『 女王陛下の悩みごと 』
イラスト : めぼうき
テキスト : ばちるど
******** はじめに ********
このお話の世界について詳しくは こちら へどうぞ♪
ぽと ぽと ぽとぽと ぽと ・・・
透明な雫が膝の上に、そして抱っこしている子供のアタマに落ちてきた。
「 ? ひかりせんせ~~ あめ~ 」
子供は不思議そう~に天井を見上げている。
「 あめ~ ・・・ ? 」
「 あめじゃないよ~ おへやだもん 」
「 あ~~ ひかりせんせ~ ないてる~~~
」
「 ないてるぅ~~ 」
周りに座っていた子供たちは 口々にいいたてはじめた。
この保育施設は ゆったりとした広間に子供たちが思い思いに遊んでいる。
その中で一際大きな輪ができていて その真ん中に美貌の女性が座っている。
長い金髪を編んでくるりとアタマに巻きつけ 真っ白なエプロンをしている。
子供たちは彼女を ひかり先生 と呼ぶ。
ひかり先生 ― かのイスカンダルのスターシア女王陛下だ。
夫君とともに地球に来てから 彼女はこの保育施設でボランティアをしている。
「 あらあら・・・ 皆 しずかにしましょうねえ
」
スターシアは 慌てて声のトーンをあげて子供たちを嗜めた。
「 ほら お話の続きをよみますよ~~~ お口を閉じてね?
」
「 でも~~~ せんせ~ ないてる~~~ 」
「 かなしいの~~ せんせ~~ 」
「 うふ ・・・ ちょっとね~ お話に感動してしまったのよ。 」
「 かんどう? 」
「 そうよ、 にんぎょ姫さま が可哀想だな~~って 」
「 ふうん ・・・ よんで ひかりせんせい
」
「 はいはい。 みんな こっちを向いてね・・・はい よみま~すよ~
そして にんぎょひめ は 王子様の宮殿で暮らしはじめたのでした 」
よく通る柔らかい声を子供たちは熱心に聞いている。
「 いつも思うけど いい声だなあ~ スターシアさん 」
「 本当にねえ ・・・ 子供たちの関心も上手に引き寄せるしね 」
「 あは ずっと聞いていたいな~ 」
「 ふふふ ・・・でも主人公に同情して涙~~って いかにもスターシアさんらしいわ 」
「 うん うん ああ いい光景だな 」
職員たちも それぞれの仕事をしながらひかり先生の読み聞かせに耳を傾けるのだった。
「 せんせ~ にんぎょひめ がしんじゃうから かなしいの? 」
子供の一人がスターシアをじ~っと見上げている。
「 え? そうね~ えみちゃん。 」
「 かわいそうね~ 」
「 でも天国で幸せになったのね 」
「 ふうん ・・・ 」
「 さあ~~ 今度はどのご本をよみましょうか 」
「 え~~と ね? 」
子供たちは わやわやと絵本の山をひっくり返しはじめた。
にんぎょひめ ・・・ きっとつらかったでしょうねえ ・・・
スターシアは 絵本の文をちらり、と読み返した。
≪ いっぽあるくたびに ナイフの上をあるくようないたみがあるのでした ≫
「 ・・・ そうよ ねえ 」
彼女は するり・・と布のルーム・シューズを履いた足を撫でていた。
さて ― そんな平和な日々は長くは続かなかった。
突然 押しかけてきた敵とのとんでもない戦争が なんとか終結すると
人々は すぐに地下シェルターやら焼け残った家か這い出してきた。
地上は至るところに焼野原が広がっていた。 建造物の被害は甚だしい。
やっとなんとか < ムカシの > 姿を取り戻したところだったのに・・・
と 溜息するヒトも多かった ― けれど。
「 ・・・ な~に。 すぐに元通りにするさ。
」
「 そうさ! この前と比べれば楽なもんだよ
「 うんうん なにせ汚染物質がないんだからな~~ 楽勝だぜ! 」
「 そういうこと。 それにさ~~ ウチらには 女神さん がいるから! 」
「 そ~~ そ~~♪ 女王陛下がいるかぎり 地球はぜったいに安泰だ。 」
「 あったりめ~よ~~ ほんじゃ~ ちょいと褌キリリと締め上げて 」
「 おうよ。 オレたちがホンマジになりゃ~ カンタン カンタン~~ 」
「 やったるで! へへっ 腕がなるってな~ 」
「 ほらあ 余計なおしゃべりなんかやめて さっさと取り掛かろうぜ 」
「 おう!! 」
人々 ― 地球市民のすべてが オトナばかりか子供たちだって 希望と活力を
漲らせ嬉々として復旧作業を開始した。
地球全体 < 復興の槌音高し > 状態となった。
なにせ 俺たちには 女王陛下 がいるんだから
それが彼ら地球市民の合言葉だ。
誰に強制されたわけでもなく、その筋の宣伝の結果でも 全然ない。
彼らは自身の目と耳で目の当たりした事実から 心底そう思った。
― そう。 かの星からいらした高貴な御方はまたまた人々の希望の星 となったのだった。
< 戦前 > を知るヒトが少なくなって来て イスカンダルのスターシア の名が
少しづつ伝説になりはじめた頃 あの戦争が勃発した。
突然、勝手におしかけてきた < 敵 >。
奴らは地球について研究しかなり用意周到に攻め込んできたが たったひとつ、見落としていたことがあった。
地球人のしぶとさ、だ。 どんな時でも地球人達は決してあきらめることがなかった。
どんなことをしても 自分達の星を護り抜こうと、屈する気持ちなど微塵もない。
さらに ― 地球の人々はかの高貴な女性の毅然とした態度に 改めて感銘を受けた。
「 ! あの女王陛下が ・・・! 」
「 ああ! 負けるな、と言っておられるんだ
」
「 ま 負けてたまるか! なんとしても陛下を援けだし奴らを追いだすんだ! 」
老若男女、ようするに 地球市民の全てが一丸となって蜂起し ― 敵を殲滅させた。
勿論 女王陛下も無事にご帰還となったのは言うまでもない。
全地球市民がこぞって 女王を歓喜の声で迎えたのだ。
それは 平和な当たり前の日々 が再び始まるファンファーレでもあった。
「 ああ やっとまた当たり前の日々が巡ってくるなあ ・・・
」
「 本当に 平和のありがたさをしみじみと感じますよ。 」
「 それもこれも ― 女王陛下のお蔭ですな 」
「 ええ ええ あの御方さまは我々の真の恩人です。 」
「 素晴らしい方ですよね ~~ マジそんけ~しちゃうな~ 」
「 あんな女性になりたい ・・・ アタシの夢だわ ・・・! 」
「 あ~ゆ~ヒトさ~~ 護るのってマジいいよな~~ 」
そ~~んな声は自然に巷に溢れ、イスカンダルのスターシア女王陛下 の人気はますます
上昇してゆく。
そのご本人は といえば。
巷の称賛の声などまったく関心なく、というより女王陛下自身にしてみれば
ごく当たり前に振舞った結果なのでなぜ周囲がわやわやするのかすこぶる疑問のご様子だ。
「 まあ わたくしは大したことなど やっておりませんわ。
今度の戦争では地球市民として少しは働けたかな・・・って思っています。 」
公共の電波で流れる女王陛下は 穏やかにそしてにっこり微笑むばかりだ。
闘いの後のごたごたが収まると ほとんどの地球市民と変わりなく
地球防衛軍の参謀を務める夫君・古代守と共にマイ・ペースで ごく普通に暮らしている。
・・・と ご本人たちは思っている。
ただ デザリアム戦後は陛下のご公務がふえた。
星は失われたが 一国の君主なのだから当然といえば当然だが ・・・
特に 医療・教育、宇宙関係、防衛軍関係に絡む < 公務 > が多い。
地球で 古からの王族皇族が未だ残っているのは イギリスとほんのわずかな国々だけ。
それゆえ 美貌にして <強い>女王陛下
は人気のマトだ。
官舎に帰宅すると 古代守はすこし申し訳なさそうに細君に切りだした。
「 あの なあ・・・ 君に頼みがあるんだが 」
「 ? なんでしょう? 」
「 え~と ・・・ 来月オープンする病院の開院式に来てほしいそうだ。 」
「 まあ 病院ですか? 」
「 うむ。 宇宙放射線病が専門でな、君が齎してくれたイスカンダルの医療技術を
地球上に広めてゆくのが目的なんだ。 」
「 それでは 喜んでお祝いに参りますわ。 」
「 ありがとう、皆も喜んでくれるよ。 」
また ある時には
「 今度なあ 新しい移民船が就航するんだ。 波動エンジン搭載でさ。
」
「 それはよかったこと 」
「 ウン。 きみが教えてくれた原型を真田たちが改良したそうだ。
」
「 まあ 素晴らしいわ。 さすが真田さん、科学局の方々は素晴らしいですのね。 」
「 ああ あそこは防衛軍に所属しているがもともとは宇宙開発機構、いわゆる
宇宙専門の科学者たちの集まりだからね。 」
「 それで・・・ そうなんですね 」
スターシアはわが意を得たり、と深くうなずく。
「 なにか思い当たることがあるのかい 」
「 ええ ・・・ 波動エンジンの設計図をあれだけの短時間で理解し応用したのは
地球の方々だけです。 」
「 そうなんだ ・・・ 」
「 波動エネルギーの理論を理解するのは ― 専門の方でも難しいと思いますわ。 」
「 う~~ん そうだよなあ ・・・ 俺たち 艦乗り ( ふなのり ) は
<使用法> は理解したがその理論は・・・なあ 」
「 うふふ・・・ 別に全員が理論を理解する必要はありませんけれど ね 」
「 ま そりゃそうだけどな。 あ それで その艦 ( ふね ) の就航式に
きみに来賓として出席してほしいんだと。
」
「 らいひん? 」
「 あ~~ その お客さん さ。 おめでとう~~って言って
ついでに か~ん ・・・ってやってくれってさ。 」
「 ??? か~ん?? 守、おっしゃることがまったくわかりません・・?? 」
「 あ そうだよなあ 」
守はアタマを掻いて ごめんごめん、と謝った。
「 地球では 古来から船の就航式には こう~~ シャンペンの瓶を舳先に当てて
酒で門出を祝うって習わしがあるんだ。 来賓がヒモを切るセレモニーをするんだ。 」
「 まあ~~~ 面白そうですわね。 」
「 出席してくれるかい? 勿論 俺もお供しますが 陛下。 」
「 ありがとう、お願いしますね。 」
「 お任せください。 あ~~ 真田のヤツ、喜ぶぞ~~ 」
「 うふふ ・・・ わたくしも楽しみですわ。 」
― そんなこんなで陛下はあえかな微笑みでさらに さらに 地球市民を魅了すること
になるのだった。
ある時 ・・・ ある式典最中、イスカンダルの女王陛下に付きそうイスカンダル艦隊総司令官殿 ―
つまり彼女の夫君でもある古代守は ふとあることに気が付いた。
彼のすぐ前にたつ女王陛下の身体が かたん・・・かたん~~ 左右に小さく揺れるのだ。
・・・ うん? どうかしたのか?
気分でも悪いのか ・・・?
顔色はいいし 声もいつもと同じだが ・・・
守は彼女の足元に目を凝らせた。
なんだ・・・? え・・!
時期は冬、それも真冬 ― 関東地方特有のかんかんに晴れ上がり真っ青な空のもと
寒風が吹き抜ける ・・・という天気の日だった。
当日は 防衛軍の訓練生用の教育艦の就航式だった。
ただでさえ寒い日、それも港の吹き曝し・・ということもあり 陛下は足元が隠れるほどの
ロング丈のコートを御召しになっていた。
家で身支度を整えている時 守がそのコートを選んだ。
「 今日はこのコ―トにしよう。 」
「 あら 暖かくて素敵ですわね 」
「 冷えるからな。 スカーフや手袋もお忘れなく、陛下。 」
「 ありがとう・・・ あ~ この手袋よりいつもの毛糸の方が
」
スターシアは キッドの革手袋をちょっと摘み上げて首を傾げた。
「 毛糸のは普段用です、式典にはこちらをどうぞ。 靴も温かいのがいいな 」
守はブーツ仕様のハイヒールを揃えた。
「 あ・・・ え~といつもの ・・・ お買い物に行く時の ・・・
」
「 公式行事の時には こちらをどうぞ。
」
「 ・・・え ええ・・・ 」
「 陛下 お供仕ります。 」
盛装なさった女王陛下の前で 守はぴしっと挙手の礼をした。
礼装用の真っ白な手袋が 冬の陽に眩しい。
彼もまた女王に供奉する武官として第一種礼装をしている。
「 ありがとう。 ・・・ 守 ステキ~~~ 」
スターシアは惚れ惚れと彼女の夫を眺めた。
「 ありがとうございます。 それでは 出かけましょう。 」
「 ええ ・・・ あ あの~ 靴は 」
彼女は玄関先で屈みこんだ。
「 先ほどの靴はおみ足に合いませんか? 」
少しためらった後、彼女はそっと新しい靴に足をいれた。
「 いいえ ・・・ お待たせ。 」
「 では どうぞ。 」
「 お願いします。 」
差し出された手に 陛下は素直に従った。
そうだよ ・・・ 機嫌よく出かけてきた よなあ?
この基地の港も初めてじゃないし ・・・
今日は見知った顔もあちこちにある から気楽だろうし
今 女王の前には訪問に感謝する人々が列を作り挨拶をしにきている。
かたん。 ほんのすこし細い肩が左に傾いた。
「 ・・・ 陛下 どうかなさいましたか 」
ついに守は 身を屈めるとこそ・・・っと女王陛下に尋ねた。
「 はい? なんですの 」
屈託のない瞳が じっと彼を見上げている。
「 いえ ― 失礼いたしました。 」
「 ? 」
「 どうぞ ご挨拶をお続けください。 」
女王は微笑し、もとに姿勢に戻り目の前に立つ若い教官と会話を交わす。
「 安全で楽しい航海実習をお祈りしていますわ。 ええ ありがとう 」
「 はっ! お目にかかれて光栄です ! 」
「 わたくしもウレシイですわ。 」
かたん。 また 彼女の身体が右側に揺れた。
「 ・・?? ・・・ あ! 」
女王のコートの裾からブーツのヒールが 倒れて覗いていた ・・!
また かよ~~~
・・・ 靴 脱いでるな ・・・!
守は心の中で舌打ちをし さりげな~く彼女に近寄り身体を支えた。
「 陛下? 失礼いたします。 」
「 ― はい? 」
「 どうぞ? 」
彼は転がっている靴を手にとり 女王の足もとに差し出した。
「 あ あら ・・・ 」
「 そうぞ、お召しください。 」
「 ・・・・・ 」
珍しく ― ちら・・・っとむっとした表情を見せ スターシアは靴に足を突っ込んだ。
「 これでよろしいかしら。」
「 ありがとうございます。 」
ほんの短いやりとりだったので 周囲で気に留めた者はほとんどいなかった。
目敏いヒトは 気づいたが 夫が妻の裾の乱れを直した、程度にしかわからなかった。
その後も 女王陛下は終始にこやかに行事に臨まれ、 訓練生たちを励まし、
訓練艦の就航を祝福なさり ― 上機嫌でお帰りになった が。
「 ですから。 靴はきちんとお履きください。
」
「 ・・・ でも 」
「 外はいろいろ落ちていまして危険ですし おみ足が汚れます。 」
「 基地はお掃除はきちんと行き届いていましたわ。 」
「 しかし 万が一ということもあります。 お履きください。 」
「 ・・・ ですから 行きと帰りには履いております。 あちらは清潔でしたし
お話をしている間は 」
「 ずっと です。 陛下 」
「 式典の ― 公務の間は履いております。 」
「 陛下。 自宅を出発なさる時からご帰宅になるまでがご公務なのです。
陛下は地球市民の注目のマトなのですから ― どうぞ靴をお履きください。 」
「 ・・・ 承知いたしました。 」
珍しく彼女はぷつり、と会話を切った。
「 どうぞよろしくご理解ください。 」
守は 丁寧に言い添えた。
帰宅途中、公用車の中で女王陛下と古代先任参謀はず~~~~~~っと ・・・
ごく低い声で会話を続けていた。
運転席との間には間仕切りがあるので勿論運転手には聞こえない。
たとえ話声が漏れ聞こえたとしても 二人はごく穏やかな表情だったので
内輪の話でもしているだろう・・と誰もが思っただろう。
「 ・・・ ふう ~~ 」
官舎に着いて家の玄関に入るなり スターシアは深いため息を吐いた。
「 お疲れ様~~ 寒くはなかったかな。 」
守はすっと後ろに立ち 彼女の長いコートを脱ぐのに手を貸した。
「 いいえ ずっと温かでしたわ。 」
「 それはよかった。 」
「 ・・・ あの。 わたくし、どうしても理解しがたいのですが ―
これは絶対に必要なものなのですか? 」
カラン ・・・ スターシアはずっと履いていた真新しい靴を差し出した。
「 陛下。 先ほども申し上げましたように素足では 」
「 それはよ~く理解いたしました。 でも わたくし ・・・
ずっと素足でも健康で元気で過ごして参りましたわ。
お家の中でもずっと ・・・ 」
「 家の中は別です。 」
「 外でも変わりはないかと思いますわ。 」
かの青き星 ― イスカンダルで 女王スターシアはいつも素足で過ごしていた。
イスカンダルにはタイトな靴を履く、という文化はなかった。
王族も国民たちも日常ではほとんど素足ですごし 必要に応じて植物の繊維で編んだごく軽い
スリッパ風なものを着用するだけだった。
地球に来てからも 守の細君は家の中ではほとんど素足で過ごしている。
近所に買い物に行くとか 保育施設のボランティアに通う時には 軽いサンダルを
引っ掛けている。 冬でも雨の日でも。
珍しく機嫌の悪い彼女に 守は少し気の毒な気もしていた。
あ~ ・・・ そりゃ窮屈だろうなあ ・・・
しかし ― ま 郷に入っては郷に従え というコトで
納得してもらわないとなあ。
はやり < ご公務 > で 裸足ってのはマズイよ
えっへん。 ちょいとわざとらしく咳払いをすると 守はスターシアの隣に座った。
「 外は。 まだまだ復興工事中の個所が多いし危険です。 」
「 ・・・ 地球市民の方々は皆 お掃除好きで道もキレイです。 」
「 え~ 怪我や汚れの問題の他にも大切なことがあります。」
「 まあ なにかしら。 」
「 陛下。 靴を履くことは この星のしきたりなのです。 」
「 しきたり ですか。 しきたりは遵守しなければなりませんわ。
・・・ 承知いたしました。 」
「 ご理解くださりありがとうございます。 」
「 ― わたくし にんぎょ姫にはとてもなれませんわ ・・・ 」
「 ?? にんぎょひめ ??? 」
「 ええ。 ナイフの上を歩いても微笑んでいる、なんて無理ですもの。 」
「 ??? 」
「 あの。 公務はともかく お家ではわたくし ― このままで過ごしますわ。 」
スターシアは引っ掛けていたスリッパを ぱこ~ん・・・と脱ぎ捨てた。
「 ふ ~~~ ん ・・・ 」
守は食後のお茶を ゆっくり楽しんでいる。
あ ・・・ なんかなあ~~~
今日の晩飯は 静かだったなあ ・・・
日曜や彼が非番の日には 二人で食事を作り、お喋りしつつ楽しんで
食べるのが 古代家の習慣だ。
一人娘のサーシアは 訓練学校の寮に入っているので普段は夫婦差し向かいで食卓につく。
今だにあつ~~~い視線を絡ませたりしている二人である が。
その夜は スターシアは言葉が少なかった。
「 どうした? 疲れたのかい。 」
ついに守は彼の細君に声をかけた。
「 ・・・ ええ。 とても疲れましたわ。 わたくし、窮屈なモノは好みませんの。 」
「 窮屈? ・・・ 太った風には見えないけど?
」
守は 笑いをかみ殺しつつとぼけてみせた。
「 ! 太ってなんかおりませんわ。 」
「 だよな~ いつでもすっきり素敵だよ~~ オクサン 」
彼は身を乗りだし 彼女の頬にキスをした。
「 ・・・ もう~~ 守ったら・・・
あの! わたくし、地球市民として生きてゆこうと決めておりますが。 」
「 はい ご立派なご決意です、陛下。 」
「 でも ですね。 あの。 靴だけは ― わたくし、どうしても理解できませんの。
ええ しきたり は守らなければならないことはわかっていますわ。
でも ね。 あんな硬いモノを 」
「 ご理解ください 陛下。 」
「 わたくし、窮屈は 好みません。 夜も手足を伸ばしてゆ~~っくり
眠るのが好きなんです。 」
「 おお それは失礼しました。 今晩 俺は居間のソファで寝るから。
ベッドではのびのび~~ おひとりでどうぞ。
」
「 ・・・・ 」
陛下は憮然としてなにもお答えにはならなかった。
― 夜も更けて ・・・
守は毛布を抱えて居間のソファにひっくり返っている。
「 ふんふん~~~♪ 音楽でも聞くかな~~
」
彼はイヤフォン型プレイヤーを操作していた。
カタン ・・・ リビングのドアが開いてネグリジェ姿の彼女が現れた。
イラスト : めぼうき
「 おや ・・・ まだ寝ていなかったのかい。 」
「 ・・・・ 」
こくん。 枕を抱えたまま 彼女は頷く。
「 水でも飲みにきたのかな? 」
ふるふる。 彼女の金髪が揺れる。
「 ・・・ 一人だと ・・・ さみ ・・いえ 寒いの。 」
「 はい? 」
「 ・・・ もう~~ ・・・ わたくし 寒いんですっ 」
「 毛布 もう一枚お使いになりますか 」
「 守の いぢわる ・・・っ 」
「 はいはい 」
守は 素足で絨毯を踏み踏みしている彼の愛妻をさっと抱き上げた。
「 では ご一緒に ♪ 」
女王陛下の悩み事は ― どうやらずっと続きそうだけどあつ~~い夜が癒してくれるでしょう ね。
**************************** Fin.
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Last updated :
04,05,2016.
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