『 七月七日に 』 

 

 

 

 

 

「 それじゃ ・・・ 行ってくるよ。 」

「 気をつけてね、行ってらっしゃい。 」

うん ・・・ と無言で頷き、ジョ−はすたすたと歩きだした。

すこしだけ右肩をさげ、それでも身体全体を揺らすこともなく。  

見慣れた後ろ姿が どんどん遠くなってゆく。

夕焼けの中にジョ−の白いポロシャツ姿はすぐに紛れてしまい 視界から消えた。

 

ふうう ・・・・

門口にでて フランソワ−ズはちょっと大きめに溜息をついた。

 

   ・・・ 一回くらい振り返ってもいいじゃない・・・!

 

あっと言いう間に見えなくなった相手にフランソワ−ズは少しばかり本気で怒っていた。

 

 

まだ夏もその幕を上げたばかり、昼間の熱気もあっさりと夜の涼風に席をゆずった。

足元には露草が明日の花を準備し始めている。

草むらに熱気が篭るには まだ少し間がありそうだ。

カツン ・・・

爪先の小石が 目の前の坂道をちょっとだけ転げた。

 

   つまんないの ・・・ 

 

茜色の光を頬に映して、フランソワ−ズはのろのろと玄関口に引き返していった。

 

 

 

「 ちょっと ・・・ 出かけてくるね。 」

「 ・・・ 行ってくる、 向こうから連絡するよ。 」

「 ・・・ イッテキマス。 

 

ぽつり、と一言だけ行って、小さなショルダ−・バッグを肩にジョ−はふらり、と出かける。

どこへ行くのか、 いつ帰るのか。 ・・・・ 誰と一緒なのか。

誰がどう聞いても いつも応えは同じだった。

 

   「 わかんないよ。 ぼくにだって・・・ 」

 

ちょっと拗ねたみたいな口調は 多分照れ隠しなのだ。

それに ジョ−自身、本当になんのアテもない 一人旅 なのだ・・・と

最近になって フランソワ−ズにもようやく判ってきた。

初めは 自分には隠しておきたいのか、と勘ぐったりもしたものだ。

しかし 一つ屋根の下で暮らし やがては起き伏しを共にするようになった今、

フランソワ−ズも だまってうなずくことにしている。

 

   ・・・ ええ、わかったわ。  言ってらっしゃい・・・

 

コドモではないのだし、ましてや ・・・。

心配はまったく無用で、気に病むだけこちらがソンをする。

音信不通 が2〜3日続いて そして なんの前触れもなくふらり、と帰ってくるのだ。

「 ・・・ ただいま。 」

夕食時であれ 早朝であれ、こちらの都合なんかおかまいなしにおまけに

近所に散歩にでたみたいな顔をして。

 

   まったく ・・・ ! 本当に一言くらい教えてくれたらいいのに。

 

常人とはことなる通信手段を持っているにもかかわらず、日常彼はソレを使わない。

気持ちはよくわかるのだけれど、 ただ待つ身にはほんの一言がほしいのだ。

しかし 何回たのんでも彼女のリクエストは曖昧な微笑で受け流されてしまっている。

だから。 

たいていは黙って頷いて 彼を送り出していた。

そして それはいつの間にか二人の習慣になってしまった。

 

でも。

 

「 貴生川の郷に行って来るね。 」

昨日、ジョ−ははっきりと目的地を口にしたのだ。

「 きぶがわ・・・・? 」

「 うん。 山間の小さな郷 ( さと ) なんだけど。 」

「 そう・・・ ああ、お仕事? 

ジョ−は最近雑誌社の嘱託となり 小さな記事を書いたり編集の補助をしている。

「 あ・・・ううん。 まったくプライベ−トさ。 いつもとおんなじ。 」

「 ・・・ いつもと ・・・ 」

「 うん。 」

「 そう ・・・ 気をつけてね。 」

に・・・っと笑っただけでそれ以上彼はなにも言わなかった。

 

   きぶがわ・・・・ そこはあなたにとって特別な場所なの?

 

無駄とはわかっていても 口許までそんな言葉がのぼってくる。 

それに ・・・

 

   明日は七夕よ?  お星さまだってデ−トするっていうのに・・・

   今年こそ ・・・ 一緒に過したかったのに。 星をみようね、って言ったの、だあれ。

 

でも、目的地の名前だけでも教えてくれたのだ。

あとは ・・・ 黙って見送り帰りを待つだけだ。

 

ふうう ・・・・

 

もうひとつ。 特大の溜息が茜色にそまった大気に散っていった。

海ッ端にあるギルモア邸、頭上には 全天にまあるい空が拡がっている。

一応首都圏のはじっこに含まれてはいるが ほとんど海の中に飛び出ている辺境の地だ。

昼にはカモメが飛び 夕方には空全体が夕焼けに燃え 夜は銀河が流れる。

光の大河は ギルモア邸の上を奔流となり悠々とうねりひろがるのだった。

今夜も きれいな星空が望めそうだ。

 

 

 

「 よう、マドモアゼル。 季節違いのサンタクロ−スがやってきましたぞ。 」

「 ニイハオ、フランソワ−ズはん。 博士も坊もお元気でっか。 」

「 あら、 グレ−ト! 張大人も! いらっしゃい。 」

「 ハイハイ〜〜 美味しいモノ、仰山持ってきましたで。 」

そろそろ夕食の準備にかからなくては、と重い腰を上げたころ

夕方も遅くなってから張大人とグレ−トがやって来た。

星見の宴だ、とスペシャル・ディナ−の出張サ−ビスをしてくれたのだ。

その夜は 七夕スペシャル の星見の宴となった。

 

「 ここの空は綺麗アルな。 街中とはやっぱり違いまんな。 」

「 あら、そう? お店とはそんなに離れていないじゃない? 」

「 うんにゃ。 」

薫り高いジャスミン・ティー を一口含み 本日の料理人は満足の溜息を洩らす。

「 近うてもな、あっこはぎょうさん車や電車が通ってますやろ。 空は夜でも明るうてなあ

 お星さんはよう見えへんのや。 」

「 そうなの・・・ 」

「 ほいでも、ココできれ〜なお星さん、見さしてもらいましたよってワテは満足や。 」

「 わたし達のお腹も 満足 です♪ 美味しかったわ〜〜 <七夕スペシャル> 」

「 ほっほ♪ 嬉しねえ。 ワテには皆はんに喜んでもらえるのんが一番や。 」

「 博士も美味しい美味しいって、ね? イワンもお豆腐、食べられたし。 

「 そやなあ。 坊もだんだん ちょっとずつ大きゅうなってますねんな。 」

「 美食に満天の星空〜 そして目の前には美人の微笑み・・・

 これ以上の贅沢を望んだら 天罰がくだるであろうな。 」

「 ほんになあ。 ・・・ グレ−トはん、ええ加減でおきなはれ。 あんさん、飲みすぎやで。 」

大人は グレ−トがチビチビやっているグラスの手を押さえた。

「 なんの・・・ 今夜は星祭、お星さんへ乾杯〜〜 」

「 ふふふ ・・・ 本当に見事な星空よねえ・・・・ 」

「 ふん。 フランソワ−ズはん、どないしてん。 ちょ〜っと元気があらへんなあ。 」

「 そう・・・かしら・・・ お腹いっぱいでぼんやりしているだけよ。 」

「 さよう、美食は快い睡眠を誘いますな。 我輩も腹の皮がつっぱるとすぐに目の皮が弛む・・・ 」

「 グレ−トはん! そこで眠らんといてな! 店、帰って明日の仕込み、残ってまっせ。 」

「 ・・・ へいへい。 ではその前に もう一杯・・・ 」

「 は・・・! もうよういわんわ。  時にジョ−はんは? お仕事でっか。 」

「 ううん ・・・ 例の <ちょっと行って来る> なの。 」

大人の<七夕スペシャル>を堪能したあと、皆でリビングでお茶を楽しんでいた。

博士はすぐにうとうとし始め 早々に寝室に引き取ってしまった。

大人たちが御馳走を持ってきてくれて 本当によかった・・・ フランソワ−ズはこっそり涙を拭った。

 

「 ・・・ ほう? ボーイはまた例の放浪癖が出たのかい。 」

「 放浪癖 ? 」

「 ああ。 癖っていうか・・・ ヤツの場合は時々起こる発作みたいなものだな。

 一箇所にじ〜〜っと縛られているのは苦手なんだろうよ。 」

「 縛られるって・・・ だってココはジョ−の家なのに・・・ 」

「 そりゃそうさ。 でもなあ・・・ コレは男の性 ( さが ) というか・・・

 どんなに居心地のよい安住の地を見つけても あるときにふい・・・っと出てゆきたくなる。 」

「 ・・・ ココが ・・・ 皆と暮らすのがイヤっていうこと? 」

「 う〜ん ・・・ それとは違うんだな。 アイツはマドモアゼルもよ〜くご存知と思うが

 ずっと<ホ−ム> を求めて生きてきた。 恋焦がれた 我が家 なのさ。  だけどな。 」

「 グレ−トはん。 これはおなごはんにはちょ〜っと判りづらいやろなあ。

 オトコにはなあ、ど〜しょうもない野良犬根性がある、いうことでっせ。 」

「 野良犬 ?!」

「 あはは・・・ 左様左様。 ま、心配御無用ということさ。 

 腹が減れば 居心地のよいウチが恋しくなってちゃんと帰ってくるよ、マドモアゼルの許にね。 」

「 そうやそうや。 そんなヤツはほかしといて、フランソワ−ズはんはの〜んびりしてはったらええ。 」

「 うんうん、美貌に磨きをかけて 星でも眺めて、なあ。 」

「 彦星はんが懸想しやはりまっせェ 」

「 ・・・ やだわ ・・・ もう。 二人とも・・・ 」

にぎやかな二人の応酬に 頬を染めつつ、フランソワ−ズは心の中で感謝していた。

 

   ・・・ ありがとう、グレ−ト。 張大人 ・・・

   淋しい七夕になるところだったのよ ・・・ 嬉しいわ・・・

 

「 あいや〜 グレ−トはん。 あんさん、そないに酔うてたらしょうもあらへんやんか。

 もう今晩はここに泊まりなはれ。 」

「 ・・・ そうさせてもらえるかな。 マドモアゼル、よろしいだろうか。 

「 あら、勿論よ。 ここは皆のホ−ムですもの。 ちゃんとお部屋があるじゃない。 

「 すんまへんな。 ほなら・・・ グレ−トはん、あんまり面倒かけたらあかんアルよ! 」

「 了解、了解〜 っと。 それでは ・・・ ナイト・キャップかわりにもう一杯・・・ 

「 あらら・・・ 氷、もっといるかしら。 

「 フランソワ−ズはん、放っておいてヨロシ。 ほんならワテはこれで失礼しまっさ。 

「 あら、もう? 大人も泊まっていらっしゃいよ。 」

「 あかんのんや。 ワテは明日の仕込みがあるさかい・・・ 

 ま、あんな飲んだくれでもナ、ココの ぼでーがーど にはなりまっさかい・・・

 今晩は安生 お休み。 

ジョ−の留守を知って 年長者二人はそれとなく気遣いをしてくれたのだ。

 

 

「 ほんなら ・・・ またな。 」

「 大人 ・・・ ありがとう・・・ 御馳走様でした。 」

短矩を運転席に収めると 大人は器用なハンドル捌きで研究所の前の坂を下っていった。

「 ・・・・・・ 」

大きく手を振り見送ったあと、不意に光の束が目に入った。

「 ・・・ まあ ・・・・ きれい ・・・ 」

満天の星は今宵 冷たい奔流となりギルモア邸の空たかくゆうゆうとたゆたっていた。

あまりの煌きの多さにもはや 牽牛も織女も飲み込まれてしまったようだ。

 

「 ・・・ ジョ−  あなたは どこでこの星を眺めているの・・・ 」

 

つ・・・っと涙の河が 星明りをひろいつつ白い頬を流れ落ちていった。

 

 

「 グレ−ト? お部屋に足りないものがあったら・・・ あら? 」

リビングは綺麗に片付いていたが ソファにはグレ−トが転がってすでに高鼾だった。

テ−ブルの上には まだウィスキ−のグラスとアイス・ペ−ルが乗っている。

「 ・・・ 沈没しちゃったのね。 いいわ、もう風邪をひく季節でもないし。 

 でも 一応毛布を持ってくるわね。 」

「 ・・・・ う ・・・?  う・・・む ・・・・ 」

ゴロンと寝返りを打ち グレ−トは本式に寝入ってしまったようだ。

 

   ・・・ ごめんなさいね、こんなトコロで。

   でも  泊まっていってくれて 嬉しいわ・・・

 

彼のベッドから毛布を持ち出し そっとかけると もう他にやることはなかった。

 

「 ・・・ お休みなさい ・・・ 」

 

カチン、と電気を消してフランソワ−ズはのろのろと寝室に引き上げていった。

 

 

 

「 ・・・・ 眠れない ・・・ 

ぽつんと呟くと フランソワ−ズはとうとうベッドから起き上がった。

日付が変わる時刻までベッドの中で悶々としていたが 目はますます冴えるばかり・・・

眠りの精は一向に訪れてはくれない。

ふう ・・・

何十回かもうわからない溜息が 部屋中に満ちている。

「 ・・・ いい空気でも吸えば すこしは眠くなるかしら。 」

 

パタ ・・・パタ パタ ・・・

 

素足のままでテラスへの窓に寄り、明け放つ。

テラスの床は まだ暑熱に焼かれることもなくすこしひんやりとしていた。

気分を変えるつもりで フランソワ−ズは大きく伸びをした ・・・ そして ・・・

 

「 ・・・ わあ ・・・ すごい ・・・ !! 」

 

いきなり目に入ってきたのは 光の洪水、だった。

最早、銀河は全天に大きく蛇行して拡がり光の海となってうねっている。

し・・・んと静まりかえった空から 冷たい炎の燃え上がる音が聞こえそうだ。

「 こんな空、 初めて見るわ・・・ 

ネグリジェ一枚で フランソワ−ズはペタリ、とテラスに座りこんでしまった。

呼吸 ( いき ) をすると 光のしずくが身体の奥まで入り込んでくるかもしれない。

「 わたし ・・・ ああ 吸い込まれそう ・・・ 

不意に 星空に黒い帳が降りて ― フランソワ−ズはなにもわからなくなった。

 

 

 

 

「 ・・・・? ここ ・・・?  」

薄く開いた目に 星々の冷たい光が入ってきた。

 

   ・・・ あら イヤだわ。 わたし・・・ テラスで寝てしまったのかしら・・・

 

フランソワ−ズはそろそろと身を起こした。

自然に襟元に伸びた手が 異質なモノに触れた。

「 ・・・ え? わたし、ネグリジェのままだったはず・・・ あら?! 」

違う手触りに目をこらせば なんとも不思議なモノを身に着けていた。

「 これ・・・ なに。  防護服ともちがうわ ・・・・ でも なぜかぴったり・・・? 」

初めて目にする衣服が 身体にはとても馴染んでいる。

ゆっくり手脚を伸ばしてみたが、拘束されているわけでもなくどこも痛みもしない。

少し ほっとして周囲を見回した。

「 ・・・ え?! ・・・ ここ ・・・ どこなの・・・ 

アタマの上には つい先程と変わりなく満天の星が広がっている。

 ― いや。 同じではない。

「 ちがうわ・・・! この空・・・ 星座が全然ちがう ・・・! 

 さそり座は どこ?? ・・・もしかして南半球なのかしら。  ・・・ ううん ・・・ ちがう・・・・ 」

星々はここでも冷たい炎をあげ燃え上がっているが、いずれも見知らぬ顔ぶれだった。

かさり ・・・

衣擦れの音を残し、フランソワ−ズはゆっくりと歩き始めた。

「 あら。 この服 ・・・ とても綺麗ね。 それにゆったりとしていて・・・ 気持ちがいいわ。 」

彼女の歩みにつれて ゆらゆらと長い裳裾が揺れる。

肩には薄い布を引いているらしく ふわり、と腕にその端が纏わり付いてきた。

「 なんだかとってもロマンチックね。 ・・・・ どこかで見た・・・・? ええと・・・? 」

 

「 姫さま。 ・・・ 星姫さま。 」

不意に後ろから 呼びかけられた。

「 ・・・・ ? 」

ぎくり、としたがどうも ・・・ その声は聞き覚えがある。

 

   ・・・ ほしひめ・・・? でもこの声・・・

 

フランソワ−ズはぐっと脚を踏みしめ できるだけさり気無い風に振り返った。

「 ・・・ はい? 

「 星姫さま。 もう ・・・ お戻りになったほうがおよろしいのではありませんか 」

「 ・・・ あ ・・・!  ( 張大人 ??? ) 

目の前に腰を屈めているのは ・・・ やはりゆったりとした不思議な衣服に身を包んだ

張大人 ・・・ いや、彼そっくりの婦人だった。

「 あ ・・・ あの ・・・ 」

「 黙ってお屋敷を抜け出されて・・・ お父上にみつかったら大変でございますよ。

 それに もう ・・・ 今宵は あの方はみえませんでしょう。  」

「 ・・・ あの ・・・ 方 ・・・? 

「 はい。 いくら竪琴の名手とはいえ、あのお方の隣国の皇子、そうそうお出歩きにはなれますまい。 」

「 ・・・ そ、そう・・・? 」

「 お輿入れ前の姫様に万が一のことがあったら ・・・ もうばあやは死んでお詫びしなければ・・・

 ああ・・・ こんなにお肩が冷えて・・・ さあ、しっかり領巾 ( ひれ ) をお掛けになってください。 」

「 あ、 ありがとう ・・・ 張たい・・・いえ その ・・・ ば、ばあや。 」

見慣れたまるまっちい手が 薄い布でフランソワ−ズの肩を包んだ。

こっそり盗み見たその顔は どう見ても今晩 美味しい晩御飯を調えてくれた、あの懐かしい顔なのだが。

ドジョウ髭がないだけで ちゃんと女性に見えるのがすこし可笑しい。

「 さ。 お戻りを、姫さま。 」

くい、と手を引かれた。

「 え・・・ ええ。 」

しゃりん ― 耳元で涼しい音がするのは耳飾りか髪飾りか。

どうもフランソワ−ズは この地の貴人の娘 ― ほしひめ、と <ばあや> は呼んでいた ― らしい。

踏み出した足には柔らかい布沓が おおくの輝石をきらめかせてる。

 

   なんだかよくわからないけど。 ・・・付いていっても大丈夫そう・・・

 

「 ・・・わかったわ。 」

その婦人の手をとられ 一歩踏み出したとき。

 

「 ・・・ 姫! 遅くなって・・・! 」

 

背後から これまたよ〜〜〜く聞き覚えのある声が響いてきた。

「 !? ジョ− ・・・! 」

「 え? なんだい、それ。 」

「 ・・・あ !   いえ、な、なんでもないの。 」

フランソワ−ズはあわてて口を押さえた。

目の前に ジョ−が、いや・・・ ジョ−にそっくりな、どうみてもジョ−そのヒトとしか思えない青年が

息を弾ませて立っている。

セピアの瞳も、星明かりでもわかるライト・ブラウンの髪も、そしてちょっとはにかんだ微笑も

それはフランソワ−ズが見慣れた懐かしい 島村ジョ− そのひと、なのだ。

 

   ジョ−も ・・・ 変わった服を着ているわね。

   日本のキモノやユカタともちょっと違うわ・・・ それに肩に掛けてるのは楽器かしら・・・

 

「 星姫。 よかった・・・ もう帰ってしまわれたかと心配で心配で! 」

ああ、本当に・・・! とつぶやくと ジョ−はすい、と彼女を抱き寄せた。

彼の肩の辺りからポロロン ・・・ と小さな音が響いた。

「 ・・・ あ ・・・ ? 」

「 ああ、失礼。 竪琴がぶつかりましたか? 大丈夫? 

「 はい、全然。 それより その・・・竪琴の方が心配ですわ、壊れたりしたら 」

「 ご心配、ありがとう、姫。 大丈夫、これは固い樹でできていますから。 」

「 あの ・・・ わたしはあなたの・・・? 」

「 え ・・・・?  」

フランソワ−ズは思わず ジョ−( と思われる人物 )の腕に縋りつきじっと顔を見つめた。

 

「 いや〜〜 皇子! 相変わらず脚がお早い! 拙者はもう追いつけませんぞ・・・ 」

「 あ・・・ ごめん、じい。 」

「 いやいや 年は取りたくないものでございますな。  

 おお! 姫君〜〜 これは失礼仕りました。  」

従者と思われる男が息せき切って現れ、 フランソワ-ズを認めると深くお辞儀をした。

ぺこり、と下げたアタマはみごとなたまご型で 一本の毛もない。

 

   ・・・ やだ! グレートじゃない?!

 

「 あ・・・ い、いえ あの ・・・ はあ。 」

「 姫様! 皇子さまのお顔も拝見できましたし。 ほんにもう宮へお戻りを・・・ 」

張大人のばあやが さかんにフランソワ−ズの裳を引く。

「 え・・・ええ・・・でも・・・ 」

「 おや〜 これは乳母 ( めのと ) どの。 お久しゅうござりまするな。 ご機嫌麗しゅう。 」

グレ−トそのものの従者は またも大仰なお辞儀を繰り返す。

「 ・・・ ご機嫌よう。 」

ばあやはつん・・・と挨拶だけを返した。

「 ささ、乳母どの。  姫君と皇子のお邪魔をしてはなりませぬな。

 我らはほれ・・・ あの亭で控えておりましょうぞ。 」

「 ・・・ でも、もう遅いし。 姫様は宮にお帰りにならなければ・・・ 」

「 なんの。 今宵は年に一度の星合いの夜、咎めだてするものもおりますまい。 ささ・・・乳母どの 」

「 あ・・・ そないに引っ張ったらあかん、いうに・・・ 」

お国言葉もそのままに ばあやと従者は川岸にある東屋へ行ってしまった。

 

「 あ・・・ ばあや ・・・ 

「 姫。 どうぞこちらを向いてください。 貴女に逢うことだけを心の支えに この一年、生きてきました。 」

「 ジョ−・・・あ、 い、いえ・・・ 皇子さま。 」

フランソワ−ズがもじもじと顔を上げると、 ジョ−は。 いや、茶髪の皇子は真剣な顔で彼女を見つめている。

「 姫と私は天帝もお許しになった仲でしたけれど・・・

 二人で愛を語るのに夢中で 務めを疎かにしてしまった。 あの河で二人の仲を隔たれてしまいました。 」

ジョ−の手がそっと彼女の亜麻色の髪にふれる。

高く結い上げた髪の根には 宝玉を填め込んだ釵子( さいし )が差してある。

「 美しい宝玉ですね。 でも・・・ どれも姫の瞳の輝きの前には色褪せてみえます。 」

「 ・・・ まあ ・・・ 」

ジョ−の口から面と向かってこんな言葉が聞けるなんて ・・・

フランソワ−ズは口元にのぼってくる笑みを隠すのに 苦心していた。

「 あの河は ・・・ 星が激流となり流れていて、この時季にしか渡ることができない・・・

 私はいつもいつも こちら岸に想いを馳せ折に触れては竪琴を奏でていました。 」

でも、あまりに遠すぎる・・・ と茶髪の皇子は深い溜息を吐く。

 

   ・・・ もしかしたら。  ほんとうのジョ−も ・・・ 

   <想いを馳せ> こころの中で <竪琴を奏で>ているのかもしれない・・・

 

いつまでたっても口の重い彼の 本当の姿 を垣間見た気持ちがした。

「 まあ・・・! 残念だわ、わたしなら聞き取れるのに! 

「 え? なんですか? 」

「 ・・・あ、いいえ。 あの ・・・ え〜と ・・・ 皇子様の竪琴の音を

 お聞きできなくて残念ですわ。 」

「 ありがとう、姫! 

 ああ・・・ でもどんなに離れていても 姫のことを忘れることなど出来はしません! 」

「 それは ・・・ わたしも。 」

「 ああ、そうですか! 嬉しいなあ・・・ 星姫、ぼくにはあなたしかいません。 」

「 皇子さま ・・・ 」

「 ぼくは そのう ・・・ 上手く言えないですけど。 あなたがいてくださるから あなたがぼくのことを

 待っていてくださるから 生きてゆける・・・  ああ、だめだなあ、言葉が見つからない・・・! 

「 ・・・ 大丈夫、ちゃんとわかっていますわ。 

 ねえ、皇子さま。 あなたの竪琴を聞かせて下さいませんか。 」

「 ああ! 喜んで ・・・!   それでは 姫、どうぞこちらに ・・・・ 」

皇子はフラソワ−ズの手を取ると 柔らかい草の生えた土手に案内した。

 

やがて 川のせせらぎに混じって静かに竪琴の音が流れ始めた。

その音は 高く・低く そして 密やかにまた激しく 夜気を震わせ飲み込まれてゆく。

 

  ・・・ このヒトは ・・・ 今、この音で想いのすべてを語っているのね・・・

  ああ ・・・ ジョ− ・・・ ! あなたの心が わたしのこころに語りかけるわ!

 

フランソワ−ズは、いや星姫はゆっくりと立ち上がった。

星明りの元、 裳裾を揺らし領巾 ( ひれ ) をひるがえし 彼女は踊り始めた。

それは静かに滑るような動きだったけれど、流れる竪琴の音に乗り弾き手の想いをなぞり

ゆったりと 優しい舞いだった。

 

  姫 ・・・ ! ああ、それがあなたからの応えなのですね!

  ああ、 愛している、愛している、 愛している・・・!

  たとえ一年に一度しか逢えなくても  どんなに離れていても  愛しているよ・・!

 

竪琴を奏でつつも 皇子の瞳はじっと姫の舞に注がれている。

ゆるやかな領巾 ( ひれ ) の一振りに、 ちろろ・・・と髪飾りを鳴らしまわる脚捌きすべてに

星姫のこころが溢れていた。

 

  わたしも ・・・ ! 愛しているわ、愛しているわ、愛しているわ・・・!

  あなたが生きていることが わたしの支えなの、あなたがわたしを生かしているのよ

 

「 ・・・ 姫 ・・・ 」

「 皇子 ・・・ 」

「 ああ もう行かねばなりません。 川が、星の流れが溢れて渡れなくなってしまう・・・ 」

「 次にお目にかかれる日を ・・・ 恋焦がれておりますわ。 」

「 きみへの愛をこころの支えに ・・・ 生きてゆくよ。 」

「 ・・・ 生きて生きて生き抜いて ! そして また ・・・ 会いましょう・・・ 」

「 星は巡り 時は流れても この想いは ・・・ この愛だけは ・・・永遠に ・・・! 」

「 ええ! いつまでも、いつまでも ・・・ 永遠 ( とわ ) に。 」

「 ・・・・ フランソワ−ズ ・・・ 

「 ジョ− ・・・・ ! 

 

二人はいつの間にか川辺に降り立っていた。

煌き微かな音をたて、川に星々が滔々と流れてゆく。

「 ・・・ 皇子。 船の準備は整いましてございます。 」

河原にはすでに従者が控えていて、スキン・ヘッドを屈めて二人を迎えた。

「 ありがとう。 ・・・ 姫 ・・・ また一年後までお別れです・・・  」

「 ・・・ ジョ−! あ、いえ 皇子さま。 

 あの ・・・ わたし・・・ ご一緒にそちらに行っては・・・ご迷惑でしょうか。 」

「 え! いえ、迷惑だなんてそんなこと!

 本心を言えばこのまま姫君を浚って 私の国にお連れしたい! 」

「 わたし ・・・ かまいませんわ。 」

「 ひ、姫さま! なんということを・・・! 」

ばあやが二人の前に転げ出てきた。

「 姫! 私は出来ればこのままあなたと共に向こう岸に戻り そしてこのヒトを妃にするのだ、と

 国中のものに告げたい! ・・・ しかし、そんなことをしたらあなたが非難の的になってしまう。 」

「 ふふふ ・・・ 勝手に皇子についてきたとんでもない女だ・・・って?

 務めを捨て、親を捨て、国を捨て ・・・ 飛び出してきた女は皇子の妃に相応しくないかしら。 」

「 いえ! たとえ誰がなんと言おうと私は姫を護り抜きます。 」

「 それでしたら。  わたしはどこまでも 皇子様に付いてまいりますわ。 」

「 姫。 あなたという方は ・・・ ! 

青い瞳には情熱の煌きが静かに燃えている。

桜の唇は微笑みで結ばれているが、 白い頬は強い決意できりりと引き締まっていた。

「 ヒトがどんなに謗ろうとも。 わたしは恐くないわ! 

 ジョ−! わたしは あなたが好き! 」

「 フランソワ−ズ! ぼくもきみだけなんだ!  

・・・ あ? なぜ こんなコトバがでてきたのだろう・・・ 私の口が勝手に動いてしまった・・・ 」

皇子はしっかりと姫をその腕に抱き締めた。

 

「 ・・・ 姫さま ・・・  」

姫の後ろから 小さな声が呼びかけた。

「 ばあや。 ごめんなさい、わたし、どうしてもどうしてもこの愛を護りたいの。

 お父様や・・・国の皆には星姫は河に身を投げてしまったと伝えて頂戴。 

「 姫様! ばあやは姫様のお心に感動しました。 

 どうぞ・・・ お邪魔でなかったらばあやもあちらの岸へ お連れくださいまし。 」

「 ・・・ ばあや・・・ いいの、本当に? 」

「 はい。 ばあやは姫君のご決意を誇りに思いますですよ。 」

「 いや〜〜〜 姫君も乳母殿もなんと素晴しい!

 まこと、皇子のお妃に相応しい方でいらっしゃる。 じいもこころから感動いたしましたぞ! 」

「 ・・・ まあ、ありがとう ・・・ 」

皇子の足元にかしこまる従者が禿アタマを振りたて熱弁をふるう。

「 皇子! およろしゅうございますか。  

 口さがない輩がなにを言おうが皇子は姫君をお護りあれ。 」

「 うん、肝に銘じているよ。 ・・・ 姫、 ありがとう。 

 それでは 参りましょう。 どうぞ ・・・? 

皇子は姫の身体を離すと先に立ち、 す・・・・っと手を差し伸べた。

「 はい。 皇子さま。 」

姫は軽く膝を屈め会釈をすると領巾 ( ひれ ) をゆらし手を差し出した。

 

   もう離さない・・・! なにがあっても 一生。

 

   どんなことがあっても 付いてゆくわ 一生・・・!

 

ジョ−に導かれ彼の手をしっかりと握り フランソワ−ズは <星の河> を渡る。

・・・ きれい ・・・ !

冷たい光に囲まれて フランソワ−ズは思わず感嘆の吐息を洩らす。

 

 

「 ・・・ ああ ・・・ きれい、ねえ・・・ 」

 

え・・・!?

「 ・・・ あ ?  あれ ・・・?? 

呟いたはずの声は案外はっきりと聞こえ ・・・ ふと気づくと目の前にテラスの手すりが横切っている。

 

「 ・・・ あ ・・・・? みこさま・・・ あれ?? 」

見まわせばそこは。

頭上には馴染んだ星々が顔をならべ、滔々と流れる天の河にも変わりはなく。

 

  ・・・ くっしょん ・・・ !

 

ネグリジェ一枚では いかに夏とはいえ夜風に素肌はしん・・・・と冷えていた。

「 ・・・ ここ・・・? わたしの部屋のテラス・・・よね? 」

耳を澄ますほどもなく、 いつもの波の音がおだやかにそして何の変わりもなく聞こえてくる。

ゆっくりと立ち上がれば レ−スのカ−テンがさわさわと揺れかかってきた。

 

「 ・・・ わたし。  夢でも ・・・ 見ていたのかしら ・・・ 

 

・・・ ポ −−−−ン ・・・ !

密やかな音が 時刻を告げた。

日付を跨いで一時間過ぎたところらしい。

 

「 ・・・ 夢、でもいいわ。 ねえ ・・・ わたしの <皇子さま> ? 」

 

フランソワ−ズは 星々に向かって極上の笑みを投げた。

「 わたしの、 ウウン、 わたし達の誓い、聞いていてくれたでしょう?

 ジョ− ・・・ ! あなたも今 貴生川の郷で同じ夢を見ているわ

 あれは きっと星達のプレゼント・・・ こっそりジョ−のこころを聞かせてくれたのね? 」

満天の星たちは ちかり、とウィンクをした ・・・ ように見えた。

 

「 ありがとう ・・・! お星さまたち! 

 

 

 

 

 

「 ・・・ ただいま。 」

「 お帰りなさい、ジョ−。 」  

翌日の夕方、ジョ−はふらり、と ― いつものようになんの知らせもなく ― 帰ってきた。

フランソワ−ズはごく自然に彼を迎え入れ

ジョ−も普段をほとんど変わりない表情で 玄関に入ってきた。

「 ・・・旅は 素敵だった?  」

「 ・・・ ウン ・・・ 」

上着を受け取ったフランソワ−ズを ジョ−はしばらくじっと見つめていた。

「 なあに。 」

「 ・・・ い、いや。 別に。  ・・・ あ、た ・・・ ただいま。 」

「 はい、お帰りなさい。 ふふふ 何度もどうしたの。 」

「 う、ううん ・・・ なんでも・・・・  あ、き、きみってさ。 そのう ・・・ 髪を結っても似会うね! 」

「 あら、そう?  ありがとう。 でも、どうして? 」

「 だって ・・・ 見た・・・いや! その・・・何でもないよ、ごめん。 」

「 ふふふ・・・・ ジョ−の竪琴、素敵だったわ。 」

「 ・・・え?!  な、なんだって?? 」

「 なんでもな〜い。 さ、手を洗ってきて? お茶にしましょう。 」

「 あ・・・ う、うん ・・・・ 」

ジョ−はまた、じっとフランソワ−ズを見つめている。

「 なあに? 

「 う、ううん ・・・・ あ、あの。 ゆ、昨夜は星が綺麗だったよね。 」

「 ええ。 ここでも凄くキレイだったから、ジョ−のいたところでは もっと素晴しい星空だったのでしょう? 」

「 あ・・・ うん、多分。 」

「 多分? 」

「 うん ・・・ ぼく、どうしてか、大きな樫の樹の下で寝込んじゃってさ。

 夜になってちょっとだけ星を眺めよう・・・って座ったら そのまま。 」

「 まあ、 風邪、引かなかった? 」

「 あは、勿論。  今朝はお日様に起こされたんだ。 」

「 そう、なの・・・ 

「 ・・・ ウン ・・・

 

   ・・・ きみは あそこに いた、よね。

 

   あなたも あそこに いた わよね?

 

   やっぱり! ・・・ 姫、 星姫!

 

   ええ! そうなの、皇子さま・・・

 

向かい、見つめ合い。 一言もはっしなかったけれど

二人はたしかに言葉を交わしていた。

 

 

 

「 よお、ボ−イ。 やっとご帰還かな。 流浪の旅の首尾はいかに。 」

「 ただいま。 そんな流浪の旅、だなんて。 ほんの一晩じゃないか。 」

「 時として時間は空間を越えるもの ・・・ 星祭の夜には、特になあ。 

「 え? ・・・ グレ−ト ・・・ まさか、きみも? 」

「 ほっほ〜〜 お帰りアル。 今晩は和風にあっさり、星見の宴やで。 」

「 ・・・乳母の君 ・・・い、いや。 大人、ただいまデス。

 あの 留守中になにか変わったコトは ・・・? 」

「 変わったコト? ふん、ワテら皆で仰山お御馳走を頂きましたで。 なあ? 」

「 ええ、そうね。 とっても美味しかったわ。 」

「 左様左様。 我輩の胃の腑はいたく御満悦であったよ。

 ああ、ひとつだけ。 ちょっとした天体ショ−があったのだよ、ボ−イ。 」

「 え・・・!? 」

 

「 そうなんじゃよ。  ジョ−、お帰り。 」

ギルモア博士が涼しげに浴衣を着流し 現れた。

「 あ、ただいま帰りました、博士。  天体ショ−って ・・? 」

「 うむ。 < ショ− > というか ・・・ あまりに美しかったのでなあ。 

 世界中の天文ファンが おそらく見とれていたじゃろうよ。 ここにな、ちょうど映像があるが・・・ 

  例のワシ座のアルタイルとコト座のヴェガとは違う星じゃがの、七夕に相応しい光景じゃよ。 」

博士はリビングの壁に設えてある装置を操作し始めた。

 

 

「 それじゃ ・・・ 星が ・・・ 二つの星が、そのう ・・・ 一緒になったのですか?? 」

ジョ−は熱心に博士の解説をきき画像を見ていたが思わず声を上げた。

「 いや、地球上からはなあ、そんな風にもみえるが・・・ 

 実際には二つの星が彼らの太陽であった星のノヴァに呑み込まれたのじゃろうな。 」

「 しかしなあ。 この映像からは情熱の恋が結ばれた風情であるな。 」

「 恋の炎が燃え上がった、アルね〜〜 」

「 はははは・・・ お前さんたち、えらくロマンチックじゃのう。

 ま、時として大宇宙は 熱いドラマを繰り広げるということじゃ。 」

「 さあさ、 皆はん、美味しい御飯を頂きまひょ。 

 ジョ−はん、さっさと手ェを洗うてウガイしてきなはれ。 」

「 おお、今宵は冷で一献。 博士、いかがです? 」

「 お、いいのう。 ワシは最近和食の美味さに目覚めたんじゃ、うん。 」

オトナたちはわいわいとダイニングに行ってしまった。

 

「 ・・・ そう・・・か。 それで・・・ <川を渡った>んだ、ふたりして・・・ 」

「 そうよ。 そうなんだわ。 わたし ・・・ どんなに謗られようとも恐くなんかなかったの! 」

「 あれは夢じゃなかったんだ。 はるか遠い星たちが ぼくときみを呼んだ・・・? 」

「 ・・・ ええ ・・・ ええ・・・ きっと・・・・! 

 ジョ−。 あの ・・・ 貴生川の郷は ステキだったの? 」

「 ウン。  ・・・ ぼくの見たい夢を見てきたよ。 」

「 そう ・・・ よかった・・・ 」

「 ・・・ ウン ・・・ 」

二人はごく自然に腕を絡めあい、唇を求めあっていた。

 

「 お〜い! お二人サン! 始めちまうぞ? 」

「 あいや〜〜 はよ、来なはれや〜 冷奴が温まってしまいますよって! 」

ダイニングから 陽気な< お呼び> がかかってくる。

 

「 ・・・ いこうか。 乳母 ( めのと ) の君が呼んでいるよ? 」

「 ええ ・・・  じいやさんがお待ちかねね。 」

クス・・・っと二人で笑みを交わす。

「 続きは また。 ・・・ 今晩♪ 」

「 ・・・ ええ。  皇子様? エスコ−トしてくださいます? 」

フランソワ−ズはすっと手を出した。

「 ・・・ あ  あは。  はい、どうぞ、星姫君。 」

ジョ−は幾分ぎくしゃくと その白い手を取り  ・・・ 二人は歩きだした。

 

 

 

 

 

「 ・・・ ジョ− ・・・ カ−テン、引いてって言ったのに ・・・ 」

「 うん? ・・・だめ。 」

ジョ−はちらり、と窓に目をやったが すぐにフランソワ−ズの胸に顔を埋めてしまった。

断崖の上に建つギルモア邸、夏でもさわやかに風が吹き抜けエアコンはほとんど必要がない。

特にフランソワ−ズの部屋は角部屋で 大きく窓を開け放てば一層快適なのであるが・・・

今は 

真昼の太陽よりも熱い吐息が 満ちている。

「 ・・・ 意地悪ね ジョ ・・・− ・・・  お星さま 眺めようって言ったのはだあれ 

フランソワ―ズは 脱ぎ散らした衣類をたぐり寄せた。

 テラスに出るすぐの床で二人はまだ火照りの残る身体を寄せ合っている。

さわさわと吹き抜ける夜風が汗ばんだ肌に心地よい。

「 うん   いいじゃないか ここからでも ちゃんと見えるよ、ほら 

ジョーは身を起こすとテラスへ乗り出した。

「 ・・・  ジョーォ!! 

 ぱさり、と彼のシャツが飛んできた。

「 ・・・ 平気だってば、誰もいやしないよ。  う〜ん ・・・いい気分 ・・・ !」

「 もう〜 本当にお行儀の悪い皇子さまね!

これは姫君 失礼いたしました。 」

素肌の皇子はぺこり と頭をさげる。

「 ふ・・・ん ・・・ いいじゃないか。 ほら ・・ 星の陰と光がきみの肌に映ってる・・・ 」

ここも。 ここも ・・・と ジョ−は熱い口付けを落としてゆく。

「 きゃ ・・・  ああ ・・・ ああ・・・・ やだ・・・! 」

「 ふふふ ・・・ ほら。 きみの肌にも情熱の星たちの跡が ・・ ほら ・・ 」

「 ・・・ もう ・・・! ・・・   ねえ 貴生川の郷って 行ってみたいわ ・・・  

「  うん。 ・・・  今度 一緒に行こう。 ホタルがキレイなんだ・・・ 」

「 ホタル ・・・? 」

「 うん。 夢みたいにね ふわ〜〜って光が飛交うのさ。 

それに・・・ と ジョーはベッドの脇に取り込んだ笹飾りに目をやった。  

「 あれをさ。 ちょっと遅れてしまったけれど 一緒に流しにゆこう。

  きみの願いもかないますように・・・・ ってさ。 」

 

   ぼくは ・・・ おかあさんに会えた・・・ 

 

目を閉じれば あの夜の光景がほう・・・っと浮かんでくる。

「 わたしの願いはね。  あなたと共にいること、よ  ・・・ 」

「 ・・・  天の川にまで流れてゆくといいね。  星の川まで。 」

「 ええ ・・・ 星は巡り 時は過ぎても 愛だけは ・・・ あなたとの愛だけは・・・ 」

「 ・・・ うん ・・・ 」

二人は肩を寄せ合い 遥か満天の星を見上げていた。

 

 

 

******************     Fin.    *******************

 

Last updated : 07,15,2008.                        index

 

 

 

********    ひと言   ********

え〜っと。 原作の方です、平ゼロのじゃなくて。

( ええ、平ゼロのアレも大好きですけど♪ )

本来ならば! 先週、 < 一日遅れですが〜 季節モノです☆ > とアップする予定だったのです!

が!   例のあの季節正反対な・くりすます話が終らなかったために

またまた時季遅れになってしまったのでした・・・ ( 泣 )

あのオハナシ・・・ ジョ−君の <事情> ばっかりですよね〜〜

フランちゃん、いつもお留守番なんて可哀想じゃん! ってのが妄想の動機・・・ 

そして 昔風チャイナ衣裳のコスプレ♪ を書いてみたかったのさ (^_^;)

 

やっぱ 七夕は二人でしっぽり・・・ がお約束でしょ♪ 

そうだったらいいのにな〜〜って 笑っていただければ 幸いでございます <(_ _)>

そうそう! 皇子様の竪琴・・・ってのは オルフェウスからの連想、タイトルは

大好き漫画家様の素敵作品から拝借いたしました♪