『 星への願い 』

 

 

 

  − ・・・ おそいなぁ ・・・・

 

最後の1本を取り出すとジョ−は くしゃり、と煙草の包みを握りつぶした。

もうそろそろお日様も中天にかかろうという、気持ちよく晴れ上がった休日、

ジョ−は緑の影濃い公園の入り口ちかくで 所在無さげに空を仰いだ。

 

くゆらす紫煙は ほそい帯となってたちまち青空に溶け込んでゆく。

こんな時の煙草はじつに美味しいと思うのだが、コレは彼の恋人にはナイショである。

薄々は知っているらしいが、面と向かって喫煙を咎められたことはない。

ない、が・・。

 

 − だから よけい吸いづらいんだよね・・・ あの大きな瞳で見られると、さ。

 

雲ひとつなく澄み渡った空は どこか彼女の瞳を思い起こさせる。

ふふ・・・ どこに居てもちゃんと見てますってことだな。

深くひと息。 未練気に煙をはくと、ジョ−は手近にあったアシュトレイに吸い差しを捻った。

 

 − まだかなぁ・・・・ 電話するか、いやかえって遅くなるか・・・

 

待ち合わせをすれば 必ず自分が待たされた。

だいたいひとつ屋根の下に暮らしているのだから、わざわざ外で待ち合わせる必要も

ないんじゃないか、とジョ−は思うのだが、どうも女の子の心理はちがうらしい。

よくはわからないけれど、くるくると変わる彼女の表情が愛らしくて可愛くて

ついつい、言ってしまう。

 

  「 うん、いいよ。 きみの言う通りにするよ。 」

 

「 なあ・・・ 今からそんなんじゃ、先が思いやられるぞ。 」

時々やって来る友が片頬に苦笑を浮かべて忠告してくれるが、まあ余計なお世話と

いうものかもしれない。

「 びしっと決めろよ? びしっと。 平和ボケか?おまえ、還って来てから性格、

 変わったんでねえの。 」

赤毛のアイツは相変わらず 口が悪い。

 

 ― 還って来てから、か・・・

 

ふたたび 深くもうひと息。

口に残った煙草の香りを 樹々の匂いが消してゆく。

 

・・・そう、変わったかもしれない。 

 

あの宇宙( そら )の果て、不思議な空間を潜って還ったとき ジョ−は自分の中が

解放された思いだった。 

ずっと溜め込み 密かに持て余し 鬱屈していた <なにか>

そんなモノをすべて あの光の渦は吸い取ってくれたのかもしれない。

暖かい涙をぽとぽと落とし、 繰り返し自分の名を呼んでいる彼女の腕のなかで

ジョ−は まっさらな生まれたての自分を感じていた。 

 

光の中で自分はなにを 望んだのだろう。

正直言って 本当に断片的な記憶しかなかった。

なにか大いなるモノの強い意志に ジョ−は自分のこころの全てを委ねたような気がしている。

望んだことは。

地球への帰還、 邪悪なるものの滅亡、 そして  ― 愛するものの復活。

 

 

不意に 微風ながれる空の彼方にある面影が浮かんだ。

腕には軽やかに纏わる裳裾の感覚が甦り、ジョ−の身体に熱いものが走った。

 

・・・どこかで 生まれ変わって。 きっと幸せに・・・・

 

あの深い紫の瞳を たしかに自分は ・・・ 愛した。

あの華奢な白い肢体を ほんとうに自分は ・・・ 欲した。

自分を呼ぶあの声音、自分に注がれるあの眼差し、自分の頬を濡らしたあの涙。

忘れてはいない、 ・・・・ 忘れることなんか できない。

 

ぼくは望んだ。 確かに復活を。 自分の腕の中で息絶えたたおやかな女性( ひと )

ぼくは 確かに彼女の復活をこころから願ったんだ・・・・

 

二度と口にはしまい、と自らに誓っていた禁忌の名を ジョ−は密かに呟く。

それは たちまち風に浚われ、青く透明な空へと吸い込まれていった。

 

 

「 ぱぱ! 」

「 ・・・・ え・・・ ?! 」

とん、と軽い衝撃とともに なにか暖かいものがジョ−の脚に抱き付いてきた。

「 ぱ〜ぱ! 」

あわてて戻した視線の先には 自分の脚にくっ付いているくりくりしたセピアの目の幼児。

「 ・・・あ、あのぉ・・・。 ああ、間違えちゃったんだね? えっと・・キミのパパはどこかなあ・・」

「 ・・・・ぱぱ! ぱぱぱぱぱぱ〜 」

抱き上げようと差し伸べた手に その子は歓声をあげて飛びついてきた。

「 ぱぱぱ・・・って・・。 ねえ? よく見て。 ぼくはキミのパパじゃないよお・・・ うわっ! 」

はっきり顔を見せようと抱き上げれば そのままジョ−の首っ玉にかじりつく。

「 ぱぱ〜 しょーた! しょ〜たぁ〜〜くんよ〜 」

「 ??? しょうた君? キミはしょうたっていうの? ・・・わわわ・・・! 」

「 きゃ-------- ♪ 」

自称・しょ―た君はぱしぱしとジョ−に小さな平手打ちを食らわせて大喜びだ。

「 こぉらぁ〜・・・! ねえ、本当にキミのパパやママは何処にいるの? 」

コアラの如くご機嫌で齧り付いている小さな身体を引き剥がそうとすれば ジョ−のシャツも

一緒にびろ〜〜んと伸びてゆく。

「 ・・・弱ったなあ・・・ ねえったら、しょうた君?ほら、ぱぱじゃないだろう? 」

「 ・・・・ ぱぱぱぱ ・・・ふ・・・ふぇ・・・ふぇ〜ん〜〜!! 」

ジョ−は すこし強引にこの見知らぬスト−カ−君に向き合った。

たちまち茶色の瞳に涙が盛り上がり 今度は盛大な泣き声があたりに響く・・・

「 ・・・あ、こら・・・ 泣くなよ? ほら、泣くんじゃないって・・・ 」

慌てて泣く子の背をさするジョ−に 通りすがりの人々は少々訝しげな視線を投げる。

 

「 失礼。 どうかしましたか。 」

硬い表情で 年配の紳士が声を掛けてきた。

「 ・・・え、あ、あの・・・ そのう、ですね 」

しどろもどろのジョ−を老紳士はじろりと睨んだが ジョ−と泣きじゃくっている子の顔を見比べると

すぐににこにこ顔になった。

「 ・・・・ああ、なんだ、坊やのお父さんですね、これは失礼しました。 」

失敬、と軽く会釈をして 老人は行過ぎていった。

 

・・・・な、なんだよ〜〜 ぼくが誘拐犯だとでも思ったのか!?

でも・・・。 なんにも言わないのに<お父さんですね>だって??

 

ちょっと憤慨してみたが、すぐにジョ−は困惑しきってしまった。

少しト−ンが落ちてきた<しょーた>クンは ちらり、とジョ−の顔を上目遣いに見ると

ふたたび最大音量で泣き出した!

 

どうしよう〜〜〜 フラン、早く来てくれ・・・!

 

あたまの中は真っ白け、ジョ−はもう一緒になって泣き出したい気分だった。

 

 

「 ジョ−? 遅れてごめんなさい・・・ あらっ? 」

「 ああ! フランソワ−ズ!! 」

待ち侘びていた声に ジョ−はほとんど泣きっ面でふりかえった。

「 ・・・ どうしたの? その・・・ちいさな御友達は どこの坊やちゃんかしら。 」

「 フラン〜〜 助けてよ、頼むよ〜〜。 」

「 頼むって・・・ ほうら? どうしたの〜ぼく? そんなに泣いたら可笑しいわ? 」

「 ね? おねえさんも笑ってるよ〜 」

白い手が 泣く子の柔らかな髪をそっとなでる。

 

 ― ああ、ほら。 やっとお母さんが来たようね・・・

 ― ほんとう・・・ まあ、ずいぶんと若い夫婦なのねぇ

 

公園で子供たちを遊ばせていた主婦仲間が ひそひそ・くすくす耳打ちをし合っている。

知らんぷりして そのじつ、みんなしっかりとおろおろしているジョ−に注目していたのだ。

 

 ― あのヤン・パパ、イケテル〜って思ってたけど。 坊や、ソックリじゃん?

 ― あ〜の奥さんじゃ・・・ 可愛くて当り前か〜 

 ― 美男美女の夫婦って本当にいるのねえ・・・

 

 

・・・な、なんだよ〜 見てるならちょっとは手を貸してくれても・・・ ま、いいか。

ジョ−はフランソワ−ズの顔を見てほっとしたので、もう外野のざわめきも気にならない。

「 あらあら・・・ お顔がべたべたね。 ちょっと拭いてあげるわ・・・ 」

ジョ−にへばりついている小さな身体に フランソワ−ズはやさしく腕を伸ばした。

 

「 ・・・う・・・く。 ? ・・・・ ぅう・・・うえぇぇぇぇ〜〜〜 !! 」

フランソワ−ズの腕に抱かれようとした時、 <しょ−た>クンはちらり、とその顔を見て・・・

今度こそ最大級の泣き声が炸裂した。 ・・・しっかりと<ぱぱ>にかじり付いたまま。

 

 

「 ・・・・ ジョ−。 」

「 こらぁ・・・どうした? なにも怖いことなんかないよ? ・・・え、なに、フラン? 」

耳元でがんがん泣き喚かれ、ジョ−はもう何も目に入らないし聞こえないらしい。

「 ・・・・ この坊や・・・ 誰の・・・子供? いえ、誰なの・・・ ママは。 」

「 え? なに? ママって、知らないよ! 知る訳ないだろう?? あ、こら、暴れるなよ〜 」

「 ジョ−。 お願い、正直に言って。 子供に罪はないわ・・・。 ママは・・誰? 」

「 ・・・ なに言ってるんだ? 」

ジョ−は やっとフランソワ−ズが背を向けてしまっているのに気が付いた。

声のト−ンは下がり、静かな話ぶりがかえって不気味である。

 

・・・ 怒ってる。 

こんな時の彼女が 実は一番コワいのだという事は 経験から身にしみていた。

しかし。

・・・ なんだって そんなになにを怒ってるんだ? 

「 ねえ、フランソワ−ズ? 」

「 ・・・ 触らないで・・・! 」

思わず肩に伸ばした手は するりと振り払われた。

「 ・・・・ ? 」

「 教えて・・・ 誰の子供なの。 」

「 誰のって・・・ そんな 」

「 この子、二つくらいでしょう? ・・・っていう事は三年前・・・ ああ、そうね・・・ わかったわ。

 あのミッションの前、イシュメ−ルに乗るまえね。 そうね・・・そうだったわね・・・ 」

「 ・・・ フランソワ−ズ??? 」

晴れ上がった空に遠く視線を飛ばして 淡々と語る彼女の口調がかえって恐ろしく、

ジョ−は固唾をのんだまま、固まっていた。

彼の腕の中で泣き喚いていた幼児も なぜか大人しくなってしまった。

 

「 三年前・・・。 そう・・・わたし達、しばらく会わなかったわね。 あなたもわたしも

 自分の生活に忙しくて・・・。 新しい環境に慣れるのに精一杯で・・・ 」

「 そ、そうだっけか・・・? 」

「 もちろんあなたのこと、忘れたりなんかしなかったけど・・・ ちょっとだけこころの引き出しに

 しまっていたの。 タカラモノだのもの・・・大事にね。 ・・・なのに! 」

「 ・・・なのに・・? 」

棒立ちのまま鸚鵡返しの返事しかできないジョ−を尻目に フランソワ−ズの独白は続く・・。

 

「 そうよね・・・わたしの勝手な思い込みだったのよね。 ジョ−、あなたも同じ想いなんだろうって

 信じてた・・・。  ごめんなさいね、わたし、自分勝手ね、我儘ね・・・ 」

「 はい・・・? ごめんなさいって・・・? 」

「 いいのよ、そんなに気を使ってくれなくても・・・。 わたしが・・・そうよ、わたしが身を引けば

 それでいいだけ。 坊やだってパパとママンと一緒に暮らしたいわよね。 それが一番よ。

 ジョ−・・・・! どうぞ・・・・お幸せに・・・ 愛してたわ・・・  」

「 ・・・ お幸せに? 」

「 今まで・・・楽しかったわ・幸せだったわ・・・。 ありがとう、ジョ−。

 この思い出があれば わたし。 ・・・独りでも生きてゆけるわ。 そう・・・ ひとりでも。

 どんなに離れていても 死ぬまであなたのことを・・・想っているわ、あなたの幸せを

 こころから祈っているわ。  ・・・・ さようなら。 」

「 さようなら??? 」

フランソワ−ズの瞳からほろほろ零れる涙を ジョ−は呆気に取られて眺めていた。

 

「 ・・・最後にひとつだけ、わがまま言っていい? 」

「 ・・・ え、あ・・・ どうぞ・・・? 」

フランソワ−ズの細い腕が 覚束なげにジョ−に伸ばされた。

 

・・・ ああ、なんて華奢でキレイなんだろう・・・

 

そうっと・・・ ジョ−の頬に春風が弄ってゆく。

ジョ−はその彫刻のような繊細な指先に おもわず見とれてしまった。

 

ぼくは、この手がこの指がキレイなだけじゃないことも ちゃんと知っているよ。

きみ自身よりも この指は ・・・ 時に情熱的だよね・・・

 

暗がりで自分の背に腰にまわされ、昂ぶりへと密かに誘うその動きが甦り、

ジョ−は自分でもどきり、とするほど熱いものが身体を貫いた。

 

・・・ フランソワ−ズ ・・・っ !  ぼくも ・・・ 愛しているよ ・・・! 

 

うっとりと浸りかけた白昼夢は ・・・ 次の瞬間にたちまち崩れ去った!

 

「 この子の母親は誰なの?! え! ジョ−っ!! 」

ぐいっと白い手が思わぬ力でジョ−の胸倉を 捕みあげる。

「 は、母親って ・・・ わ! な、なんなんだ・どうしたんだ?? 」

 

「 ひとが黙っていればいい気になって・・・! ええ、あなたの他所見には慣れているわ。 

 いえ、無理矢理慣らされたのよ! 数えあげればキリがないし・・・もう、諦めてる。 

 でも! 」

「 ・・・ で、でも・・? 」

ジョ−は 怒りにきらきらと燃える彼女の瞳に釘付けである。

「 子供がいたなんて・・! ええ、この子には何の罪もないわ、それはわかってるわ。

 でも!! 許せない ・・・ だ・れ・の 子なの??? 」

「 だれのって・・・ それはその・・・ ぼくにもよくわからな・・・わっ 」

「 よくわからない、ですって?! 」

信じられないほどの力で 白い手がぐいぐいとジョ−のシャツをつかみ上げる。

「 まああ〜!! そんなに・・・何人もと・・・! そう!・・・ もういいわ。 」

「 ・・・うわ・・・! もういいって な、なにがデスカ? 」

いきなりぱっと手を離され、子供を抱いていたジョ−はバランスを崩したたらを踏んだ。

「 ・・・ だから。 もういいのよ。 ・・・ これでおしまい。 お別れね。 」

「 お別れ?? あ、こら・・・ 」

 

もがもが言ってるジョ−の腕のなかで<しょ-た>が嬉しそうに声をあげた。

「 ぱ〜ぱ! ぱぱぱぱ〜〜♪ しょーたくんよぉ〜〜 」

驚いてすこし緩んだジョ−の腕から <しょーた>はずり落ちるように逃れると飛び出した。

「 あ、待って! どこへ・・・ 」

 

「 ぱ〜ぱ! ぱぱぱぱぱ〜〜〜 」

「 翔太! ああ、よかった・・・! お前、急にいなくなるから・・・ 」

<しょーた>が歓声を上げて飛び付いていった先には ・・・ ジョ−より少し年嵩の青年。

「 しょ−たくんね〜 あのね〜 あっち! ぱぱぱ〜 」

「 え? ああ、そうなんだ? ・・・あ、どうも息子がご迷惑を・・・ 」

「 ・・・あ、あ・・・ い、いえ。 その・・・ 」

息子をしっかりと抱えた<本当>の父親はぺこり、とジョ−たちに向ってお辞儀をした。

こちらもびっくりして 目を見張っていたジョ−は慌ててアタマを下げ −

 

 「 「 ・・・あれ。 ・・・・ なんか、その。 似てますね・・・ 」 」

 

子供を中に二人の口から 同じような呟きがもれた。

「 ・・・・ ジョ−? 御友達・・・? 」

これもそばで目を見張っていたフランソワ−ズが 遠慮がちに声をかけた。

「 ・・・ あ、いや ・・・ 違うんだけど。 でも ・・・ 」

「 あ〜 奥さんですか? すみません〜 ウチのチビがご迷惑をお掛けしまして。

 ご主人とは初対面ですよ、・・・ でも、似てませんか? 」

ジョ−よりすこし濃い髪をゆすって その青年はフランソワ−ズに笑いかけた。

「 え? ・・・・ええ。 顔かたちよりも、そうね・・・雰囲気がそっくりですわ。 」

「 そうですよねえ? まあ、世界中には同じ顔の人間が3人いるっていいますからね。

 ご主人と僕はそのうちの2人なのかもしれませんよ? 」 

「 ぱぱ〜 ぱ〜ぱ♪ ぱぱぱぱ〜〜 」

「 あらあら・・ やっぱり本当のパパがいちばんよね〜 ショ−タ君? 」

「 本当にありがとうございました。 ちょっと目を離したすきにいなくなっちまって・・・

 こんなチビのくせに結構脚が早くて、もう大変です。 」

「 男の子ですもの、元気なのがなによりですわ。 

 ボクもこんなにパパがお気に入りなんですもの、とても面倒見がよくていらっしゃるのね 」

 

にこやかに語る二人を ジョ−はものすごく不思議な気分で眺めていた。

・・・なんか、ヘンな気分。 ぼくとフランソワ−ズ・・・ビデオでも見てるみたいだなぁ・・・

目の前で小さな息子を抱いて 彼女とゆったりと喋っているのは ・・・ 自分??

deja veux>? う〜ん・・・ちょっと違うか??

さかんに首を捻っている自分に <しょーた>がウィンクした・・・ような気がした。

 

 − しょうだよ〜 もうつぐだよ・・・ もうつぐ ボクはぱぱのところにくるよ 

 

・・・もうつぐ?って・・・なにが・・?

相変わらずのニブチンには 何がなんだかさっぱりわからない。

 

 

「 ・・・いやぁ、もう、ウチのが病院に行ってる間だけなんですがね。 」

「 まあ・・・ 奥様、ご病気なんですの? 」

「 いえいえ! あは、もうすぐ次のが生まれるんで。 今、コレなんですよ。 」

青年はちょっとテレながらも嬉しそうに 腕で大きく弧を描いてみせた。

「 あら〜 いいわねぇ、しょ−たくん、もうすぐお兄ちゃんね♪ 」

 

 

「 ・・・あなた。 捜したわ〜 こんな所にいらしたの・・・ 」

すこしばかり険を含んだ声に みんなが振り返った。

「 ああ、お前か。 ごめん、翔太が間違えてさ、こちらのご夫婦にお世話になってた。 」

「 まあ、そうなの? ・・・どうもすみません。 ご迷惑おかけしましたね。 」

「 ・・・いいえ ・・・?? 」

 

こぼれそうなお腹をしたその女性を見て、 ジョ−とフランソワ−ズは・・・ 絶句してしまった。

抜けるように白い肌、そしてその背に薄茶色の髪が緩く流れる。

確かにこの国の人間らしいのだが 色素が薄い瞳は陽射しの加減で時にすみれ色にも見える。

 

 − ・・・・・そんな ・・・?

 

ただただ目を見張り、棒立ちになって。

ジョ−とフランソワ−ズは一言も発せずに、でも確かに同じ驚きに浸っていた。

 

「 翔太ったら・・・ダメじゃない。 あらぁ、でもこちらの御主人? パパに似てるわね・・・

 うふふ・・・お若いし、パパより素敵よねえ、翔太? 」

「 ・・・・あ、あの・・・ 本当によく似ていらっしゃいますわね ・・・ 素敵なパパで ・・ 」

「 あら、どうも。 まあ、おきれいな方ね。 」

翔太クンの母親は好意的、とはあまり思えない視線をちらりとフランソワ−ズに走らせた。

「 おいおい・・・ こんな美男美女のカップルと比べるなよ〜 玉緒〜 」

 

 − ・・・・ たまお ・・・?!

 

なんとか強張った笑顔を保ってたフランソワ−ズは ふたたびジョ−とともに硬直してしまった。

・・・良く似た顔の他人と生まれ変わったあのひと。

そんなはずない、と思う気持ちと そうかもしれない、と頷く気持ちがぐるぐると巡る。 

 

それじゃあ、どうも・・・となんとなくぎくしゃくした雰囲気を察して翔太クンのパパは軽く会釈した。

「 ・・・・あ、ああ・・・ どう、も。 あの・・・お幸せに・・・ 」

やっと言葉を発したジョ−に 翔太が父親の腕の中からぶんぶんと小さな手を振っている。

「 あ・・・ばいばい・・・ しょーたクン ・・・ 」

 

翔太を片手で抱き、もう片方を妻の肩にまわして。

木漏れ日の下をゆっくりと親子3人寄り添って歩く姿には 幸せが満ちていた。

 

 

「 ・・・ねえ、ジョ−。 」

「 ・・・うん? 」

「 あの時、願いを掛けたって言ったわよね。 あの・・・光の空間で・・・ 」

「 ・・・うん。 」

「 なにを 望んだの。 ・・・・ あのヒト、のこと・・・? 」

「 ・・・・ 」

青い眼差しが ちょっと哀し気に自分を見上げている。

ジョ−はくちゃくちゃになった自分のシャツに目を落とした。 

そこには ちいさな手が沢山の跡を残している・・・・

なにか・・・ 暖かな想いが 自分の中からふつふつと湧き出して来る。

そっと寄り添ってきた身体に ジョ−はやわらかく腕をまわした。

 

「 ・・・ みんなの幸せ、さ。 」

「 そう ・・・ 」

午後の陽射しが 見詰め合う二人にやわらかに降り注ぐ。

足許をおだやかな風が さやさやと流れてゆく。

「 みんなの、幸せね・・・ 」

「 ・・・ うん 」

 

お互いの心に 抱えきれないほどの思い出が甦り、そしてまた消えていった。

そう・・・ これで、いいのだ。

 

「 ・・・・ わたし。 3人、がんばるわ。 」

「 ・・・え? なにが3人なの?? 」

「 ふふ・・・。 なんでもなぁ〜い!  あ、ねえ? あそこで glace を売ってるわ! 

 競争よ、負けた方が奢るのよぉ〜〜 」

「 ・・・あっ ・・・ ズルいぞぉ・・・・ 」

あっけにとられているジョ−に小さくウィンクすると フランソワ−ズはぱっと駆け出した。

 

やさしい光の中で亜麻色の髪が ゆらめき、きらきらと輝く。

この輝きの中で 自分は幸せをもらったんだ・・・

こぼれる笑みをいっぱいに、ジョ−は悠然と彼女の後を追った。

 

 

*****   Fin.   *****

Last updated: 02,16,2005.                      index

 

 

****  ひと言  ****

超銀 』後日談でございます。 なんとなく尻切れトンボだった

ジョ−君とフランちゃんの<超銀的決着>???を書いてみました。

そして、みんなしあわせに暮らしました・・・・って最後に入れたいな〜

正統派『 超銀 』 ファンの方、ごめんなさい。<(_ _)>