***  じょ-君 お誕生日 おめでとう♪ ***
【 Eve Green 】 【 うたかたの記 】 合同企画
            ☆☆ はじめに ☆☆
5月16日♪  我らがヒ−ロ−・島村ジョ−君のお誕生日を祝って
またまた二人 ( めぼうき & ばちるど ) でお話を考えました。
今回は完全なコラボ作品、二人でひとつのお話を綴ります。
( あ、勿論♪ 後編には素敵なイラスト、ありますよ〜♪ )

設定は 平ゼロ。 いつもの【 島村さんち 】が舞台です。
さてさて・・・・ (#^.^#)
    

・・・・ はぁ ・・・・・・

フランソワ−ズは深く深く息を吐いた。
身体中から すべての篭っていた熱気が抜けてゆく・・・

二つの産声が、それまでの全てをきれいさっぱりとリセットしてくれた。
医師や看護士の声に混じって博士の感嘆の呟きも聞こえてきた。
よかった、本当によかった・・・
誰もいない空間に向かって彼女は極上の笑みを浮かべていた。  


ああ・・・。 よかった ・・・
さあ、これから最高に素敵な日々が始まるのよ・・・!


そしてそれは。 フランソワ−ズの 新たなる・戦い の幕開けでもあった。




   
『  あなた  - (1) -  』        written by : ばちるど




「 ただいまぁ〜  お姫様と王子様のご機嫌はどうかな〜? 」
ばたん、と大きな音で玄関が閉まり、賑やかな足音が近づいてくる。
本人はそれでもそっと歩いているつもりらしいのだが
フランソワ−ズには地響きにも等しいくらいの騒音に聞こえた。

・・・ ああ ・・・また! 
もうっ、何回言ったらわかるのかしら。 やっと眠ったところなのに・・・

「 ・・・ ただいま ・・・ フランソワ−ズ ? 」
「 しっ! 静かにしてちょうだい。 ・・・やっと二人とも寝たのよ。
 もう ・・・ 午後はず〜っとどちらかがぐずっていたの。 」
「 あ、ごめん・・・ ・・・・わあ♪ 可愛い顔して・・・ ふふふ。 」
子供部屋に入って、やっとジョ−はそうっとそうっと足音を忍ばせてベビ−ベッドに近づいた。
側に張り付いているフランソワ−ズの肩ごしに ジョ−は満面の笑顔で
ふたつのちっちゃな寝顔を覗き込んだ。

「 寝顔って・・・どっちも同じに見えるねぇ。 あはは・・・バンザイしてるよ、すばるは。 」
「 ・・・ ジョ−。 それはすぴか。 」
「 え? あ、 ・・・そ、そう?? ごめ〜ん・・・ ぼくのお姫様♪ 
 ねえ、ちょっと抱っこさせて。 どのくらい重くなったのかな〜 」
「 あ・・・ ダメよ、せっかく大人しく寝てるのに ・・・ あ〜あ・・・ 」

フランソワ−ズの制止など、てんで意に介さずジョ−はふわり、と手前の赤ん坊を抱き上げた。
この頃、はっきりとしてきた亜麻色の髪のアタマがくるりん・・・とジョ−の手に収まる。
「 ごめんね〜 すぴか。 今日も元気でしたか〜 」
「 ジョ− ・・・ 起きちゃうってば。 」
「 大丈夫だよ。 よ〜く寝てる・・・ あれ? 」

ちょっと低めの泣き声が突然響いてきた。
ジョ−はあわてて腕の中の赤ん坊を覗き込んだが ・・・ 眠ったままである。

「 ええ?? だって眠ってるよなあ・・・? お〜い すぴか、泣いてますか〜?」
「 ジョ−、どいて。 泣いてるのは す ば る ! 」
「 ・・・ぁ〜 ・・・・ 」

やっと気がつけば、ベビ−ベッドでは残された一人が真っ赤な顔で・・・泣き出していた。

・・・ もう〜〜〜 !! ほ〜ら起きちゃったじゃないのっ!!

フランソワ−ズは溜息をついて息子の小さな身体を抱き上げた。

・・・え・・・ええぇ ええええ〜〜〜

「 わ! 今度こそお姫様だよ〜、ねえ、お母さん、すぴかも泣き出しちゃったよぉ〜 
 どうしよう〜〜 頼むよぉ、お母さん〜 」
・・・・ せっかく寝てたのに〜〜〜 起こしたのは誰よ!!
お母さんって わたしはあなたの母ではありませんっ!
フランソワ−ズは怒鳴りたいのを押さえるので精一杯だった。



島村 すぴか。  島村 すばる。

若い父親は 初めての我が子たちに星の名をつけた。
ちょっと照れくさそうに笑って でも誇らしげに両腕に赤ん坊を抱いたその姿は
フランソワ−ズにとって今までで一番ステキなジョ−だった。

ジョ−。ねえ、これからわたし達の最高の日々が始まるのよ。

麗らかに晴れ上がった冬の朝、フランソワ−ズは幸せに浸りきっていた。


「 あら・・・ 双子さんなの? 大変ねえ・・・ 」
「 まあ、お若いのに・・・ 頑張ってね 」
「 のんびりね、のんびり行くのが大切よ。 」
「 お父さんにも協力してもらうのよ、ね? 」
<二人>が詰まったお腹が人目に立つほど大きくなり出した頃から
方々で声を掛けられた。
ガイジンの、それも一見ヤンママ風の自分がよほど頼りなく見えるのかしら・・・、と
フランソワ−ズはなんだか可笑しかった。

「 ありがとうございます。 」

彼女はいつもにこにこと元気に応えていた。

ふふふ・・・大丈夫♪
<お母さんになる>のは初めてだけど・・・ずっと<お母さん>はやってきたから。
子育ての経験はばっちりだわ。
ミルクの銘柄も紙オムツの新製品も、ちゃ〜んと実践済で知ってるし。
戦闘中だって 野営地でだって世話をしていたのよ?
平和な時に、のんびり赤ちゃんの相手に専念できる、なんて最高だわ。
そうね〜 ジョ−と一緒に子育てを楽しむには双子でちょうどよかったのよ。
一人だったら 取り合いになるでしょ♪

まさに指折り数えて、彼女は天使達が無事顔を見せてくれるのを待っていた。




天使・・・のはずの子供たち。
そう、確かに<天使>だった ・・・ 眠っている間だけは。
そのほかの時間は ・・・

 − ・・・・ 泣きたいのは わたしの方だわっ ・・・!

フランソワ−ズは幾度こころの中で喚いたことだろう。

いつも決まって先に泣き出すのがすぴか。 
そして 最後まで・・・ くたくたになった母親の方が泣き出したくなるまで
泣き止まないのが すばる。

姉は癇がつよく、弟は頑固モノだった。

・・・ もう !! 連携プレ−で攻めるんですもの。 たまらないわ!



冬晴れの真っ青な空が広がる日、
抱きなれたイワンよりもずっとずっと小さくて頼りない二人を腕に、
フランソワ−ズは意気揚々と退院してきた。

朝一番で迎えにきたジョ−は、母子の回りを飛びまわり実にまめまめしく
世話をやき、壊れ物みたいにそうっとそうっと3人を − そう、お母さんも一緒くたに −
ギルモア邸まで連れて帰ったのである。

「 ねえ、寒くない? もっと毛布で包まないと子供達、風邪ひかないかなぁ。 」
「 ちょっと陽射しが強すぎるよね? 赤ん坊の目に悪いよ。 シェ−ドを降ろそうか? 」
「 え、遅い? だってあんまり速く走ると・・・ びっくりするだろう? 」
「 うん、いつもの道はどうもガタガタするからね。 回り道でも揺れないほうがいいと思ってさ。 」
なんだか一人で舞い上がっている彼の様子に 半ば呆れつつも
自然に微笑が口元に昇ってくる。

 − ・・・ああ。 こんな幸せ ・・・・ 夢みたい!

フランソワ−ズは無心に眠るちっちゃなほっぺ達にキスを落とし
滲んできた涙を二人の産着で拭ってもらった。



「 さあ。 すばるにすぴか。 ココがアナタ達のお部屋よ? 」
「 お気に召してくれるかな〜 我が家のお姫様と王子様? 」
博士とイワンに<ただいま>と<こんにちわ>の挨拶をして
島村さんちの一家は やれやれ・・・と子供部屋に落ち着いた。

「 あ、ぼく、残りの荷物持ってくるね。 」
「 ありがとう、お願いね。 さて・・・ わたしはお昼の支度するわね。
 チビさん達はまだ当分ねんねの時間だし。 」
「 わあ〜 ・・・ きみのお昼ごはん、なんだか久し振りだな〜
 ねえ、リクエストしてもいい。 」
「 ええ、いいわ。 何がいいの。 」
「 お得意のクロック・ムッシュウとカフェ・オ・レ。 ミルクたっぷりがいい。 」
「 ふふふ・・・お砂糖もたっぷり、でしょ。 オッケ−、熱々を用意しておくわ。 」
「 ・・・ちょっと ・・・ 味見♪ 」
「 ・・・え・・・・あ・・・ 」
ジョ−は彼の奥さんを引き寄せ、不意に唇を重ねた。
彼の熱い舌に絡みつかれ、フランソワ−ズは久し振りで眼の裏に金の火花が散るのを感じた。

「 ・・・ ジョ− ・・・ったら。 わたしはランチじゃないわよ・・・ 」
「 美味しい食前酒さん、ゴチソウサマ〜 」
「 ・・・ もう ・・・・ 」

鼻歌まじりに出てゆくジョ−の背中を フランソワ−ズは笑って見送った。
さて。
じゃ・・・キッチンに行こうかな。 

・・・え ・・・?

もぞもぞもぞ。 ふにふにふに。
ちっちゃな身体が二つ一緒に動き始め ・・・
う・・・え・・・ええぇ〜ええええ〜〜〜えええええ〜〜〜
・・・っく ・・・うわぁ〜・・・ あああ〜〜〜〜あああああ〜〜〜
突然の混声二部合唱が始まった。

「 あら? どうしたの、二人とも。 お腹すいたの? それともオムツ? 」
 ・・・・・・・・・・・・
「 ねえ、どうしたの? 返事して・・・・ あ。 そうか、そうだったわ。 」

− オ腹スイチャッタヨ。 みるくヲチョウダイ。
− コノ紙オムツハ ナントナクオシリガ痒イヨ・・・ 
− ワルイネ、ふらんそわ-ず。 前ノみるくノ方ガ好キダナ。

今までどんなに泣き喚いても必ず帰ってきた<返事>。
でも。
愛する我が子たちは母親に なんにも言ってはくれなかった。

その日のランチは完全に忘れ去られ夕食も博士曰くの【ジョ−のインスタント料理】で
済まされてしまった。
それすら、どんな味だったのか・・・フランソワ−ズの記憶には全く無かった。

・・・ソレがそもそもの<始まり>だった。


お正月は ・・・ カタチばかりのお祝いで勘弁してもらった。
自分の誕生日には毎年全員集合して飲んで騒ぐのが恒例だったが、今年は延期になった。
丹精していた庭の梅がいつ咲いたか全然覚えていない。
忘れたまま公園の桜は葉桜になり去年の秋口に庭に植えたチュ−リップは
楽しみにしていた花の色さえ、確認する間もなかった。
・・・ 気がつけば 五月。
緑は日一日と濃い影を落とすようになり、爽やかな風が稚い枝を揺すっている。
庭の梅の実も だいぶ大きくなっていた。
温暖な気候のこの地、 一番気持ちのよい季節が始まってる。


そんな中で双子の母はベビ−ベッド以外には目もくれず
<姉弟連合軍>と奮闘を続けていた。

・・・ねえ、どのオムツならいいの? おシリが痒くなったら教えて。 ね?すばる〜〜
男の子用だけ 別成分が入っているのかしら??? すぴかは何ともないのに・・・
どうして? どうしてこのミルクはイヤなの、すぴか?
すばるは ほら・・・ こんなに美味しそうに飲んでるのよ。 美味しいはずよ?
ねえ ・・・ どんな味が好きなの、どのミルクがいいの??

すぴか・・・パン粥はキライ? ほら・・・薄めた蜂蜜をいれたわ、それでもイヤ?
お野菜のス−プはみ〜んなお母さんが裏ごししてつくったのよ。
すばる、飲んでみない? ・・・ぁ・・・ べ〜って出さないでってば・・・ もう。

お願い、なんとか言って。 お ・ ね ・ が ・ い ・・・・

母の必死の願いに 姉は碧い瞳で弟はセピアの目でじっと見上げるだけだった。
時折みせてくれる笑顔は まさに天使そのものだったけど・・・
それ以外、母はこのB.G.よりもN.B.G.よりも天使達よりも手強い相手に孤軍奮戦していた。

・・・ もしかして、この時期にミッションがあったなら。
抜群の索敵機能を備えたサイボ−グ003は あっさりと言っただろう。
  「 あ、ごめんなさい。 わたし、パス。 」



「 ・・・ウ〜ン。 止メテオクヨ。 」
ク-ファンの中にのんびりと寝そべっている先輩・赤ん坊はあっさりと言ってのけた。
「 どうして ・・・・? お願い、イワン〜〜〜 」
涙声のフランソワ−ズに イワンはついにウン、とは言ってくれなかった。

なにも答えてくれない子供達に 疲れ果て、母親はついに超能力ベビ−に
助けをもとめたのだ。
「 ねえ・・・ お願い。 すばるとすぴかに訊いてくれないかしら。
 どのミルクが一番すきなのって・・・ 」
「 ・・・ ふらんそわ-ず。 」
もぞもぞっとイワンは不器用に寝返りを打ち、彼女をまっすぐに見つめた。
「 止メテオク。 コレハ ・・・ 母子ノ問題ダロ。 自分達デ解決シタマエヨ。 」
「 ・・・ そんな・・・ イワン 〜〜〜 」
「 あ・・ふぁあ〜〜 眠クナッチャッタ・・・ オ休ミ・・・ 」
「 ・・・あ ・・・ああ・・・ 」
いとも簡単に、ことんと彼は、<夜の時間>に入ってしまった。
「 ・・・ イワン ・・・・ 」
<最終手段>に見事に振られ、フランソワ−ズは呆然と穏やかな寝顔を見つめていた。
・・・ 援軍は、あっさりと去ってしまったのだ。



はああぁ・・・・
溜息が、溜息だけが子供部屋に満ちてゆく。
今日もまた、さんざん手古摺らせた後、やっと双子は<天使の顔>になり・・・
つまりはやっとこさネンネしてくれたのである。

額にかかる髪をかき上げ、フランソワ−ズは肩から前に落ちる自分の髪に眼をやった。
・・・ ずいぶんと髪が伸びている。
美容院 ・・・ なんて最後に行ったのはいつだろう。

だって。 そんな時間、なかったし。 これからも当分無理だろうし。
しょうがない、一つに括っておけばそんなに邪魔にもならないわね・・・

フランソワ−ズはよっこらしょ・・とベビーベッドの脇から立ち上がった。

え-と。 髪用のゴムとかバレッタは どこにしまったっけ。
・・・・あら? 今日は 曇りだったかしら・・・・
ううん、今朝お洗濯モノを干した時は お日様が見えてたわよねえ?

窓ガラスから覗く空は ぼんやりとしていた。

曇ったガラスに 輪郭のぼやけた自分が映る。
ぐしゃぐしゃの髪に色褪せたピンクのスウェットの上下。 これだけは洗いたてのエプロン。
冴えない顔色の冴えない姿が ゆらゆら揺れている。

・・・ やだ。

思わず、素手で窓ガラスを擦ってしまった。
・・・ わ! なに?
拡げた手は まっくろに汚れ、窓ガラスには妙な縞模様が出来ていた。
拭われた隙間から 明るい光が差し込んでくる。
・・・ ひど・・・・。 こんなに汚れてたんだわ。

フランソワ−ズはまたまた 大きな溜息をついた。

去年の暮れは大掃除どころじゃなかったし。
そうね・・・ ちゃんとしたお掃除って・・・もしかして全然やってないわね。
ああ、明日にもジョ−に頼んでともかく子供部屋だけでも掃除してもわなくちゃ。

ベッドの天使達の寝息を確かめ、そっとバスル−ムに立った。
手を洗って顔を上げたとき、ふと・・・・ 洗面台の鏡に眼が行った。

 誰よ ・・・ これ。

縺れた髪が額にかかり、腫れぼったい眼を半分隠している。
眉毛は左右アンバラスだし、唇はがさがさして色が悪い。
そうっと、でも慎重に頬に手を当ててみたが荒れた肌の感触にびっくりしてしまった。

ひどい・・・顔。 

ふうぅ〜〜っと思わず眼を反らせれば 今度はがさがさの手が眼に入る。

「 きみの手って・・・とっても綺麗だね。 この白い手が好きさ・・・ 」
そんなことを呟いて、ジョ−はよく彼女の手を両手で包み込み
自分の頬に当てたりしていた。
「 ま・・・ ジョ−ったら・・・」
「 なんだか ・・・ お菓子みたい。 しゅ・・・って溶けちゃうかも・・・ 」
「 ・・・ あ ・・・ あら ・・・ 」
口に含まれた指は妙に敏感になり、彼の舌の愛撫にぞくり、と背筋が震えたこともあった。

こんな手・・・とてもじゃないけど、ジョ−には見せられないわ。

短く爪を切っているので指先も荒れ放題、なんだか指自体太くなったみたいな気もする。

・・・ だって。 しょうがないじゃない。 
そんな ・・・ 手の手入れやネイル・ケアなんてしてる暇、ないんだもの。
それに、お手入れしてもどうせすぐにまたがさがさよ・・・

さ。 こんなコトしてる暇に、そうそう、ジョ−のス−ツをクリ−ニングに出さなくちゃ。
衣替えはなんとか徹夜して終わったけど・・・
さあて。 

ぱん、と頬をひとつ叩いてフランソワ−ズは鏡の前を離れた。

夫婦の寝室にもどり、クロ−ゼットを開ける。
ついこの間クリ−ニングから帰ってきた冬物が まだそのまま・・・ぶら下げてあったり
積み上げてあったり。
家で洗った普段着も、すみっこにつくねてあった。

あ〜 ・・・ ちゃんと防虫剤いれて仕舞わなくちゃ・・・
えっと・・・ ジョ−のス−ツ ・・・ 余所行き用のアレは・・・・っと。
・・・ああ、あったあった。 
自分からクリ−ニングに出しておいてくれ、なんて珍しいコト言ってたけど、
なにか汚したのかしら。  パ−ティとかで ・・・ お酒のシミでもつけたのかな。


 ・・・ かちん。


ジョ−のス−ツのポケットからなにかが落ちた。
あら・・・と屈んで拾えば - 白い艶々した厚紙の洒落た小箱だった。
中からは ・・・ 超有名ブランドのマニュキアが艶然と華麗な姿を現した・・・!

 − ・・・なに、これ???

するり、と指から零れそうになる小箱を、フランソワ−ズは慌てて捕まえた。
綺麗な桜色のマニュキアである。 容器も凝っていて新製品らしい。
値札はないし、どう見てもプレゼント用である。

これって。 ・・・ジョ−の? ジョ−が ・・・ 買ったの??

一瞬、自分にか、と思ったがすぐにそのセンは却下した。
だって・・・・
ジョ−はプレゼントがある時って 絶対手に持って帰ってくるもの。
それでも一応後ろに隠してみたりするのよね。

「 ただいま〜 ・・・あの、さ。 あの〜〜 コレ。 」
ヴァレンタインの花束も 結婚記念日のケ−キも お誕生日のプレゼントも。
ジョ−は玄関口でおずおずと照れ臭そうに手渡してくれた。
「 まあ、嬉しいわ! ありがとう、ジョ− 」
飛びついてキスを返すフランソワ−ズを慌てて抱きとめ・・・
そして彼は満面の笑みをこぼすのである。

だ ・ か ・ ら。
コレは。 この瀟洒な小箱は他の人間宛、と思って間違いがない。
先日のパ−ティで お目当ての人物に渡しそびれたか・・・ はたまた
これから贈る準備なのか・・・ ?

「 ・・・ いけない ・・・ 」
危うく握り締めてしまいそうになり、フランソワ−ズは慌てて小箱をチェストの上に置いた。

ごたごたしたクロ-ゼットには全く不似合いな化粧箱。
・・・<日常>からはかけ離れたその小箱は こちらを悠然と見下ろしている。
フランソワ−ズにはそのマニュキアを塗った白い・華奢な指先が目に浮かんだ。

薄ピンクがよく映えるその繊細な指は綺麗に手入れが行き届いていて・・・
するり、と男性の握手から零れて彼の肩に 首筋に 頬に 触れてゆく。
セピアの髪に す・・・っとその指が吸い込まれて行った時、
フランソワ−ズは思わず、声を上げてしまった。

「 ・・・ やめてよ! 触らないでっ・・・ 」

・・・ あ ・・・
幻影はたちまち消え ・・・ 彼女は埃っぽいクロ-ゼットに屈みこんでいた。
しっかりと ジョ−の余所行き用のス−ツを抱えたまま・・・。

 - やだわ ・・・。  ヘンな妄想して。 本当にわたしったら・・・
   今のジョ−に限って そんな ・・・

・・・ そんな ・・・・?

そういえば。
昨日もその前も。 先週だって半分以上。 彼の帰りはほとんど午前様だった。
もっとも、彼女は子供達に添い寝をしていて、全然気がつかなかったのであるが・・・

遅くなるよって ・・・ ジョ−は言った??
記憶の糸をたぐってみたが、どうも思い当たらない。
以前は、結婚してからは、遅くなる時ジョ−は必ず連絡を入れてきていた。
そして
フランソワ−ズも子供たちが生まれるまでは、どんなに遅くなっても起きて彼を迎えた。
熱いお茶と ジョ−の大好きなカスタ−ド・パイを用意して彼の帰りを待った。

なのに。 今は ・・・

誰よりも大切なはずの人のその日の帰りすら自分は知らない。
ジョ−の出版社での仕事は なかなか忙しく、以前から帰りは遅かったけれど
少なくとも日付が変わる前には帰宅していた。

わたし。 
ジョ−の帰りを待つどころか ・・・ 晩御飯、ちゃんと作ってる?
いつも ・・・ なんだかチン!ですませてない?
夜のお茶タイムなんて ・・・ もうずっとパスのままだわ。

・・・ だって ・・・ しょうがない、じゃない ・・・

溜息と一緒に涙が一つ・・・ ぽろん、と抱えていたジョ−のス−ツに零れ落ちた。
いっけない ・・・ !
さっと払い除けた手は。 一瞬、彼女はその手が他人の手かと思ってしまった。

・・・ こんな手に とてもあんな綺麗なマニキュアは似合わないわね・・・

 - ・・・ 白い手が好きなんだ 

不意にジョ−の言葉が蘇る。
あの日 綺麗に磨き上げた爪を眩しそうに見、白いしっとりとした自分の手を
ジョ−は口に含み熱く愛撫してくれたっけ・・・・

突然あの時の感覚がもどって来て、彼女はひとり頬を染めた。
そういえば ・・・ この前の夜は ・・・ 途中で眠ってしまった・・・

・・・ わたし。

こんな荒れた手の妻はイヤだろうか。 化粧っ気もなく口紅すら引いてない女に興味はないかも。
ばさばさの髪でコロンもつけず、ミルク臭い女は興ざめかしら。
ジョ−の話も聞いてあげずに ・・・ 夜の相手も満足に出来ないと 奥さん失格なの?

ジョ−。 この ・・・ マニキュアの女性 ( ひと )が ・・・ いいの ・・・・?

涙がぼろぼろと零れてきて、止めることができない。
滲んだ視界の中で チェストの上からあの白い箱が、あの華麗なマニキュアが
優越感に満ちて自分を見下ろしている ・・・ ような気がする。

フランソワ−ズの頭の中には すっかり<桜色のマニキュアが似合うひと>が出来上がり、
彼女がしっかりとジョ−の側に寄り添っている風景まで見えてきてしまった!


そうよ・・・! そうなんだわ・・・きっと。
だから ・・・ 毎日遅くって。 だから ・・・ウチなんかつまらなくって。
・・・ そうよ。  あの時だって一人で楽しそうにしてたじゃない。
<あの時>・・・ わたし真剣に悩んだのよ。
まだ・・・ 子供達も生まれてなくて、わたしだって<綺麗な奥さん>だったのに。
あの頃でさえ・・・

あんまり思い出したくない記憶が かえって鮮明に蘇ってしまった。
もう忘れたつもりだったのに。 消せなくても心のクロ-ゼットの一番奥に仕舞いこんでおいたのに。
どうしてこんな時に限って ・・・ 顔を出すの。

 - 泣いてたってしょうがないわ。 とにかく・・・ このツ−ス ・・・

チェストの角に掴まって よろよろする脚をしっかり踏みしめ、彼女は立ち上がった。
ジョ−は帰ってこなくても。 ジョ−の気持ちは ・・・ 自分を離れてしまっても。

・・・ わたしには 子供たちがいるもの。

のんびり泣いているヒマは ・・・ 双子の母にありはしなかった。


「 え〜と ・・・ クリ-ニング屋さん・・・ 取りに来てくれるわよね。
 今日頼んだら 仕上がりはいつかしら。 」
フランソワ−ズは電話を取り上げる前に ふと壁のカレンダ−を眺めた。

 - 今日は ・・・ 16日。 ・・・・え ・・・ えええ???

   ジョ−のお誕生日じゃない !!


ジョ−の好きな炊き込みご飯に ミ−トロ−フ。
そうそう・・・蛤の・・・えっとなんて名前だっけ・・・? お清汁( すまし )よ、ナントカ汁・・・
・・・ ケ−キ! もうず〜っと毎年定番だけど
どうしてもアレがいいって言うんですもの・・・ 苺いっぱい・クリ−ムたっぷりのショ-ト・ケ-キ。

・・・ああ、ああ。 今からじゃあ・・・なんにも間に合わないわ・・・・
だいたい、苺もケ−キの材料も ないし。

プレゼント・・・・ ってどうすればいいの。 
一緒に買いに行ったこともあったわね。 そうそう、帰りにホテルのスゥイ−トで一泊したっけ・・・


今までの思い出が一挙にフランソワ−ズの心に押し寄せた。
・・・でも。
そのどれもが ・・・ 今の彼女にはまったく別世界の出来事に思えるのだった。

幸せだったわ・・・。 なにもかも。
そうよ・・・ ジョ−が浮気したって本気で悩んだ時だって。
結局は幸せすぎて妄想したのよね、わたしったら。

今思えば、ひとりでぐちゃぐちゃ悩んでいたあの頃の自分が可愛らしくさえ思える。

・・・そう、あの時。
まだ、<新婚さん> のム−ドがう〜〜んと漂っていたころのこと・・・・




 Last updated: 05,16,2006.      うたかたの記   /  next  /  Eve Green へ
                            



***** ちょっと一言
え〜〜今回はめぼうき様に<オンブに抱っこ>です。
なにせ・・・未経験分野>>育児〜〜〜(^_^;)〜〜〜
母子手帳まで出してきていろいろレクチュアくださった
めぼうき様に感謝・感謝〜〜でございます。 
ばちるど拝