『 ウチ 』
企画 : めぼうき・ばちるど
テキスト : ばちるど
カタ カタ。 博士は手慣れた動作でパネルを操作する。
「 よし。 ワシがいないと昼間は無人になるからな。 セキュリティ・レベルを
アップしておけば 安心じゃ。 」
・・・ タタ タ。 003は滑らかに指を動かす。
「 すぴかもすばるも 今日は遅い・・・っと。 博士もお留守だし。
・・・・さ~ これで安全ね。 」
カチャ ・・・? かちゃ 009は考え考えインプットした。
「 これ でいいか・・・ 岬の一軒家だからなあ ~~
ま 泥棒だってあの坂はタルいだろうけど ・・・ 用心に越したことはないさ 」
カチ カチ カチ。 ― セキュリティは最強レベル となった。
岬に建つ、ちょいと古びた洋館 ・ ギルモア邸。
そこには ご隠居さんと思われる白髪・白髭のご老人と 彼の娘夫婦?と思われる
カップル、そして彼らの双子の子供たちが暮らしている。
地元でも < 岬の~ > の形容詞? で お馴染み、子供たちはチビの頃から
商店街のアイドルでもあった。 中学生になった今も 相変わらずの一家なのだが ・・・・
ある早春の日。 そろそろ辺りが暗くなるころのこと。
「 えっほ えっほ~~~~ っと。 あれ? 」
島村すぴかが ぎっちり編んだお下げを振り振り~~ 急坂を上ってくると。
門の前に座り込んでいる人影があった。
「 ・・・ え~~ だれ~~~ 宅配便のお兄さん じゃあないよな~~~
郵便屋さん でもないし ・・・・ え? 」
「 あ~~~ すぴかぁ~~ 」
門の前の人物が 立ち上がり手をあげた。
「 え やだ すばる?? どしたのさ~~~ 」
すぴかは学生鞄と布バッグを抱えなおすと え~~~~いっと 足を速めた。
「 すぴか~~ おそ~い~ 」
「 ふ~~~ 部活の後片付け! アンタ そこでなにやってんの? 」
「 開かないんだよ~~~ 」
「 門が?? 」
「 ち が~う~~ 玄関。 裏のキッチンのドアも テラスのサッシも。
どこもかしこも ぜ~~んぜん開かね~~ 」
「 え。 だってウチのドアはさ~~ 声 がカギだよ? 」
「 知ってるって。 だけど~~開かね~~んだよ~~ 」
「 ・・・ アンタ 声変わりしたからじゃね? 」
「 昨日は開いたよっ 」
「 じゃ アタシの美声で開けてやろう 」
「 おねげ~しますだ~~~ おだいかんさま 」
「 ふん。 この島村すぴかさんにまっかせなさい~~ 」
門を開け ― 二人は玄関の前に立った。
「 あ~~~ ・・・ ただいま~~~ すぴか で~す~~ 」
「 ・・・・ 」
シン。 ・・・・ 玄関のドアは開かない。
「 開かね~じゃね~か~~~ 」
「 おっかし~な~~ えっと。 すぴか だよぉ~~~~ 」
玄関の前で すぴかは七色の声?をだしてみたのだが。
ドン。 鉄壁のドアは ガン、として開かない。
「 じゃ 裏口! あそこはすぐに開くよ 」
「 ど~だか・・・ 」
「 アンタ 裏口、行ったの? 」
「 開かなかった。 」
「 ふん アンタ 裏口あんまし使わないからさ~ 認識してもらってないんとちがう? 」
「 使ってるって。 晩メシの付け合わせ、ほとんどつくってるんだぜ?
ゴミ出しだってしてるし~ 」
「 へ~へ~ ありがたいこって・・・ 」
ごたごたモメつつ 姉弟は勝手口へと回った。
キッチンから裏庭にでるドアは 一見、なんてことない板戸だ。
ごいんっ と 蹴飛ばせば簡単に破れそうだが ― とんでもない。
ここも音声キイにのみ反応する鉄壁のセキュリティに守られているドアなのだ。
「 あ~~ えっへん ・・・ すぴか。 あけて。 」
「 ・・・ あかね~ぞ~~ 」
「 う~~ん。 すぴかっ!! 」
「 ダメだ。 」
「 すばる、アンタやってみてよ 」
「 え~~ おっほん。 すばる。 俺 すばる。 」
「 ・・・ 開かないね~~ 」
「 ち。 どっこもダメか。 窓は~~ 」
「 む~りむりむり。 開かないって。 ガラス、割ったら
警報 わんわん~~~ だよ 」
「 だ な。 ど~すんだよぉ~~~ 俺 腹へったア~~ 」
「 アタシだってぺこぺこだって 」
「 ・・・ あ 駅チカのスーパー で なんか買ってくう? 」
「 あそこ、イート・イン スペースないじゃん。 」
「 う~~~ 」
「 それにアンタ お金 もってる? 」
「 え。 ・・・ 余分なモノはがっこうにもってこないようにしましょう。 」
「 そりゃ 小学生だよ。 ・・・ ないのか 」
「 ・・・ 今月の小遣いなんかも~ ね~よ~~ すぴか は。 」
「 あるわけ ないでしょ。 」
「 ど~すんだよ~~ 裏庭で焚火でもする? 」
「 ど~やって 火、つけるのさ? ・・・ あ。 」
「 なに?? 」
「 あるある・・・ < 避難所 > ある! 」
「 え?? どこ・・・ 」
「 こっち! 」
「 え~~~ どこ行くんだよぉ~~ すぴか~~ 」
すぴかは 薄暗くなった裏庭にぱっと駆けだした。
すばるは いっつも姉の後ろにくっついていたチビの頃みたいに 慌てて
追いかけた。
― カチャン。 ガラスの填まったドアを引っ張ってみた。
「 ここなら 入れるよ。 」
「 ここ・・・って 温室じゃん 」
「 そ。 ここは 音声対応セキュリティ じゃないもん 」
「 そりゃ そ~だけど・・・ カギ かかってるだろ
いちお~ おと~さんがカギ 管理してる・・・はず 」
「 いちお~ はね。 えへへ~~ 合鍵 あるの知ってる? 」
「 え~~ しらね~よ 俺 」
「 うっふっふ~~ アタシが ジェロニモおじさん から預かったんだ
チビのころにね 」
「 へ~~~~ 初めてきいた 俺 ふ~~ん 」
すばるは 裏庭に広がるけっこう大きなビニールハウスを見上げた。
もともとは この地に邸を構えたとき、ジェロニモ Jr. が丹精をして
作り上げた ホット・ハウスだ。
中には 張大人の貴重なハーブ畑もあり、島村さんち の朝サラダは
ほぼここから調達している。
「 えっと・・・ 」
すぴかは 温室のドアの前でうろうろ・・なにかを探している。
「 なあ。 今、ここも カギ かかってるよ? 」
「 だいじょうぶ~~ アタシ、 合鍵の場所、しってるし~~
チビのころ、アタシが決めたんだもん。 」
「 合鍵 ・・・ ずっとおんなじ場所なわけ? 」
「 変えるヒトなんていないもん 」
「 ふ ~ん ・・・ 」
すぴかの後ろで すばるはとんとん・・・足踏みをしている。
「 あ 寒い? 」
「 う ・・・ ううん! 平気さ! 僕、パーカーだけなんだ ・・・ 」
「 こん中ならへいきだよ。 ちょいまち~~~ 」
「 ・・・ 」
すぴかは ドアの前にしゃがみ込むと入口のところに敷いてあるタイルをなでる。
「 え ・・・っと。 たしか このヘン・・・ 」
薄暗くなった中、すぴかの指は丹念にさぐってゆく。
カタ。 タイルが一枚 動いた。
「 あ。 ここだ! ・・・・ あった~~~ ほら! 」
泥だらけの指が 銀色の鍵を摘みあげた。
「 わ! ・・・ それで あく? 」
「 ん。 大丈夫だよ。 えっと・・・ 」
すぴかは 鍵穴にそのちっこいカギを差し込むと えいっ と ひねった。
かちゃ。 キ ---- ・・・
温室のドアが 開いた。
「 わ~~~~~ あいたよ~~~ すばる はいろっ 」
「 うん! ・・・ あ あったか~~~ 」
「 ほわ~~~ん だね~~ あ ちゃんとドアしめて 」
「 う うん・・・ かち・・・っと。 電気 つく? 」
「 あ~~ ここはつかないよ。 あ~~ おなか すいたな~~
ねえ イチゴ たべよっ 」
「 え いいのかなあ 」
「 だってもうこんな時間だよ? ここはウチの温室だし~ 」
「 ま ね。 えっと いちご~~~ は 」
「 トマトの向こうだよ~ けっつまづくな~ すばる~ 」
「 う うん 」
すぴかとすばるは 温室の中をそろそろと進んでいった。
そもそも その日 ― 岬の 島村さんち の家族は皆 出払っていた。
中学生の双子、すぴかとすばるは 当然学校。 出版社・編集部勤務の父は 帰宅はいつも深夜。
母は所属しているバレエ団のジュニアクラスの代講を頼まれていた。
そして 双子の < おじいちゃま > ギルモア博士は 数日前から学会出席のため
渡米していた。
― で。 どこもかしこも ドアが開かないのだ。
ガサ ・・・ ゴソ ・・・
「 あ ここ! イチゴの畝だよ。 ふ~~ん いいニオイ~~ 」
「 ふんふん~~? あ ホントだあ あまぁ~くオイシイぜぇ きっと。
あ すぴか~~ 甘いの、ダメじゃね~の? 」
「 果物は別! ほら たべよ 」
「 うん。 あ ここ 座っても平気かなあ 」
「 そっちの藁の上なら平気だよ。 あ プチ・トマト も採ってこよ
キュウリもいいかも~~ すばるもたべる? 」
「 ・・・ 僕 イチゴだけでいい 」
「 ふ~~ん 相変わらずの野菜嫌いなんだね~~ 」
「 い~じゃん、弁当はちゃんと食ってるだなからぁ 」
「 へへ~ 毎朝 サラダが食べれなくて おか~さんを怒らせてたの だ~れだ 」
「 ふ ふん ! ・・・ あ イチゴ うま~~~~ 」
「 ん~~~ おいし~ね~~ 」
制服姿の双子は 真っ暗な温室で藁の上に座り込みイチゴを食べていた。
まだ春も浅い夕暮れ ― 温暖な地域といえども 深々と冷えてくる・・・
「 ね~ お父さんのけ~たいさあ 」
「 電源が入っておりません 」
「 ・・・ おか~さんのは? 」
「 現在でんわにでられません。 メールはばしばし送ってるけど 返事なし。
たぶん おか~さんは 」
「 あ。 け~たい 忘れてった? 」
「 多分 な。 おか~さん、け~たい とかあんまし好きくないだろ 」
「 あ~ そだね ・・・ おと~さんとはなぜか情報交換、できてるんだよね
フシギと・・・ 」
「 ま~ アレじゃないっすか ふ~ふの以心伝心 」
「 なに それ~~~ 」
「 ま あの二人の間にはクチバシをつっこまん方がい~んでね? 」
「 そ。 ・・・ あ~~ お腹 減ったぁ~~ 」
すぴかは う~~~ん! と 伸びをする。
温室は 外よりは温かいけれど この季節、陽が落ちればやはり冷えてくる。
「 ・・・ はっくしゅっ !! 」
「 あれ すばる 寒い? こっちくる? 」
「 ん ~~~~ 」
双子は いつもくっついていたチビの頃みたいにぴとっと接近して座った。
「 う~~~ ・・・すぴかってば 寒くないわけ? 」
「 アタシはぁ~ ひ~とてっく 着てるもん。 ってか きなさい~~~って
おか~さんがウルサイから ホントはイヤなんだけどさ~~ 」
「 ふ~ん ばばしゃつかあ 」
「 好きくないんだけどさ。 オンナノコは・・・ が口癖でしょ おか~さん 」
「 少々 セクハラ ですな 」
「 アタシもそう思うけどね 」
「 ま 今日は正しい意見だったってことか 」
「 そ~なりますかね 」
「 だけどぉ~~ なんだって今日に限って ドア 開かないわけ? 」
「 多分さ~~ おじいちゃま が セキュリティ強化してったんだよ 」
「 昨日までふつ~に開いたじゃん 」
「 そだけど ・・・ 昨日までは 通常タイム に帰ったからじゃない? 」
「 けどぉ~ ちゃんとさ~ 部活で遅くなるっておか~さんに言ったぜ? 」
「 アタシだって言ったよ。 おか~さん も わかったわ~~って
」
「 じゃ なんでどっこも開かないわけさ? 」
「 知らないよ~~ アタシ 機械じゃないも~~ん
ウチのセキュリティ・マシン はさ 融通がきかんのよ 」
「 あ ・・ う~~ 文明の利器は不便だのう~~ 」
「 だ ね。 」
やれやれ ・・・ 姉弟はため息を吐き合う。
「 ・・・ ムカシもこんなこと あったね~ 」
「 え? ・・・ あ そだね~ 小学生の頃でしょ 」
「 そ。 ウチに入れなくてさ~~ すぴか ってば 外から二階に登ってさ~
おと~さん すっげ怒って 」
「 そ~ そ~~ あはは ・・・ お父さん、血相変えてとんできたっけ 」
「 も一度、 登ってみる? すぴかの部屋の窓、鍵、開いてるんだろ 」
「 ・・・ やめとく。 あん時、 お父さんってばめっちゃ怖かったもん 」
「 だ ね 」
クスクスクス ・・・ へへへへ ・・・・
― そう 二人がまだ小学校に上がる前。
「 すばる~~~ はやくぅ~~~ 」
「 う うん ・・・ 」
すぴかは坂の途中で 立ち止まり 下を見ている。
「 おそ~い~~~ すばる~ 」
「 お おそくないもんっ 」
「 おそいよぉ~~ もぉ~~~ 」
すばる は 顔を真っ赤にしてえっちらおっちら登ってくる。
背中には小さなリュックが - それなりにパンパンのリュックが背負われている。
「 おも ・・・ い んだもん ・・・ 」
「 アタシだって りゅっく! 」
すぴかは 同じ日に生まれた弟に自分の背中を見せた。
「 アタシのりゅっく、じゃがいもさん と おみかんだよ ! 」
「 僕 ・・・ おりんご と おさとう 」
「 ほ~ら~~~ はやくぅ~~ 」
「 う~~~ 」
えい、と すぴかは弟の手をつかんだ。
「 ゆくよ~~~ おつかい~~~ おつかい もうちょっとぉ~ 」
「 あ ・・・ う~~~ 」
「 えいほ えいほ ~~~ すばる~ がんばれ~~~ 」
「 う ・・・ あ~~ ・・・ 」
すばるは 姉にひっぱられ、なんとか坂をのぼり切った。
「 すぴか~ すばる~~ 」
お母さんが呼んでいる。
「 なに~~~ おか~さん 」
「 おか~さ~ん 」
庭で遊んでいた双子はたかたか ・・・ 母の元に駆けてきた。
「 あのね、二人とも。 お使い、頼んでいいかな~ 」
「 おつかい? 」
「 そう。 下の商店街まで行って お買い物をしてきてほしいの 」
「 おかいもの?? わ~~~ なに~~ 」
「 ええ あのねえ ・・・ 」
そして 二人は小さなりゅっくを背負い、手をつないで
地元の商店街まで お使い に出かけたのだ。
「 ばいば~~い 」
「 はい まいどありがとう。 すぴかちゃん すばるくん、気をつけて
おうちに帰るんだよ~~ 」
「 うん! やおやさんのおじさん~~ 」
「 あ ほら これ! オマケよ。 バナナね~ すぴかちゃん。
すばる君 」
「 やおやさんのおばちゃん ありがと~で~す~~ 」
双子は ちっっこいリュックをパンパンにして ぺこり、おじぎをした。
「 お~~ 可愛いなあ~~ またきてね 」
「 はあい~~ ♪ すばる かえろ 」
「 は~い うん すぴか~ 」
お母さんのお使い で じゃがいも と みかん と りんご と 砂糖を
買ってきた。
就学前のチビには結構な重量である。
二人は ちっちゃな手をひっぱり合いつつ 坂の上まで登ってきた。
キ ィ ・・・・ 門は軽く押せば開く。
てこてこ~~ 玄関までやってきた。
「 ただ~~~いまあ~~~ おか~~~さ~~~ん 」
「 おか~~さん~~~ すばる~~~ 」
し~~~ん ・・・ 玄関のドアは開かない。
「 おか~~~さ~~~~ん ・・・ っ!! すぴかっ !! 」
すぴかは声を張り上げ きんきん声で叫んだ。
「 ・・・ おか~さん ・・・ すばる ・・・ いれてぇ ・・・ 」
すばるはもう半分 涙声になっている。
「 おか~~さ~~~ん おでかけ? 」
「 ・・・ おか~さん いれて ・・・・ いれてぇ 」
「 ん~~ すばる こっち! 」
「 おか・・・ え? 」
すぴかは ベソをかいている弟の手をつかむと ずんずん庭にひっぱっていった。
「 すばる。 これ もってて 」
どん。 すぴかはリュックを弟に押し付けた。
「 う ・・・? 」
「 アタシ。 かぎ あけるから 」
「 ど~やって ・・・ 」
「 アタシたちのへや、 まど からはいる。 」
「 ・・・ 僕たちのへや にかい ・・ 」
「 ウン。 ここのやねにのぼって べらんだからはいるね アタシ。 」
すぴかは テラスの屋根を見上げている。
テラスには かなり広く屋根が付いているのが その先を辿り
さらに 壁にへばりついて進むと 子供部屋のベランダがある。
「 すぴか ・・・ のぼれる? 」
「 できるっ アタシ なんかいものぼったこと あるもん。 」
「 あ~~~ おか~さんにしかれるぅ~~~ 」
「 じゃ すばるはおウチにはいらなくてもい~んだ? 」
「 ・・・ や やだっ 」
「 じゃ ここでアタシのりゅっく もってて。 」
「 ・・・ う うん ・・・ 」
「 そんじゃ~ ね~~~ 」
キュ きゅきゅ ・・・ 運動靴を鳴らして すぴかはテラスの柱を登り始めた。
「 ・・・ すぴかぁ ・・・ 」
すばるは 姉のリュックをきゅ~~っと抱きしめつつ 彼女を見つめていた。
その頃 ― おと~さんとおか~さんは 裏庭の温室の中にいた。
「 あら ずいぶん温かいわねえ 水やりは大丈夫かしら。 」
「 うん ・・・ お ? なんかいいニオイ・・・? 」
「 あ きっとイチゴじゃない? 」
「 へえ・・・? 」
「 チビたち、帰ってくるよね 」
「 まだ大丈夫。 多分いまごろ、商店街を出たころよ 」
「 < 見た > ? 」
「 い~え。 母のカンです。 ね イチゴ、すこし摘んでゆく? 」
「 お いいねえ 」
「 わあ~~ 真っ赤よぉ~ 甘い香り~~ 」
「 ホントだ。 一口~~ 」
イチゴを摘まむフリをして ジョーはフランソワーズの唇を盗んだ。
「 ・・・ あ。 ん~~~~ ・・・・ もう ・・・
わたしはイチゴじゃありません~~ 」
「 ふふふ~~ん♪ ここにも美味しいイチゴがありました 」
「 うふふ~~ 摘み喰いはイケマセン~~ 」
「 それじゃ~~ ちゃんと頂きまっす♪ ん~~~ 」
ジョーは がばっと彼の愛妻を抱きしめるとあつ~~くキスをした。
う・・・・ふ~ん ♪
・・・ んん ~~~~
ちゅ。 ちゅっ うふふ あは クスクスクス ・・・
子持ちの二人は恋人同士にもどり いちゃくちゃ・コソコソ~~
人目もない温室の中で戯れていた。
― あ ・・・!
「 ! すぴか・・・! 」
突然、 フランソワーズはジョーを押しのけた。
「 え!? 帰ってきたのかい ずいぶん早いねえ 」
「 わ! た たいへん~~~~ 二階のベランダっ 」
「 二階の? 」
「 外よ 外っ!! ベランダの外に張り付いてるぅ~~ すぴかってば! 」
「 な に !? 」
ジョーとフランは 温室から駆けだした。
外は少し気温が下がっていたが そんなコトはもうどうでもいい。
恋人同士は父と母にもどり、表庭に駆けこんだ。
「 ・・・ あ おか~さん おと~さん~~ 」
テラスで すばるが姉のリュックを抱えベソをかいている。
「 すばるっ すぴかは 」
「 ・・・ あっち 」
すばるは 二階を指す。
「 あっち? ― あ ~~~~ なんかいる? 」
「 ジョー! 外側にいるっ テラスの屋根から上ったんだわ きっと
」
「 ! あ~んのぉ お転婆がア~~~~~ !!! 」
ジョーは 血相を変え 地を蹴って009のジャンプをしようと ―
「 だ めっ! 」
ガクン ・・・ ! 彼はシャツをがっちり後ろからつかまれつんのめった
「 !! お おい?? 」
「 だめよっ! どこの世界に 10メートル以上もジャンプできる父親がいる?
すばるが見てるのよ 」
「 けど! すぴかが ~~~ 」
「 今は ― 大丈夫。 しっかり捕まってるから。
でも 手が疲れてきたら危ないから ・・・ ジョー はやく 」
「 だから 今 跳んで~~~ 」
「 ウチに入って! 中からすぴかを掴むのっ ! 」
「 あ ・・ な~る ・・・ほど 」
「 わたしがナヴィ するから。 」
フランソワーズはつんつん・・・と自分のアタマを突いた。
≪ 脳波通信で送るから ≫
≪ 了解。 ≫
ジョーは脱兎のごとく家の中に駆けこんだ。
「 おか~さん ・・・ おと~さん は 」
「 今ね おとうさんがすぴかをちゃんと部屋に入れるからね。」
「 おうち、はいれなかったんだ ・・・ そしたら
すぴかが にかいからはいるって 」
「 そうなの・・・ ごめんね~~~ すばる~~ 外からロックしていたの
二人はまだ帰ってこないと思ってて・・・・ ごめんね~~ 」
フランソワーズは きゅう~~~っと息子を抱きしめた。
「 えへ ・・・ 」
「 ・・・ あ。 すぴか お部屋に入ったわよ 」
「 ほんと? 」
「 ホント。 お父さんがちゃんと抱っこして入れてくれたわ。 」
「 わあい。 おか~さん 僕 おなかすいた 」
「 あら そうね。 オヤツにしましょ。 さあさあ 」
フランソワーズはすばるを抱っこしたまま リビングに入っていった。
クスクス ・・・ へへへ・・・ 薄闇の中で姉弟は笑い声を上げる。
「 あは・・・ そ~だったね~~ 」
「 あの時さ。 アタシ、 初めてお父さんに真剣に怒られた~
アタシ、ベランダの外に張り付いてたらさ、 がっ! って 首根っこ掴れて
ぐ~~~~っと持ち上げられて。 にゃんこみたくに 」
「 へえ・・・ 」
「 お父さんさ、アタシをそのまま きゅう~っと抱きしめてさ。
そんでもって ・・・ 叱られらんだ。 アタシ。
おと~さん、本気で怒ってて・・・ めっちゃこわかった 」
「 あ~ 俺も覚えてるもんな~ ホント、あのとき、おと~さん、
怖かった 」
「 ん ・・・ ま~ね マジ、ヤバかったわけだし~ 」
「 あは。 な~ 今でも窓の鍵、しめてないわけ? 」
「 あ? うん。 」
「 じゃ すぴかの部屋からなら入れるじゃん~ 」
「 アンタ、二階まで登る? テラスの屋根から壁伝わって行くんだよ?
・・・ おっこちたら 」
「 や やるわけね~よ 俺、怒られるの、ヤだもん。 」
「 あは 今度は おと~さん、アンタのこと、殴るかもね~ 」
「 じょ~だんじゃね~よ ってことで おと~さん達が帰ってくるまで
俺ら ここにいるっきゃね~な 」
はっくしゅ・・・! すばるは また大きなくしゃみをした。
「 やだ~~ 寒いんでないの? ほら もっとこっちきて 」
「 う~~~~ セーター 着とくんだった・・・ 」
「 ま おか~さんの言うコトはいちお~ 聞いたほうがいいってこと。 」
「 ちぇ・・・ 」
「 今晩中には帰ってくるよ 」
「 あたりめ~だろ~~ 先におか~さん かな~ 」
「 たぶん。 あ イチゴ もっとたべる? 」
「 も~いい・・・ もっと腹に溜まるもん、くいて~~ 」
「 へ~え 甘党のアンタがそんなこと、いう? 」
「 すぴかだって腹ペコだろ。 」
「 トマトとキュウリ、食べたもん。 」
「 は。 な~~んもつけないでよく食えるなあ 」
「 そのまんまの方が美味しいんだよ~ 野菜は・・・ 特にウチのはね 」
「 へ~~え ・・・ 」
すばるは ぶちぶち言いつつ、携帯を取りだすともう一度、父にメールを送った。
キンコン !!!!! 今度は即行で返信が来た。
「 うお?? ・・・ あは おと~さん 帰ってくるってさ~ 」
「 そ? ・・・ じゃ~ あと・・・一時間くらい、か 」
「 だ ね 」
ふぁ~~~ ・・・ すばる、大欠伸。 すぴかもなんとなく眠くなってきた。
プァ ~~~~~ ッ !!
三十分も経たないうちに表から聞きなれた車の音が聞こえた。
「 すぴか~~~ すばる? どこ? 」
「 すぴか すばるっ 返事しろ~~ 」
表で聞きなれた声がする。
「 ・・・ あ。 帰ってきた ! はやっ。 すばる~おきろっ 」
「 ・・・ う・・・? 」
「 う じゃないよ~ お父さんたち 帰ってきたよっ 」
すぴかは寄りかかり居眠りしていた弟を がんがん揺さぶった。
「 ・・・ ふぇ ・・・ 」
「 おと~~さ~~~ん ここ~~~~ 」
「 う わ 」
すぴかは大音声で叫ぶと ぱっと立ち上がった。
「 お・・っとぉ~~ 」
「 ほら ゆくよっ! あ ドア ちゃんと閉めてよっ 」
「 あ うん ・・・ うわ~~~ ワラだらけ~~~ 」
ぱんぱん ズボンを払っている弟をほっぽりだし、すぴかは温室から飛び出した。
「 ひえ ・・・ さむ~~~~ おと~~さ~~~ん ここっ 」
「 すぴか~~~~ 」
ダダダダダダ ~~ ・・・ お父さんはかなりの速度で走ってきた。
父と母は一緒に帰ってきた。 なんとな~~く父からは焦げ臭いニオイがした・・・
「 すぴか~~~ ごめん ごめんな~~~ 」
「 おと~さん お帰りなさいっ 」
きゅう~~~。 ジョーは かなり久々に娘を抱きしめた。
「 ・・・寒かっただろう? ごめん ごめんな~~~ 」
「 えへ・・・ あ お母さんは? 」
「 いるよ 一緒に帰ってきたから ・・・ あ すばるは? 」
「 いるよ~~ まだ温室かな 」
「 温室? あそこにいたのかい 」
「 ウン。 あそこの合鍵の場所、 アタシ知ってるから 」
「 そっか~~ あ すばる~~ 」
「 おと~さん おかえり~~ 」
「 すばるっ !!! 」
お母さんが駆け寄ってきて 息子を抱きしめた。
「 あ は ・・・ ちょ・・・ やめよ~よ おか~さん ・・・ 」
「 ごめんね~~~ ごめんね すばる・・・ 」
「 おか~さんったら 携帯 忘れてったでしょ~ ウチにさ 」
「 そうなの・・・ もう 本当に忘れん坊でだめねぇ お母さん ・・・ 」
「 ま~ もう慣れてますから 」
「 すばる ・・・ 」
「 おか~さん すばる~~ オヤツ 食べようよ 」
「 ええ ええ そうね。 焼きおにぎり つくるわ! すぐにつくりから! 」
母は ぱたぱた・・・家の中に駆けこんだ。
「 ど~やって連絡取りあったのかね? あの二人・・・ 」
「 う~~~ん? あ あれだよ、 ふ~ふの以心伝心 」
「 だ ね。 ま 理解ある子供たちとしては しらぬフリをしよう 」
「 そ~しよ~~~ あ おか~さんっ アタシ、梅干し、塗って~~ 」
「 僕~~~ 鯛味噌ぬって~~~ 」
双子は ちっちゃな・すぴか と カワイイ・すばる の顔になり
キッチンに駆けていった。
― その夜。 コドモたちが寝静まった後・・・
ジョーとフランソワーズは夫婦水入らずで ブランデイなんかを楽しんでいるのだが。
「 トリプル・ロック じゃ 簡単には開かないわよねえ 」
「 あは。 そうだねぇ ちゃんと報告をしましょう、ってことか。 」
「 そ。 家族の間でも ね。 」
「 うん ・・・ 手動式って便利かもな 」
「 そうよねえ ・・・ 合鍵、隠しておけばいいんですものね。 」
「 すぴからしいよ ・・・ 」
「 ふふふ・・・ 最新式って欠点あり、だわ。
・・・ ねえ それでもやっぱり脳波通信って貴重よねえ 」
「 え うん ・・・ 」
「 ねえ 仕事中、いつもオフにしているの? 」
「 スマホ? 」
「 うう~~ん 脳波通信 よ。 」
「 ウン。 ・・・ あのなあ オンにしとくと こう・・・雑音が入ってきて
集中できないんだ。 」
「 あ わたしもよ。 だから スマホとかあまり持ちたくないのね 」
「 波長、合わないのかなア 」
「 ・・・ スマホとか BGの設定にはなかったんじゃないの? 」
「 想定外ってヤツか 」
「 そ。 」
「「 博士に 要・改良! って お願いしなくちゃね 」」
***************************** Fin.
***********************
Lastupdated :
03,20,2018.
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