『  Sweet  Kiss ♪  』

 

 

 

 

 

 

 

ジョーの脚が ぴた・・・っと止まった。

たまたまデパ地下を歩いていて そのコーナーに紛れ込んでしまったのだ。

そのコーナーには  圧倒的に女子! ― いや、 ほぼ全員が女性  ― が群がり蠢いていた。

 

    ひえ ・・・ ヤバ ・・・

 

ジョーは一瞬本気で加速装置を使おうと思い ―

「 ・・・ まあ〜 すごいヒトねえ。 ジョー、あそこは何の売り場なの? 

「 あ ・・・ああ  フランソワーズ ・・・! 」

隣からの爽やかな声に 彼は心底ほっとした。  そう、今日は彼女がいるのだ。

 

    ・・・助かる! 助かるぞ・・・! ぼくは独りじゃ ・・・ ない!

 

「 あら。  女性ばっかりねえ・・・ ? 」

「 あ ああ ウン。 ここはね、チョコレート売り場さ。 バレンタイン用の特設なんだ。 」

「 チョコレート?  それがバレンタインとどう関係があるの? 」

フランソワーズはなにがなんだかさっぱり・・・という表情で、でも目の前のすさまじい風景に

目を丸くしている。

「 だから さ バレンタインの日に  ・・・ あ そうか。 外国では違うんだっけ。 」

「 違うってなにが。  バレンタインの日には恋人とか親しい友人とか そうね、家族どうしでも

 ちょっとしたプレゼントを贈りあうの。  」

「 うん、 それは聞いたこと、あるな〜 普通、そうんだってね。

 で ・・・ね、 日本ではね、なぜか  ・・・ アレ ・・・チョコレートなのさ。 」

「 チョコレート? ふうん、でもいいんじゃない、カワイイわ。 

 日本のチョコはいろいろあって楽しいし。 わたし達も買ってゆきましょうよ。 」

「 フラン〜 あのねえ、 ここのはそのぅ〜 普通のチョコとはちょっと違うんだ。

 ここのは ― 女性が好きなオトコに贈るためのチョコなの。 」

「 ・・・え? 好きな男性に?  

 え それじゃ・・・ 女性からだけ一方的に贈るの? 」

「 まあ そういうことになってるんだけど ・・・ 」

「 ふうん ・・・ それでこんなに ・・・ ふうん ・・・ 」

フランソワーズはあらためて売り場を眺め ふうん・・・と繰り返す。

「 ま・・・一種のお祭りさ。  皆で騒いで盛り上がるんだ。 」

「 そうなの? ふうん ・・・ 」

「 ― で さ ・・・えへ・・・ぼくも きみから貰えたらなぁ〜 なんて思ったりしたりなんかして♪ 」

「 なあに?  ごめんなさい、ちょっとよく・・・わからなかったわ。 」

ジョーの文法めちゃくちゃな言い回しは ガイジンさんには通じなかったらしい。

「 ・・・ いや なんでもないよ。  それじゃ こっちから帰ろうよ。 」

ジョーは両手に荷物をもつとすたすたと先に立って歩き出した。

「 あ あら ・・・ちょっと ジョー?  もう〜〜 チョコレート、買いたいのに・・・ 

 いいわ、 地元で買うから。   もう ・・・! 」

フランソワーズは彼を追って特設売り場を後にした。

 

 

 

   ふんふんふ〜ん♪♪

 

軽くハナウタなんぞ歌いつつ フランソワーズはバスを降りた。

停留所に降りれば ふわ・・・っと海に匂いが波の音と一緒にやってくる。

「 よいしょ・・・っと。  あ〜〜 いい気分〜〜♪

 海はいいわア〜 ・・・・ レッスンの疲れなんか吹っ飛んでしまうわねえ ・・・ 」

深呼吸をひとつ、そして彼女は大きなバッグを肩に歩き出した。

 

この国に来て ・・・ 海辺の崖っ淵に建つ洋館に住むことになった。

老人と赤ん坊、そしてこの国出身の茶色の髪の青年と ひとつ屋根の下に暮す。

その生活が軌道に乗り始めたころ 彼女は再び踊りの世界のドアを叩いた ・・・

 

   今、 フランソワーズは毎朝都心近くのバレエ団のレッスンに通っている。

「 ふんふんふ〜ん♪  チョコレート、たっくさん買ってきちゃった♪

 ふんふんふ〜ん♪ ジョーってば〜 随分説明を省略してくれたじゃない?

 わたし、 稽古場のお友達にちゃ〜んと聞いてきたんだから〜 」

両手に下げた買い物袋、片方にはチョコレートがわんさか詰まっている。

「 ぎりちょこ とか ともちょこ とか。 わたし自身へのご褒美だってあり、だと思うわ。

 そしてね ・・・ ふふふ♪  ほんめい もちゃ〜んと♪  」

彼女はそう・・・っとバッグの中の金色の包みを押さえた。

「 これはね、パリでも有名なチョコなの♪ アオヤマで買えてよかったわ〜

 ・・・ ヴァレンタインの日に 日本にいてよかった・・・! 

 そうよね ・・・ ジョーがいつも言ってるわよね  ― あとは勇気だけ! 」

うふふふ・・・ 亜麻色の髪の乙女はご機嫌ちゃんで急な坂道を登っていった。

 ― どうやら チョコレート作戦は大ヒットした ・・・らしい。 なぜならば  ↓

 

 

    数年後 ―  崖ッ淵の邸には 島村さんち の一家が暮している。

 

 

家主のギルモア博士、 ジョーとフランソワーズ   ―  そして 双子の子供たち!

 

 

「 すばる〜〜 遅れますよッ ! 」

「 アタシ、さきにゆくよ〜〜  お母さん  いってきま〜す! 」

「 あ すぴか、ちょっと待ってて・・・ すばる! まだなの〜 」

「 お母さん、 アタシ、ゆみちゃんとなわとびするやくそくなの。 」

「 あら そうなの? それじゃ ・・・ いってらっしゃい、すぴかさん。 」

「 いってきまァ〜〜すぅ〜〜 」

「 やれやれ ・・・ すばるッ ! 」

「 ・・・ ま、 まって ・・・ まだ みるく、 のこってる・・・ 」

「 残していいわよ!  ほらほらほら〜〜 」

「 ・・・ でも 〜 」

「 おう すばる。 ミルクはその辺で切り上げて おとうさんと一緒に行こ! 」

「 あ お父さ〜ん ・・・ 」

「 ジョー!  ・・・ じゃあ 下まで一緒に行って国道を渡してくれる?

 すぴかがいないと心配なのよ。 」

「 オッケー  さ すばる、行くぞ! 」

「 う うん!  お母さん〜〜 イッテキマス ・・・ 」

「 はいはい 行ってらっしゃい 二人とも 」

愛妻と ちゅ ・・・っと軽く唇を合わせ ジョーは息子を連れて坂道を下って行った。

よく似たクセッ毛が 並んでひょんひょん跳ねている。

「 さあ〜て。 わたしも仕度しなくちゃ・・・ 今日も頑張ります♪ 」

フランソワーズは うん! と大きく一つ伸びをしてから玄関へと駆け戻った。

 

島村さんちの若奥さんは毎朝家族を送りだした後、大きなバッグを抱えレッスンに出かけてゆく。

バレエ団でも もはや新人ではなく、ジュニアクラスの助教などもしている。

「 ・・・っと、全部入れました。  それじゃ〜〜わたしも <加速装置>だわ! 」

彼女もまた 家の前に坂道を駆け下りていった。

 

 

 

 

  ふんふんふ〜ん ♪♪

 

ご機嫌なハナウタと一緒に 少年がひとり更衣室に入ってきた。

「 おっはよ〜〜ございまっす♪ 」

「 ・・・ や〜 おはよ  」

「 オハヨ  んだよ、ヤケに機嫌いいじゃん。 」

「 え〜 だってさあ〜 ・・・ 」

ぼすん! とでっかい鞄を床におき、彼はイヤホンをはずして にい〜っと笑った。

「 も〜すぐ14日じゃん? 今年はチョコ〜何個来るかな〜 」

「 へ! 自意識かじょ〜 」

「 お前、ジュニア・クラスのチビちゃん達から貰うンだろ〜 」

たちまち四方八方からツッコミが飛んできた。

「 ち 違うです! おね〜サマ方からだって 〜 」

「 まあ 言わせてとけ。  14日に泣くのはミエミエさ。 」

「 んなことねえっす〜〜   ?? あれ? タクヤせんぱ〜い・・? 」

彼は隅っこで黙々と着替えている青年に初めて気が付いたらしい。

「 あ すんません、おはよ〜っす! 」

「 ・・・ああ?  ああ ジュン、 おはよう。 」

青年は静かに答え きゅ・・っとバンダナで髪を纏めた。

「 あ あの〜〜〜〜 タクヤ先輩は 〜  その〜〜 チョコとか山盛りですよね〜 」

「 チョコ? 欲しけりゃやるぞ。 」

「 え あ〜 その〜 ・・・ 」

「 じゃな 先に行くぞ。 」

タオルと水のボトルをもって彼 タクヤは更衣室から出て行った。

「 あ ・・・ あ〜 ・・・ なんか余裕だなあ〜 さすが タクヤ先輩! 」

「 おい! ジュン、 早く着替えろ。 お前、当番だろ! 」

「 あ すんませ〜ん ! 

少年は大慌てでダウン・コートを脱ぎ捨て着替えはじめた。

 

 

   バサ ・・・・!

 

バーにタオルを掛け、どさ・・・っと座りこみストレッチを始めた。

「 ・・・ふん ・・・  チョコ か。 くだらな ・・・・ くない! 」

 ギシ ・・・! バレエ・シューズが床を踏みしめる。

「 ・・・ も 貰えるかな ・・・ 貰いたい ・・・  欲しいんだ〜〜  くれ!! 」

 ゴキ。  股関節が鳴った。

「 ふん ・・・ くだらねェ〜 ・・・・けど! オレ ・・・ 欲しいんだ〜〜〜

 ・・・ ギリ でもいい。 お疲れ様チョコ でも・・・いい!

 あの笑顔で あの声で。  て 手渡してもらえたら〜〜〜  オレ! 」

 バキ。  肩関節を回す。

「 ううう 〜〜〜  ・・・ たのむ、たのむよ〜〜〜

 も もらえたら ・・・ オレ・・・ し 死んでもいい! ・・・・かも ・・・  ふう〜〜 」

 

    ―  ドサ ・・・。

 

タクヤは床に転がった。

 

「 ・・・ タクヤ?  お前 ・・・ 具合でも悪いのか? 」

隣のバーにいた男性が 驚いて振り向いた。

「 あ・・? ああ! い いえ〜 なでもないデス。 ちょっち 滑っただけ・・・

 あ〜 マツヤニ〜 マツヤニ、取ってきます。 」

「 あ?  ・・・ ああ 頼む。 」

「 ・・・・・ 」

タクヤは タオルを引っつかむとどたばたとスタジオから出ていった。

「 ??? なんだぁ  アイツ ・・? 」

 

 

「 あの〜 マツヤニ〜 もらえますか〜 」

タクヤは事務所のドアを叩いてると ・・・・

「 あ おはよ〜〜 タクヤ!  早いのね〜〜 」

明るい声が飛んできた。

「 !?  わ ・・・あ  ・・・ ふ ふらんそわ〜ず  ・・・ 」

「 うふふ・・・ お早う♪  ってもうギリギリタイムね。 」

じゃあ ・・・と彼女はするり、と彼の側をすりぬけて更衣室へ駆けていった。

「 あ ・・・ ああ ・・・  フラン ・・・ フランソワーズ ・・・! 」

タクヤはしばらくぼう〜〜っと彼女の駆けて行った方向を眺めていた。

「 は〜い マツヤニ〜〜   ??  あの・・・? やまうち君? 」

「 ・・・・  はい? 」

「 はい、じゃないでしょ。 ほら マツヤニ。  入れ物は? 」

「 あ ・・・ は はい コレに ・・・ 

「 ・・・え。  これ タオルよ? 」

「 いいっす ・・・ 」

「 そう? それじゃ。 」

ザラザラ ・・・・    タクヤはマツヤニ入りのタオルを持ってぼ〜〜っとスタジオに戻った。

 

彼の名は山内タクヤ。  このバレエ団の有望な若手ダンサーだ。

本人は まだ自分自身の天分を伸ばすのに夢中 ・・・というところでイマイチ貪欲さに欠ける。

「 そりゃ オレだって海外とか行きたいけど。 」

まだ やるべきことがあるんじゃないか ― それが何かはよくわからないが・・・

彼はそんな戸惑いの真っ只中の 青春中期?の青年なのだ。

 

「 ふは 〜〜〜〜 ・・・・ 

クラスが終わりレヴェランスと拍手で主宰者のマダムを送り出す。

ダンサー達はやれやれ・・・と タオルでごしごし顔を拭いたり持参の水を飲んだり、

中には不得手なパを自習するモノもいた。

少年がタオルを投げ上げ 歓声をあげる。

「 ひゃ〜〜 終ったぁ〜〜  あ〜〜 このクラス、クリアすると俺〜

 一週間が終った気分〜〜 」

「 あ〜 メシ、食ってかね?  ジュン  」

「 い〜よ〜  あ ちょい待ち!  ・・・ あ〜〜タクヤ先輩〜〜 すんません〜 」

彼はスタジオの隅で なにやら振りの復習をしている青年のところに飛んでいった。

「 〜〜〜・・と ・・・  あ? なんだ ジュン。 」

「 あ あの! さっきのアレグロっすけど。 俺 タン・ド・キュス の後がわかんなくて ・・・ 」

「 ああ ・・・お前、入れる脚が逆なのさ。 ・・・デモをよく見てろよ。 」

「 ・・・ あ   な〜る・・・  じゃ じゃ これでいいんスかね〜 」

少年はぴんぴん跳び始めた。

「 〜〜〜   っと  そうそれで次が   !!  ちょい ごめん! 」

「 ?? ええ?? ああれえ〜〜 タクヤさん?? 」

青年  ― タクヤはさささ・・・っとスタジオをつっきり荷物置き場へ駆け寄る。

「 や やあ〜〜 フランソワーズ ・・・ 」

「 ?  なあに、タクヤ。 」

碧い瞳が クス・・・ッと笑って彼を見つめる。

「 ・・・あ  あ あ〜〜〜 あの ・・・ お疲れサマ ・・・ 」

「 相変わらず元気がいいわね〜 タクヤの ア・ラ・セゴン・ターン、 気持ちいいわ〜 」

「 へ へへ ・・・ そう?  そんじゃ ・・・ 今度 眠り 〜 でも踊ろうぜ。 」

「 チャンスがあれば ね。  あの ・・・なにか用事? 」

「 あ ・・・ う〜ん ・・・特別にってわけじゃ ・・・・

 いや! たまにはお茶とかしたいな〜なんて・・・ おもったりしてみたりして・・・ 」

「 ??  タクヤもジョーみたいな表現を使うのねえ。 日本男性の共通言語なのかしら。 」

「 きょ 共通言語 ??  はへ?? 」

「 あ・・・ ごめんなさい、今日ねえ、 ちょっと急ぐのよ。 

 早く帰ってチョコを作らないとね ・・・ ほら バレンタイン用の♪ 」

「 え ・・・あ  チョコって。 あの〜 フラン、知ってるんだ?  その・・・日本のバレンタイン 」

「 あらあ〜 わたし、この国に来てもう10年は経つのよ〜

 ちゃんと知ってます。 だからね、今日は早く帰らなくちゃならないのよ。

 また  ゆっくりお茶でもしましょ。 タクヤの話って楽しいから好き。 」

「 え! そ そっかな〜  うん、 じゃ また 」

「 ええ じゃあ また明日ね♪ 」

ちゅ ・・・  掠めるだけのキスを彼の頬に残し、フランソワーズは更衣室へ行ってしまった。

「 う ・・・ わあ〜〜  ・・・! 」

 

     す 好き、だって!

     う うわあ〜〜〜 も もしかして、そのチョコ ・・・貰える かも!

 

タクヤは スタジオのセンターに走り出ると突如ぶんぶんとア・ラ・セゴンド・ターンを始めた・・・

「 ・・・せんぱ〜い・・・ 大丈夫っすかあ〜・・・ 」

そんな彼を ジュンは呆然と眺めていた。

 

 

「 ふんふんふ〜ん♪ ・・・ チョコとあとは型ね。 トッピングは・・? 」

「 ご機嫌ね、フラン。  手作りチョコ? 熱々のダンナ様用 〜〜 」

シャワーを浴び 着替えをしつつ、フランソワーズはぶつぶつ言っていた。

仲良しのみちよがくすくす笑いつつ声をかける。

「 え・・・ わたしじゃないのよ すぴかなの。 

 なんとねえ〜 今年はあのお転婆・すぴかが チョコ 作りたい! って言うのよ。 」

「 へえ〜〜〜 あのすぴかちゃんがねえ ・・・

 で そのラッキー・ボーイは誰なの?  もうちゃんとカレシとかいるわけ?? 」

「 それがねえ、教えてくれないの。 ないしょ! なんですって。

 まあ 今時の小学生ってオマセねえ。 」

「 ふふふ ・・・遊び気分なんでしょ。   」

「 多分ね。 だから簡単バージョンで 市販の板チョコ湯煎で溶かして

 型に入れてトッピング、でおしまい。  でもね〜 それでもすぴかには大変だとおもうわ。 」

「 お母さん がんばって 〜〜 」

「 多分 ほとんどわたしがやることになりそうよ・・・あのコはブキッチョだから。 」

「 カワイイじゃない?  ねえ 一個くらい見せてよ。 」

「 いいわよ。 ああ みちよお姉さんにも作って?って言ってみるわ。 」

「 わお〜〜 楽しみにしてるね。 」

「 うん。 じゃね  またゆっくりお茶しましょ。 」

「 うん バイバイ〜〜 」

フランソワーズは よいしょ・・・と大きなバッグを肩に掛けなおし、更衣室を出た。

「 ・・・ できればもうちょっと自習、してゆきたいんだけどなあ・・・・

 あら? ・・・ まあ タクヤ。  やっぱりねえ、さすがだわ。

 彼のキレのよいピルエットや高いジャンプは ああいう地味な努力の賜物 よね ・・・ 」

タクヤは文字通り < 舞い上がって > 稽古場で暴れているのだが

ちらっと見ただけのフランソワーズには 熱心に自習をしている としか見えなかった  らしい。

「 う〜ん ・・・ 負けちゃいられないわね。  タクヤはライバルだもの。 

 この次に組むときだって 負けないわ、よくって? 」

フランソワーズは ふふん、と鼻息も荒く廊下を歩いていった。

 ・・・ そんな彼女の呟きを スタジオの青年に聞こえるはずもなく。

タクヤは妄想に磨きを掛け シアワセな思い込みを抱いてひたすら跳びまくっていた。

 

 

 

フランソワーズの買い物は案外すぐに、それも地元駅前すーぱーの中で 済んでしまった。

「 え〜と ・・・ 板チョコでしょ。 あとは〜 チョコの型は この星型と ・・・

 お砂糖やらクリームは買ったし。 トッピングには ・・・ああこれ 使えばいいわね ・・・ 」

お手軽・手作りコーナーで だいたいのものを揃えることができた。

「 ふんふんふ〜ん♪  娘とチョコ作り〜〜 なんてず〜〜っと憧れていたのよ♪

 あのお転婆娘は バレンタインチョコなんて興味ないかしらってがっかりしていたんだけど

 ふんふんふ〜ん♪ やっぱりオンナのコねえ♪ 」

荷物の重さもなんのその、彼女はご機嫌ちゃんで帰路についた。

 

えっちらおっちら坂道を登って我が家の玄関のドアをあければ ―

「 ― ただいま ・・・      あら? なんかいい匂い ・・・」

玄関を入るなり ほわ〜〜ん ・・・と甘ったるい匂いがとんできた。

「 ひとりで作り始めたのかしら?  ・・・ まさか ね。

 すぴかが一人でガスを使ったり・・・できないはずよねえ・・・ 」

なんとなく、気になって彼女は荷物を持ったまま キッチンに急いだ。

 

「 〜〜〜 あっつ〜〜〜いいい〜〜! 

「 あ! 手を放しちゃだめだよォ〜〜 」

「 だって だって〜〜火傷しちゃうぅ  あちあち〜〜 」

   − カチン ・・・

「 あ〜あ・・・手を放しちゃだめだってばア〜〜」

「 で でも あっち〜〜んだもん、 ほらあ〜〜 指のさきっぽが白くなっちゃったあ〜 」

「 ・・・ そのくらい、なめときゃ治るよ。  ・・・よいしょ・・っと。 ほら、スプーン ・・・

 やっぱまぜるのは木じゃくしがいいな〜 」

「 ふ〜ん ・・・あんた やりなよ、すばる 」

「 ! だってこれ! すぴかのチョコなんだろ? 」

「 すばる、てつだってくれるんでしょ!  」

「 てつだうって〜 こういうコトじゃないとおもう〜〜 」

「 なに? 」

「 ・・・ なんでもないよ ・・・ 」

すばるは子供にはあるまじきふか〜〜い溜息をつき、 もくもくと湯煎の鍋をかき回している。

生まれた日から、いや 多分お母さんのお腹にいるときからすばるはすぴかの指揮命令下にあった・・・らしい。

その状態を 彼は本能的に察知し我が運命、と甘んじて受け入れ ― 要するに姉キには勝てない ってことなのだ。 

 これは島村さんちの伝統なのだ ・・・ 多分。

「 あ! 板チョコがどろりチョコになった!! 」

「 ・・・だってとかしているんだもん。  その型、ならべて。 」

「 これさあ〜 ぷりんのいれものじゃん? アタシ、ハートとかつくりたい〜〜 」

「 ウチにハート型、ないもん。 〇にして上にハート、描けば。 」

「 ・・・ あんた 描いて。 」

「 これ! すぴかのちょこなんだろ!? 」

「 アタシたち、ふたごでしょ。 」

「 ・・・・・・ 

「 なんでもいっしょに協力しなさいってお父さんもお母さんもいうよね〜〜 」

「 ・・・ わかったよ ・・・ 」

「 ふんふんふ〜〜ん♪ すてきなばれんたい〜〜ん♪ 」

 

 ― クスクスクス ・・・

 

キッチンのドアの陰でフランソワーズは懸命に笑いを噛み殺していた。

「 くふ・・・ふふふ ・・・・ あのコ達ったら 〜〜〜 」

口の達者なすぴかに 押し捲られ、すばるは黙々とチョコ作り? に励んでいるらしい。

「 クッキー用の型しかウチにはないわよねえ・・・ ふうん、すばるってばよく考えるのねえ 」

せっかく買ってきた星型を無駄にするのも、と思い フランソワーズは えっへん!と

ひとつ咳払いをした そして ―

 

「 ただいま  すぴか すばる。  あらあら  なにをしているの? いい匂い・・・ 」

「「 あ! おかあさ〜〜ん  ! 」」

母の声に すぴかはぱっと振り向き飛んできた。  すばるはさすがに慎重にガスの火を消している。

「 お母さん! お帰りなさ〜い  あのね あのね! すばるとちょこ、つくってるの!

 どろりちょこになったから 〇のカタチにして上には〜とをかくの。 

 ね〜〜 すばる? 

「 ・・・ ウン。 」

「 まあそうなの? 凄いわね〜〜 二人とも。 

 あのね、お母さんからお願いがあるんだけど ・・・ いい? 」

「 なに? おかあさん 」

「 あのね お母さん、 星型チョコ がほしくて・・・型を買ってきたの。 

 すぴかとすばるも使ってくれる? 」

「 うわ〜〜い♪ チョコのお星様だあ〜〜 すてき〜〜 」

「 星型 ・・・ みせて、おかあさん。 」

「 ウン・・・ ほら これ。 あとねえ トッピングも食べたいのがあってかってきたの。

 これ・・・使ってみない? 」

「 ・・・ わあ この銀のつぶつぶ、かっこいいなあ。」

「 じゃ、使ってくれる、すばる。 」

「 うん。 ありがと、お母さん。 」

「 え うふふふ・・・・ 美味しいチョコ、作ってね。 」

「 う うん ・・・ 」

「 さあ それじゃ早速星型、使ってみましょうよ。 」

「「 うん!! 」」

 

  ―  結局フランソワーズがほとんど手を貸したのだが  星型ちょこ ができあがった。

 

「 うわ〜〜〜 すごい♪ これ ちゃんと★だよ? 」

「 このトッピング、すごい。  キレイだな・・・ 」

双子たちは作品の出来栄えに大いに満足した様子だ。

「 ねえ すぴかさん。  これ だれに上げるの? 」

「 うふふ〜ん♪  お父さんでしょ〜  それから ホンメイさん♪

 あ あと すばる、アンタにもね〜 」

「 ・・・ 自分でつくったちょこ もらってもなあ ・・・ 」

「 なに?? 」

「 ・・・ なんでもない ・・・ 」

すばるは淡々とした表情で 出来立てのチョコを貰っている。

 

    ・・・ あら〜〜 ・・・ このコ、案外大物かも ・・・

 

いつもは甘ったれの息子の 妙〜に大人びた表情にフランソワーズはまたもクスクス笑いが

湧き上がってきてしまった。

「 ・・・クス ・・・ おっと。  ねえ すぴか。  ホンメイさんってだあれ? 」

「 ひ  み  つ♪ 」

「 え〜  誰 誰?  お父さん、じゃないってことは ・・・ わたなべ君? 

 あ! ハヤテ君かな〜〜  ねえ ねえナイショで教えてよ。 」

「 ぶ〜〜。  ひ み つ です♪ 」

「 まあ。 ・・・ それじゃ ラッピング しなくちゃね。 」

「 ウン。 箱はねえ、作ったんだ〜 今 持ってくるね。 」

すぴかは キッチンから駆け出していった。

「 すばる ・・・ ちょこ作り、上手ねえ。 お母さん、びっくりしちゃった。 」

「 えへへへへ ・・・ ひかげんいのち! ってお父さんに教わったんだ。 」

「 え。 お父さん?? お父さんもチョコ、つくるの?? 」

「 うん。 ムカシねえ〜 オンナノコにたのまれたんだって。 」

「 ま まあ〜〜〜〜〜〜 」

フランソワーズの眉がキリキリキリ〜〜と釣り上がる。

「 あ♪ これ おいしいねえ〜 お母さん 」

にこにこ・・・チョコの味見をしている息子を眺め フランソワーズはなんとも複雑な想いだ。

 

    このコも ・・・ ジョーみたくモテるようになるのかしら ・・・・

 

「 おかあさん! これ・・・ これに入れてねえ、らっぴんぐして。

 カードつけるの。  」

すぴかが飛んできた。

「 あら ・・・ まあ綺麗に作ったわねえ〜 すぴか、上手だわ。 

 カードもカワイイわねえ 字、本当に上手〜〜  ・・・ これ もらうの ホンメイさん? 」

「 うん♪ えへへへ ・・・ よろこんでくれる かな? 」

「 ええ ええ 絶対に。  ・・・で 誰なの〜〜? 」

「 うふふ  ないしょ♪ 」

「 もう〜〜 すぴかの けち。 」

「 お母さん。 おとめごころ をりかいしてあげなくちゃいけないよ。 」

息子がなんだかわかったよ〜な顔で言う。

「 ま。  このコったら〜 」

「 うふふ〜  お母さんは〜 お父さんがホンメイでしょ? 」

「 当然でしょ。 」

「 すばる? すばるってば ちょこ、もらえるの? 

「 ・・・ いっぱいもってかえってるもん。 しらないの、すぴか。 」

「 そうねえ ・・・ 幼稚園のころからすばるのバッグにはちょこが入っていたわね 」

「 ふ〜ん ・・・ お父さんみたいだ〜 

    

      ちょ ちょっと・・?? どういうこと?

      それに すばるってば ―  まさしくジョーの息子だわね・・・

 

「 おか〜さん、おせんべい、ある? 」

「 はいはい ちょっと待ってね。  あ ミルクティも淹れましょ。 」

「「 わあ〜い♪ 」」

すぴかの?チョコ作りは 母子の楽しいおしゃべりタイムだったようだ。

 

 

 

   バサバサ ・・・  ガタン ・・・

 

「 ― お? 」

シューズ・ロッカーを開けると 小さな包みが複数こぼれ出てきた。 一緒に甘い匂いが漂う。

「 あは ・・・ ちょっと早いぞ〜 フライング〜 」

タクヤは零れ落ちた包みを ひょいひょい・・・と拾い上げる。

「 ふ〜ん?  今年も出足は好調・・ってとこか。 」

ざざざ・・・っとバッグにつっこみ、そのままスタスタを行ってしまった。

 

    はふ ・・・・  彼女のチョコじゃなくちゃ 意味、ねェよなあ〜・・・

 

北風がふるるん とタクヤのダウンジャケットを嘗めてゆく。

「 もっと早く彼女と出会っていたら なあ ・・・

 オレたち、ジュニア時代からきっと組んでさ、コンクールとかも挑戦して さ・・・ 」 

タクヤの視界には 華麗にパ・ド・ドゥを踊るフランソワーズと彼がしっかりと見えている。

「 そんで もって・・・ 海外公演とかにもゲストで呼ばれてさ〜 ♪ 」

 

  

「 タクヤ! お疲れ様〜〜  今日も素敵だったわ! 」

「 フラン♪ ふふん、 君の踊りに引き込まれてどんどんボルテージがあがったよ。 」

「 うふふ  私もよ〜〜   ( cyu♪ ) 」

「 すいませ〜〜ん! フランソワーズさんとタクヤ君ですよね?! 一枚! ( パシャ )

 ひゃあ〜〜 舞台も私生活も お熱いなァ〜〜〜  」

「 !  許可ない撮影は困ります。 」

「 それに、根拠のない噂を流すのは止めたまえ。 オレ達は仕事上のパートナーだけだ。 」

「 へ ・・・ ま そういうことにしておきますか〜 どうも〜〜 」

「 ったく!  困ったもんだな。 」

「 ・・・ ええ  あの ・・・ 」

「 うん? どうした フラン。 疲れたのか? 」

「 ・・・ ううん ・・・ あの ・・・タクヤは本当にそう思っているの? 」

「 ああ?  そう思うって・・・なんだ? 」

「 だから その・・・ タクヤと私は ・・・ 仕事上だけのパートナーだ・・・って・・・ 」

「 ― フラン ・・・ 」

「 わたし。  あの あの  わたし・・・ 」

 

 

「 くう〜〜〜〜〜 ・・・ !  あの大きな碧い眼でさ、うるうるして見つめられちゃったりして〜〜

 あ〜〜 オレ もうダメだああ〜〜〜 」

ばしゅ・・・!  タクヤは突如舗道を蹴ってジャンプした。

「 うはあ〜〜 ・・・ そんでもって。 あの温厚そうな親父さんも認めてくれて〜〜

 カノジョとオレは〜〜  ・・・・ あ。 そうすっと すばる は・・・ 」

タクヤは双子たちとも <なかよし> で すばる は弟みたいに思っていたし、

母親の小型版みたいな ( 少なくとも見た目は・・・ ) すぴかも可愛いがっていた。

「 ・・・アイツら・・・ やっぱフランの側にいなくっちゃなァ・・・

 フランはさあ、姫踊っててもちゃ〜んと 母 やってるトコがますますいいだもんなあ〜 」

彼の足取りは 途端に鈍くなる。

発作的に飛び上がったり通行の邪魔になるほどぼ〜〜っとしたり・・・

ちらちら見てゆく通行人が増えてゆくが ― ご本人はまるで気が付いていない。

  ズ − ・・・ ズ − ・・・・

ぶら下げた大きなバッグが 時折舗道をずっている。

「 ・・・ そうだよなあ〜  すばる と すぴか ・・・ う〜ん ・・・

 ! あのイケメン・ダンナは やたらモテ組だろ、どうせ。

 ってことは ・・・ バレンタインにはチョコ山盛り〜 ちょっかい出すオンナも多数、だろ。

 そだよ〜〜 ムカシのオンナ、とかもいるし〜 」

 

 

 

「 あれ?フラン ・・・ どうしたんだ、こんな時間に? 」

「 ・・・ あ  タクヤ ・・・  」

「 ? タクヤお兄さん?  わ〜 こんにちは〜 」

「 こんばんは、だよ、すぴか。  こんばんは タクヤお兄さん。 」

「 すぴかちゃんに すばる〜〜  こんばんは!  元気かい。 」

「 うん!!  」」

「 寒いだろ? どっか ・・・ お茶でもしないか。 」

「 ・・・え ・・・ 」

「 おかあさん〜 アタシ、おなかすいた〜 」

「 すぴか! そんなこと、いうな! 」

「 そうだよな、腹ペコだよな〜 ・・・ そだ! ちょっち狭いけどオレんち、来る? 」

「 ・・・ え ・・・ いいの? 」

「 ヤローの一人暮らしだからな〜 ナンもないけどエンリョもなし! こっちだ。 」

夜も大分遅く、子供たちは疲れている風に見えた。

母親は ― いつもの笑顔はなく、これも疲れ切って呆然としている・・・風だった。

コンビニ帰りのタクヤは 少々驚きつつも母子を部屋に案内した。

 

 

 

「 ふんふんふ〜ん♪ でもって〜 すばるはさすがにアニキだからしっかりしてるし

 ( 注 : タクヤの認識は誤っている ) 何気にフランのことも気にしてるんだぜ。 」

ついには鞄を置いて タクヤは舗道に端にしゃがみ込んだ。 

結構行き来の激しい通りなので 通行人たちは触らぬ神に・・・とばかり避けてゆく。

・・・ 本人はまるっきり気づいていないのだが。

「 元気のない母親と妹を庇ってさ〜 オレにエンリョしたりして・・・ 」

むん・・・! タクヤはバッグをしっかりと抱き締めた。

 

 

「 ほ〜ら〜  ごめん、カップ麺とカップ焼きソバと〜 今、コンビニパスタ、チン!するぜ。」

「 わあ〜 すぴか、パスタがいい〜 」

「 すぴか!  あ タクヤお兄さん、どうぞおかまいなく。 」

「 すばる・・・ そんなこと言わないでさ、 俺の作ったメシ、食ってくれよ〜 

 作った・・・・ってもお湯いれたりチン!するだけだけど。 」

「 ・・・ タクヤお兄さん・・・  お お母さんにきいてから ・・・ 」

「 あ うん そうだな。 すばる、さすがにアニキだなあ〜 」

「 え えへへ ・・・ 」

「 すばる 〜〜 アタシ ・・・ くすん くすん  」

「 すぴか。 泣くなよ! 」  ( 注 : この辺もタクヤの認識は甚だしく誤っている )

「 ほ〜ら 二人とも〜  まずはあったかいココアなんてどうだ? 」

「「 ・・・ ありがとう〜〜 タクヤお兄さん! 」」

「 お母さんもすぐに来るさ。  あ ・・・ フラン? 」

「 タクヤ ・・・ ありがとう、顔 洗ったらすっきりしたわ。 」

「 そか。 じゃ・・こっちこいよ。 皆で食べようぜ。 」

「 ・・・タクヤ ・・・ ごめんなさい ・・・ 迷惑ね、わたしたち・・・ 」

「 そんなこと、ねえよ!  さあ 〜 熱いうちに! 」

「 ・・・ ありがとう ・・・タクヤ ・・・ 」

 

 

 

「 ― なんてさ〜  食ってほっとして。 チビ達はくっ付き合って沈没さ。 」

ふう〜・・・ タクヤはそう・・・っと抱えた鞄を撫でてみる。

「 フランはさ、重い口を開いてぽつぽつ  話だすんだ。

 ダンナが浮気して とか ムカシのオンナが訊ねてきて、 とか! 」

ぼす! ・・・ 今度は鞄は虐待された。

 

 

 

「 ・・・ わたし ― もうがまん出来ない   

 こ 子供たちを連れて パリに帰ろうと思うの・・・ 」

「 え!?  パリって・・・ふ フランスに? 

「 ・・・ ええ ・・・ もうジョーとはやってゆけないもの。

 離婚して ・・・ 故郷に帰るわ。 」

「 え。  離婚って ・・・ あのダンナさんと? だってすげ〜熱々・・・ 」

「 そうよ愛していたわ! 愛しあっていると思っていたわ 信じてたわ! 

 けど ・・・ もう ・・・ もう疲れてしまったの ・・・ 」

「 そうか ・・・ オレが口を挟む問題じゃないけど・・・ チビ君たちはどうする? 」

「 ・・・ わたしが育てるわ。 だからパリに帰る・・・

 タクヤ ・・・ いろいろありがとう。  もう ・・・会えないわね・・・ 」

「 フラン ・・・!  

 

 

「 な〜〜んてサ 〜〜  あの碧い瞳からぽろぽろ涙が落ちて・・・

 オレに手をぬらすよ。  オレ・・・ あ〜〜〜 もうダメだああ〜〜〜 」

どごん ・・・ ぶんぶん首を振ったら鞄も揺れて電柱にヒット・・!

「 あ・・・ ああ けど けど。 アイツの細腕でコドモ二人なんて養えるのか?

 昼も夜も働いてさ・・・バレエどこじゃないぜ? 

 そ そんなフランしたりするもんか!   この  このオレが・・・! 」

 

 

「 楽しかった・・・ タイヤと踊れて・・・ 最高にシアワセだったわ・・・ 

 ありがとう、一生忘れてない・・・ わたしの青春の記念よ。 」

「 フラン ・・・フラン ・・・ そ それならいっそ オレが ! 」

「 ? なあに、 タクヤ。 」

涙に潤んだ瞳が タクヤをじっと見つめる。

 

「 オレが !  オレが。 す すばるとすぴかの父親になってやる! 」

 

 

  ・・・ どん。 バッグを抱えたまま、タクヤは舗道にシリモチをつく。

「 ・・・ んなコト、言える・・・か???  このオレに・・・ う〜〜〜む〜〜〜 」

座り込んだまま タクヤは考えこんでしまった。 

「 それになあ ・・・ こりゃ すばるやすぴかの意志を尊重しなくちゃならん!

 う〜〜〜む〜〜〜 ・・・・  

 しかし! こんなコトになったのも ― 全てあのイケメン旦那が悪い! 

 そうだよ〜〜 いっぺんアイツには ガツン! と言ってやんなきゃ! 」

 ぼす・・・!  再びタクヤの鉄拳が彼のバッグを襲う。

 

 

「 ヤマウチ君 ・・・だったね。  何かな、用事って。 」

ジョーが 足早に社のビルの応接フロアにやってきた。

「 あの! 」

「 うん?  まあ座りたまえ。 ここはいろいろな人が来るところだからね。 」

「 あ  は はあ。   いえ あの!  フラン・・・ソワーズさんのことです! 」

「 ? ウチの?  あれが君になにか頼んだのか? 」

「 いえ。 俺がここに来たこと、彼女は知りません。 これは俺の一存です。 」

「 ほう? それで・・ 用件は。 」

「 !  か カノジョ いえ フランソワーズ ・・・さんを悲しませるのは止めろ! 」

「 ―  なんだって。 」

じろり、とジョーの一瞥が ― 冷ややかな目がタクヤを射竦める。

「 ・・・ だ だから・・・! 」

 

 

  ― ごくり。  タクヤは固唾を呑み、舗道の真ん中に座ったまま身体を硬くした。

「 お 俺は負けないぞ!  フランのシアワセを守るために〜〜 

  あ  あとは  勇気だけだっ !!! 」

どこかで聞いたセリフを呟き 彼はいきなり立ち上がる。

  うわ・・・ と通行人が踏鞴をふんだりよろけてたり・・・団子状態になりそうだ。

 

   パパ −−−−!!

 

短いクラクションが鳴ると、誰かが駆け寄ってきてタクヤの腕をぐい、とひっぱった。

「 !?  な なんだ?? 」

「 ほら こっちこい!  すいませんね、コイツ〜 ちょっと酔ってて〜〜 」

「 酔ってなんか・・・  ?? あ  あれ??  ジョー ・・・ 」

「 さ 行くぞ!  ど〜も〜〜  困った弟で・・・〆ておきますから〜 」

ジョーは周りの人々にアタマをさげると タクヤを自分の車に押し込めた。

「 な な なんなんだ〜〜?? 」

「 ・・・ クルマ だすぞ! おい! 正面が交番なんだぞ?

 もうちょっとでオマワリが飛んでくるとこだったぜ! 」

「 え ・・・ や ヤバ ・・・ 」

タクヤはやっと <現実> にもどり、 ずずず・・・っとシートに沈みこんだ。

ジョーは そんな彼をチラっと見て、笑っている。

「 どうしたんだ、君?  酔ってる・・・風じゃないよな? 」

「 あ ・・・ いえ その。 ちょっと考えごと、してて・・・ ジョー・・・さんこそどうして? 」

「 ははは 舗道の真ん中で思索に耽るのはやめた方がいいぞ?

 ぼくは フラン ・・・ いや、ウチのが忘れものしたってメールしてきたんで、

 バレエ団まで取りに行ったんだ。 」

「 は ・・・あ  そ ・・・ そ ですか・・・  へ〜〜っくしょ! 」

「 なんだ 風邪かい?  早く帰って・・・一杯引っ掛けて寝ろ! 」

「 ・・・ ・・・ 」

「 あ あのな。 頼みがあるんだ。 」

「 頼み? 俺に、ですか。 」

「 ああ。  あのなあ 明日 ・・・ 例のチョコ、受け取ってやってくれ。 」

「 ―は はあ??? 」

「 すご〜く一生懸命に作ったんだ。 君はモテるから沢山もらうだうけど・・・

 アイツのも受け取ってやってくれ。 」

「 !!!!!! 」

タクヤは 黙ってぶんぶん首を縦に振り続けた。

「 ありがとう!  じゃ ・・・ 君の家まで送る。 どっちだ? 」

 

 

 

   さて いよいよ・・・というか 14日当日 ―

 

フランソワーズたちのバレエ団では ともちょこ やら ぎりちょこ やら ホンメイ やらが

飛び交い賑やかな雰囲気で溢れていた。

「 きゃ〜〜 フランソワーズ、ありがとう! これ、カワイイわあ〜〜 」

「 ふふふ・・・ 皆さんにはお世話になってますから♪ 」

フランスワーズは 小さなチョコを数個づつ色セロファンでラッピングして皆に配った。

「 あ! タクヤ! 」

「 フラン ・・・ ありがとう、これ・・・相変わらずセンス いいなあ〜 」

「 メルシ♪ あ ・・・ これ。 これは ホンメイなのよ、  はい! 」

ぽん、とタクヤの手に 金色の小箱が渡された。

「 え!!  ほ ほんめい って・・・ 」

「 あのね、 真剣なの。 だから受け取ってね。 」

「 あ ああ も もちろん  ・・・ 」

タクヤは冷や汗と熱い汗がごちゃまぜになって全身から噴出してくるのを感じた。

 

     こ コレって・・・ 俺の妄想・・・じゃないよな?? 

     こ コレって・・・ げ 現実 ・・・だよな?

 

「 ね? 開けてみて? 」

「 え ・・・開けて いいのかい。 こ こんなトコで・・・ 」

「 いいの。 わたしも楽しみなの〜〜 」

「 ???  」

タクヤは ちょ〜〜っと引っ掛かるモノを感じつつ、その可愛い包みをそっとあけた。

丁寧に包んだ中には 星型に銀のアラザンを散りばめたチョコ にカードが添えてあった。

タクヤの指が微かに震えた。  そのカードにはかっきりきちんとした字が並んでいる。

 

     タクヤお兄さんへ   だいすきです。 ほんめいです。 愛をこめて。  

 

                          島村すぴか

 

「 ・・・あ  あは  はははは ・・・・ 」

「 あらあ〜〜 やっぱりねえ〜〜 すぴかったら〜

 タクヤ、申し訳ないけど、ホワイト・デーにクッキーでも用意してくれる? 」

「 わあ〜 なになに?  うひょう〜〜〜 すぴかちゃんのホンメイはタクヤかあ! 」

「 きゃあ〜〜 なになに?? 」

女子たちがきゃあきゃあ ・・・ タクヤに贈られたチョコに集まってきた。

「 あ あはは ・・・ う うん。 俺の か カノジョさあ〜〜 」

「 ・・・タクヤ♪ ありがと・・・! 」

  す ・・・  フランソワーズの唇が さっとタクヤの頬を撫でた。

 

      う  うわあ 〜〜〜〜〜  ・・・・!

 

「 俺 ・・・ 俺・・・! 好きだ・・・ やっぱフランが好きだあ〜〜〜〜 」

山内タクヤ君は 小学生の島村すぴか嬢からのチョコをきゅう〜〜〜っと抱き締めていた。

 

 

 

******************************      Fin.     ******************************

 

Last updated  :  02,14,2012.                        index

 

 

***************  ひと言  ***************

例によって   島村さんち  設定です♪

妄想男子・タクヤくんはお馴染みのゲスト・キャラ、

フランちゃんの<仕事上の> パートナーです。

ちょうど14日なので〜 連載モノの途中に割り込みました

すみません〜〜 <(_ _)>