『  あなたの虜  』  

 

 

 

                                       企画 : めぼうき   ばちるど

 

 

 

  ダダダダダ ・・・・ !  

 

すご~~い足音が バレエ団の廊下を駆け抜けてゆく。

「 ??  ・・・?? 」

事務所のヒトがびっくりしてドアを少し開け ―  呆然とした顔になり

やがて小さなため息をつくとそっとドアを閉めた。

 

  ダダダダ ・・・  足音はずっと廊下の奥までとまらない。

 

突き当たりは衣装部屋と倉庫で その手前には普段は自習用になっているあまり

広くないスタジオがある。 

  ダ。 足音はそこで止まり  ばんっ!  ドアが開いた。

 

「 な! フラン~~~  俺! 俺がやるから~~~ 

足音の主は ドアを開けるなり叫んだ。

「 ???  た たくや?   な なんなの~~~~ 」

「 や 山内くん???   わ~~~ びっくりしたぁ・・・ 」

スタジオの中で 稽古着のまま話をしていたらしい女性が二人、びくっとして

ドア口をみている。

「 ・・ あ~~  サトウさんもいたんだ~ お久~~~っす。 」

足音の主、 いや 山内タクヤ は ぺこん、とアタマを下げた。

「 タクヤってば ・・・ どうしたの? あ 今朝のクラス いなかったわよね? 」

「 あ~~ あ~~ ちょっち寝坊・・・ いや! 過去のことはもういいんだ。

 それよりも未来に目を向けよう 

「 な~に言ってるのよ  レッスン、サボって~~~ 」

「 ま~ いいっていいって。   な それよりさ~~ サトウさん、 

 教室の発表会 ・・・ なんですよね? 」

青年は やっと落ち着いて話始めた。

「 え~ そうなのよ~  ま チビたちのお楽しみ会 よ 

「 そんなこと、ないでしょ? フラン・・・ いや フランソワーズさんから

 聞いてます。 」

「 うふふ・・・ いつもの通りでいいの、タクヤ。 よそ行きじゃなくて・・・

 メグミ先輩はここの出身だもん。 」

「 そ~ そ~ タクヤ君とはすれ違いかな~~~ ワタシもさんざんマダムに

 怒鳴られて 泣きました。 」

「 え~~~~ そ そう?? 」

「 そ。 初めての GP の時は スタジオ・リハでわ~わ~泣いたもの。 」

「 え・・ 」

「 皆 泣かされてるでしょ?  フランソワーズだって 

「 ええ ここに来た初日はね~ 更衣室に飛びこんで大泣きよ 」

「 え ・・・ そ そうなんだ? 」

「 そ。  だから普通に話して? 」

「 は はい ・・・ いや わかったデス。  それでさ~~~ 

 サトウさんとこの舞台だけどぉ~~ 」

タクヤは でっかいバッグを床におくと彼自身もその脇に胡坐をかいた。

 

 

 ― ハナシは 数日前に遡る。

 

「 う~~~ん ・・・? 」

バレエ団の廊下の隅で 金髪美人が荷物を広げて居る。

「 えっと ・・・ あとはコドモたちに連絡して・・・ 男性たちに連絡 か。

 あ~~~ どうしようかしら 

小ぶりなノートとスマホを睨みつつ 彼女はため息吐息 だ。

 

  ふん ふん ふ~~~ん♪  陽気なハナウタ気分で青年が更衣室から出てきた。

 

「 あ~~~ バイトまでちょっち時間あんな~~ ふんふん~~   お? 」

昇降口に出ようとして 彼の視線が廊下の奥に向いた。

「 あ れ?  フラン~~~  まだいたんだ?? 」

たちまち方向展開し 彼はぶらぶら ― 気分的には転がる想いで ― 金髪美人の

元に歩いてゆく。

「 ? あら タクヤ。  ええ ちょっといろいろ忙しいの  

「 ふうん? あ  すばるクンやすぴかちゃんのことか? 」

「 ちがう・・・ こともないわね~~ 」

「 あ 俺 聞いてもいいか? 」

「 別に気にしなくてもいいのよ。 プライベートなことじゃないから・・・ 

 実はね すぴかが通っているバレエ教室で 発表会があるんだけど 」

「 へえ?  すぴかちゃん、がばてるんだなあ  で なに? 」

「 『 眠り~  』 よ。 」

「 お~~  あ どこで習ってるんだっけ?  地元? 」

「 そう・・・ 遠くまでは通えないし・・・ 学校の近くにね

 サトウ・メグミ先輩のお教室があって ・・・そこのジュニアクラスに通っているの。 」

「 ふうん ・・・ おか~さんの後を追うのか 」

「 さあ どうかしら・・・ あの子 イマイチ熱意ないみたい。

 跳んだりはねたりが好きだから バレエやってる・・・・って雰囲気だから 」

「 あはは そんな感じもあるなあ  でも その発表会、出るだろ 」

「 ええ。 一応全員参加だし。 わたしもできるだけお手伝いするし。 」

「 ふうん・・・ 発表会って裏方さんとか先生が大変だよな~

 あ  なあ~~ オレ、賛助出演 しよっか?? オトコ、いるだろ? 」

「 まあ タクヤ。 ありがとう、でもね~ タクヤと組めるほどの子はいないのよ 」

「 え ・・ だって 『 眠り~ 』 やるんだろ? 」

「 そ。 三幕だけよ、『 オーロラの結婚 』 ですもの、オマツリね 

「 だったらさ~~ GP とか~~ 」

「 オーロラは主宰のメグミ先輩が踊るし ブルーバードはジュニアのトップがやるわ 」

「 ふ~~ん ・・・ あ フランは?? ゲスト出演するんだろ? 」

「 い~~え とんでもない 裏方で大忙しよ。 メイクから大道具から衣装から

 なんでもかんでもやるわ。 」

「 ふ~~~ん ・・・ あ すぴかちゃんは?? 」

「 すぴかは ね~ 初めて組むのよ 」

「 お~~~~  誰と?  初めてなら 『 ブルーバード  』 か?  」

「 それが ・・・ なかなか決まらなくて 頼めるヒトがねえ~

 あ まだまだまだ よ。 すぴかは 『 ブルーバード 』 なんか踊れないの 」

「 なら!  俺!  俺がやる。 俺しかいないって 」

ばっと タクヤは立ち上がり 実に丁寧に、そして王子サマ然とレヴェランスをした。

「 え・・・ でも ・・・ 」

「 オレが! どんな役だって すぴかちゃんを最高に素晴らしく踊らせてやるよ! 

 なあ~~~ 友情出演させくれ~~~ 」

「 ・・・ だって・・・ 山内タクヤ君 にはとても頼めないわ 」

「 なんで??? オレじゃ頼りないってか??  あ ! それとも

 旦那が許さんのか?? 

 あのヤロ~~~ ・・・・ と タクヤは密に毒づいた。

 

   可愛いムスメが最高に輝くのを みたくねえのか!?

   俺に 可愛いムスメの手をとらせたくねえってのか~~

 

   くっそ~~~ ちっせ~~ぜ 島村旦那よ~~

   俺は! アーティストとして 島村すぴか嬢の手をとるんだぞ?

   な~~にゲスな気 回してんだよ~~

   俺様は ロリじゃねえぜ。  ・・・ 年増がい~んだ・・・

   うにゃにゃ!  な なでもねよ!

 

一人で赤くなったり青くなったりしている青年を 金髪美人はふしぎ~~~な顔で

眺めている。

 

「 ??? なんで ジョーがでてくるの???  ジョーはな~~にも知らないわ

 発表会のハナシなんてしたってチンプンカンプンよ  」

「 へ?? ・・・ じゃあ なんでだよ~~~ 」

「 だって。  天下の山内タクヤ君に 

 

       ― オオカミ なんかやらせられないわ! 」

 

「 ! あ  ・・・   赤頭巾ちゃん  かあ ・・・ 」

  ぺたん。  タクヤは 床に座り込んだ。

 

 

 ***** いらぬ注

『 眠りの森の美女 』 第三幕 は オーロラ姫と王子の結婚式。

作者であるシャルル・ペローの作品の主人公たちがお祝いに駆け付けます。

「 赤頭巾ちゃんとオオカミ 」 「 シンデレラと王子 」 「 長靴を履いた猫と白猫 」 などなど・・ 

それぞれ短い踊りを披露。

『 赤頭巾ちゃんとオオカミ 』は コミカルな踊りであまりテクニックはいりません。

 そして! オオカミは被り物をしているので顔は見えませぬ~~

 

 

 

・・・ そんな経緯があったのだ。

ハナシを聞いた日、タクヤは そっかあ~~ ・・・ と少々落胆した面持ちで

大人しく帰っていったのだが。

 

「 この前も話たけど。 タクヤにはとてもお願いできないわ。 

「 いいや!  なあ 俺、オオカミ やる! 」

「 え・・・ なにいってるの? 」

「 うふふ~~ すぴかちゃん 可愛いものね~~ 」

サトウ先輩は や~んわり場を取り繕う。

「 あ~の跳ねっ返りが・・・ でもね 困ってるの! 相手役。 ベテランさんには頼 めないし。 

だけど アレって結構演技力いるでしょ? あんまり若手さんには ねえ 

「 そうなのよね  コミカルな役ってムズカシイのよ。

 演技も必要だし 勿論ちゃんと踊る必要もあるし ね 」

「 そだな。  ―  うん 決めた! 」

「 は? 」

 すっく とタクヤは立ち上がる。

「 フランソワーズさん。 僕に すぴかさんと組ませてください。

 しっかり オオカミ を 踊らせてもらいます。 

「 た タクヤ ・・・ 本気??? 」

「 ああ。 俺 ウチで考えて・・・俺しかいない!って決心したんだ。 」

「 え 本気の本気なの?? 」

「 マジ。 超~~~ ホンマジさ。 俺のダンサー生命を掛ける! 」

「 ・・・ そんな意気込まなくていいのよ  」

「 いや! ここが勝負どころ さ。 いろんな役 出来るってこと見せてやる。

  がんがん跳んでぶんぶん回るだけが 山内タクヤ じゃね~ぞ。

 あ なあ どこ版でやるのか? 」

「 ああ このスタジオ版よ。 つまりオペラ座版ってこと 」

「 あ~ それなら俺もDVD持ってるぜ。  しっかり予習しとくぜ。  音は?  」

「 あ もうできてるから・・・明日もってくるわ 」

「 サンキュ。  お~し! ほんじゃ~ とっとと帰ってフリを

 叩きこんでくる。  な リハは? 

「 あ まだスケジュール決めてないの。 ごめんなさい、早急に決めますね。

 山内クンの NG日 教えてください。 」

「 あ え~~と ・・・ 」

青年はゴソゴソ・・・ スマホとスケジュール帳を取り出しめくりはじめた。

 

「 え~ と  了解しました。 じゃ なるべく早く連絡しますね 」

「 よろしくっす!  フラン~~~ すぴかちゃんにヨロシクう~~~ 

「 ありがとう タクヤ! も~~ すぴかにはし~~~っかり振り、叩きこんでおくから 」

「 いやあ~~ すぴかちゃんなら大丈夫さ。 ほんじゃな~~ オレ バイト

 行くから ~~ おっさき♪  」

「 ええ ありがとう~~ 」

「 ありがとう、山内くん 

 

  ふんふんふ~~~~ん !

 

タクヤは廊下で オオカミ のステップ? を踏みつつ~~歩いていった。

 

「 なあに・・・?? ま~ ホントにオカシナ坊やだこと・・・ 」

主宰者のマダムが 苦笑して自室のドアを閉めた。

 

 

さて その日、島村さんちでは夫婦が遅い夕食を囲んでいた。

「 へえ~~~  すぴか達の発表会かあ 」

「 そうなの。  あ 当日 クルマだしてくれる? 荷物運びしてほしいの 

「 おっけ~~ まかしとけって。 で すぴかは ? 

「 え? 元気よ 」

「 そ~~いうことじゃなくてって すぴかが元気なのはよ~~くわかっているって。

 で さ すぴか はなにを踊るのかい 」

「 え ~と ね。 今回はね ジュニア・クラスもシニア・クラスも合同で

 一つの演目を踊るの  

「 ふ~~ん 大々的なんだね で なにを踊るのかい 」

「 え~ それでね ・・・ コンサート形式じゃなくて皆でひとつの舞台を

 って方向なんですって。 」

「 ふうん。 きみの友達・・・先輩だっけ? チャレンジなんだな 」

「 そうよね~ だからわたしもできるだけ応援したくて 」

「 そうそう そうしたほうがいいよ。  で 演目はなんだい 」

「 ・・・ え~と 『 眠りの森の美女 』 は知ってるでしょ? 」

「 うん おーろら姫 だろ?  ぼくだってそのくらいしってるよ。

 あ  きみ  あの、 ・・・アイツとさ  何回か踊っただろ~ 」

「 ああ タクヤとね~ ぁでも 今回はね~  < オーロラの結婚 > って

いって・・・三幕だけ やるの 」

「 ??? そういうの 可能なのかい 

「 うん。 ちゃとしたプロの舞台でもね よく上演されるの。

 いろいろな踊りがあって お客さんが見ていても楽しいのよ。 」

「 ふうん ・・・ そりゃ楽しみだねえ  なんだっけ ・・・

 きみの先輩の先生も踊るのかい。 

「 そ。 メグミ先輩はねえ GPよ、バレエ団からゲスト出演のベテランの方と。 」

「 そうなんだ? 楽しみだねえ  で すぴかは? 」

「 え~~ 今回はねえ  ジュニアたちもいっぱい踊のよ~~ 

 だからわたし、も~~お手伝いでた~いへんなの~~ 

「 そっか がんばれ~~~  それで ウチのお嬢さんは?  

「 ・・・ え ? すぴか? 」

「 そう。 すぴかはなにを踊るのかな 

「 すぴかは ねえ。  今回初めて男性と組むの。 」

「 お~~~ すぴかもついにお母さんの後を継ぐんだね~~~ 

 なにを踊るのかい お姫さま?? 」

「 ・・・ お姫さま ・・・とはちょっとチガウかな ・・・

 あ でもねえ 日本ではバレエ団とかの若手で一番カワイイ子が

 踊る役なんですって。 」

「 お~~~ さすが~~ ぼくの娘だなあ♪  で  演目は?

 あ 相手役は 誰なんだい 

「 あ~~~ 相手役 はねえ ・・・是非すぴかと組みたいっていってもらえて 」

「 お~ さすが~~~ きみの娘ってことだなあ♪ で 誰なんだい  

「 ・・・ え~~ 有名な男性ダンサーよ 」

「 へえ ますますスゴイなあ  ぼくでも知ってるヒトかな 」

「 ええ ええ 知ってるわよ 」

  よ~~くね・・・と フランソワーズは そっと付け加えた。

「 誰なのかい   なにを踊るのかな 

え~~い あとは勇気だけだっ! フランソワーズは大きく息を吸いこんで ・・・

 

  あ の ね。  すぴか は ・・・   相手役は ・・・・

 

      ・・・・・・・ !!!!  な  なんだって!???

 

 

音声はカットされたが  ジョーのオーラが  怒  に変わった!

 

「 ― 誰が 決めたんだ 」

ジョーの声のトーンが 数度下がった。

「 え? 」

 

   あ  やっば~~~ ・・・・ 怒ってるわあ・・・・

 

フランソワーズはやれやれ と密かにため息をついた。

「 そのキャスト ― 誰が決めた。 」

「 え~~ と。  わたし。 」

「 !!  きみ は! 可愛いわが子に! 」

「 だから よ!  だからね、最高のパートナーをって思って。

 あのね あのね ! タクヤはすぴかには過ぎたパートナーなのよ 」

「 だれが < 過ぎた > だと?? 

「 だから! タクヤはね チビっこ相手にオオカミを踊るよ~なダンサーじゃ

 ないのよ ホントは! 」

「 ・・・ ぼくの娘じゃ不満だってのか 」

「 ちがうでしょう? すぴかの方が < 申し訳ない > なの! 」

「 ・・・ じゃ なんだって < 赤頭巾とオオカミ > なんだ!

 父親として娘がみすみすオオカミの毒牙に掛かるのを 指をくわえてみてられるって

 いうのか~~ きみはっ! 

「 だから ・・・ 

  はあ~~~ ・・・・ フランソワーズはもう隠さずに大きなため息。

 

    こりゃ 処置ナシだわあ ・・・

    も~~ ジョーってば なんでタクヤのことになるとムキになるのよぉ~

 

「 だから。 これはバレエです。 ちゃんと踊るのは大変なのよ?

 すぴかは真剣に取り組まないとムズカシイし タクヤは本気よ。

 コドモ相手・・・なんて甘く考えてなんかいないわ。 

 彼はプロのダンサーの < 仕事 > として取り組んでくれるの。 」

「 ふ~~~ん ・・・  ふん。 下心みえみえだな 」

「 なんの下ごころよ?  すぴかはまだ小学生なのよ? 」

「 きみはわかっちゃいない。 ヤツはすぴかに取り入って だな きみと 」

「 え~~~~??? な~に言ってるのぉ  わたし 子持ちのオバチャンよ??

 彼の対象になる女性じゃあないわ 」

  けらけら笑う彼女に ジョーは内心、舌打ちをしたい気分だ。

 

    ・・・ フラン!  全然わかっちゃいないのは きみ だよ!

    ヤツのきみを見つめる眼差しに気づいていないのか???

 

    ヤツは 確実にきみに惚れてるぜ。

    バレエじゃなかったら  きみの < 仕事 > じゃなかったら

 

     ― ぼくは アイツを殴り飛ばしているところだ!

 

「 ・・・ マジでそう思っているのかい 

「 え~ 当然じゃない? やだ~~ ジョーってばあ 考えすぎよぉ~ 」

「 む ・・・・ 」

ケラケラ笑う妻の輝く笑顔を眺めつつ、ジョーは苦虫を噛み潰す。

 

    わかっちゃいない。 もう~~ これだからきみは!

    ぼくがしっかりガードしていないと。

 

「 ともかく。 ぼくはしっかり見張っているからな! 」

「 はいはい ・・・ どうぞ気の済むようにね。

 あ すぴかには余計なこと、言わないでよ? 素直に応援してやってちょうだい 」

「 それはわかっているよ。 」

「 そう それならいいわ。 すぴかはねとって~~も真剣なのよ。 」

「 ・・・ ぼくだって真剣さ! ぼくはただぼくの娘を護りたいだけ 」

 そして !  きみのことを!  と ジョーは心の中で叫ぶ。

 

    ううう うう~~  ホントなら大声で指摘してやりたいんだけど

    ― けど。  ヤキモチ焼きねえ~~ ってきみは笑うにきまってる。

 

    ぼくは。 きみの夫として すぴかの父として 

    ・・・ ううう~~~ 黙って見守るしかできないのかあ~~

 

「 ふふふ そうよ お父さんはでん!と構えていて頂戴ね~ 」

「 ・・・ わかってるって。 

「 ありがと、ジョー。 わたし、あなたがいてくれるから頑張れるの。

 ジョーがわたしの後ろにいてくれるから 勇気がでるのよ 」

「 フラン ・・・・ 」

「 わたし シアワセだわあ~~  」

 ちゅ♪  あつ~~~いキスが降ってきた。

「 え ・・・ えへへへへ・・・・ 」

ジョーはた~ちまちぐにぐに~~~ でれでれ~~~となり・・・

「 あ うん  えへ・・・任せてくれよ。 ど~んと構えてきみとすぴかを

 あ 勿論 すばるもだけど 支えるよ 」

「 お願いね♪  さあ すぴかをう~~んと鍛えなくちゃ。

 本番まで 虫とりなんかしてる暇はないわ。 」

「 あは ・・・ そっか~~ うん アイツもいよいよきみの後を追って

 ばれり~な になるのかあ ・・・  」

「 ・・・・・ 」

ひとり感慨に耽っている父親の横で 母はふか~~~いため息をもらしていた。

 

    ・・・ そう なるのは ちょっと無理 かも ・・・

    せいぎのみかた・すぴか だものね・・・

 

 

 

 そして ここにも感慨に耽っている青年が いた。

 

  ふんふんふ~~ん ふんふんふ~~ん ・・・ 

 

「 っと~~ ここでオオカミさま登場~~っと。  おっかないオオカミだぞ~~

 うん けど!  ここはあくまでもダンサーとして正確なステップを踏んで、だな 」

山内タクヤは イヤホンをつけ部屋の中をうろうろ動き回る。

「 ・・・ う~~ん ・・・ マジ これムズカシイぜ ・・・

 お笑いで終わっちゃ 山内タクヤ の名が泣くぜ。  

コミカルな役をコミカルにやる、のはふつ~のヒトがすることだ。

タクヤは どうしても! ダンサーとしての踊りを見せたいのだ。

 

     へ へへへ~~~~  これで頑張れば。

     

もわ~~~ん ・・・ またまた彼の甘い妄想世界が広がる。

 

「 ・・・っとこんな感じで 行こうと思うんだけど 」

「 まあ ・・・ 

「 あ マズいかな 」

「 ううん ううん~~  さすがタクヤね~~って感心しているの。

 オオカミを こんなふうにノーブルに踊るひとって初めてよ  

「 ふ ・・・ これが俺の踊り さ。 」

「 まあ~~ ステキ♪ わたし すぴかになりたいわあ~~ 」

「 な~にいってるんだい 」

「 ね ・・・ 次の定期公演 ― GP やりません? 」

「 お~~ 俺でいいのかな 

「 勿論! 尊敬しているわ、タクヤ・・いえ 山内クン 」

「 尊敬 ・・ 」

「 ・・・あ ・・・ あの ・・・ あ 愛し 」

「 すとっぷ。 それ以上は言うべきじゃないだろ、 奥さん。 」

「 ああ ああ タクヤ ・・・・ わたし 早く生まれすぎた わ 」

「 ふ・・・ これも運命 さ 」

「 ・・・・ キス していい? 」

 

  ~~~~~ なあ~~~んちゃってよ~~~~~~~ 

 

だははは~~~~  彼は床に転げ回って嬉しがっている。

「 ふんふんふ~~~ん♪  すぴかちゃんって可愛いよなあ~~

 見かけはフランの小型版だし ・・・ま 中身はちょっと違うけど・・・

 そ~さ すぴかちゃんとリハってことになればフランも一緒だろうし。

 へへへ・・・ 次はフランと 『 眠り~ 』 の GP やりて~な~~ 」

タクヤは相変わらず一人で舞い上がり ・・・ しっかり < オオカミ > の

振りを覚え込み意気軒高としていた。

 

  ― ところが。  世の中はそうそう 上手く行くってもんじゃないのだ!

 

「 え ・・・ リハ できないって? 」

タクヤの顔から笑みが消えた。

「 どうして  スケジュール あわねえのか? 

「 それはなんとかなるんだけど 」

「 それじゃ なんで~~~ 」

「 あの ね。 ほら 向うのお稽古場・・ トウキョウから遠いでしょう? 

オオカミをやるだけで何回も来てもらうのはちょっとって 」

「 俺は~ 全然いっけど? フランはその遠いトコから毎朝通ってるじゃんか 」

「 わたしはレッスンだもの。 あの ・・・メグミ先輩が気にしているの。 

 タクヤに負担かけて申し訳ないって 」

「 負担?? なんで?? 」

「 だって行き帰りの時間とか・・・無駄になるでしょ? 」

「 舞台のためのリハだぜ?? 無駄なんかなじゃないよ。

 本人の俺が言ってるだからいいじゃん。  あ ・・・ それともジャマかな 」

「 とんでもない! もっと上手な子とのGPとかならもう~~~

 お願いしてでもリハを繰り返して欲しいんだけど。

 相手はすぴかだし。 踊りもね・・・ ゲネで合わせてくださればいいですって 」

「 フラン! 」

タクヤは めっちゃくちゃ大真面目な顔で 想いヒト をきっ!っと見つめた。

「 は はい  ・・・ 

「 君は!  優秀なジュニアの芽をつむよ~な発言は許されない! 」

「 え ・・・ う~~ん そんな優秀じゃ ないのよね ・・・ 」

「 君の! 可愛いムスメだろう?? 」

「 だから よ。 あの子は ダンサーにはちょっとね~~ 

「 そんなの まだわからんじゃないか!  」

「 でもね~~ 主宰のメグミ先輩の気持ちも考えてあげてね? 」

「 ・・・ う ・・・  マジでゲネだけ か? 」

「 わたし しっかりすぴかに教えておくから 安心して 」

「 !  それじゃ フラン、 俺とリハしてくれよ 」

「 え?? わたし が? 」

「 そう。 ここでさ 俺と踊って俺の踊り方、しっかり覚えてほしいな 

「 あ ~ なるほど ・・・ そうねえ 一応 リフトもあるしね 」

「 だろ? フラン~~~ すぴかちゃんに俺のタイミング ばっちり教えてやって 」

「 わかりました。  それなら ・・・ 今から 時間ある? 」

「 あ~~ えっと・・・うん、30分くらいならおっけ~さ 」

「 よかった~~ それなら Cスタ、空いてると思うから今からリハしましょ? 」

「 お~~ いいね。 そんじゃ移動しようぜ 」

 二人は荷物をもって 空いているスタジオに向かった。

 

「 俺 踊るから 見てて 」

「 いいわ。 じゃあ 音出すから 」

「 あ ~~  いっそ踊ってくれよ?  赤頭巾チャン。 

「 え わたしが??? 」

「 そ。 振り 入ってるだろ? 」

「 勿論。 すぴかにしっかり振り移しするんですもの。 」

「 お~し。 じゃ 踊ろうぜ?  赤頭巾ちゃん♪ 」

「 ・・・ いいわ。 お願いします、オオカミさん 

「 こちらこそ。 」

二人は丁寧に会釈しあってから  ―  音を流し出した。

 

  ♪♪♪~~~  赤頭巾ちゃん は楽し気~~に花を摘んでいる。

   ?  あ あら??  帰り道がわからない~~~

  こっちかしら・・・ ううん ちがう   あっち? ちがうわ~~

  どうしよう~ オウチに帰れない~~ え~~ん え~~~ん

 

  ♪♪♪~~~ こわ~~いオオカミさん 登場。

  ふっふっふ~~ 美味そうなオンナノコがいるぞ~~

  がお~~~ 喰ってやる~~~ぅ  がお~~~

 

   !  きゃ~~~~ ・・・・  がお~~~~

 

ラスト、オオカミは赤頭巾ちゃんと抱っこして走り去ってゆく~~

「 わっはは~~~~~ん♪♪ 」

オオカミは も~~~~ 想い人をし~~っかり抱いて超~~ご機嫌チャンだ。

「 ~~ タクヤ ありがとう~~ わかったわ。」

「 ~~~ って感じで どうだ?  」 

「 ええ ええ いい感じよ 」

「 ふんふんふ~~~ん♪  あ ごめん 時間 ・・・ 」

「 あ わたしこそごめんなさい、 バイトでしょ、どうぞ行ってね 」

「 ウン・・・ ありがとうございました~  じゃ な~~

 あ 俺のすぴか姫にヨロシク~~~ 」

オオカミ、いや タクヤは半分宙に浮き浮き~~ で 帰っていった。 

 

 

フランソワーズ?  と帰りがけに主宰者のマダムが顔を見せた。

「 はい? 」

「 ふふふ ちょっと覗いて見ちゃったわ 」

「 え ・・・ 」 

「 楽しいわねえ  ・・・ ねえところで 」

「 え?  タクヤ ですか?  ええ ええ がんばってくれてます。

 コドモ相手なのにとっても熱心で 」

「 そう?  ねえ フランソワーズ。 彼 ・・・ どう思う? 」

「 どう・・・って  いいダンサーになれると思います。 」

「 ええ そうね。 その彼自身をどう思っているの 」

「 え ・・・ あ~ そ~ですねえ しっかりしているトコもあるけど

 まだ甘えん坊サンですよねえ ・・・ ふふふ すばるみたい 

「 すばる・・・って ああ 貴女の坊やね? 」

「 はい。 あの二人 なんか仲良しなんですよ~ 似てるからかなあ~ 」

「 ああ そう ・・・ 」

 

    タクヤ・・・ あんたの想いはぜ~~~んぜん通じてないわねえ

    気の毒だけど・・・

 

マダムはこっそり ― お気に入りの青年のためにため息をもらした。

 

 

 

 ―  そしていよいよ発表会当日。

 

プログラムは順調に進んで行き 『 オーロラの結婚 』 の幕が開いた。

楽しい踊りが続き ・・・ いよいよ < 赤頭巾ちゃんとオオカミ > だ。

「 ・・・ すぴか! が がんばれ あとは 勇気だけだっ !  」

「 すぴか ・・・ !  落ち着いて ・・・ 」

ジョーは客席で フランソワーズは舞台袖で 固唾をのんで舞台を見つめている。

 

  らんらんら~~ん ♪  金色お下げの赤頭巾ちゃん~~

 

  があお がおがお~~  こわ~~いオオカミさん~~

 

  きゃあ~~~  がお~~~~  

  

でも! この赤頭巾ちゃんは オオカミさんと仲良く腕を組んで袖に入るのでした♪

 

わあ~~~ 会場は大喝采~~~~

 ただ一人、赤頭巾ちゃんのお父さんだけは客席で目を回していました とさ。

 

 

  ―  そう  この世の中いつだって 誰かが誰かの虜 なのだ♪

 

 

***************************        Fin.      ************************

Last updated : 03,21,2017.                         index