彼と彼女の事情
<Job−side F>
シマムラくんの彼女はフランス人。
いわゆる金髪碧眼の色白美人。潤んだような大きな瞳が印象的。
お仕事はダンサー。
もっと詳しく言うと、プロのバレエダンサー。世間では普通バレリーナと呼ばれる。
彼女は、「お仕事は?」と聞かれると、少し首を傾げて
「バレエを・・・・」と答える。
大抵の人は驚いた顔で、
「仕事で・・・? 趣味じゃなく?」とさらに聞く。
「ええ、そうです」
彼女はほんの少し肩をすくめて笑ってみせる。
「へぇ」とか「ほお」とか「スゴイね」とか「そりゃまた」とかの言葉をニコニコしながら黙って
聞いて、最後に
「今度ぜひ観にいらして下さい」
名も知らぬ人たちにも必ず言う。
反応は二通り。
「ぜひ! ぜひ行きます! アナタを観に行きます!」
或いは。
「ああ・・・! いや、はは、そのうちね・・・アレはどうもね・・・・」
そのどちらにも、彼女は鷹揚な笑みと優雅な会釈で応えておいて、でも。
「バレエって・・・・・面白いのにな」
こっそり口を尖らせ、むくれた顔をする。
そんな彼女が、シマムラくんはとても可愛い。
<Job−side J>
アルヌールさんの彼氏は日本人と欧米人のハーフ。
栗色の髪と明るい茶色の瞳の、優しげな顔立ち。
お仕事はプロドライバー。
もっと詳しくいうと、フォーミュラ1で走っている、つまり、F1レーサー。
でも彼は、「ご職業は?」と聞かれると、やや恥ずかしそうに
「車関係を・・・・」とボソボソと呟く。
大抵の人はここで、”ああ、きっと整備とか組み立てね” と思う。
間違っても「営業」とかは思わない。
鼻先にかかるほどの長い前髪と、なんとなくシャイなそぶりは確かに車のセールスには見えない。
もう少し好奇心の強い人はさらに聞く。
「車関係って、どんな?」
すると彼はますます困ったように、
「あの、ええと・・・運転の方を・・・・・」
何故か少し赤くなりながら答える。
”ああ、わかった。きっとセールスドライバーだわ。この感じじゃ長距離トラックなんかじゃなくて、
きっと宅配便とか、コンビニにお弁当運ぶトラックの運転手さんね”
その人は確信する。オーケイ、わかりましたとばかりに明るく言う。
「ああ、そうですか!」
「ええ、そうなんです!」
明らかにホッとした顔で彼も大きくうなずく。
そんな彼が、アルヌールさんは大好きだ。