『  なぞる指先  − やさしさの刻印( しるし ) −   』

 

 

最初に彼女が それ に気付いたのは。

夜ごと夜ごとに シ−ツを固く握り締めていた指がようやっと彼の背中に廻せるようになったころ。

おずおずと・・・ 覚束なげに 彼女のほそい指先はひろくて逞しい背中を彷徨う。

 

 − ・・・・ く ・・・・っ・・・!

 

熱く自分を被っている彼が そのたびにびくりと慄き

そして  さらにその熱さを増してゆく。

 

彼女自身も耐え切れずほとばしりでる悦びを どうやって隠そうかと・紛らわせようかと

細い指先は 所在無さげにするすると汗ばんだ広い背中を降りてゆく。

 

 

 − ・・・ あれ・・? ・・・これ、なに・・?

 

 

不意に指にとどいた感触は その動きだけではなく身体の こころの昂まりも 一気に止めた。

 

なに、これ。

傷跡・・・・?  ううん、そんなことないわ。 それに もっと浅いかんじ・・・・

爪跡・・・・?  ううん、そんなこと な ・ い  ・・・・ ?

 

醒めた思いの彼女に 気付くはずもなく

たもっていたものを全て彼女に託し 身もこころもすべてなげだして

彼は あっという間に夢魔の手におちていってしまった。

 

− なに、あれ・・・? どうしたの、いつ、誰が・・・つけたの・・・?

 

無邪気な微笑すら浮かべた寝顔に 思わずしらずほそい・ながい溜め息がこぼれてしまう。

 

こんなに 想っているのに

こんなに 愛されてる・・・と思ってるのに

あなたのこころは すぐに何処かへ行ってしまうのね・・・ 夢の ・ 見果てぬ国へ・・・

 

「 だけど。 どうしても確かめなくちゃ! 気になるし・・・・・置いてきぼりは・・イヤ!」

フランソワ−ズはぱっと撥ね起き ひとこと宣言すると

・・・・ ぱふ ・・・・・ん

もう一度 ジョ−の隣りにもぐりこみ やがて すうすうと軽い寝息を立て始めた・・・

 

 

 

「 さ〜〜 イワン♪ お日様ぽかぽかで気持ちいいでしょう〜? ほ〜ら・・・ 」

「 ホ〜ラッテ ふらんそわ-ず! ナニヤッテルンダヨ? ボク、マダサムイヨ・・・!

びんびん響いてくる彼の悲鳴に近いテレパシ−など ものともせずに

リビングの日溜りで フランソワ−ズはオムツもなにもかも・・・とっぱらったイワンの

ちいさなオシリをぴしゃぴしゃ軽く叩いていた。

「 あら、すこしくらい寒い方が身体にいいのよ? あなたはほとんどおうちの中にいるから・・・

 たまには 日光浴しなくっちゃね〜 」

「 ニッコウヨク ッテ ナニモコンナカッコウデ!  ・・・ク・・クシュン・・!

「 うそ・くしゃみなんかするもんじゃないわ、イワンちゃ〜ん♪ 」

軽口をたたきながらも フランソワ−ズの目はイワンの可愛いオシリにじっと注がれている。

 

 − ない・・・。 イワンにもわたしにも無いってことは・・・

 

バスル−ムで鏡にねじ向きながめた自分の背中には 傷跡ひとつなかった。

と、すると。 

自分達、時の狭間を越えてきたものにはないってことなのか・・・?

いや、あとの二人の背中を調べたわけではないのだが。

第一、ソレは 背中といってもかなり低い所、そろそろ<次の部分>が始まろうという所にあるのだ。

いくら 当節の腰浅ジ−ンズを穿くジェットが屈んでいても・・・・ 見えない!

いつも キッチリと肌を露出させていないアルベルトに至っては 神秘の奥?である。

 

 

う〜〜ん???  なんなの?? 誰かの。 つ め あ と・・?

 

 

日ごと夜ごとに 疑心暗鬼のもやもやだけが残り、 不完全燃焼の彼女の身には

彼の優しい愛撫は いらいらを揚めるばかりである。

 

なんとか、しなくちゃ! う〜ん・・・・・ そうだ・・!

 

 

ほどなくして。

いつもの如くの二人の長い夜が盛り上がろうとし始めたとき。

 

 − ・・・・ おねがい。 灯を ・・・ 消して ・・・

 − う ・・・? ああ、ごめん。 

 

やさしい白いゆびが 柔らかな彼の髪をまさぐって声と一緒に訴える。

今夜に限って付けっ放しなのに気付くことも全くないジョ−は 気軽にベッドから降りた。

 

 − なに・・? なんの 跡なの??

 

相変わらず 広くて滑らかな その背中・・・・

この広さ ・ おもさ を知っているのはわたしだけ、だと思っていたのに・・・!

 

ドア近くのスイッチに向う彼の後姿に 焦げ付きそうな・舐めるような 視線を当てる。

そうして。 いつも 気になっていたソコにあったものは。

 

 

ちいさな 不思議な なにかの 刻印( しるし )。

 

 

後から付いたとは思えない滑らかさだし 回りの肌とも完全に同化している。

と、いうことは。

このカラダになった時に 付けられた・・・・? でも、 これは なに・・?

 

「 ごめんね・・・ 気付かなくて。 」

「 ・・・・ あ、ああ ・・・  ありがと ・・・・ 」

茶色の瞳ににこにこと見つめられ もうあとはあっという間に彼のペ−スに巻き込まれ・・・

いつもの如く 一緒の朝を迎えているのだ。

 

 − ええ、もちろん。 ソレはソレで、シアワセなんだけど。 マンゾクなんだけど。

    で ・ も 。

 

気がつけば四六時中気になっていたりして・・・。

「 ・・・・ どうか、したの?ぼんやりして・・・なにか心配事・・? 」

「 え? ううん、ううん! なんでもないわ。 」

ついには ジョ−自身からも訊かれるようになり あわててフランソワ−ズは微笑んでみせる。

 

 − う〜〜〜〜 ますます。 ますます、気になる・・・・!

 

 

               意外なトコロで その問題は解決した。

 

 

ある日

ス−パ−で買ったものを袋につめようと・・・・ しゃかしゃかいう袋を手にしたときに

見覚え ・ 触りなれた しるし がぱっ・・・と目に飛び込んできた。

 

 − あ・・・! これ、これよ・・・・!! ・・・・ええ〜〜!!

 

 

 ⇒  【 エコ・マ−ク。   地球にやさしい製品のしるし、です。 】

 

 

「 どうしたの・・? フラン、大丈夫かい ・・・・ 」

自分の顔をまじまじと見詰めて 突如はじけるように笑いだした彼女のそばで

ジョ−は おろおろ・・・うろうろ とするばかり。

お腹を抱え、声を上げて くすくすくすくす・・・・ご機嫌のフランソワ−ズ嬢。

 

そう、そうよね。 あなたにぴったりよ? ジョ−。 やさしい あなた にね?

..の科学者も ちゃ〜んとわかっていたのかしら。 すごいわ〜

うふふ・・・そうね。

わたしが あなたの 【効能書き】 を付けるなら〜♪

 

最新型 プロトタイプの さいぼ-ぐ は 環境にも十分配慮した地球に優しい商品です。

 

あら、ちがったわ♪

優しいのは。 

地球じゃなくて。 わたしにだけ、でそれでいいのよ、ね? ジョ−。

 

いつもの照れ屋はどこへやら 笑い続ける自分の肩をしっかり抱いて。

心配そうにのぞきこむ 泣き出しそうなその瞳に その唇に

フランソワ−ズは もう一度ちいさく微笑みかえし 今度は自分の唇を重ねた。

 

 

*** 後日談 *** 

 

次の夏。

皆で海辺に出たとき フランソワ−ズ嬢は何故かメンバ−達の背後に立ちたがったとか。

 

う〜ん・・・この、海パンを 下げてみたくて・・!!

そう、そうよね、 エコ・マ−ク。 あなたにも ついてます・・?

 

 

*****  おしまい  *****

 

Last updated: 01,01,2004.       top

 

**** 言い訳 ****

新年そうそうくだらないお笑いネタでごめんなさい!(^^♪ 実は年末・爆笑オフ会で拾ったのでした。

<御断り>

このSSは 2004年の元旦に<お年玉>として三が日限定で発表したものの再掲載です。