『  Bonnes  Vacances !  − よい休暇を −  』   

 

 

 

 

 

「  ・・・ あれ!  君、一人なのかい!? 」

到着ロビ−で ピュンマは頓狂な声を上げてしまった。

彼ははっとして周囲を見回したが声高な挨拶やら派手な抱擁シ−ンが繰り広げられているので

彼の声を気に留めた人はほとんどいなかった。

ただ一人 たった今、ゲ−トを出てきた若い女性を除いて・・・

彼女は大きな瞳を さらに見開き笑顔で近づいてきた。

 

「 こんにちは、ピュンマ。  元気そうね。 」

「 あ・・・ああ、ボンジュ−ル・・・ え、あの!コンニチハ  え〜と・・・うん、君も。 」

「 ふふふ・・・ どうしたの? いつものあなたらしくないわ。 」

「 え・・・え、ああ、そ、そうかな。 」

「 そうよォ。 メ−ル、ありがとう。 ちょうどチケットが取れたから飛んできたわ。 」

「 ああ・・・ありがとう。 ・・・ それで ・・・ あのう。 君 ひとり・・・ 」

「 さあ、道々詳しい状況を教えてくださる? ええ、大丈夫、全然疲れてなんかいないから。 」

「 へ・・? あ、ああ。 そりゃよかったね。 え〜と。 だからその・・・ジョ・・・ 」

「 ここからどうやって行くの。 あなたの村まではまだまだ遠いのでしょう? 」

「 ああ・・・うん、そうなんだけど。  あ、荷物、持つよ。 ・・・ それでジョ−・・・ 」

「 あら、ありがとう。 ちゃんと防護服もス−パ−ガンも持ってきたから安心して?

 そうねえ・・・ できればあんなモノ、使いたくないのだけれど。 」

「 ・・・ うん、それはそうだけど。 あ、車はこっちなんだ。 あの、待ってなくていいのかな。 」

「 うわ・・・! さすがに空気が違うわね。 すごい熱気・・・・! でもからっとしていて気持ちいいわ。

 ここからどのくらい? アフリカの大地を走るってエキサイティングね! 」

「 あ・・・ああ。 だいたい・・・うん、今頃出たら夕方までには着くよ。 

 でも ・・・出発したらマズくないかい? 」

「 さあ、行きましょう! ああ、楽しみだわ〜〜 わくわくしちゃう。 あら、どうして。 」

「 あの! ジョ−を待っていなくてもいいのかい。 フランソワ−ズ、君は一人できたの? 」

ピュンマは一気に発言すると はぁ〜〜っと大きく息をついた。

「 ・・・ ピュンマ。 」

満面の笑みが す・・・っと そう、まさに影もカタチもなく・・・瞬時に消えてしまったのだ。

青い瞳が まっすぐにピュンマに向けられる。

 

   ・・・ うわ! ヤバイこと、聞いちゃったかな〜〜 

   でも 今回は一応ミッションなんだ、これは 仕事だぞ、うん! 仕事!

 

背筋に冷たい汗が一筋、二筋ころがり落ちていったが ピュンマはぐい、と足を踏め・・・

腹を括って、相変わらず澄んだ瞳と真正面から対峙した。

 

「 ジョ−はどうしたんだい。 僕は君達二人に声をかけたのだけど。 」

「 ピュンマ。 ええ、わかっているわ。 」

「 どうして君 一人なのかな。 

「 ・・・ わたしでは役に立たない? だったら このまま帰るわ。 

 あなたの足手纏いにはなりたくないもの。 

「 フランソワ−ズ。 誰もそんなことは言っていないだろう? 

 僕はただ どうしてジョ−が一緒じゃないのか、聞いているだけだよ。 」

「 ・・・ あんなヒト、知らないわ。 一応、あなたのメ−ルはプリント・アウトして置いてきたから

 大丈夫よ。 ねえ、これは <仕事> なのでしょう? 」

「 うん、まあ・・・ そうだけど。 でも 」

「 だったら早く出発しましょう。 夜に入る前に現地に着いたほうがいいんでしょ。 」

「 あ、ああ・・・ それはそうなんだけど。 」

「 じゃ。 出発。 道々 いろいろ・・・説明してください。 

 一緒に作戦を練らなくちゃね。  ウ〜ン・・・ なんだかわくわくしてきちゃった! 」

にっこり・・・と再び彼女の顔に微笑みが蘇った。

 

   うん、やっぱりこの顔が一番素敵だよ、フランソワ−ズ・・・

   おっと・・ こんなコト 言ったらジョ−に殴られるナ。

 

「 なあ。 ひとつだけ聞いてもいいかな? 」

「 え? なあに、どうぞ。 」

「 あの ・・・ ジョ−と・・・ そのゥ・・・ 喧嘩、したのかい・・・? 」

「 ・・・  ピュンマ ・・・ 

またもや 彼女の顔から微笑みが突如消え ・・・ 大きな瞳がじっと彼を見つめ。

 

  ― ぽろり ・・・・

 

透明な雫が白い頬を転がり落ちた。

そして その一粒は五月雨を呼んでしまったのだった。

 

 

パ−キングで泣き出してしまった彼女を とりあえずまたエア・ポ−トビルに引っ張っていった。

真夏ではないにしろ、真昼間の炎天下、サイボ−グであっても立ち話は遠慮したい。

それに いらぬ誤解も招きたくなかったし・・・

 

   やれやれ・・・  またかい。

 

ピュンマはそっと、本当にそ〜〜っと溜息をついた。

後ろに素直についてくるマドモアゼルに極力気づかれないように・・・

なにしろ彼女は003、持って生まれた性格は機械の力が加わりますます鋭敏になっている。

「 ・・・ ごめんなさい。 迷惑ばっかりかけて・・・ 」

ぽつり、と小さな声が聞こえた。

「 え・・・ あ、そんなこと、ないよ。 

 でも、ゆっくり話をするなら この中の方がいいだろ? 君だって日焼けはしたくないと思うし。 」

「 ・・・ ありがとう、ピュンマ。 ふふふ ・・・ そうね、たとえサイボ−グでも

 ここの陽射しには日焼けしてしまいそうですものね。 」

「 そうさ。 アフリカの太陽は貪婪だよ。 ああ、上に行こう、なかなか美味しいカフェがあるんだ。 」

「 はい ・・・ 」

こっくり頷く姿はまだまだ少女めいていて、ピュンマは思わず心の中で頷いた。

 

   よし。 兄ちゃんに任せとけ。

 

彼女に対してごく自然にそんな気持ちになったのは 

彼女もやはり <妹> という立場だからなのかもしれない。

家で待つ彼自身の妹とは 似ても似つかないはずなのにどこかその面影が重なった。

「 さあ、この店さ。 君の歓迎のお茶会ってことにしよう。 

 ようこそ、ぼくの国へ! フランソワ−ズ。 」

「 ・・・ ピュンマ ・・・・ ありがとう。 」

「 <仕事> で来てもらったけど、少しでも楽しんでくれると嬉しいな。 」

「 ・・・・・・・ 」

フランソワ−ズはハンカチで半分顔を覆ってしまった。

「 ・・・ 恥ずかしいわ、泣いたりして・・・ イヤね、コドモみたい・・・ 」

「 きっと ・・・ ちょっと疲れたんだよ。 ここで一休みしてゆこう。 え〜と・・・コ−ヒ−でいい? 」

「 ええ。 貴方のお勧めのモノをお願い。 」

「 よし。 それじゃね・・・ 」

ピュンマはウェイタ−を呼んだ。

 

   ・・・ いつも気を使ってくれるのね・・・ 優しいヒト・・・・

   優しさって ・・・ 本当に難しい・・・

   

フランソワ−ズはハンカチの影から そうっと溜息をついた。

そう ―  <彼> も優しいのだ。  優しすぎるほどに。  

 

 

「 ・・・ どう、少しは落ち着いた?  ここのコ−ヒ−、結構美味しいよ。 」

「 ・・・ あ ・・・ ええ・・・ ありがとう、ピュンマ・・・ 」

「 きみの国のカフェにはてんで足元にも及ばないけどさ。

 最近 コ−ヒ−の栽培も盛んになって来ているんだ。 どんどん改良してわが国独自の豆が

 出来ればいいな、って思ってる。 」

「 そう・・・?  ・・・ 美味しいわ。 本当よ、お世辞じゃないわ。

 こう ・・・ しっかりと大地に根を張った味ね。 コクがあって ・・・ そう、強い・・ 」

「 本当かい、嬉しいなあ。 僕の仲間でコ−ヒ−栽培の研究に打ち込んでいるヤツもいるから

 君の感想を伝えておくよ。 」

「 よろしくね。 きっとこの味、ヨ−ロッパの人々も好きになるわ。

 ふふふ ・・・ アルベルトなんか一番のファンになりそう。 」

「 あは、どうかなあ。 奴さんは なんでも自国のものが一番!って主義だからね。 」

「 そうね、でも。 いいものはちゃんと認めるでしょ。 

 彼、あれでも緑茶とか結構お気に入りなのよ。 知ってた? 」

「 緑茶って・・・ 日本茶の? へえ??? それは初耳だよ。 」

「 毎年ね 一番摘みのを送ってもらっているみたい。 ・・・・ そのう ・・・ 日本から。 」

「 ふうん? ・・・ さあ、話してくれるかな。 」

「 ・・・ え ・・・ 」

「 きみが。 一人でココに来た訳を、さ。 」

「 ・・・・・・ 」

フランソワ−ズは また俯いてしまったけれど、すぐにしゃんと背を伸ばし座りなおした。

そして しっかりと顔を上げ向かい側のピュンマを見つめた。

「 あのね・・・ 」

彼女は 落ち着いた声でゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 

 

   ・・・ あ! 来たわ・・・!

 

ゲ−トから出てくる人波の 一番最後の集団の中に栗毛の頭が見え隠れしていた。

東京からの直行便なので黒髪がほとんどで、彼はやはり目立つ存在だった。

 

   ふふふ ・・・ やだわ、あんなにキョロキョロして。

   ちゃんと迎えに行くからって 言ってあるでしょう?

 

「 ・・・ ちょっと意地悪しちゃおうかな・・・ 」

フランソワ−ズはすっと手近な柱の影に 身を隠した。

こちらからは充分に見通せるけれど、出てくる側からは死角になる。

「 入国審査、ちゃんとパスできたのかしらねえ・・・ イワン製のパスポ−トは完璧でしょうけど。 」

欧米人風な外見の彼は 多分早口のフランス語の攻撃に遭いオロオロしたに違いない。

「 スミマセン。 ワタシハ ふらんす語ガワカリマセン 」

とつとつと必死で訴える彼の姿が 目に浮かんだ。

「 ふふふ・・・ あんまりイジメちゃ可哀想よね。 」

ささっと髪を撫でつけ、お気に入りのワンピ−スの裾をちょっと引っ張ってから

フランソワ−ズは柱の影から踏み出そうとした。

「 ジョ−・・・・!  ・・・・ あら。 」

やっとゲ−トを抜けた最後の集団は次第に散って行ったが その中で

栗毛の若者は しきりと話しかける黒髪の女性と一緒だった。

 

   ・・・ そのひと。  誰・・??

 

自然に足が止まってしまった。

二人はかなり親密な雰囲気に 見えた。

もっともよく観察すれば 女性の方がほとんど一方的に話しかけているのが判るのだが・・・

若者もまんざらではないらしくかるく笑みを浮かべているので かなり親しい仲、に

見えなくもない。

 

   お友達・・・? でも ・・・ そんなコト、聞いてないわ・・!

 

たった今までの弾んだ気持ちはたちまちしぼんでしまい、フランソワ−ズは身体を硬くして

そろそろとまた柱の影に引っ込んでしまった。

あんなに楽しみにしていたのに。 ず〜っと今日という日を待っていた。

カレンダ−にシルシをつけ、どこを案内しようか 何を着て迎えに行こうか・・・

楽しい悩み事を山ほど抱え フランソワ−ズはわくわくして待っていたのだ。  それなのに・・・

 

 

「 ・・・・? 『 パリの名所 』 なんだあ? 観光案内のバイトでもするのか。 」

「 あ・・・ お兄さん 」

「 えらく熱心に何を読んでいるのかと思ったら。 へええ?? お前がねえ・・・ 

 まずはエッフェル塔、そして凱旋門、最後は 正面に見えますのがオペラ座でございまあす、か。 」

「 もう・・・ 返してよ! 」

ひょい、と読み止しの本を頭越しに取られてしまった。

フランソワ−ズはあわてて ソファから立ち上がり 兄を睨んだ。 

「 ほう ・・・ パリってそんなに素敵な街ですか、お嬢さん。

 兄の帰宅にも気がつかないほど夢中になって読んでいらっしゃいましたね〜 」

「 意地悪! ちょっと熱心に読んでいただけじゃない。 

 ・・・ ごめんなさい、 お帰りなさい、お兄さん。 」

「 ふふん。 ただいま、フランソワ−ズ。 ほら。 」

兄はぽん、とガイドブックで妹のよく似た色合いのアタマを叩いた。

「 いたぁい・・・ もう〜〜  」

「 ああ 腹減った! 今晩は何かな〜 」

「 あのね、ちょっと季節にははやいけど。 ラタントゥイユにしたの。 

 美味しいオ−ベルジ−ヌが手にはいったから。 ズッキ−ニはまだなかったから代わりに冬瓜よ。 」

「 ほう? それは楽しみだなあ。  さ、飯だ飯だ! 」

「 はいはい・・・ あ、ちゃんと手を洗ってきてね、お兄さん。 」

「 へいへい あは、なんだかお前 お袋に似てきたなあ。 ・・・ そのもの言いがさ。 」

「 あら そう? お兄さんは・・・ふふふ まだお父さんの足元にも及ばないかも。 」

「 ・・・ こいつゥ〜 」

「 ・・・ もう〜 またぁ! 」

くしゃり、と髪を撫ぜられ、妹はとん、と兄の胸を突いた。

「 ふふん。 ・・・・ やっぱりさ。 いいよな。 ・・・ こうやって家族が待っているのってさ。 」

「 お兄さん ・・・・・ 」

ぽん ・・・

言葉が詰まってしまった妹の頭に もう一度軽く手をおくと兄はバスル−ムに消えた。

 

    ・・・ お兄さん ・・・ !  

    わたしが ・・・ わたしこそ ・・・! こんな日々をどんなに夢みていたか!

 

兄の口笛を耳にしつつ、フランソワ−ズはそっと目尻を払った。

今、この時を大切にしよう。 

ようやっと取り戻した < 普通の日々 > が彼女は抱き締めたいほど愛おしかった。

泣いているヒマなんて ない。 それに涙は 相応しくないのだ。

「 ・・・ さ〜てと。 最後の仕上げの一味、ね。 」

晴れやかな声をあげて 彼女はキッチンへ入っていった。

 

 

「 へえ?? これ・・・ 本当にオ−ベルジ−ヌかい。 」

「 そうよ。 あら、味がヘン? 」

「 いや、その逆。 なんだか滅茶苦茶に美味いんですが。 この ・・・ なんたっけか、

 ズッキ−ニっぽいヤツもさ? おい、どこの八百屋で買ったんだ。 」

「 冬瓜、よ。 ふふふ・・・ 実はね〜 これは<手作り>なのよ。 」

「 手作りぃ ? 」

兄は フオ−クに差した一切れを しげしげと眺めている。

「 そう。 日本の <仲間> がね、お庭の温室で育てたの。 

 初物だって ・・・ 送ってくれたのよ。 」

「 ・・・・ お前の <仲間> が、か。 野菜なんか作るのかい。 」

「 ええ、そうなの。 日本に残った一人はね、中華料理屋さんを開いていて・・・

 食材もできるものは自給自足しているの。 それでこのオ−ベルジ−ヌも。

 これは日本で皆が食べている種類なのよ。 」

「 そうか。  ・・・ ファンション、お前・・・ 」

「 なあに。 」

「 ・・・ 幸せ、か。 」

「 お兄さん、急になんなの? 食事中なのよ。 」

「 おい。 答えろよ。 」

兄はフォ−クも置き、 まっすぐに彼女を見つめている。

 

   そんな身体にされて。 無理矢理人生を 全てを捻じ曲げられ

   全く知らなかった国で 人種・国籍・年齢もまちまちな ・・・ <仲間> と一緒で

   ・・・ それで お前は幸せなのかい

 

「 お兄さん ・・・  ええ、わたし。 幸せよ。

 ・・・・ そりゃ・・・ 昔 思っていた幸せとはちょっと違うけど・・・ それでも・・・ 」

「 そうか。 ・・・ それなら俺はもうなにも言わない。  

 こんな美味いモノを作る仲間達と 仲良くやってゆくんだな。 」

「 ええ。  あの、それでね。 今度その仲間の一人が遊びに来る予定なの。

 パリを見物したい、って。 ・・・ それで ・・・ ウチに泊めてあげても ・・・ いい? 」

「 へえ? ああ、勿論かまわないよ。 ゆっくりしていってもらえよ。 」

「 そう? ありがとう、お兄さん。 」

「 あ! それでガイド・ブックか〜 」

「 ・・・ ええ、そ、そうなんだけど。 どこが気に入ってもらえるかなあと思って・・・ 」

「 ・・・ ファンション ・・・ そいつってその・・・お前がいつも言ってるアイツか。 」

「 え? ・・・ あ、そ、そうなのよ。 ジョ−、 ジョ−・シマムラ、というの。

 あ! あの! ただの ・・・ お友達よ。 」

フランソワ−ズはお皿の上に俯き 上気した頬を隠そうとしている。

 

   ・・・ なんだ なんだ なんだ! なんなんだ!

   お前 耳が真っ赤だぞ! ・・・ ふうん ・・・ ただのオトモダチ、ねえ?

 

「 そうか。 よし。 それならちゃんと紹介しろよ? その <ただのオトモダチ>をさ。 」

「 え、ええ・・・ 勿論よ。 」

「 それならいい。 まあ、のんびりこの街を案内してやるんだな。 」

「 ・・・ ええ そのつもり。 ありがとう、お兄さん! 」

 

   ふうん ・・・ やっと帰ってきたと思ったら。

   そうか そういうコトかよ。  まあ いいさ。 気にくわんヤツなら一発お見舞いだ

 

「 ああ! それにしてもコレは美味いなあ! 」

ガブリ、とジャンはオ−ベルジ−ヌ の大きな一切れを口に入れた。

 

 

「 さあて、と。 これで準備はいいわよね。 客用寝室のお掃除はオッケ−だし。

 今晩のメニュウはジョ−のリクエストを聞きましょ。 ふふふ また カレ−がいいな、なんていうかも・・ 」

フランソワ−ズはぐるり、と部屋を見回した。

気を入れてお掃除もした。 テ−ブル・クロスは新しいのに換えたしクッションのカバ−なんかも

昨日 頑張ってお洗濯した。 そうそう、スリッパ、出しておかなくちゃ・・・

ジョ−はどこへ行っても家に上がると自然に靴を脱いでしまう。

「 あら、 靴は? 」

「 ・・・あ ! しまった、入り口に脱いで来ちゃった!」

「 もう、ジョ−ったら。 片付けられてしまうわよ! 」

「 う、うん・・・ちょっと待っててくれる? 今、取ってくるからさ・・・ 」

「 早くしてね! 」

「 う、うん ・・・ ごめん ・・・ 」

ぱたぱた走ってゆく後ろ姿を眺め、思わず彼女は呟いたものだ。

 

   ・・・防護服がブ−ツでよかったわ ・・・

 

そして、出来上がったギルモア研究所 は玄関で靴を脱ぐ仕様になっていた。

「 初めは面倒くさいとおもったけど。  お部屋の中が清潔でいいわね。 」

「 だろ? それにね・・・ タタミの部屋をはだしで歩くのって気持ちいいだろ? 」

「 ああ、二階の和室ね。 ええ、いつも良い香りがして落ち着くわね。 」

「 今度きみも一回 寝転んでごらんよ。 この季節、転寝するのには最高の場所さ。 」

「 あら・・・! じゃあ 時々ジョ−が<行方不明>になるのは あの部屋でお昼寝していたってわけ? 」

「 ・・・ えへへへ・・・ じつはそうなんだけど。 」

「 まあ・・・ あきれた・・・・ 」

最悪の運命の糸に絡め捕られ出会った仲間達。

逃避行から世界中での転戦を経たのち、彼らは極東の島国に本拠地を置くことになった。

そして彼らの <家> が出来上がるころには 互いにうちとけ軽口も交すこともしばしばだった。

 

   ふふふ・・・ 楽しいヒトね。 

   ちょっとぼ〜っとしたトコが可愛いかも・・・

 

   へええ?  ・・・ 優しいんだなあ。

   いつもてきぱき なんでもソツなくこなす優等生かと思ってたんだけど・・・

 

防護服に身を固めていた日々からは想像もつかなかった、お互いの本来の姿。

そんな 生地のままの姿にだんだんと好感を持ちだしたのは当然のことだろう。

多くの仲間たちはそれぞれの故郷に散っていったが、

彼と彼女、 ― ジョ−とフランソワ−ズは ギルモア博士とイワンと一緒に

ひとつ屋根の下で ごく平穏に暮らしていた。

 

平和で <普通> な日々のなか、しばらく故郷の街に帰りたい、とフランソワ−ズが言い出した時も

<同居人> たちは静かに頷いてくれた。

「 ・・・・ いつ、帰ってくるのかな。 」

「 え? なあに、ジョ− 」

出発の前の晩、ジョ−はふらり、とフランソワーズの部屋を訪れた。

「 きみは いつココに戻る予定なの。 」

「 ・・・ それは ・・・ まだ決めてないわ。 」

「 ねえ、 いつ。 」

「 だから・・・それはわたしにも判らないわ。 来週になるか来年になるか・・・? 」

「 来年?? ・・・ そんなの、ダメだよ。 」

「 ダメって まあ、可笑しなジョ−ねえ。 

 誰だって生まれ故郷に帰りたいでしょ。 それに久し振りでお兄さんともゆっくりしたいし。 」

「 故郷はさ。 ・・・ ココにすればいいよ。 」

ジョ−は戸口で話こんでいたが ずい、と彼女の部屋の中にはいると後ろ手にドアを閉めた。

「 ジョ−ったら。 なに、言っているの? 」

「 だからさ。 ・・・ 帰るなよ。 」

「 え? どうしたの、急に。 本当に可笑しなジョ−ねえ。 」

フランソワ−ズはくす・・・っと笑うとベッドの上に並べてある衣類を手にとった。

「 ごめんなさい、明日の朝一番で発つのよ。 パッキングも全然してないから・・・ 」

「 そうやって ・・・ もう帰ってこないんだ。 

 そうさ・・・ 皆 みんな 行ってしまうんだ ・・・ ぼくを置いて・・・! 」

「 ・・・ ? ジョ−・・・? どう・・・したの? ・・・ あ・・・! 」

ジョ−はじっと彼女を見つめていたが 不意に腕を伸ばすと彼女を抱き寄せた。

「 ジョ・・・! ふざけるのは やめて・・・ 」

「 ふざけてなんか・・・いない・・・さ! 」

彼は彼女を抱き締めたまま じりじりとベッドに近づいてゆく。

「 みんな ・・・ 皆 いなくなってしまった・・ ぼくを残して。

 すぐに帰るから また来るね  いつか会おう ・・・ そんな出まかせ言ってさ ! 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ 放して ・・・ ! 」

「 イヤだ!  フラン、きみだって きみだって。 きっと もう帰ってはこないんだ・・! 」

「 あ・・! だめ、やめて! ジョ− ・・・! 」

「 ・・・・・・ 」

ジョ−は腕に細い身体を抱いたまま、ベッドに倒れこんだ。

「 ジョ−・・! 聞いて、お願い。 」

フランソワ−ズは渾身の力で身体をまわし、彼と向き合った。

「 ・・・ なに。 」

「 約束するわ。 わたし、戻ってくるわ。 きっとよ。 」

「 いつ。 何月何日? 

「 それは・・・ まだわからない。 でも ウソは付かないわ。 信じて、おねがい。 」

「 ・・・ わかったよ。 」

ジョ−の溜息が彼女の頬に熱くかかる。

「 ジョ− ・・・・ ね? あなたが遊びに来て? 」

「 ・・・ え? 」

「 ジョ−が。 パリに来てちょうだい。 ・・・ わたし、兄に紹介するわ。 」

「 なんて。 」

「 ふふふ・・・・ イヤなジョ−。 わたしの口から言わせたいの? 」

フランソワ−ズはジョ−の頬に手を当て、じっとそのセピアの瞳を覗き込む。

「 ・・・・ う、うん・・・・あ、ちがう・・・ 」

「 あの、ね。 わたしの好きなヒトですって・・・ ! 」

「 フラン ・・・ ソワ−ズ ・・・! 」

「 だから 明日は笑顔で送り出して? ね。 」

「 じゃ・・・ 約束。 これは誓いのキス・・・! 」

「 あ・・・・  ・・・・ んん ・・・・ 」

 

それはまだ庭の若木が新しい緑をいっぱいに揺らしていた頃のことだった。

 

 

 

ニッポンのエア・ポ−トのデッキで 彼はずっと・・・ 見送った機影が視界から消えるまで佇んでいた。

こっそり 眼 を使いそれを知り、フランソワ−ズは甘酸っぱい想いに浸っていた。

 

   ・・・ ああ・・・ ! こんな気持ち、久し振りだわ・・・

   ふふふ・・・ 可笑しなフランソワ−ズ。 あなた、小さなファンションに逆戻り?

 

胸の奥に ぽ・・・っと 小さな熾火が灯った。

それはほんの微かな火だったけれど、しっかりと彼女の心を そして 身体をも温めてくれるのだった。

 

   わたし、 ジョ−が 好き。

 

だから。 彼から連絡があった時には本当に嬉しかった。

一緒にこの街を歩けるし、オ−プン・カフェでおしゃべりしてもいい。

「 うふふふ・・・・・ 楽しみだわ。  ええ、ちゃんとお兄さんにも紹介するわ。 」

 

   わたしの好きはヒトですって ・・・

 

フランソワ−ズはほんのり染めた頬に 幸せの笑みを浮かべていた。

 

 

それなのに・・・!

 

黒髪の女性はなにかメモを彼に押し付けると、足早にロビ−を突っ切っていった。

どうやら彼女はグル−プで来ているらしく 何回も何回も振り返り・・・

彼女を呼ぶ声に 仕方なく着いて行く後姿がみえた。

 

   ・・・ また・・・ なの。 ジョー ・・・ あなたは優しい、から・・・

 

フランソワ−ズはくるり、と背を向け壁に寄りかかってしまった。

彼が ・・・ あの女性を見送る姿なんか見たくない・・・

 

「 やあ! 待たせちゃった? 」

ぽん、と肩に大きな手が乗った。 瞬間、 びく・・っと身体が震えてしまった。

「 ・・・ あ ・・・ジョ− ・・・ 」

「 あれ、ごめ〜ん、びっくりさせたかな・・・ ごめんね、なんだかここまで出てくるのに

 ヒマがかかっちゃってさ。 」

「 あの ・・・ お友達は ・・・ いいの? 」

「 え、友達? いや・・・ ぼくは一人旅だよ。 」

「 あ ・・・ そ、そうなの? 」

「 うん、格安航空券が取れたからね。  久し振りだね、フランソワ−ズ。 元気だったかい。 」

ジョ−の笑顔は いつもとちっともかわらない。

「 え、ええ。 ああ、ご挨拶もしていなかったわね。 

 ようこそ、ジョ−。 わたしの国へ・・・♪ 」

「 あ・・・えへへへ・・・・ うん、ぼんじゅうる、フランソワ−ズ。 」

するり、と抱きつかれ頬にキスを貰い、ジョ−はたちまち真っ赤になってしまった。

「 嬉しいわ、ジョ−。 ねえ、どこへ行きたい? どこか・・・リクエストはあるかしら。

 あ・・・ その前に荷物、置いてこなくっちゃね。 」

「 うん。 あのさ、悪いんだけど道を教えてくれるかな。 」

ジョ−はこの街で中堅どころのホテルの名を上げた。

「 ?? ジョ−・・・ ホテル? 」

「 フランス語はてんでダメだから・・・日系のホテルにしたんだ。 ここなら日本語も通じますって。 」

ジョ−は丸めて持っていたガイド・ブックを示した。

「 ジョ−・・・ そんなの・・・ ねえ、ウチに泊まって? わたしもお兄さん・・・いえ、兄も

 そのつもりなのよ?  そんな・・・ ホテルだなんて・・・ 」

「 え・・・だってさ。 見ず知らずの家に泊まれないよ。 」

「 ウチは <見ず知らずの家> なの? わたしのお家なのよ。 」

「 そうだけど ・・・ でも、さ。 そのう ・・・ やっぱ女の子の家に泊まるってのはさ・・・ 」

「 ジョ−。 覚えてる? わたし、言ったでしょう? お兄さんにちゃんと紹介するって。

 ・・・ わたしの好きなヒトですって・・・・ 」

「 うん、覚えてる。 ・・・ぼく、ず〜っと練習してきたんだ。 飛行機の中でもずっとさ。 」

「 練習?? なにを。 」

「 うん・・・ あの、さ。 」

えへん、と咳払いを一つして、大きくひとつ深呼吸して。 ジョ−はゆっくり喋り始めた。

そう、フランソワ−ズの国の言葉で。

「 ジョ−・シマムラといいます。 妹さんと交際させてください。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・ ! 」

「 ・・・わ! わわわ・・・ フラン・・・ み、皆が見てるってば・・! 」

もう一度、今度はもっとしっかりと首ったまにかじりつかれ、 ジョ−はますます赤くなる一方だ。

「 エア・ポ−トですもの、平気よ。 皆 ・・・ 慣れているわ。 

 さあ、行きましょう。 我が家にご案内するわ。 ふふふ・・・でも古いアパルトマンなの。 」

「 えへ・・・ お邪魔します。 えっと ・・・ まどもあぜる、 しる ぶ ぷれ? 」

「 まあ♪  Merci Monsieur ? 」

ジョ−はぎこちなく腕を差し出し、フランソワ−ズはするり、と腕を絡ませた。

 

 

 

 

「 ・・・ それで? お兄さんに殴れれでもしたのかい。 」

「 え? まさか・・・ でも、なんだかチクチク 嫌味を言ってたけど。 その程度だったわ。 」

「 そりゃま・・・仕方ないよ。 妹のカレシなんて好感持てるわけないもの。 」

「 ああ、ピュンマ あなたも <お兄さん> ですものねえ。 」

「 うん。 ・・・ ま、それで? 別になんに問題はないと思うけど?

 きみがココに一人で来た理由はどこにも見当たらないよ。 」

話に一息いれ、ピュンマはコ−ヒ−・カップを持ち上げた。

「 ・・・ あるわ。 優しいの。 ジョ−ってば 優し過ぎるのよ。 」

「 へえ? 結構なことじゃないか。 」

「 ちっとも結構じゃないわ! ・・・ 彼は優しいわ。 誰にもでも。 」

「 ・・・あ、 は〜ん・・・? 」

「 ええ、そうよ。 いつだって・・・誰にだって。 飛行機の中で隣になった女の子にも

 街中のカフェで道を聞いてきた女性にも メトロの駅で行き先を確認したヒトにも、ね ! 」

「 まあ・・・ それは彼の性格なんだろうね。 うん、そう思って寛大に・・・ 」

「 わたしだって! ずっと ・・・ そう思って我慢してたわ。 

 でも・・・ 一緒に見ようって言ってた美術館でも・・・道を聞いてきた女の子とずっと一緒・・・ 」

「 ・・・ あちゃ・・ それはなあ・・・ 」

「 それで・・・ わたし。 彼を置いて先に帰ってきたの。 そうしたら あなたからのメ−ルが・・・ 」

カチン・・・ とフランソワ−ズはカップをソ−サ−に戻した。

「 それで・・・ 君。 ジョ−を置いてきぼりにして一人でさっさと来たってワケか。 」

「 ・・・ そ。 お兄さんもちょうど演習で出かけてしまったし・・・ 

「 そっか。 それじゃ、彼もおっつけ追いかけてくるだろう。 

 あのね、フランソワ−ズ。 君の気持ちもわからなくはないけど、今回は<仕事>なんだ。 」

「 ・・・ ええ。 そうね。 ・・・・ 私情を挟んではいけなかったわ。 

 ごめんなさい、ピュンマ 」

「 いや わかってくれればいいよ。 今度の相手にはジョ−の助けが必要なんだ。

 彼の <能力 ( ちから ) > がさ。 」

「 ・・・ 加速・・? 」

「 うん。 アレも ・・・ 生体か機械体かまだ不明なんだけどマッハのレベルで移動する。

 僕一人ではどうにも手がでなくて。 それで君達二人に声をかけたのさ。

 休暇中なのに 悪いなって思ったんだけど・・・ 」

「 あら、そんなのコト。 ちっとも構わなくてよ。 協力して<仕事>しましょ、その・・・三人で 」

「 その意気だよ、フランソワ−ズ。 」

ちょん、と彼女の手に触れてから ピュンマは立ちあがった。

「 それじゃ・・さ。 出発前にお願いがあるんだ。 」

「 まあ、なにかしら。 わたしに出来ることならなんでも、喜んで。」

「 ありがとう! うん、これは君にしか出来ないなあ。 」

ピュンマは満面の笑顔になり、フランソワ−ズの先に立ってカフェを出ていった。

 

 

彼が案内したのはエア・ポ−トビルの中にある店だった。

そのフロアには種々雑多の店舗が入っていて宝飾品の類から所謂オミヤゲまで 

なんでもあり、な雰囲気になっている。

「 ここなんだけど。 」

「 ・・・ええ?? ここ? ・・・ ここで 買い物、するの。 」

「 うん。 ココってね なんか そのう、有名なんだってさ。 」

「 ええ、知ってるわ。 パリにも同じお店があるの。 でもピュンマ、あなた、ここでなにを買うの?

 あのう・・・ 男性用のものって・・・あるのかしら。 

フランソワ−ズは目の前にならんだ商品とピュンマの顔とを交互に見つめ、首をひねっている。

「 あ! あの! ぼ、僕のものじゃないよ! 違うってば。

 妹に頼まれたんだ。 エア・ポ−トビルまでゆくのなら、どうしても寄ってきてくれって。 

 なにせ・・・ほら、僕らの村からここまでは半日の距離だからね。 」

「 なあんだ・・・! びっくりしちゃったわよ。 それで?妹さんは何が欲しいの?

 アクセサリ−かしら、それともスカ−フとか小物? 」

「 うん ・・・ あの、髪飾りだって。 フランソワ−ズ、君 わかるかな。 バレッタってなんだい。」

「 え? あら、まあ! 博識のあなたでも知らないことがあるの? 」

「 やだな、当たり前じゃないか。 僕は女の子の髪飾りに興味はないからね。 」

「 ふふふ・・・ バレッタはね、髪留めのことよ。 いろいろ可愛い飾りも付いているの。

 ええ、喜んで! 妹さんのために選ばせてね? う〜ん・・・・ どんなのがいいかしら? 

「 いや・・・僕には全くわからないから。 お願いするよ。 」

「 はいはい。 ・・・ ねえ、妹さんにはやくお姉さんをつくっておあげなさいな。 」

「 え??? 僕の両親はもう老齢だよ? え・・・ お姉さんを?? 」 

いつも冷静沈着なピュンマが目を白黒させている。

フランソワ−ズは思わず吹きだしてしまった。

「 いやあねえ・・・なんて顔しているの? ピュンマ、あなたのお嫁さんは妹さんにとって

 頼りになる <お姉さん> でしょう? 」

「 あ・・・ ああ・・・・ そっか・・・・ ははは・・・ 」

「 ね? わたしも <妹>だから。 同じ気持ちなの。 」

「 ・・・ ありがとう、フランソワ−ズ ・・・ 」

ピュンマはそっと亜麻色の髪に手を置いた。

 

   ・・・ ああ ・・・。 これは お兄さん の手、だわね。

 

「 それじゃあ・・・っと。 妹さんは何色が好きなのかしら。

 うふふ・・・実はね、オミヤゲを持ってきたの。 それにあわせてもいい? 」

「 え・・・ なんだか気を使わせちゃったなあ。 でも、そうしてくれると嬉しいよ。 」

「 ありがとう、 <お兄さん>。 それじゃ・・・ そうねえ・・・ ああ、これなんかどう? 」

二人は細々と可愛いものが並ぶケ−スを一緒に覗きこんだ。

 

 

 

 

がさり、と大きな薪が燃え落ちる。 火の粉が暗夜に華麗な煌きを映し出す。

焚き火に向かった顔は真夏よりも熱かったが 背中に感じる夜気はしん・・・と冷えてきていた。

「 ・・・ それで、その犯人がライオンなの? 」

「 うん。 初めはわからなかったんだ。 火事が頻繁に起きるようになって・・

 パトロ−ルを始めたらこんどはヒトが襲われた。 」

「 ピュンマ、あなたも見たの。 」

「 ああ、 一回だけね。 」

「 でもライオンが? どうやって? 普通、動物は火を恐れるでしょ。 」

「 アレは熱風、いや熱線に近い息を吐くんだ。 それが当たると部落の家やブッシュは

 あっという間に燃え上がってしまう。 」

「 それじゃ・・・ ロボットとかサイボ−グじゃない? だって生身のライオンがそんなこと・・・ 」

「 うん・・・ でもよくわからないんだ。  ぼくが見た時も宙に消えてしまった。 」

「 消えた・・・? あ、それって加速装置ね。 」

「 装置かどうかはわからない。 でもアレはマッハの速さで移動できるんだ。

 ぼくの手には負えないからね、だから君達に応援をたのんだのさ。 」

「 ・・・ そうだったの。 でも、どうしてそのライオンが人々を襲うのかしら。

 餌なら野生動物が沢山いるでしょう。 それに・・・ 機械なら・・?? 」

「 多分、裏に糸を引くヤツラがいるんだ。 いまだに鉱物とかの利権を狙う旧宗主国の組織さ。

 ソイツらにとって僕は邪魔なんだ。 」

「 そうか・・・ ピュンマはそちらの問題にも参加しているのだったわね。」

「 うん、でもこれは極秘。 表向きあくまで僕は野生生物の保護・育成を目指しているんだからね。 」

「 でも・・・ 裏の誰かは それを知っているわけね。 だからあなたの周辺を脅かしはじめた・・・ 」

「 ・・・としか考えられない。 ともかく火事による被害もバカにならないのでね、

 君たちの力を借りて退治してしまおうと思ってさ。 」

ピュンマは玩んでいた小枝を ぽい、と焚き火に放り込んだ。

ぱ・・・っと火の勢いが増し、辺りを広く照らしだす。

「 ・・・ ごめんなさい。 」

「 え? な、なにが? 」

「 だって・・・ ジョ−がいなくちゃ、お話しにならないわよね。 わたしでは何の役にもたたないわ。

 それなのに。 くだらない喧嘩して・・・ ジョ−を置いてきぼりにして・・・ 」

「 役に立たないなんてそんなことないよ。 君の眼と耳でできるかぎりサ−チして欲しいな。

 アレのデ−タを取って分析すれば対処方法も見つかりと思うし。 」

「 でもそんな悠長なコト・・・ ・・・ ピュンマ・・・! 」

「 え、え?? なに、どうした? 」

「 しッ! ・・・ いる・・・ なにか いるわ。 発光体?ううん・・・動物?機械体かもしれない・・・ 」

「 なんだって?! 」

< 脳波通信に切り替えて! なんだか・・・わたし達の方をじっと窺っている・・・

 もしかしたら話の内容とか 理解できるのかも・・・ >

< ふん、それじゃ立派な機械だよ!  ・・・よし、003。 ぎりぎりまでヤツを引き付けて

 正確な位置デ−タを送ってくれ。 >

< 了解、008。 あなたのデ−タ・スポットに直接送るから オープンにしておいて。 >

< 了解。 よし、ス−パ−ガンもセイフティ・モ−ド解除、完了だ。 >

< ・・・ 来た・・・! >

がさり、とかなりの後方でブッシュを踏み拉く音を聞いた次の瞬間、 彼女は背中に猛烈な熱気を感じた。

・・・ しまった・・! 加速して移動したのね!

やられる・・! とそれでも必死に捻向き、ス−パ−ガンのトリガ−を引き ・・・

 

「 危ないッ ・・・・・ !! 」

「 ??? あ??? 」

 

ぽ〜〜んと身体が宙に浮いていた。 そして背中から馴染んだ温か味と声が・・・

「 大丈夫かい、003! 」

「 ・・・ 009!? ど、どうして?? 」

「 どうしてって きみ達を追いかけてさ。 やっと追いついた〜って思ったら・・・

 なんだか妙に光る物体が見えたので 加速して近づいたんだ。 なんだ、あれ? 

「 ・・・ ジョ− ・・・!! ジョ −−−− ! ごめんなさい・・・! 

「 あ、あれれ・・・ なあ、大丈夫かい。 わわ・・・そ、そんなに噛り付かないでくれよ・・・ 」

「 やあ。 009。 」

「 008〜〜〜 やっと追いついたよ?  なあ、アレかい、問題のヤツは。 」

ジョ−は片腕にフランソワ−ズを抱いたまま、ふわり、とピュンマの側に着地した。

「 そうなんだ。 アレは君のようにマッハで移動できる。 」

「 ふう・・・ん・・? アレを追ってゆけば裏にいるヤツラを焙りだせるな。 」

「 うん。 あ・・・・でもね、今夜はもうやめておこうよ。 」

「 え、どうしてかい。 一網打尽にできるチャンスかもしれないぜ。 」

「 う〜ん・・・ そうなんだけど。 でも・・・ほら、今夜は君自身の問題を解決したまえよ。 」

「 え・・・? ぼく自身の? 」

「 お邪魔虫はもう引き取りからさ。 ま、二人でじっくり話あうことだね。 

 ああ、焚き火の面倒、頼むよ。 それじゃ・・・ オヤスミ〜〜 」

「 あ・・・あ・・・ ピュンマ〜〜 」

明日はぼくの家族を紹介するから、と彼は笑って手を振り離れたテントに入っていった。

 

「 ・・・ あの ・・・ ジョ−・・・わたし ・・・ ごめんなさい・・・ 」

「 あ・・・ あの。 ぼくこそ・・・ あの。 ごめん、きみがそんなに傷ついているって

 そのう・・・全然気がつかなくて。 ほんと、ごめん・・・ 」

「 ・・・ わたしもはっきり言えばよかったわ・・・ね・・・ 」

パチ ・・・! 

薪が跳ね 火の粉が飛ぶ。

「 ・・・ きれい、ね。 」

「 あ? あ、ああ・・・・・。 あの、ぼく、ぼんやりしてるから・・・その・・・

 言ってもらえると・・・嬉しいんだけど・・・ 」

「 言っても いい。 」

「 うん。 」

「 ・・・ ジョ−。 わたしを 見て。 わたしだけを 見て。 」

「 ぼくを虜 ( とりこ ) にするのは きみだけ、だよ、フランソワ−ズ 」

ジョ−はきゅっと隣に寄りそう肩を引き寄せた。

「 ぼくが顔を埋め、ぼくがすべてを委ねるのは ・・・ この女性 ( ひと ) だけ、だ。 」

「 ・・・ ジョ− ・・・! 」

焚き火の火影で 二つの影が縺れ ・・・ やがて一つに重なっていった。

 

 

 

翌日 ピュンマは仲間達に彼の家族を紹介することは できなかった。

 

 

 

<ミッション>自体はしごく順当に運び、黒幕を突き止めることも容易だった。

やはり鉱物資源の利権が絡んでいた。

邪魔なピュンマを脅そうと家族や周辺の住民を襲わせたらしい。

 

「 ・・・ くそ・・・! そんなことで大勢の命を!僕の・・・か、家族も・・・! 」

「 ピュンマ! 雑魚はぼくに任せておけ。 法の裁きを受けさせる。

 君はアレを撃て。 」

「 009、008! アレはこっちに向かっているわ。 加速してる・・・ 」

「 殺戮兵器だ、破壊しなくては。 」

「 ・・・ よし。 003、ナヴィを頼む。 アレの位置を送ってくれ。 」

「 了解。 」

「 008、ぼくが君の前にアレを追い込む。 いいな。 」

「 了解! 」

 

   ザ ・・・・・ッ !!

 

独特の圧縮音がしてたちまち眼の前に光る物体が現れた。

「  ! ・・・・ とうさん!  かあさん ・・・! ジジ ・・・!! 」

ピュンマのス−パ−ガンが炸裂し   次の瞬間、ソレは大地に倒れ伏していた。

 

 

 

 

搭乗時間を告げるアナウンスが響く。

あちこちで 派手な抱擁シ−ンやらキス・シ−ンが繰り広げられ始め、

ジョ−はひとりで赤くなっては眼を逸らせうろうろしていた。

「 ジョ−? ほら・・・ 時間よ。 」

「 あ・・・う、うん。 えっと荷物・・・? 」

「 いやあね、手荷物だけよ。 」

「 あ・・・そ、そっか。 そうだよね。 」

「 ジョ−。 ひとつ、お願いがあるんだけど。 」

ピュンマは す・・・っと顔を引き締め、ジョ−を見つめた。

「 え・・・? なんだい。 そんな・・・改まって・・・ 」

「 うん。 あの、これは僕の心からの願いなんだけど。 」

「 ・・・ ?? 」

「 頼むよ。 お願いだ ・・・ 彼女を泣かさないでくれ。

 これは ・・・ 兄としての気持ちなんだ。 」

「 ピュンマ ・・・ 」

「 僕だって。 ・・・ 妹にはいつだって・・・ いつだって微笑んでいて欲しい。 

 う ・・・欲しか・・・・った・・・・ 」

「 うん、わかった。 君に言われちゃうと・・・もう、何も言えないよ。 」

「 ありがとう、ジョ−。  ああ、フランソワ−ズ。 ありがとう・・・! 」

「 え? なあに。 」

「 あのバレッタとオミヤゲのスカ−フ・・・ 妹に持たせてやったんだ。

 きっと ・・・ 今頃、大喜びでつけたり外したりしているよ・・・ うん ・・・ 」

ピュンマはす・・・・っと大空を見上げた。

「 そう・・・そうね。 きっと・・・・ 」

フランソワ−ズも並んで視線を飛ばす。 

ついに会うことの出来なかった少女の笑顔を確かに見た、・・・と思った。

頭上には 相変わらずどこまでも青く澄んだ空がひろがっている。

渡ってくる風は からり、と乾いていて軽やかだ。

フランソワ−ズは その大陸の風を胸いっぱいに吸い込んだ。

 

「 それじゃ。 お世話になったね、本当にありがとう! 」

「 うん、少しでも役にたててよかったよ。 ・・・ 元気、だせよ、な。 」

ジョ−とピュンマは がっちりと握手を交わす。

言葉はありきたりだったけれど、<戦友>たちにはそれで充分だ。

「 ピュンマ・・・ お元気で。 」

「 フランソワ−ズ・・・ もう喧嘩は止せよな。 」

「 ふふふ ・・・ はい。 」

抱きついてきた彼女を軽く抱き、頬にキスを落とす。

「 また遊びに来てくれよ。 今度ははじめっから二人一緒にね! 」

「 あは・・・ 了解・・・! 」

ジョ−はちょっとばかり赤くなってそれでも彼の恋人の肩をしっかりと抱き寄せ歩き出した。

 

 

    「  Bonnes  Vacances ・・・・・!! 

 

アフリカの空に 若々しい声が響いていった。

 

 

 

********************     Fin.     *********************

 

Last updated : 09,16,2008.                                       index

 

 

 

*******    ひと言    *******

あまりにも有名な原作のあのお話デス 内容は皆様よ〜〜くご存知と思いますので

<プロロ−グ>を捏造してみました。 この時、二人はも〜〜らぶらぶなんですよね♪

仲良くおそろい・サファリ服?だし、ミッション時も息が合ってるし♪

も〜〜ラスト・シ−ンなんて完全に恋人同士〜〜♪@巴里の街〜♪

それで ふふふ〜〜 喧嘩させちゃったりしたのですが。 でもやっぱり二人はらぶらぶです。

ちょこっと設定変えました、宇宙生命云々・・・は原作・ジョ−君にお任せです。

あ、 オーベルジ−ヌ は 茄子 です。 ( でも日本のナスとは種類が違うみたい・・・ )