『  Il  pleut   − 雨がふる − 』

 

 

 

雨は まだ降り続いている。

つめたく・ひそやかに・かわらぬリズムで あたりの全てからその色彩をうばい その輪郭をにじませ

雨は まだ降り続いている。

 

海の近くにひっそりと建つこの古ぼけた屋敷にも

雨は ずっとその足音をひびかせ 流れる水のとばりをめぐらせ すべてをくるみこむ。

 − なにかを 庇うように。  だれかを 隠すように。

 

雨は ずっと降り続いている。

 

 

「 なんだ、アイツ。 最強、とか言ってもどうかしてるんじゃねえのか? ずうっと雨の中につったってよ。

だいたい、人目についたらどうすんだ・・・! 」

いっこうに変わらぬ雨脚に半ばうんざりし、窓際に起った赤毛の若者が少々派手に舌打ちをもらす。

陰鬱な沈黙が支配していたその部屋の雰囲気が ゆらり、と動き幾つかの視線が外へ向けられた。

 

あって無きが如くの、この屋敷の貧弱な生垣を超え、けぶる雨脚の彼方にぼんやりと見えるその人影。

最後に彼らに加わった少年が 思いつめた果て、放心したように雨に打たれている。

 

「 放っておけ・・・・。 みんな身に覚えがあるだろう・・<現在>の自分自身を受け入れるのには・・・

無理矢理にでも飲み込むには・・・時間がかかるってな。 アイツにとっては、たった2-3日の間の出来事

なんだから。 すぐに納得しろ、というほうが無茶というものさ。 」

窓に背をむけたまま、銀髪の男はその薄い唇の端をちょっと上げ誰にともなく呟いた。

 

 − ふふ・・ん・・。 声にならない自嘲の呟きがそこここから漏れ、皆黙って再び窓に背をむけた。

 

雨音だけが・・・・部屋にひびく・・・・冷たい淋しいひそやかな・音・・・・

いい加減、その重苦しさにうんざりしながらも、 このしばしの休息を誰もがありがたがっているのだ。

・・・・そう。 この音が続いている間は。 あの殺戮者はやって来ないのだから・・・・

 

 

雨は まだ降り続いている。

 

 

 − かたん・・・・・

ほとんど音を立てずに 亜麻色の髪をかすかに揺らし少女がその部屋を出て行った。

・・・・疲れてるだろうからな。 さあ、あんなヤツは放っておいて俺たちも少し眠っておくか・・・・。

同じことを思い浮かべながらも、男たちは相変わらずむっつりと押し黙ったまま三々五々散っていった。

 

 

 

「 風邪をひいてしまうわ、 ともかく家に入りましょう?  」

 − びくっ・・・・・!

思いもかけず、後ろからひびいていきた優しい声にずぶ濡れの少年は弾かれたように振り向いた。

蒼い瞳の少女が 傘をさしかけて穏やかに自分をみつめている。

「 ここにいても。 なにも、どうしようもないでしょう・・・・。少し、休んでおかなくては。ね? 009 」

 

 − ゼロ ・ ゼロ ・ ナイン・・・・・

 

少女の優しげな声に不似合いなその無機質な単語を耳にした時、少年は堰を切ったように話し始めた。

 

「 僕は・・・! 僕は、なんなんだ、誰なんだ! 009・・・?ソレがこの恐ろしい姿をした・・・僕のことなのか?

 僕はどうしたら・・・・いい? 誰か・・・だれか、おしえてくれっ・・・・・! いったい、なにがっ! 」

「 ・・・・・ ゼロ・・・いえ・・・。 あの、 あなた・・・・ 」

身体を震わせこぶしを握り締め立ち尽くしている少年の頬を雨よりもはげしく、その涙がつたう。

「 きみは・・・きみも、同じなのか。 こんな・・・恐ろしい・・・カラダなのか・・・? ああ・・・僕は・・・ 」

 

その時、どうして少年に腕を差し伸べたのか少女は自分でもわからなかった。

 − ただ。 幾千の、幾万のコトバを尽くしても彼の混乱と絶望を癒せないことだけはわかっていた・・・・

 ・・・・泣いてる・・・・。 

腕の中で小刻みに震え低い嗚咽を響かせる、そのずぶ濡れのカラダを少女はふわり・・・と抱きしめた。

 

 −  ああ・・・・ 彼は・・・まだとても稚い(わかい)のだ、 その身体も こころも・・・・

 そうよね、ほんの昨日まで このヒトは瑞々しい若葉の日々を送っていたのよね。 わたし、とは・・・ちがう。

 奪われた全てに 諦め絶望の果てに来て久しい自分とは違う。 容姿は永遠の乙女でも・・・こころは。

 

これ以上哀しみの声が聞きたくなくて、少女は自らの唇でそっと少年の口を封じた。

ぴくり・・・と一瞬の逡巡ののち、頼りなさ気に震えいてた少年は一気に攻勢に転じた。

困惑と絶望・・・全ての激情を彼はその少女に叩きつけるかのように・・・・強引に彼の舌は進入し

少女の驚愕を無視し、きつく吸い上げた。

 

・・・・・やめて・・・・少年の手を押し留め、しかしどこかでしっかりと握りかえして。

少女はそれを望んでいる自分をみつけ、 そっと呟いた、 ・・・・・いいのよ・・・・・・。

 

互いに支えあい、おぼつかない足取りで屋敷にもどって。 そのまま、もつれ合うようにベッドへ倒れこんだ。 

 − コトバなど無用だった。 どちらから、ということも無く互いに むさぼるように求め合った。 

 

 

 

  揚められた身体の奥が限界に達した・・・と思った瞬間、ぱあ・・・・っと意識が白濁した。

 

 

 

雨は ずっと降り続いている。

  

その広い胸に押し付けている自分の頬に 彼の規則正しい鼓動が伝わってくる。

ソレは自分と同じく<作り物>の音ではあるが、なんとこころ安まるやさしい音だろう・・・・・・

じっ・・・と耳を傾けているうちに その快い調べはいつのまにか雨音に溶け込んでいった。

 

 − 雨が止んだら。 また戦いが始まる。 闘わねばならない、生きのびてゆくために・・・・。

 でも、今は。 しばし このやさしい・ひそやかな隠れ蓑に身をゆだねよう・・・・それはかりそめの休息だけれど。

 雨がやんだら・・・・・そう、 それから・・・考えよう・・・・・・・ 

 

巷に雨の降る如く・・・・ 古い古い詩のリフレインが ふっ・・と唇にのぼった。

・・・・この不思議な安堵感はなんなんだろう・・・・・・ 行きずりの恋にも似た、ほんのひと時の逢瀬・・・・

それでも、この腕は優しい・・・それでも、この胸は温かい・・・・それでも、この彼自身は熱い・・・・

出会って間もない、ほとんど見知らぬ少年の穏やかな寝顔を見詰め、 少女もゆっくりと眼を閉じた。

 

雨は まだ降り続いている・・・・・

 

 

              *******  FIN.   *******

 

 後書き by  ばちるど

 平ゼロ設定ですがオトナ風味です。第2話〜第4話あたり。日曜午後6時半、には相応しくありませんが・・・

 初期のころって人間関係がギクシャクしているだけにある意味、妄想の宝庫?のような気がします。

 

 Last update : 6,3,2003         index