『 あなたの虜 』
企画 : めぼうき ばちるど
ダダダダダ ・・・・ !
すご~~い足音が バレエ団の廊下を駆け抜けてゆく。
「 ?? ・・・?? 」
事務所のヒトがびっくりしてドアを少し開け ― 呆然とした顔になり
やがて小さなため息をつくとそっとドアを閉めた。
ダダダダ ・・・ 足音はずっと廊下の奥までとまらない。
突き当たりは衣装部屋と倉庫で その手前には普段は自習用になっているあまり
広くないスタジオがある。
ダ。 足音はそこで止まり ばんっ! ドアが開いた。
「 な! フラン~~~ 俺! 俺がやるから~~~
」
足音の主は ドアを開けるなり叫んだ。
「 ??? た たくや? な なんなの~~~~ 」
「 や 山内くん??? わ~~~ びっくりしたぁ・・・ 」
スタジオの中で 稽古着のまま話をしていたらしい女性が二人、びくっとして
ドア口をみている。
「 ・・ あ~~ サトウさんもいたんだ~ お久~~~っす。 」
足音の主、 いや 山内タクヤ は ぺこん、とアタマを下げた。
「 タクヤってば ・・・ どうしたの? あ 今朝のクラス いなかったわよね? 」
「 あ~~ あ~~ ちょっち寝坊・・・ いや! 過去のことはもういいんだ。
それよりも未来に目を向けよう 」
「 な~に言ってるのよ レッスン、サボって~~~ 」
「 ま~ いいっていいって。 な それよりさ~~ サトウさん、
教室の発表会 ・・・ なんですよね? 」
青年は やっと落ち着いて話始めた。
「 え~ そうなのよ~ ま チビたちのお楽しみ会 よ
」
「 そんなこと、ないでしょ? フラン・・・ いや フランソワーズさんから
聞いてます。 」
「 うふふ・・・ いつもの通りでいいの、タクヤ。 よそ行きじゃなくて・・・
メグミ先輩はここの出身だもん。 」
「 そ~ そ~ タクヤ君とはすれ違いかな~~~ ワタシもさんざんマダムに
怒鳴られて 泣きました。 」
「 え~~~~ そ そう?? 」
「 そ。 初めての GP の時は スタジオ・リハでわ~わ~泣いたもの。 」
「 え・・ 」
「 皆 泣かされてるでしょ? フランソワーズだって
」
「 ええ ここに来た初日はね~ 更衣室に飛びこんで大泣きよ 」
「 え ・・・ そ そうなんだ? 」
「 そ。 だから普通に話して? 」
「 は はい ・・・ いや わかったデス。 それでさ~~~
サトウさんとこの舞台だけどぉ~~ 」
タクヤは でっかいバッグを床におくと彼自身もその脇に胡坐をかいた。
― ハナシは 数日前に遡る。
「 う~~~ん ・・・? 」
バレエ団の廊下の隅で 金髪美人が荷物を広げて居る。
「 えっと ・・・ あとはコドモたちに連絡して・・・ 男性たちに連絡 か。
あ~~~ どうしようかしら 」
小ぶりなノートとスマホを睨みつつ 彼女はため息吐息 だ。
ふん ふん ふ~~~ん♪ 陽気なハナウタ気分で青年が更衣室から出てきた。
「 あ~~~ バイトまでちょっち時間あんな~~ ふんふん~~ お? 」
昇降口に出ようとして 彼の視線が廊下の奥に向いた。
「 あ れ? フラン~~~ まだいたんだ?? 」
たちまち方向展開し 彼はぶらぶら ― 気分的には転がる想いで ― 金髪美人の
元に歩いてゆく。
「 ? あら タクヤ。 ええ ちょっといろいろ忙しいの 」
「 ふうん? あ すばるクンやすぴかちゃんのことか? 」
「 ちがう・・・ こともないわね~~ 」
「 あ 俺 聞いてもいいか? 」
「 別に気にしなくてもいいのよ。 プライベートなことじゃないから・・・
実はね すぴかが通っているバレエ教室で 発表会があるんだけど 」
「 へえ? すぴかちゃん、がばてるんだなあ で なに? 」
「 『 眠り~ 』 よ。 」
「 お~~ あ どこで習ってるんだっけ? 地元? 」
「 そう・・・ 遠くまでは通えないし・・・ 学校の近くにね
サトウ・メグミ先輩のお教室があって ・・・そこのジュニアクラスに通っているの。 」
「 ふうん ・・・ おか~さんの後を追うのか 」
「 さあ どうかしら・・・ あの子 イマイチ熱意ないみたい。
跳んだりはねたりが好きだから バレエやってる・・・・って雰囲気だから 」
「 あはは そんな感じもあるなあ でも その発表会、出るだろ 」
「 ええ。 一応全員参加だし。 わたしもできるだけお手伝いするし。 」
「 ふうん・・・ 発表会って裏方さんとか先生が大変だよな~
あ なあ~~ オレ、賛助出演 しよっか?? オトコ、いるだろ? 」
「 まあ タクヤ。 ありがとう、でもね~ タクヤと組めるほどの子はいないのよ 」
「 え ・・ だって 『 眠り~ 』 やるんだろ? 」
「 そ。 三幕だけよ、『 オーロラの結婚 』 ですもの、オマツリね
」
「 だったらさ~~ GP とか~~ 」
「 オーロラは主宰のメグミ先輩が踊るし ブルーバードはジュニアのトップがやるわ 」
「 ふ~~ん ・・・ あ フランは?? ゲスト出演するんだろ? 」
「 い~~え とんでもない 裏方で大忙しよ。 メイクから大道具から衣装から
なんでもかんでもやるわ。 」
「 ふ~~~ん ・・・ あ すぴかちゃんは?? 」
「 すぴかは ね~ 初めて組むのよ 」
「 お~~~~ 誰と? 初めてなら 『 ブルーバード
』 か? 」
「 それが ・・・ なかなか決まらなくて 頼めるヒトがねえ~
あ まだまだまだ よ。 すぴかは 『 ブルーバード 』 なんか踊れないの 」
「 なら! 俺! 俺がやる。 俺しかいないって 」
ばっと タクヤは立ち上がり 実に丁寧に、そして王子サマ然とレヴェランスをした。
「 え・・・ でも ・・・ 」
「 オレが! どんな役だって すぴかちゃんを最高に素晴らしく踊らせてやるよ!
なあ~~~ 友情出演させくれ~~~ 」
「 ・・・ だって・・・ 山内タクヤ君 にはとても頼めないわ 」
「 なんで??? オレじゃ頼りないってか?? あ ! それとも
旦那が許さんのか?? 」
あのヤロ~~~ ・・・・ と タクヤは密に毒づいた。
可愛いムスメが最高に輝くのを みたくねえのか!?
俺に 可愛いムスメの手をとらせたくねえってのか~~
くっそ~~~ ちっせ~~ぜ 島村旦那よ~~
俺は! アーティストとして 島村すぴか嬢の手をとるんだぞ?
な~~にゲスな気 回してんだよ~~
俺様は ロリじゃねえぜ。 ・・・ 年増がい~んだ・・・
うにゃにゃ! な なでもねよ!
一人で赤くなったり青くなったりしている青年を 金髪美人はふしぎ~~~な顔で
眺めている。
「 ??? なんで ジョーがでてくるの??? ジョーはな~~にも知らないわ
発表会のハナシなんてしたってチンプンカンプンよ 」
「 へ?? ・・・ じゃあ なんでだよ~~~ 」
「 だって。 天下の山内タクヤ君に
― オオカミ なんかやらせられないわ! 」
「 ! あ ・・・ 赤頭巾ちゃん かあ ・・・ 」
ぺたん。 タクヤは 床に座り込んだ。
***** いらぬ注
『 眠りの森の美女 』 第三幕 は オーロラ姫と王子の結婚式。
作者であるシャルル・ペローの作品の主人公たちがお祝いに駆け付けます。
「 赤頭巾ちゃんとオオカミ 」 「 シンデレラと王子 」 「 長靴を履いた猫と白猫 」 などなど・・
それぞれ短い踊りを披露。
『 赤頭巾ちゃんとオオカミ 』は コミカルな踊りであまりテクニックはいりません。
そして! オオカミは被り物をしているので顔は見えませぬ~~
・・・ そんな経緯があったのだ。
ハナシを聞いた日、タクヤは そっかあ~~ ・・・ と少々落胆した面持ちで
大人しく帰っていったのだが。
「 この前も話たけど。 タクヤにはとてもお願いできないわ。
」
「 いいや! なあ 俺、オオカミ やる! 」
「 え・・・ なにいってるの? 」
「 うふふ~~ すぴかちゃん 可愛いものね~~ 」
サトウ先輩は や~んわり場を取り繕う。
「 あ~の跳ねっ返りが・・・ でもね 困ってるの! 相手役。 ベテランさんには頼 めないし。
だけど アレって結構演技力いるでしょ? あんまり若手さんには ねえ
」
「 そうなのよね コミカルな役ってムズカシイのよ。
演技も必要だし 勿論ちゃんと踊る必要もあるし ね 」
「 そだな。 ― うん 決めた! 」
「 は? 」
すっく とタクヤは立ち上がる。
「 フランソワーズさん。 僕に すぴかさんと組ませてください。
しっかり オオカミ を 踊らせてもらいます。
」
「 た タクヤ ・・・ 本気??? 」
「 ああ。 俺 ウチで考えて・・・俺しかいない!って決心したんだ。 」
「 え 本気の本気なの?? 」
「 マジ。 超~~~ ホンマジさ。 俺のダンサー生命を掛ける! 」
「 ・・・ そんな意気込まなくていいのよ 」
「 いや! ここが勝負どころ さ。 いろんな役 出来るってこと見せてやる。
がんがん跳んでぶんぶん回るだけが 山内タクヤ じゃね~ぞ。
あ なあ どこ版でやるのか? 」
「 ああ このスタジオ版よ。 つまりオペラ座版ってこと 」
「 あ~ それなら俺もDVD持ってるぜ。 しっかり予習しとくぜ。 音は? 」
「 あ もうできてるから・・・明日もってくるわ 」
「 サンキュ。 お~し! ほんじゃ~ とっとと帰ってフリを
叩きこんでくる。 な リハは? 」
「 あ まだスケジュール決めてないの。 ごめんなさい、早急に決めますね。
山内クンの NG日 教えてください。 」
「 あ え~~と ・・・ 」
青年はゴソゴソ・・・ スマホとスケジュール帳を取り出しめくりはじめた。
「 え~ と 了解しました。 じゃ なるべく早く連絡しますね 」
「 よろしくっす! フラン~~~ すぴかちゃんにヨロシクう~~~
」
「 ありがとう タクヤ! も~~ すぴかにはし~~~っかり振り、叩きこんでおくから 」
「 いやあ~~ すぴかちゃんなら大丈夫さ。 ほんじゃな~~ オレ バイト
行くから ~~ おっさき♪ 」
「 ええ ありがとう~~ 」
「 ありがとう、山内くん 」
ふんふんふ~~~~ん !
タクヤは廊下で オオカミ のステップ? を踏みつつ~~歩いていった。
「 なあに・・・?? ま~ ホントにオカシナ坊やだこと・・・ 」
主宰者のマダムが 苦笑して自室のドアを閉めた。
さて その日、島村さんちでは夫婦が遅い夕食を囲んでいた。
「 へえ~~~ すぴか達の発表会かあ 」
「 そうなの。 あ 当日 クルマだしてくれる? 荷物運びしてほしいの
」
「 おっけ~~ まかしとけって。 で すぴかは ?
」
「 え? 元気よ 」
「 そ~~いうことじゃなくてって すぴかが元気なのはよ~~くわかっているって。
で さ すぴか はなにを踊るのかい 」
「 え ~と ね。 今回はね ジュニア・クラスもシニア・クラスも合同で
一つの演目を踊るの 」
「 ふ~~ん 大々的なんだね で なにを踊るのかい 」
「 え~ それでね ・・・ コンサート形式じゃなくて皆でひとつの舞台を
って方向なんですって。 」
「 ふうん。 きみの友達・・・先輩だっけ? チャレンジなんだな 」
「 そうよね~ だからわたしもできるだけ応援したくて 」
「 そうそう そうしたほうがいいよ。 で 演目はなんだい 」
「 ・・・ え~と 『 眠りの森の美女 』 は知ってるでしょ? 」
「 うん おーろら姫 だろ? ぼくだってそのくらいしってるよ。
あ きみ あの、 ・・・アイツとさ 何回か踊っただろ~ 」
「 ああ タクヤとね~ ぁでも 今回はね~ < オーロラの結婚 > って
いって・・・三幕だけ やるの 」
「 ??? そういうの 可能なのかい 」
「 うん。 ちゃとしたプロの舞台でもね よく上演されるの。
いろいろな踊りがあって お客さんが見ていても楽しいのよ。 」
「 ふうん ・・・ そりゃ楽しみだねえ なんだっけ ・・・
きみの先輩の先生も踊るのかい。 」
「 そ。 メグミ先輩はねえ GPよ、バレエ団からゲスト出演のベテランの方と。 」
「 そうなんだ? 楽しみだねえ で すぴかは? 」
「 え~~ 今回はねえ ジュニアたちもいっぱい踊のよ~~
だからわたし、も~~お手伝いでた~いへんなの~~
」
「 そっか がんばれ~~~ それで ウチのお嬢さんは? 」
「 ・・・ え ? すぴか? 」
「 そう。 すぴかはなにを踊るのかな 」
「 すぴかは ねえ。 今回初めて男性と組むの。 」
「 お~~~ すぴかもついにお母さんの後を継ぐんだね~~~
なにを踊るのかい お姫さま?? 」
「 ・・・ お姫さま ・・・とはちょっとチガウかな ・・・
あ でもねえ 日本ではバレエ団とかの若手で一番カワイイ子が
踊る役なんですって。 」
「 お~~~ さすが~~ ぼくの娘だなあ♪ で 演目は?
あ 相手役は 誰なんだい 」
「 あ~~~ 相手役 はねえ ・・・是非すぴかと組みたいっていってもらえて 」
「 お~ さすが~~~ きみの娘ってことだなあ♪ で 誰なんだい 」
「 ・・・ え~~ 有名な男性ダンサーよ 」
「 へえ ますますスゴイなあ ぼくでも知ってるヒトかな 」
「 ええ ええ 知ってるわよ 」
よ~~くね・・・と フランソワーズは そっと付け加えた。
「 誰なのかい なにを踊るのかな 」
え~~い あとは勇気だけだっ! フランソワーズは大きく息を吸いこんで ・・・
あ の ね。 すぴか は ・・・ 相手役は ・・・・
・・・・・・・ !!!! な なんだって!???
音声はカットされたが ジョーのオーラが 怒 に変わった!
「 ― 誰が 決めたんだ 」
ジョーの声のトーンが 数度下がった。
「 え? 」
あ やっば~~~ ・・・・ 怒ってるわあ・・・・
フランソワーズはやれやれ と密かにため息をついた。
「 そのキャスト ― 誰が決めた。 」
「 え~~ と。 わたし。 」
「 !! きみ は! 可愛いわが子に! 」
「 だから よ! だからね、最高のパートナーをって思って。
あのね あのね ! タクヤはすぴかには過ぎたパートナーなのよ 」
「 だれが < 過ぎた > だと?? 」
「 だから! タクヤはね チビっこ相手にオオカミを踊るよ~なダンサーじゃ
ないのよ ホントは! 」
「 ・・・ ぼくの娘じゃ不満だってのか 」
「 ちがうでしょう? すぴかの方が < 申し訳ない > なの! 」
「 ・・・ じゃ なんだって < 赤頭巾とオオカミ > なんだ!
父親として娘がみすみすオオカミの毒牙に掛かるのを 指をくわえてみてられるって
いうのか~~ きみはっ! 」
「 だから ・・・ 」
はあ~~~ ・・・・ フランソワーズはもう隠さずに大きなため息。
こりゃ 処置ナシだわあ ・・・
も~~ ジョーってば なんでタクヤのことになるとムキになるのよぉ~
「 だから。 これはバレエです。 ちゃんと踊るのは大変なのよ?
すぴかは真剣に取り組まないとムズカシイし タクヤは本気よ。
コドモ相手・・・なんて甘く考えてなんかいないわ。
彼はプロのダンサーの < 仕事 > として取り組んでくれるの。 」
「 ふ~~~ん ・・・ ふん。 下心みえみえだな 」
「 なんの下ごころよ? すぴかはまだ小学生なのよ? 」
「 きみはわかっちゃいない。 ヤツはすぴかに取り入って だな きみと 」
「 え~~~~??? な~に言ってるのぉ わたし 子持ちのオバチャンよ??
彼の対象になる女性じゃあないわ 」
けらけら笑う彼女に ジョーは内心、舌打ちをしたい気分だ。
・・・ フラン! 全然わかっちゃいないのは きみ だよ!
ヤツのきみを見つめる眼差しに気づいていないのか???
ヤツは 確実にきみに惚れてるぜ。
バレエじゃなかったら きみの < 仕事 > じゃなかったら
― ぼくは アイツを殴り飛ばしているところだ!
「 ・・・ マジでそう思っているのかい
」
「 え~ 当然じゃない? やだ~~ ジョーってばあ 考えすぎよぉ~ 」
「 む ・・・・ 」
ケラケラ笑う妻の輝く笑顔を眺めつつ、ジョーは苦虫を噛み潰す。
わかっちゃいない。 もう~~ これだからきみは!
ぼくがしっかりガードしていないと。
「 ともかく。 ぼくはしっかり見張っているからな! 」
「 はいはい ・・・ どうぞ気の済むようにね。
あ すぴかには余計なこと、言わないでよ? 素直に応援してやってちょうだい 」
「 それはわかっているよ。 」
「 そう それならいいわ。 すぴかはねとって~~も真剣なのよ。 」
「 ・・・ ぼくだって真剣さ! ぼくはただぼくの娘を護りたいだけ 」
そして ! きみのことを! と ジョーは心の中で叫ぶ。
ううう うう~~ ホントなら大声で指摘してやりたいんだけど
― けど。 ヤキモチ焼きねえ~~ ってきみは笑うにきまってる。
ぼくは。 きみの夫として すぴかの父として
・・・ ううう~~~ 黙って見守るしかできないのかあ~~
「 ふふふ そうよ お父さんはでん!と構えていて頂戴ね~ 」
「 ・・・ わかってるって。 」
「 ありがと、ジョー。 わたし、あなたがいてくれるから頑張れるの。
ジョーがわたしの後ろにいてくれるから 勇気がでるのよ 」
「 フラン ・・・・ 」
「 わたし シアワセだわあ~~ 」
ちゅ♪ あつ~~~いキスが降ってきた。
「 え ・・・ えへへへへ・・・・ 」
ジョーはた~ちまちぐにぐに~~~ でれでれ~~~となり・・・
「 あ うん えへ・・・任せてくれよ。 ど~んと構えてきみとすぴかを
あ 勿論 すばるもだけど 支えるよ 」
「 お願いね♪ さあ すぴかをう~~んと鍛えなくちゃ。
本番まで 虫とりなんかしてる暇はないわ。 」
「 あは ・・・ そっか~~ うん アイツもいよいよきみの後を追って
ばれり~な になるのかあ ・・・ 」
「 ・・・・・ 」
ひとり感慨に耽っている父親の横で 母はふか~~~いため息をもらしていた。
・・・ そう なるのは ちょっと無理 かも ・・・
せいぎのみかた・すぴか だものね・・・
そして ここにも感慨に耽っている青年が いた。
ふんふんふ~~ん ふんふんふ~~ん ・・・
「 っと~~ ここでオオカミさま登場~~っと。 おっかないオオカミだぞ~~
うん けど! ここはあくまでもダンサーとして正確なステップを踏んで、だな 」
山内タクヤは イヤホンをつけ部屋の中をうろうろ動き回る。
「 ・・・ う~~ん ・・・ マジ これムズカシイぜ ・・・
お笑いで終わっちゃ 山内タクヤ の名が泣くぜ。 」
コミカルな役をコミカルにやる、のはふつ~のヒトがすることだ。
タクヤは どうしても! ダンサーとしての踊りを見せたいのだ。
へ へへへ~~~~ これで頑張れば。
もわ~~~ん ・・・ またまた彼の甘い妄想世界が広がる。
「 ・・・っとこんな感じで 行こうと思うんだけど 」
「 まあ ・・・ 」
「 あ マズいかな 」
「 ううん ううん~~ さすがタクヤね~~って感心しているの。
オオカミを こんなふうにノーブルに踊るひとって初めてよ 」
「 ふ ・・・ これが俺の踊り さ。 」
「 まあ~~ ステキ♪ わたし すぴかになりたいわあ~~ 」
「 な~にいってるんだい 」
「 ね ・・・ 次の定期公演 ― GP やりません? 」
「 お~~ 俺でいいのかな 」
「 勿論! 尊敬しているわ、タクヤ・・いえ 山内クン 」
「 尊敬 ・・ 」
「 ・・・あ ・・・ あの ・・・ あ 愛し 」
「 すとっぷ。 それ以上は言うべきじゃないだろ、 奥さん。 」
「 ああ ああ タクヤ ・・・・ わたし 早く生まれすぎた わ 」
「 ふ・・・ これも運命 さ 」
「 ・・・・ キス していい? 」
~~~~~ なあ~~~んちゃってよ~~~~~~~
だははは~~~~ 彼は床に転げ回って嬉しがっている。
「 ふんふんふ~~~ん♪ すぴかちゃんって可愛いよなあ~~
見かけはフランの小型版だし ・・・ま 中身はちょっと違うけど・・・
そ~さ すぴかちゃんとリハってことになればフランも一緒だろうし。
へへへ・・・ 次はフランと 『 眠り~ 』 の GP やりて~な~~ 」
タクヤは相変わらず一人で舞い上がり ・・・ しっかり < オオカミ > の
振りを覚え込み意気軒高としていた。
― ところが。 世の中はそうそう 上手く行くってもんじゃないのだ!
「 え ・・・ リハ できないって? 」
タクヤの顔から笑みが消えた。
「 どうして スケジュール あわねえのか?
」
「 それはなんとかなるんだけど 」
「 それじゃ なんで~~~ 」
「 あの ね。 ほら 向うのお稽古場・・ トウキョウから遠いでしょう?
オオカミをやるだけで何回も来てもらうのはちょっとって 」
「 俺は~ 全然いっけど? フランはその遠いトコから毎朝通ってるじゃんか 」
「 わたしはレッスンだもの。 あの ・・・メグミ先輩が気にしているの。
タクヤに負担かけて申し訳ないって 」
「 負担?? なんで?? 」
「 だって行き帰りの時間とか・・・無駄になるでしょ? 」
「 舞台のためのリハだぜ?? 無駄なんかなじゃないよ。
本人の俺が言ってるだからいいじゃん。 あ ・・・ それともジャマかな 」
「 とんでもない! もっと上手な子とのGPとかならもう~~~
お願いしてでもリハを繰り返して欲しいんだけど。
相手はすぴかだし。 踊りもね・・・ ゲネで合わせてくださればいいですって 」
「 フラン! 」
タクヤは めっちゃくちゃ大真面目な顔で 想いヒト をきっ!っと見つめた。
「 は はい ・・・ 」
「 君は! 優秀なジュニアの芽をつむよ~な発言は許されない! 」
「 え ・・・ う~~ん そんな優秀じゃ ないのよね ・・・ 」
「 君の! 可愛いムスメだろう?? 」
「 だから よ。 あの子は ダンサーにはちょっとね~~
」
「 そんなの まだわからんじゃないか! 」
「 でもね~~ 主宰のメグミ先輩の気持ちも考えてあげてね? 」
「 ・・・ う ・・・ マジでゲネだけ か? 」
「 わたし しっかりすぴかに教えておくから 安心して 」
「 ! それじゃ フラン、 俺とリハしてくれよ 」
「 え?? わたし が? 」
「 そう。 ここでさ 俺と踊って俺の踊り方、しっかり覚えてほしいな
」
「 あ ~ なるほど ・・・ そうねえ 一応 リフトもあるしね 」
「 だろ? フラン~~~ すぴかちゃんに俺のタイミング ばっちり教えてやって 」
「 わかりました。 それなら ・・・ 今から 時間ある? 」
「 あ~~ えっと・・・うん、30分くらいならおっけ~さ 」
「 よかった~~ それなら Cスタ、空いてると思うから今からリハしましょ? 」
「 お~~ いいね。 そんじゃ移動しようぜ 」
二人は荷物をもって 空いているスタジオに向かった。
「 俺 踊るから 見てて 」
「 いいわ。 じゃあ 音出すから 」
「 あ ~~ いっそ踊ってくれよ? 赤頭巾チャン。
」
「 え わたしが??? 」
「 そ。 振り 入ってるだろ? 」
「 勿論。 すぴかにしっかり振り移しするんですもの。 」
「 お~し。 じゃ 踊ろうぜ? 赤頭巾ちゃん♪ 」
「 ・・・ いいわ。 お願いします、オオカミさん
」
「 こちらこそ。 」
二人は丁寧に会釈しあってから ― 音を流し出した。
♪♪♪~~~ 赤頭巾ちゃん は楽し気~~に花を摘んでいる。
? あ あら?? 帰り道がわからない~~~
こっちかしら・・・ ううん ちがう あっち? ちがうわ~~
どうしよう~ オウチに帰れない~~ え~~ん え~~~ん
♪♪♪~~~ こわ~~いオオカミさん 登場。
ふっふっふ~~ 美味そうなオンナノコがいるぞ~~
がお~~~ 喰ってやる~~~ぅ がお~~~
! きゃ~~~~ ・・・・ がお~~~~
ラスト、オオカミは赤頭巾ちゃんと抱っこして走り去ってゆく~~
「 わっはは~~~~~ん♪♪ 」
オオカミは も~~~~ 想い人をし~~っかり抱いて超~~ご機嫌チャンだ。
「 ~~ タクヤ ありがとう~~ わかったわ。」
「 ~~~ って感じで どうだ? 」
「 ええ ええ いい感じよ 」
「 ふんふんふ~~~ん♪ あ ごめん 時間 ・・・ 」
「 あ わたしこそごめんなさい、 バイトでしょ、どうぞ行ってね 」
「 ウン・・・ ありがとうございました~ じゃ な~~
あ 俺のすぴか姫にヨロシク~~~ 」
オオカミ、いや タクヤは半分宙に浮き浮き~~ で 帰っていった。
フランソワーズ? と帰りがけに主宰者のマダムが顔を見せた。
「 はい? 」
「 ふふふ ちょっと覗いて見ちゃったわ 」
「 え ・・・ 」
「 楽しいわねえ ・・・ ねえところで 」
「 え? タクヤ ですか? ええ ええ がんばってくれてます。
コドモ相手なのにとっても熱心で 」
「 そう? ねえ フランソワーズ。 彼 ・・・ どう思う? 」
「 どう・・・って いいダンサーになれると思います。 」
「 ええ そうね。 その彼自身をどう思っているの 」
「 え ・・・ あ~ そ~ですねえ しっかりしているトコもあるけど
まだ甘えん坊サンですよねえ ・・・ ふふふ すばるみたい
」
「 すばる・・・って ああ 貴女の坊やね? 」
「 はい。 あの二人 なんか仲良しなんですよ~ 似てるからかなあ~ 」
「 ああ そう ・・・ 」
タクヤ・・・ あんたの想いはぜ~~~んぜん通じてないわねえ
気の毒だけど・・・
マダムはこっそり ― お気に入りの青年のためにため息をもらした。
― そしていよいよ発表会当日。
プログラムは順調に進んで行き 『 オーロラの結婚 』 の幕が開いた。
楽しい踊りが続き ・・・ いよいよ < 赤頭巾ちゃんとオオカミ > だ。
「 ・・・ すぴか! が がんばれ あとは 勇気だけだっ ! 」
「 すぴか ・・・ ! 落ち着いて ・・・ 」
ジョーは客席で フランソワーズは舞台袖で 固唾をのんで舞台を見つめている。
らんらんら~~ん ♪ 金色お下げの赤頭巾ちゃん~~
があお がおがお~~ こわ~~いオオカミさん~~
きゃあ~~~ がお~~~~
でも! この赤頭巾ちゃんは オオカミさんと仲良く腕を組んで袖に入るのでした♪
わあ~~~ 会場は大喝采~~~~
ただ一人、赤頭巾ちゃんのお父さんだけは客席で目を回していました とさ。
― そう この世の中いつだって 誰かが誰かの虜 なのだ♪
*************************** Fin. ************************
Last updated :
03,21,2017. index