激しい雨ではなく纏わりつき気がつけば
なけなしのデニムがしっとり濡れている ・・・ そんな雨だ。
「 ん〜〜〜〜〜〜 ・・・ 」
例によって 退屈で ― ヒマはあるが金もトモダチもいない ―
ふらふら ・・・ いつものあのコンビニにやってきた。
「 ・・・・ 」
なぜか 中に入って雑誌の立ち読みをする気にもならず
彼は 店の前でぼんやり・・・しゃがんでいた。
一本の煙草を ゆっくりゆっくり 吸い、時間を潰す。
目の前のアスファルトが 雨を受けだんだんと濃い色になるのを
ぼ〜〜っと 見つめていた。
コツ ・・・。 高いヒールが目の前に立った。
「 ・・・ 遊ばない? 」
あの香水が鼻孔を突き ― 気が付けばふらり、と立ち上がっていた。
「 久し振りね。 ヒマなの ? 」
「 ・・・・ 」
頷きも 首を振りもせず ただ彼は目を上げた。
「 ヒマ人同士 ね 」
「 ・・・・ 」
「 ねえ ちょっと。 遊びましょうよ 」
「 ・・・・ 」
「 ほら 濡れてるわ? 温かいところで乾かさない? 」
「 ・・・・ 」
「 強要はしない でもね ずっとアナタのこと、見てたのよ 」
「 ・・・・ 」
濃い化粧の奥からじっと見つめられ ― 彼はそのまま 付いていった。
どのくらいの時間が過ぎたのか・・・
我に返ったとき 彼は 高級なリネンを敷きつめた大きなベッドに いた。
素足にすべすべしたリネンの感触だけが はっきりと感じられる。
・・・ オレは ・・・
「 あら。 起きたの。 ― じゃあ ね 」
「 ・・・・ 」
「 この目がね たまらない ずっと待ってたわ 」
クシャ ・・・ 長い爪の指が 彼の前髪を掻き上げた。
カサ。 コツ コツ コツ ・・・
気がついたら お札をジョーの胸の上に置いて。
そのひとは 先に出て行った ・・・ 振りかえりもせずに。
身体中に あの香水の香りが纏わりついている。
「 ・・・・ 」
裸の胸の上に 紙幣がのっかっている。 それだけ だ。
ぼくは ―
買われた ・・・ んだ
否応なしに 起きた事象がはっきりと彼の脳裏に焼き付けられ
彼は 唇を噛み締め大急ぎで身繕いを始めた。
雨 ・・・ 降ってるといい。
土砂降りだと いい。
表で全部脱いで ― 洗いながしたい !!!
経験は あった。
ヒマで金ナシで若ければ ― ヤルことは ひとつ。
同じような境遇のオンナノコも やまほどいたから相手には事欠かない。
それは オンナノコの方も同じだろう。
若いケモノ達のように求めあい絡まりあっていた。
だけど そんな青臭い遊び での経験は吹き飛んだ。
― まったく違う 濃厚で濃密で そして屈辱的な。
振り払っても 振り払っても 身体中があのヒトを記憶してしまっている。
消えて なくなれっ!!!
身体中に 紙ヤスリかけて皮膚をこそげ落としたい
・・・ 消してくれ だれか。
誰かあ 〜〜〜〜〜
彼は ずぶ濡れになり 門限時間もとうに過ぎてから
こっそりと施設に戻った。
あの紙幣は施設に戻る途中 地元の古い神社の賽銭箱にねじ込んできた。
教会の献金箱に 入れるのはどうしてもためらわれたから・・・
・・・ 買われたんだ ・・・
彼は 最大の屈辱の経験を ぎっちりとココロの奥に
無理矢理押し込んで封印した。
― 翌日、 門限破りについてとっくりと説教されたが
島村ジョー君は 神妙な顔で最後まで黙って聞いて素直に謝った。
「 ・・・ あ ああ? ま〜 ・・・ わかれば いいわ 」
寮母のオバチャンは拍子抜けした顔で 曖昧に頷いた。
それから その日から ― 彼は目立たない・ヨイ子 になった。
「 ジョーは ・・・ どうしたのかな。 急に優等生ですね
オトナになった、ということでしょうか 」
神父様は ちょっと首を傾げてからいつもと同じに笑いかけてくれた。
・・・ ごめん。
ぼくは 優等生 なんかじゃないデス
こんな存在、消えてなくなっちまえば いいんだ!
心の中で 深みへと落ち込んでゆく中、
表面上 彼は淡い微笑をうかべ 人々の陰でひっそりと生きていた。
もともと好きではない、茶色の瞳を伏せて 前髪で隠し
誰からの視線も 受けないよう < ごく普通 > を装う。
集団の中の影となり 誰からも気づかれたくない。
― このまま ずっと生きるのか ・・・
もういい よ!
こんな人生 終わりにして欲しい!!
だけど このまま ・・・ 影のように都会の陰で生きてゆくしかないのだ、と
アタマの隅では わかっていた。
それが 自分に与えられた < 人生 > なのだ と 諦めてた。
だって 彼には現実を受け入れるしか なかったから。
そして。 突然、彼の人生は激変した。
いや 別の人生 が始まったのだった
ゴ −−−−−− ゴ −−−−−
飛行艇は安定した走行を続けている。
当面の敵、というか 脅威はなんとか排除した。
コクピットには 安堵の空気が流れ 仲間達は交代で
持ち場を離れ休憩に入っていた。
・・・ ぼく は ・・・?
彼は ずっとコンソール盤を睨んでいる。
いや ワケも解らないのだが とりあえず目の前に視線を向けているのだ。
コツ ・・・ 軽い足音が寄ってきた。
「 いっつも大人しいのね 009 」
仲間、というか <先輩> の女性は 少し不思議そうだった。
「 そ そうですか ・・・ えっと ・・・? 」
「 003 よ。 」
「 あ そ そうだ 003 さん 」
「 アナタ、そういうヒトなの?
それとも 日本人って 皆 そういう風なのかしら 」
「 ・・・? 」
「 ほら 今の、それよ。 いつも いつも 黙あってひっそり。
なんか こう・・・ 腹のたつこと とか 激怒することって ないの 」
「 え・・・ っと ・・・? 」
「 アナタ、 とても幸せに生きてきたの? だから微笑んでいられるの?
・・・ ねえ 今の自分を受け入れられるの ? 」
「 ― すいません ぼく 大人の手伝いしないと ・・・ 」
「 ― あ 」
話の途中で 009 は するり、とキャビンを離れ
厨房に籠ってしまった。
「 ・・・ 料理が好きなのかしら。
いつも微笑・・・だけど。 知ってるわ、わたし。
目が全然笑ってないもの。 動かないぼ〜〜〜っとどこか
ちがう所を見ている瞳。
温かい色なのに ・・・ 微笑のカタチをしているのに
本当は全然笑ってなんか いない。
なにか聞けば 穏やかに静かに 皆の意見に賛成です、って言うでしょ。
ねえ ― アナタは どんなヒトなの? 」
温かい色の瞳を 大地に近い色の髪の陰に隠して ―
彼は いつも微笑んでいる。 そして だまって 皆の後ろに いるのだ。
「 全然 < 仕事 > ができなかったけど ・・・
かなり驚いたけど ・・・ のんびりした環境で育ったのかしら。
でも ちょっと教えれば すぐに反応して怖いくらい進歩してゆくのね。
・・・ それは悲しいこと ・・・ なのよね ・・・
ヤツラの思い通りに 武器 になってゆく ってことかも 」
003は 重いため息を吐き、コクピットのサイドの窓を覗いた。
下は大海原 ・・・ そして周囲は青空。
飛行艇は その中を悠々と進んでゆく。
「 ・・・ ニッポンに行く って聞いたけど ・・・
どんなトコなのかしら アジアの国って初めてなのよね わたし。 」
博士の旧友が 彼らを受け入れてくれる、という。
「 旧友って ― いつの時代の友人なのかしら。
まさか ・・・ BGとは 無関係 よね ・・・
でも ・・・ どんなヒト? どんな場所?
トウキョウ の写真は 見たことがあるけど 」
モニターを操作し トウキョウ の映像を探しだす。
ついでに ショウナン も。
ギルモア博士は ニッポンのショウナン地方へ行く、と言っていたから。
「 ・・・ へえ〜〜〜 ま トウキョウは こんな感じかな〜 」
ひと ひと ひと ・・・ と 高層ビルにタワービル そして車。
それは容易に想像できる都市の風景だった。
― ただ 人々のアタマが全体的に 黒 か せいぜい茶色。
彼女には かなり異様に映った。
「 へ ・・・え ・・・? 金髪とか赤毛っていないの??
ふうん ・・・ じゃ ショウナン は 」
ぱあ〜〜〜〜 っと平坦な海を控えた海岸が広がる。
「 え ・・・ あら ? 今 風が 吹いて・・・?
そんなワケ ないわよねえ ・・・ ああ でも ステキ・・・
海って ドーバー海峡しか知らないし
まあ こんなに明るい海が あるなんて ・・・ いいわね! 」
あの島では 海 は単なる実験場。 思い出したくもない。
あんなのとは全然別の海 なのだ。
こんなトコなら ・・・ 暮らしてみたい
「 ・・・・ 」
003は 休憩時間中 ぼんやりとモニターの中の景色を眺めていた。
「 ・・・・ 」
009は 厨房から ちらちら彼女の姿を窺っていた。
索敵とかパトロールなのか とも思ったが ― 違った。
彼女は繰り返し同じ画像を眺め 同じ地域の画像を探しだしていた。
窺い見える横顔は どう見ても穏やかな笑顔なのだ。
どこ 見てるんだ?
・・・ 湘南地方じゃん
なんか興味 あるのかなあ・・・
あ。 そういえば日本に行くって言ってたっけ・・・
ミーティングって 苦手だな
皆 滅茶苦茶に早口で喋ってて
なんかケンカしてるみたいだ ・・・
最後に では目的地は日本 ってのだけわかったんだ
彼はずっと 全員ミーティングでは 面喰っているだけだった。
全員が 機関銃のようにばしばし発言し、やりあう。
それは 激しい口げんかみたいにも思えてしまう ― のだが
驚いたことに ちゃんと 結論 が出るのだ。
怒鳴り合いに近いけど 自分の言いたい意見をぶつけ合う。
・・・ そう 彼以外 全員が。
そして その < 結果 > に納得する。
・・・ そう 彼以外 全員が。
わだかまりなどは 誰も持ってはいない。 涼しい顔をしている。
「 では 決定だな。 今後の分担はモニターで確認してくれ。
ああ 009? 」
「 は ・・・? は はい えっと・・・? 」
銀髪のオトコが視線を向けてきた。
「 004だ。 意見は? 」
「 あ あ あ〜〜〜 み 皆に賛成 です ・・・ 」
「 そうか? なんでも発言してほしい。
我々の合意でこれからの行動は決定するから 」
「 ・・・・・ 」
コクコク コク ・・・ 最早黙って頷くのみ だ。
・・・ なんか ・・・
とんでもないトコ じゃね?
彼女に一目ぼれしてついてきたけど
な なんか ぼくって全然場違い だよね?
「 009は最初 オフ組だ。 しっかり休息しておけ 」
「 ・・・ あ あの ・・・ 」
「 なんだ 」
「 あのう〜〜 ・・・ み 水 飲みたいんですけど 」
「 はああ?? 」
「 あの 水 ・・・ 」
「 本気で言ってるのか 飲み食いなら厨房だ 」
「 ちゅうぼう??? 中学生がいるんですか?? 」
「 ??? なんのことだ? キッチンにゆけ と言ったんだ 」
「 ・・・ あ ああ は はい 」
彼は転がるみたいに コクピットから飛び出していった。
「 ? どういうヤツなんだ? ・・・ 最近の若いヤツは
まったくわからん 」
ひえ〜〜〜〜 ・・・・
おっかね〜〜〜〜〜
004 って言ってけど
なんか真ん中に立ってるヒトだよな〜
! あ あの手からタマが出るヒトだ!
おっかね〜〜〜
本気で駆けて彼は厨房に転がりこんだ。
「 ・・・ 〜〜〜〜! 」
「 ! なにネ?? ああ 009はん どうしたネ 」
そこには 丸っこいドジョウ髭のおっさんが包丁を振るっていた。
「 あ あ あのぉ〜〜〜 えっと? 」
「 はあん? 006やで。 なにネ。 腹へったか 」
「 ・・・ い いえ あの ・・・ み 水 を 」
「 水?? 水でええんか 」
「 は は はい 」
「 ほい よ 」
ぽん。 軽いコップが飛んできた。
「 ・・・ うわ? 」
「 それ 使うてや 」
「 は はい ・・・ え〜〜 蛇口は 」
「 飲料水はこっちや。 大切に使うてや。
ま もうすぐ新鮮な水、た〜〜んとある場所に降りるけどな 」
「 ・・・ はあ 」
「 あんさんのお国やろが 水、たんとあるんやろ? 」
「 ・・・ はあ まあ 」
「 な? いろいろ教えてほしいんや。
ワテな 店、やりたいんや。 ヨコハマがええと思うやが 」
「 み 店 ・・・? 」
「 中華料理の店やで。 日本には多いて聞いたで 」
「 あ ああ うん 多いっす ヨコハマはいっぱい店あるな〜 」
「 ふうん ・・・ なあ 009の兄ちゃん。
ワテはな〜〜〜 新しい土地で一旗 上げてみせるで。
うま〜〜い店開いてがっぽり儲けたる。 」
「 はあ ・・・ 」
「 な 兄ちゃん、 よかったら手伝うてや〜〜 」
「 あ あ あの ぼく 料理とかできないんだけど 」
「 かまへん かまへん 兄ちゃんにはお給仕、頼みたいや 」
「 おきゅうじ??
」
「 あは ウエイターさんや。 兄ちゃんなら人気モノになるで〜〜 」
「 ・・・ そ うかな 」
「 で なあ。 その前髪、ちっと上げてや?
御客はんに 顔、見せへんのはちょいとなあ〜〜 ええか? 」
「 あ ・・・ あの ・・・ はい。
それから あの ぼく ・・・ ジョー 島村ジョー です 」
なんと彼は 自分から進んで前髪を掻き上げて に・・・っと笑ったのだ。
「 はあん ジョーはん か。 ワテは 張々湖。
大人、いうてや 」
「 はい た たいじん。 あ なにか手伝います! 」
「 お。 さよか〜〜 ほんなら ジャガイモ、皮むき、どうや 」
「 出来ます! 炊事当番、得意だったんだ〜 」
「 とうばん? ま ええ。 ほな 頼むで〜〜 」
ごろごろごろん。 段ボールの中から転がりでた。
「 すげ・・・ 」
「 ほっほっほ〜〜 食糧調達はワテの任務やさかいな〜〜
どっからでん めっけてきまっせぇ〜〜
あ ジョーはん あんさん包丁、使えるか 」
どん。 めちゃくちゃ歯の大きい包丁が出てきた。
「 う わ・・・ そ〜ゆ〜のは ちょっと・・・
あ 大き目のナイフ とか ・・・ 」
「 はあん? ほんなら このペティ・ナイフ どや? 」
「 あ それで・・・ ここで剥いていいっすか? 」
「 たのんまっせ〜〜 」
「 はい! 」
カシカシカシ −−−−
ジャガイモの皮がするすると袋の中に落ちてゆく。
「 ほっほ〜〜 ええなあ〜 その調子や 頑張ってやあ〜 」
「 えへへ はい 」
ジョーは このヒト達と < 仲間 > になってから
初めて ちゃんとした会話をした と感じた。
気持ちも籠った言葉を交わせた・・・と思った。
「 ふむふむ ・・・ええ手つきやで〜〜
ほんで 剥けたらなあ 輪切りにしてや? こんくらい 」
「 はい! あは 了解です シェフ 」
「 ほっほ〜 任せたで ワテは肉を捌くよってな 」
「 わい 今晩 肉ですか 」
「 楽しみにしてや〜〜 あんさんの剥いてるイモも
おいしゅう〜〜 仕上げるよってな 」
あ は ・・・・
なんか ここ
いいかも
彼は やっとゆっくり座っていられる場所を見つけた ・・・
「 なあ ジョーはん。 ヨコハマのあるショウナン、いうトコは
どんなトコね? 住んではるヒト達はどないなもん、 好きね? 」
「 あ ・・・ う〜〜〜ん そうだなあ〜〜 」
カシカシカシ ・・・ 十人前のジャガイモの皮を剥いてゆく。
「 中華って だいたい皆好きかなあ シュウマイとかギョーザとか。
あ ラーメン!! 嫌いなヒトなんているかなあ 」
「 ふんふん ・・・? 」
手を動かしつつ 湘南の地域についていろいろ話が弾んだ。
ジョーは 久々に < おしゃべり > をした気分だった。
彼は かなり手際よくジャガイモの皮剥きをこなし
次には 茄子の切り分け を仰せつかった。
「 ・・・ 楽しそう〜〜 ねえ わたしも仲間にいれて 」
「 あ ・・・ えっと ・・・ 003さん 」
「 あいや〜〜〜 お嬢〜〜 うれしなあ〜〜 手伝うてやあ 」
「 ・・・わたし、調理は苦手なの ・・・ 」
「 あ あの。 この茄子に味付けしたから混ぜてくれますか? 」
ジョーはでっかいボウルを 彼女に渡した。
「 あら ・・・ ええ やってみるわね。 これはなあに 」
「 ほっほ〜〜 マーボーナス になりまっせえ 」
「 わあ(^^♪ やったあ〜〜〜 」
「 ?? ま〜ぼ〜 ??? 」
「 あのね すごく美味しい肉料理なんだ〜〜 」
「 ふうん ・・・ これを混ぜるのね? 」
「 そ。 丁寧に味をなじませてくださ〜〜い 」
「 はあい ・・・ きゃ 」
「 あ こっち、 押さえてるから・・・ 」
「 メルシ〜〜 009 」
不思議に作業をしながらだと 003 とも普通に喋れるのだ。
― そんなこんなで 彼は厨房に居場所をやっとみつけ入り浸っていた。
飛行艇は ごく静かに着水した。
― 下船するぞ。
着いたトコロは かなり寂れた廃港にちかい場所だった。
彼は最後に飛行艇から 外にでた。
ふ う ・・・・
ここ ・・・ 湘南地方?
夜だった。 しずかに波が寄せている。
まだ浅い春の夜で しかしもう凍てつく風は吹いてはいない。
さ −−−−−−−
あ ・・・ 雨 だ
ひそやかに そして ひっそりと 雨粒が落ちてきていた。
また 雨 ・・・・
Last updated : 07.05.2022. back / index / next
********* 途中ですが
これはどうしたって 平ゼロ・ジョー ですねえ (*_*;
しかし 憂鬱な雨の日 の話なのに
すっかり 猛暑 になってしまった・・ ( ゚Д゚)