『 さんきゅう・ディ 』
ちゅん ちゅん ちゅん 〜〜〜
ちちちち ・・・ ちィ 〜〜〜〜〜 !!
小鳥たちの囀りも 日に日に賑やかになってゆく。
窓から眺める景色にも 若緑が多くなってきた。
カタン。 庭に面した窓を大きく開け放った。
「 わあ〜〜〜 ・・・・ 風が ちょっぴり・・・ 甘い かな 」
フランソワーズは 両手をあげ深呼吸をする。
海からの風は まだまだ冷たいけれど その中にほんの少し
春の香が混じるようになってきた。
「 ふう〜〜〜 ・・・ ああ いい気持ち♪
あら? あの崖のところ、水仙がきれい〜〜〜
そろそろウチの庭のも 咲き始めるかしら 」
カッコロ。 庭用サンダルをつっかけ土の上に降り立つ。
「 おか〜さ〜〜ん アタシも〜〜〜 おそとぉ いくよ〜〜 」
すぴかが ソックスのままサッシから跳び出てきた。
「 きゃっは〜〜〜♪ 」
「 ! すぴか〜 ちょっと待って!
おクツ はきましょうね〜〜 」
「 え〜〜 やだ〜〜〜 あはは あはは〜〜 」
「 あ これっ 」
すぴかは ソックスのままぱ・・・・っと駆けだした。
「 だめ〜〜〜 すぴか 」
母や慌てて後を追う。
庭の中だし 門からは簡単にはでられないので安全だけれど けれど。
このチビは やたらと速く走れる足を持っているのだ!
「 きゃはああ〜〜〜 わあ〜〜〜い 」
「 まって〜〜〜 すぴか ストップ〜〜 」
「 わあ〜い わあ〜〜〜 あははは 」
「 もう ・・・ 」
母はタカタカ走り回る娘を必死で追いかけるのだが ―
神様は 009の娘に天然の加速装置を搭載なさった。
しかも この<装置> は決してブレることもなく 故障もなし。
メンテは <オイシイご飯> <お煎餅> で おっけ〜。
そして on off の切り替えは実にスムーズ ・・・
連続使用も問題なし。 という 実に素晴らしいモノなのだ。
ただし それに付き合う親は ― とんだ災難である。
「 ねえ お家にもどりましょ 」
「 や〜〜〜〜 おそと〜〜 」
「 すぴかさんっ 朝ご飯 食べましょ? ね? 」
「 あ〜〜〜〜 う〜〜ん 」
「 ほら すぴかさんの大好きなミニ・トマトさん と キュウリさんよ? 」
「 う〜〜ん 」
「 そうだ! たまご焼きにチーズ のせよっか? 」
「 う ・・・ ん ・・・ 」
「 お母さん お腹すいちゃった〜 さきにごはん たべよっかな
おいしいトマト たべちゃおっかな〜〜 」
フランソワーズは わざと娘に背をむけてすたすた・・・ 戻ろうとする。
「 ! やだ アタシも〜〜〜 たべる〜〜〜 」
「 ごはんにしましょ ほら いらっしゃ〜い 」
「 ん! 」
タカタカタカ ・・・ チビは加速装置全開で戻ってきた。
「 ごはん〜〜〜 」
「 ほらほら 靴下、脱いで・・・ あ 裸足で〜〜 」
「 ごはん〜〜〜〜〜 」
ペタペタペタ 〜〜〜
すぴかは靴下を脱ぎ飛ばすと 裸足のままキッチンへ駆けていってしまった。
「 ・・・ もう・・・ あ〜あ ・・・
せっかく昨日 床磨き、したばっかりなのに・・・ 」
床の上には 小さな足形 が散らばってしまった。
はあ〜〜〜 母は特大のため息 だ。
「 ごは〜〜〜ん おと〜さ〜〜ん 」
「 お すぴか おはよう〜 それじゃ お父さんとごはん、たべよっか 」
「 ん♪ おと〜さ〜〜ん 」
キッチンからは 賑やかな声が聞こえてくる。
「 ジョー〜〜〜 すぴかの朝ご飯 おねがいね〜〜
わたし すばると起こしてくる 」
「 おう 任せろ。 さあ すぴか 一緒に朝ごはん♪ 」
「 きゃ〜〜 ごはん〜〜 おと〜さんとごはん〜〜 」
「 うふふ すぴかとデートだあ 嬉しいなあ 」
「 でーと で〜と♪ ・・・ おと〜さん これ あげる。 」
「 うぐ? ジャム・トースト? ・・・ すぴかはジャム、きらいか 」
「 アタシ ち〜ず! 」
「 はいよ 」
「 うわい〜〜〜 むぐむぐむぐ〜〜 」
父娘の会話に 微笑しつつ 母は子供部屋に行った。
「 すばるくん? 起きなさい。 朝ですよ〜 」
「 ・・・ う ・・・ くちゅ? 」
「 ほらほら・・・ すぴかはもうご飯食べてますよ〜 」
「 ・・・ ご はん ・・・? 」
おか〜さん お はよ〜〜〜 にっこり。
茶色のクセっ毛が くるり、と跳ねて 寝起きのこの笑顔は ―
ああ 〜〜〜♪ かっわいい〜〜〜〜
最高に胸きゅん なのだ。
現在 すばるはこの笑顔を武器? に 母を始め 幼稚園のせんせい
園長せんせい 交通指導員のおっちゃん・おばちゃん・・・
商店街のおっちゃん・おばちゃん そして 地域担当のお巡りさんズ
み〜〜〜んなを 陥落 させ < 無敵 > を 誇っている。
もちろん 園のおともだち、特にオンナノコには大人気☆
― ちなみに すぴかは オトコノコ達のボスとして君臨している。
「 ・・・ あ ほらほら 起きて すばる。
朝ご飯にしましょ 」
「 え〜〜〜 ・・・ あ ぎうにう に おさとう いれて 」
「 ・・・ いいわ 」
「 僕ぅ〜〜 ハチミツとじゃむ。 パンにのせたい〜〜 」
「 どっちかにしなさい。 ハチミツ か ジャムか 」
「 ん〜〜〜 ・・・ じゃあ はんぶんコ! いい? 」
「 ・・・ いいわ。 その代わり 全部食べるのよ? 」
「 ん ・・・ とまと と きゅうり いらない 」
「 だめ。 たべましょう 」
「 じゃあ 僕 ・・・ たべない あさごはん 」
「 あらあ たまご焼き 美味しいわよぉ? ね たべよ 」
「 ・・・ ん 〜〜 」
「 たまご焼きにねえ たくさんお砂糖、いれたわよ。
きっとオイシイわよぉ〜〜 」
「 ・・・ たまご やき? 」
「 お母さん お腹空いちゃったな〜〜 たまご焼き 食べたいな 」
「 おか〜さん 僕のたまごやき たべてい〜よ〜 」
「 ( ・・・ う〜〜 ) すばるクン ごはんです! 」
シビレを切らした母は 彼を えい っと抱き上げ キッチンへ
下りて行った。
「 えへ・・・ おか〜さ〜〜ん 」
「 なあに 」
「 僕ぅ おか〜さん だ〜〜いすきぃ♪ 」
ぴと。 ヤツはに〜〜っこりしつつ母の胸に顔を埋める。
「 ( う・・・ この笑顔ぉ ) お母さんもよ〜〜 」
最大の武器を行使され さすがの母も陥落寸前である。
「 たまごやき〜〜 だいすきィ 」
「 はいはい ちゃんと朝ご飯 たべましょうねえ 」
ぽん、と息子を こども椅子 にはめ込んだ。
「 さあ 朝ごはんデス。 」
「 あ すばる〜〜 」
すぴかが 小さなフォークを握ったまま 手を振っている。
「 すぴか〜〜 」
「 お すばる。 おはよう。 さあ ごはんだよ 」
「 おと〜さ〜ん おと〜さん 」
「 ほら こっちにおいで。 だっこはお終いだ 」
「 う ん ・・・ あ おか〜さん たまごやき〜〜 」
「 はいはい。 あ ジョー すばるにも食べさせてくださる? 」
「 おっけ〜〜 すばるは ジャム・トーストだな 」
「 ん♪ 」
「 すぴか ほら チーズ・トースト 焼けたぞ 」
「 わい♪ むぐ〜〜〜 ・・・ おいし〜〜〜 」
ジョーとフランソワーズにとって すぴか も すばる も
可愛い大切な我が子で 特に ジョーは文字通り
< 眼にいれても痛くない > 可愛がりかたで ある。
< 岬の双子 > ちゃん として 今は巷に笑顔を提供し
他所さまからも 可愛がられている。
― そして。 それゆえ当然、というか ・・・
二月のあの日に すばるはチョコレートをい〜〜〜っぱい
もらってかえってきた。
( なぜか すぴかももらっている )
「 ?? すばるくん。 おカバンにチョコが入っているんだけど・・・
お家からもっていった? 」
「 ちょこ??? う〜〜んん
わああ〜い ちょこ たべるぅ〜〜〜〜 」
「 これ どうしたの。 買ったの? ってお金持たせてないし・・・
あ 誰かに頂いたの? 」
「 ちょこ〜〜〜〜 あ これ みかちゃん。
えっとね こっち まりちゃん。 これはぁ あっこちゃん 」
「 ・・・ 頂いたの?? どうして? 」
「 わか〜んな〜〜い ねえ ちょこ〜〜〜 」
「 あ まずね 手を洗ってウガイ でしょ?
すぴかは もうバス・ルームに行ったわよ〜〜 」
「 ん〜〜 す〜ぴか〜〜〜 」
トテトテ ・・・ フランソワーズの息子は駆けていった。
「 ・・・ う ・・・ バス・ルーム 水浸しの危機!
けど しばらくは遊んでいるだろうし バス・タブは洗ってあるから
安心。 ・・・ それよりも♪ 」
フランソワーズは 好奇心のオシに勝てず息子が貰ったきたチョコの
包を 仔細に検分し始めた。
「 ・・・ わ ちっちゃ〜〜かわいい〜〜 あ カード!
すばるくんへ だいすき みか うっそ〜〜〜〜
あ こっちも!
すきです すばるくん♪ あっこ より だって!
う〜〜〜〜 すばるってば すばるってば〜〜〜
・・・ さすが ジョーのムスコ だわあ 」
そう ― このコの父親は いまだにあの日には 紙袋(大)いっぱいに
チョコを持ち帰るのである。
「 とにかく後で このお嬢さん達のお家に御礼の電話しないと・・・
あ〜あ ・・・ ママ友 って苦手なのよねえ・・ 」
< お母さん > は ふか〜〜いため息をついた。
その夜 ―
遅い晩御飯を楽しむ夫に 彼女は息子の貰ったチョコの話をした。
可愛いカードも 見せながら・・・
「 へ ・・・え〜〜〜 幼稚園で ねえ・・・
最近のガキはマセてやがるなあ 」
「 ねえ・・・ あの年齢のころ、 オトコのコ とか
意識してなかったわ あ 乱暴モノは嫌われてたけど 」
「 ふうん? オトコはね〜〜 あのくらいのころから
キレイな女の子 が好きなのさ 」
「 え〜〜 そうなのぉ???
すぴかもね チョコを もらって帰ってきたわ。
ゆりちゃん って 可愛いコから頂いたんですってさ 」
「 お〜〜 ウチの長男 だよなあ アイツってば 」
「 チョウナン は すばるです。 」
「 そうだけど さ。 ウチはすぴかが先頭を切って
こう〜〜 走ってゆくって気がするなア 」
「 いえてる〜〜 ホント すぴかってば
なんていうか ・・・ そう 風に立つライオン なのよねえ 」
「 あは そうそう そんな感じ 」
「 で すばるは 後ろでにこにこしてるのよ。 」
「 アイツってば 癒し担当? 」
「 そうかも〜〜 で ね。
チョコの山 なわけ。 ・・・さっすが 009の息子 よねえ? 」
「 あ? すばるは確かにぼくのムスコですが〜
あの笑顔にはな〜 ちょっと勝てるやつ、いないだろ 」
「 ・・・ そうなんだけど ね。
とにかく 小さな送り主さんのおか〜さま方に電話して
ありがと〜ございました すみません・・・って。 」
「 謝る必要 ないだろ? 」
「 でも。 」
「 い〜んだよ〜〜 この可愛いチョコ・・・ なんか微笑ましいし? 」
「 それは そうだけど ・・・ 」
ピン。 フランソワーズはクレヨンで書かれた カードを弾いた。
― これは 二月の中旬の話だった・・・
三月のある日 夕食後に ジョーは 熱いほうじ茶をたのしんでいたが
急に 声を上げた。
「 あ〜〜 そうだよ。
今度の14日にさ < お返し > しないとね 」
「 ?? おかえし? 」
「 あ 御礼のこと。 ほら あのう〜〜 2月のチョコの・・・ 」
「 ! バレンタイン・デーのこと?? すばると すぴかも貰ったわ
あの時の御礼をするの?? 今月に? 」
「 ・・・ うん ・・・ なんかそういう習慣らしいんだ 」
「 しゅうかん? ・・・ この国の習慣なの? 」
「 う うん ・・・ 多分 」
「 へえ ・・・ あ ! それじゃ ジョー あなたは?
毎年 チョコ、たっくさん貰ってるじゃない? 」
「 ・・・ うん ・・・ ホワイト・デー用のクッキーとか
買って・・・ 御礼にしてるよ 」
「 へ え〜〜 ・・ 結構 大変なんじゃない 費用。 」
「 ん ・・・ 」
「 クッキーが御礼なの? ほわいと・でー っていうの? 」
「 らしいよ。 キャンディとかでもいいらしいけど 」
「 ふうん そうなんだ ・・・
あ! ってことは すばる も?? 」
「 そ。 アイツ 結構もらってただろ そのう〜 チョコを さ 」
「 ええ。 幼稚園の交通指導のオバサンからも よ。
さ〜すが ジョーのムスコだわねえ〜 」
「 えっと ・・・ だから さ その。
< おかえし > しないといけないんだよ 」
「 息子のバレンタインの御礼を 用意しろっていうの 」
「 ・・・ まあ そんなトコなんだけど ・・・ 」
「 ! 息子はまだ幼稚園なのよぉ〜〜 」
「 うん わかってる けど あ ぼく、買ってこようか 」
「 いいわ。 わたしが ・・・ 作りマス。 」
「 え クッキーを? 」
「 はい。 ・・・ 親の責任です 」
「 ・・・ すいません ・・・ 」
「 ジョーが謝ることじゃないでしょ。 」
「 すいません・・・ 」
「 ふふん 任せておきなさ〜〜い☆ 」
お母さん は なにやら自信満々のご様子である。
「 あ そうだわ。 ジョー、あなたも <かなりの数の>御礼
が必要〜〜 なのでしょう? 14日には 」
「 ・・・ はあ まあ そうですが 」
「 モテる方はちがいますのね〜 」
「 ― 多大なるご迷惑・ご心配をおかけいたしまして
こころからお詫び申し上げます 」
「 ・・・ その言葉、TVで聞き飽きてマス。 不誠実の極み★ 」
「 ごめん ・・・ 」
「 ふん その方がよほど真剣味があるわね。
いいわ 今年は < ついでに > ジョーの分も作ったげる 」
「 え・・・? 」
「 だからね〜 基本的なとコト 手伝ってくれる 」
「 はい 喜んで 」
「 よろしい〜〜 すばる と すぴか が頂いた分と
そして ジョーの分ね。
ふんふんふ〜〜ん(^^♪ どんな味にしよっかな〜〜 」1
「 お任せいたしマス 」
「 ふ〜〜ん ・・・ あのね 型 は 決めてるの。 」
フランソワーズのご機嫌は ますます上昇?してゆくのだった。
「 ハート とか・・・? 」
「 んん〜〜〜ん。 あのね わたし 力持ち でしょう?
その・・・ ふつ〜のお母さんと比べれば 」
ぱき ぱき ぽき。 彼女は指を鳴らしている。
「 まあ そうだけど? 」
「 ふふん だからね そのチカラを生かして・・・
型を作ります。 ほら こんな風にね〜〜 」
くにゅ〜〜ん くにゅ くにゅ〜〜
フランソワーズは いつの間にか手元にあった金属片
自在に曲げている。
「 どうぞ お願いシマス 」
ジョーは ふか〜〜くアタマを下げていた。
シャカ シャカ シャカ ・・・
銀色の容器から ボウルに白い粉が滑り落ちてくる。
「 うわ 〜〜〜〜 これ ゆき?? おか〜さん 」
「 ゆき? ゆ〜きやこんこ あられやこんこ♪ 」
チビ達は テーブルの脇で両手を後ろに組んで立っている。
目の前では お母さんがクッキー作りを展開しているわけだが・・・
「 わ〜〜〜 これ なあに なあに ?? 」
「 がんがんがん〜〜 これ しってるよ〜〜
おみそしる ばしゃ〜〜 ってするでしょ 」
「 ねえねえ なにするの どうするの 白いの、なあに? 」
「 あ これ おさとう?? ねえねえ ちょっとなめていい 」
お手手を出してはいけません、 と キツく言われているので
コドモ達は母の作業に手を出したりはしない が ― その分?
猛烈に 口が動いている。
「 はいはい ・・・お母さんは 今からクッキーをつくります。 」
「「 わああ〜〜〜〜〜 くっき〜〜〜♪ 」」
「 そうです。 すぴか すばる。 そこで見学してていいです。
でも! お手手は後ろ。 いい? 」
「 ん〜〜〜 アタシ おてつだい したい! 」
「 僕も僕もぉ〜〜〜〜 」
「 はい。 二人ができるトコになったら お願いします。
それまでは ― いいですか。 お手手は後ろ です。 おっけ〜? 」
「「 おっけ〜 」」
ちびっこ二人は 神妙な顔でこっくり 頷いた。
「 さあて この粉にお砂糖とベーキング・パウダーすこし。
お塩もすこし。 よ〜く混ぜて。 そのあと 卵にミルクをすこし 」
「「 ・・・・・ 」」
碧い瞳と茶色の瞳が 文字踊り < 皿のように > して
母の手元を見つめている。
お母さんの言い付けを守って 小さな手は後ろに組んでいる。
「 さあて ここで質問です。
すぴかさん。 どんな味のクッキーが好きですか?
すばるクン。 好きな果物は なんですか 」
「「 え・・・ 」」
「 お母さんに教えて? 二人の好きな味にするから 」
「 え〜〜〜 アタシ〜〜 えっと えっと おせんべいあじ! 」
「 ・・・ 僕ぅ〜〜 えっとぉ 〜〜 甘くてぇ・・・
・・・ あ いちごあじ! 」
「 おせんべい味といちご味? う〜〜ん・・・ そっかあ〜
これはちょっとムズカシイわねえ 」
「 え ・・・ くっき〜 できない の? 」
「 そうねえ・・・ すぴかさんのクッキーは ・・・
あ そうだわ、お煎餅とはちょっと違うけど 甘くないの、作るわ。 」
「 わ〜〜〜 い 」
「 僕ぅ・・・ あまいのが いい 」
「 すばるクンのは いちごジャム、いれるわ。 どう? 」
「 いちごじゃむぅ〜〜♪♪ 」
「 ふふふ ・・・ さあ 二人に相談です。
お母さんは お父さんにもクッキーを作るんですけど
どんな味がいいと思う? 」
「 おとうさん? あま〜〜いの! おさとういっぱい! 」
「 そ! おとうさん にはァ おさとう と はちみつ! 」
「 ・・・ わかったわ。 めちゃくちゃに甘くしましょ。
ちょっと見ててね〜〜 材料を四つに分けまして 」
「「 ・・・・ 」」
「 こうやって〜〜〜 平らにします。 やってみる? 」
「 やる! 」
まずは すぴかが麺棒をにぎらせてもらった。
「 ず〜〜〜ん・・・って 」
「 ん。 う〜〜〜〜〜〜 」
「 あ もうちょっとチカラぬいて そうね。
それじゃね つぎはクッキーのカタチを抜くの。
これを この上において ぎゅ。 」
「 僕 やる! 」
珍しくすばるが さっと手を出した、
「 はい お願いね すばるクン 」
「 ん〜〜 ぎゅ ぎゅ ぎゅ ・・・・ 」
「 あら じょうず〜〜〜 」
「 えへへ ぎゅ ぎゅ ぎゅ ぎゅ 」
すばるは律儀にも? 端っこから丸型でクッキー生地を抜いていった。
「 あらあ〜〜 二人とも上手にできました。
それじゃね・・・ 」
― どうも この時に <お料理少年・すばる> のモトが
誕生した・・・らしい。
チビ達のお手伝いで家族用のクッキーを作り 後は < 御礼 > 用だ。
「 さあ〜て。 これはねえ チョコレートの御礼なの。 」
「 おれい? ・・・ありがと〜 のこと? 」
「 そうよ。 すぴかさんも チョコ、頂いたでしょう? 」
「 うん♪ あのね〜 ゆりちゃんがね〜 だいすき♪ って。
えへへ〜〜 すぴかもゆりちゃん すき(^^♪ 」
「 ・・・ ちょいと危ない気もするけど・・・
そのお友達に ありがとう のくっきーよ 」
「 ふうん? なにあじ? 」
「 味は 普通のバニラ味。 でもね〜 ちょっと見てて? 」
フランソワーズは 伸ばしたクッキー生地に少し大き目の型をおいた。
「 これで つくります! 」
「 ? 」
「 えい。 ・・・さあ これはなにかしら 」
「 あ ・・ あ〜〜〜 きょうりゅう? 」
「 ! きょうりゅう だあ〜〜〜 ていらのざうるす! 」
チビ達は 母が抜いた生地を見て歓声を上げた。
「 あ わかるぅ? うれし〜な〜 お母さん〜〜〜 」
「 ね ね これ くっきー になるの?? 」
「 ていらのざうるす だあ〜〜〜 ていらのざうるす〜〜〜 」
「 うふふ これを ・・・ ぎゅ・・・っとして。
ほら〜〜 どう? 」
母は チビ達の前に ていらのざうるす・くっきー になるはずの
モノを並べてみせた。
「 うわ〜〜〜〜 」
「 ・・ うわ・・・ 」
「 それでね 恐竜ですから? するどい眼・・・ って
このレーズンをはめます。 」
「 すご・・・ 」
「 ・・・ こわ ・・い 」
「 あとは背中にイガイガ〜〜 を付けて っと。
これはねえ チョコ・ペン です。 描きますよ〜 」
「 ん ・・・ うわわ すご・・・ 」
「 わ・・・ うろこ・・・? 」
「 〜〜〜〜んと。 さあ これでレンジにいれます。
どう? ていらのざうるす に見える? 」
「「 みえる〜〜〜〜〜!!! 」」
「 うふふ よかったわあ。 ねえ これをね
チョコをくださったお友達に < ありがとう > って
上げて頂戴ね 」
「 うん!! ・・・ あ でも アタシ たべたい・・・ 」
「 僕 ・・・ いっしょにあそぶ。 いっしょにおひるね する〜〜
ね〜〜 ていらクン? 」
「 いっぱい焼いたから 皆の分 ちゃんとありますよ。
さあ 上手に焼けるかな〜〜〜
レンジさんが頑張っている間に お片付け〜〜〜よ 」
「 アタシ あらう〜〜 すばる、ふいて 」
「 いいよ〜 ・・・ すぴか ここ まだアワがついてる。 」
「 あ ごめ〜〜 」
ちっちゃい手達は 案外手際よく後片付けをちゃっちゃとやってゆく。
へえ・・・?
オモチャの後片付けとかは 苦手なのに
「 二人ともお片付け 上手ねえ 」
「 あのね あのね おと〜さん がね こうやる〜って 」
「 おと〜さんが おさら きゅ きゅって 」
「 まあ そうなの。 上手上手〜〜
( ふうん・・・ ジョーのお皿洗いを見てるのね ) 」
「 えへへ 」
「 うふふ〜〜 ほら〜〜 ぴっかぴか 」
すばるは 器用にスプーンを磨いてみせた。
「 あらあら 二人とも ありがとう 」
チン ・・・ !
「 あ できた?? 」
「 できた? おか〜さん 」
レンジの < 呼び声 > に チビ達は駆け寄ってきた。
「 さあ〜〜〜 どうかな? 開けますよ〜〜 」
「「 ! 」」
いい匂いと共に ていらのざうるす は その勇姿を現した。
「 ・・・ うわ〜〜〜〜 ホンモノだあ〜 」
「 ていらのざうるす だ・・! 僕んちに いる・・・! 」
「 うん 上手に焼けたわ ・・・
すぴかさんとすばるクンが ぎゅ って型を抜いてくれたものね。
これ・・・ 二月のチョコの御礼にあげましょう 」
「 ん! ね〜 アタシたちのは・・? 」
「 ・・・ 僕のていらのざうるす・・・ 」
「 はいはい。 こっちは 皆のオヤツです。
そして これも上手に焼けたわ〜〜〜 」
下の段からは すぴか味 と すばる味 そして お父さん味 の
丸いクッキーも 登場した。
( ちなみに すぴか用のは 塩味とキャラウェイ風味 )
わああああ 〜〜〜〜〜 うわ〜〜〜〜〜
もうチビ達は ほっぺを染めて大騒ぎだ。
「 あ それからねぇ 二人にお願いがあるの 」
「 「 ? 」 」
「 あのね ありがとう のお手紙 書いてくれる?
このクッキーと一緒に チョコをくれたヒトに渡します。 」
「 アタシ かく! くれよん でかく〜〜 」
「 僕も 僕も〜〜〜〜 あ り が と う って! 」
「 画用紙、出しておくわ お願いね〜 」
「「 はあ〜い 」」
― そして
< ありがとう > の画用紙・カード付き きょうりゅう・くっきー が
出来上がった。
「 ふふん。 これだけホーム・メイド感たっぷりなモノを
<お返し> すれば 次回からバレンタイン・デー対象外 になるはずよ
ジョー? しっかり配ってね〜〜
すばるとすぴかの お友達にもね 」
コドモ達の笑顔を眺めつつ フランソワーズは密かに〜〜
にんまり していた のである が。
しっかし。 これは全くの誤算 だった
次の年の 二月中旬 ―
「 ・・・ あの さ これ・・・ 」
ジョーは またしてもおずおず・・・ 甘い匂いのする大袋を
持って帰ってきたのだ。
「 ? え。 もしかして ・・・ チョコ? 」
「 そう なんだけど・・・ 皆 が さ・・・ 」
「 ?? 」
「 あの ・・・ 来月には 恐竜・くっきー くださいって・・・ 」
「 ・・・ うっそ ・・・・ 」
う〜〜〜〜 ・・・・
あ でも 今年はすばるが手伝ってくれる かも
父親ゆずりの茶髪・少年 は 父親似の笑顔 で 無敵を誇っている。
*************************** Fin.
**************************
Last updated : 03.16.2021.
index
************ ひと言 ***********
14日の お返し・ディ に纏わる 他愛もないハナシ ・・・
こちらの世界は のほほ・・・んと 平和であって欲しいので。
きょうりゅう は 後に リュックサックにも登場します ☆