『 その愛しき日々 』
企画 : めぼうき ・ ばちるど
テキスト : ばちるど
****** はじめに ******
この物語の主人公の二人の世界については こちら をご参照ください。
そして 『 相棒 』 をお読みくださるとわかり易いと思います。
ひゅううう ・・・・ ひゅるり ・・・
ダイヤモンド・パレス の中庭を 一陣の北風が吹き抜けてゆく。
「 ふうん・・・ ここも結構冷えるんだなあ 」
守は晴れ上がった空をながめ ほう・・・っと息を吐いた。
ここ数日 気温は朝晩を中心にぐんと下がってきている。
サンザーは 明るい光をなげかけてくれるので 昼間はキラキラと明るいけれど
やはり空気はぴ~んと凍っている。
「 温暖な気候とはいえ 冬はやはりそれなりに冷え込むってことか 」
うん ・・・ なんとなく似てるよなあ・・・
俺の故郷のあののんびりした地域と さ
宮殿のテラスから なだらかに広がる庭を眺めつつもやはり故郷に想いを馳せてしまう。
あの光景は 今はもうどこにも見つけることはできないのだが。
いいさ。 いつだってどこでだって あの景色は俺の心の中にちゃんとあるんだ。
こう・・・ 目を閉じれば浮かんでくる・・・
それにしても ・・・ 雰囲気も似てる かな
ああ だからここでの暮らしにすぐに馴染めたのかもしれないな・・・
守は大きく深呼吸をし、きりりとした大気をいっぱいに吸いこんだ。
朝一番の冷え込みも 気分が引き締まってよいものだった。
「 さて。 今日も張り切って < 仕事 > だ ! 」
澄み切った空に向かって 宣言した。
守にとって 今までの人生の大半は < 敵と闘う ・ 故郷を護る > ことが仕事だった。
いや そのためだけに生きてきた。
この星、イスカンダルに救助された当初は、怪我と宇宙放射線病で病床を離れられない日々が続いた。
意識が戻った後も自由に動くこともままならない身体に歯噛みをし、
一日も早くガミラスと 闘いたいのに と切歯扼腕した夜もあった。
― しかし 故郷の星から辿り着いた弟たち、
そして 旧友から彼らの航海での話を聞き
さらに あの巨大な戦艦が空の彼方に消えて行くのを見送った時、守の思いは 消えていた。
今、傍らには 愛しい女性 ( ひと ) が寄り添ってくれている。
彼女を護り この星を護る。 それが 守の、彼にしかできない < 仕事 > なのだ。
実際、 一つの国 いや 一つの星
を統べてゆく ということは 途方もない難行苦行だった
…
ましてや 自分は 全く の異邦人なのだ。
歴代女王の夫君が 貴士
( ナイト ) として全国民の尊敬を集めていたことが よくわかった。
俺も 負ける訳には行かない。
守は 腹をくくり全身全霊で彼の < 仕事 > に取り組み始めた。
新妻の優しい微笑みは 最高の癒しだった。 そして 女王としても 彼女は実に優れた君主であり統治者だった。
「 守 ? ・・・ ああ テラスに出ていらしたの。 寒くありませんこと? 」
「 スターシア ・・・ お早う 」
ふわり、と寄り添ってきた妻を抱き寄せ守は軽く口づけをした。
「 ふふ・・・ お早うございます。 今朝は風が強いですわね。 」
「 そうだなあ。 あ ・・・ ちょうどいいや、今日は大掃除するよ。
ほら ・・・ 窓拭きとかやってもいいかい。 」
守は宮殿の細長く高い窓をふり仰いだ。
全体が強化ガラス張りにも似た造りの宮殿は 窓がとても多いのだ。
「 窓拭き? あら それならアンドロイドに命じて、清掃ロボットを稼働させましょう。
朝食の間に磨きあげてくれますわ。 」
「 う ~~ん ・・・ やっぱりなんというか ・・・ 年末の大掃除はさ、自分の手で
やりたいんだよなあ。 掃除をするってことに意義がある気がしてな。 」
「 ねんまつ?? ・・・ ああ 一年の終わり、ということですね?
地球は冬に新しい年が始まるのでしたよね。 イスカンダルとだいたい同じ周期で
恒星の周囲を一周していますものね。 」
「 あ~~ 冬に、ってのはたまたま俺の生まれ育った国が北半球にあったからで
夏に新年を迎える国もあったよ。 」
「 まあ そうなの? どの星でも新しい年を迎えるのにお祝いをしますわね。 」
「 この星が イスカンダルにとって祝うべき日は初夏だものな。 」
「 ええ ・・・ イスカンダル・ブルーが満開になる日でもありますわ。
」
イスカンダルの新年は 初夏、地球で言えば夏至の日から始まる。
そしてそれはイスカンダル・ブルーが満開に咲き誇る日だった。
その日 ― 太古の昔からこの星の人々は皆 特別なことはしない。
家族や親しい仲間同士で屋外に出、サンザーの光を浴び満開の花を愛で
微笑み合い穏やかに過ごす習慣だった。
その年の夏至の日には守もスターシアと連れ立ち、小高い丘にでて一面にひろがる白い花々を眺め、
その芳香を楽しんだりもした。
「 う~~ん やっぱりこの時期になるとな~ 正月を迎えたくなるんだ 」
「 しょうがつ? 」
「 うん。 地球の、いや 俺の生まれた国で、新年を祝う特別な日のことさ。 」
「 それでしたら ・・・ 冬至の日を祝いませんこと?
サンザーから一番遠ざかる日ですが またこれから近づいてゆく出発の日でもありますわ。 」
「 お いいねえ~~ 」
「 守の生まれ育った国での新しい年の迎え方、いろいろ教えてくださいな。 」
「 あは ・・・ 俺もうろ覚えなんだけど ・・・
でもこの星での新年と同じで 日の出を待って拝んだりしていたよ。 」
「 まあ 日の出を? それは素敵ですわ。 ねえねえ < しょうがつ > やりましょう!
あ・・・ 麺麭ができたみたい。 < しょうがつ > の前にお食事にしましょ。 」
スターシアはにこにこしつつ 中に入っていった。
「 なんだか楽しみになってきたぞ~~ 」
「 にゃあ~~~~~ん 」
「 お。 茶モフも賛成してくれるのかい? よし それじゃ冬至の日の祭ってことで 」
「 にゃ~~~ あ 」
ふさふさした鬣を揺らして *〇жкЯ26世 も賛成の意を示した。
この優雅な茶色毛のイスカンダル猫は 最近では守と一緒に宮殿の内外をしっかりとパトロールしたり、
時には宇宙まで一緒に飛び出すこともある。
「 よ~し。 それではまずは大掃除だな。 まあ・・・この広さだし・・・
祭祀の場所以外は掃除ロボットの手を借りよう。 」
「 にゃにゃにゃ~~~ 」
「 一緒に来るかい? 茶モフはいつも綺麗好きだから掃除も好きなのかな。
お そうだ そうだ。 王家の墓地も掃除しなくちゃな~~
」
「 にゃ~~あ?? 」
「 うん お前の住処もさ、修理とかあったらやるぞ? 」
「 にゃ~~ 」
「 よ~~し。 まずは ― 朝メシだ! 風が冷たいからなあ ・・・来いよ、
サン・ルームで食べよう。 お~~い スターシア? 」
守は優雅に茶色の鬣を揺らすイスカンダル猫と一緒に 宮殿の中に入っていった。
*〇жкЯ26世 - イスカンダルの先代・貴士閣下の護り神だ。
外見は ふさふさと立派な鬣をもち全身艶々とした茶色の毛皮を纏っている。
きりりと立った耳、そして左右に張った豊かな髭、爛々と輝く瞳は済んだ青 ・・・の 猫、
いや、地球の猫族とそっくりのイスカンダルの生き物なのである。
誇り高く賢い彼の一族は代々イスカンダル王家と共に生きてきたのだという。
「 ご馳走様でした。 ・・・ ああ この卵焼きは本当に美味いなあ。 」
守はちょっと手を合わせてから静かに箸を置いた。
「 ふふふ・・・ ルモナは守のお気に入りですものね。 」
ルモナとは イスカンダルでのごく一般的な家庭料理で 朝食には欠かせないものだという。
「 君の料理ならなんでも好きだけど。 特に卵焼きが好きさ。 」
「 嬉しいわ。 でもね ちょっとびっくり。 ルモナの作り方はお母様から直接
教わったの。 ウチに代々伝わる料理ですよ・・・って。
それが守がお家で召し上がっていたものと似ているなんて。 」
「 う~~ん そうだよねえ・・・ ま 美味いモノはどこでも共通ってことさ。」
「 そうね。 」
にっこりすると スターシアも箸を置いた。
この夫婦箸は守の手作りだ。 食事の際、イスカンダルではフォークに似た食器を使う。
それもなかなか便利だが、守にはやはり箸の方が使い勝手がよい。
ある日 森の中で手頃な枝を拾い手製のナイフで削り出し箸を作った。
最初は彼だけが使っていたのだが ―
「 ・・・ ねえ その < おはし > わたくしにも使い方を教えてくださいな。 」
食事の度に興味深けにしげしげと夫の手元を見ていた妻は ついにそう言いだした。
「 お? 使ってみるかい。 」
「 ええ。 なんだかとても便利に見えますもの。 」
「 よ~し それじゃ君の箸も作るから・・・ うん、これと一緒に使うといいさ。 」
守は 彼も併用しているこの星の食器を指した。
「 ええ。 ねえ もっと長いのも作ってくださいません?
お食事を作る時にも使えそうなんですもの。 」
「 了解~~ うん、地球でもな、料理の時に使うんだ。 任せてとけ。 」
「 お願いしますわ。 ふふふ 楽しみ~~ 」
そんなやり取りの後、 イスカンダル王家の食器に 夫婦箸 と 菜箸 が加わった。
女王陛下は 実に器用に菜箸を使い調理をし、食事の時には夫の手作りの箸を使われた。
食後、高い位置の窓拭きをアンドロイドに命じた。
「 スターシア。 王家の墓所も掃除してくる。 ついでにパトロールも 」
「 はい 行ってらっしゃい。 」
「 にゃ~~あん 」
「 *〇жкЯ26世、 守のお供をお願いね。 」
「 茶モフ、用意はいいかい。 」
「 にゃにゃ~~~ 」
当たり前だ、という顔で イスカンダルの護り猫は守の足元で鬣をゆらす。
「 よ~し。 今日は祈りの杜の奥まで行ってみたいんだ。 案内を頼めるかい。 」
「 にゃ! 」
「 じゃ 出発だ。 」
「 にゃ~あ~! 」
一人と一匹、いや 二人は肩を並べでかけて行った。
「 行ってらっしゃい。 ふふふ ・・・ 仲良しねえ。
お父様とご一緒していたころみたいだわ、*〇жкЯ26世 ・・・ 」
「 にゃあ~~~~ん 」
一声 高く鳴き尻尾を高々と掲げ、茶色毛の猫は彼の <相棒> と共に出かけてゆくのだった。
ダイヤモンド・パレスから市街地とは反対の方向に 大きな森が広がっている。
その一部には 広大な墓地があり、今は全てのイスカンダル国民が眠っているのだが・・・
一方には樹木が豊かに枝を広げ草地やら大きな池なども存在していた。
「 にゃあ~~~~ にゃ にゃ にゃ~~ 」
「 お~~い 待ってくれ~~ 」
茶モフは先に立ち 森の中をどんどん進んでゆく。
「 ひゃあ~~ すごい森だなあ・・・ おっと ・・・ 」
枝を払い、つる草に足を取られつつ、守は茶色猫の後を追ってゆく。
「 にゃ~~? 」
時々 < 彼 > は 立ち止まり、守が追いつくのを待っている。
「 いや~~ お前ってばなんでも知っているんだなあ・・・ スゴイぜ。
う~~ん さすがに先代貴士閣下の守護神、 俺のよい相棒だよ。 」
「 にゃおう~ 」
当たり前だろう、と < 彼 > は ちょっと偉そうな顔をするのだった。
こんな風に 茶モフは 彼しかしらないイスカンダル を ちょくちょく教えてくれた。
― ある時には・・・ 眠りの森の奥の崖地の方まで遠征した。
「 う~ん ・・・ この辺りは初めてだなあ。 」
足元はだんだんと岩場が多くなってゆき 周囲の樹木の種類も変ってきた。
「 ふうん? この先にはなにかあるのかな。 すこし空気が温かいようだが 湿気もあるな
うん? この匂いは ・・・ 硫黄 か? 」
「 にゃ~~~~あ ! 」
先を行く < 彼 > が ふと足を止め守を呼んでいる。
「 おう? どうした・・・ お。 これは ・・・ 」
< 彼 > が立ち止まっている所は 少し高い台地になっていてその下を覗きこめば ―
もうもうと蒸気のあがる < 池 > と そこから流れだす小川があった。
台地には深い亀裂がそこここにあり 水蒸気が上がっていた。
「 温泉 ・・・ か?? ああ 地熱で池が温まっているんだな。 」
イスカンダルには多くの活火山や活断層があり、宮殿の付近にも昔の火山の址が見られた。
・・・ その活動が最近活発になりつつあるのだが・・・
「 にゃ? 」
「 うん 降りていってみようか。 硫化水素の類はなさそうだし・・・
ああ 地面が熱いな。 さあ 俺の肩に乗れよ。」
「 ・・・ にゃ? 」
「 ほら 遠慮するな。 その足には熱いだろう? 」
「 にゃ~~ 」
守が身を屈めると < 彼 > は と~~~ん・・・と肩に飛びのってきた。
「 しっかり捉まれ。 爪 立てていいぞ。 」
「 にゃ。」
< 彼 > は 守の肩に座ると身をひくくして長い尻尾でバランスを取っている。
「 いいか? よ~し ・・・ 降りるぞ~~ 」
「 にゃお! 」
相棒を肩に乗せ 守は慎重に崖を降りていった。
「 ・・・ ふうん ・・・ これは完全に温泉だな。 間欠泉ではないな ・・・ 」
汀まで降りてゆくと 慎重に手を伸ばす。
「 う ん? ・・・ 熱湯ではない な ああ こっちから小川が流れこんでいるのか~ 」
「 にゃ~~~ 」
「 ああ 熱いよなあ ・・・ ほら こっちの岩場にまず降りろよ。 」
「 にゃ! 」
すとん、と肩から降りると イスカンダル猫の彼も温かい水面に鼻づらを近づけたりしている。
守は腕まくりをしてばしゃばしゃ・・・ 湯を掻きまわす。
水質に問題はなさそうだし、透明な湯が滾々と溢れているのはなんとも気持ちのよいものだ。
「 こりゃ いいなあ~~ ちょっと浸かってみるか ?? 」
「 にゃ? にゃ~~~~~ 」
ぱらぱら服を脱ぎ始めた守に < 彼 > は仰天し、しきりに話かける。
「 うん? ああ ちょっとな~~ この中に入って温まろうかなって思ってさ。
お前も一緒にどうだい。 」
「 にゃあ? にゃあああ~~~ 」
とんでもない! という顔で < 彼 > は守の足元を退こうとしない。
「 お 心配してくれるのか? サンキュ~~ でも大丈夫だから ・・・ 多分。
ほら お前は濡れるのはイヤなのだろう? ちょっとほら・・・俺に服の上にいろ。 」
ひょい、と彼を抱き上げ自分の脱いだ衣類の上に座らせると 守はそろそろと温泉? に
入っていった。
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
「 ふぁ ~~~~ ・・・・ こりゃ最上の湯だぞ~~~ う~~~ん ・・・ 」
奥の方からはかなりの温度の湯が湧き出しているのだが 上流から流れこむ小川が
温度を下げてくれている。
「 うん ・・・ この辺りが最適ってとこか ・・・ あ~~~ 」
「 にゃ ・・・ 」
「 そんな心配そうな顔 しなくても大丈夫だって・・・
ああ そうか~ この星には < 湯に入る > って文化はないものなあ 」
イスカンダルには水浴やら海で泳ぐ習慣はあるが 湯あみ
の習慣はない。
身体を清潔に保つためには 特殊なイオンのシャワーを浴びて済ます。
「 う~~ん あのシャワーも短時間で清潔になれていいんだけどさ・・・
やっぱさ~ こう・・・ ぼ~~~っと湯に浸かるって時間、欲しいんだよなあ 」
「 にゃ~~あ ・・・? 」
< 彼 > は 守の服の上から不思議そう~~な眼差しで見つめている。
「 気持ち いいぞ~~~ 特にこの季節にはな。 おい 茶モフ~~ お前も入ってみるか? 」
「 にゃ! 」
とんでもない!といった顔つきで < 彼 > はふるふると鬣を振った。
「 ははは ・・・ 安心しろ、無理強いはしないさ。 猫ってのは濡れるのは苦手だもの。 」
「 ・・・ にゃ~~ 」
それでも < 彼 > は 好奇心には勝てないらしく そろそろと汀までやってきた。
「 ふふふ ・・・ ほら 湯気に当たるだけでも暖かいだろう? 」
「 ・・・ みゅう ~~~ 」
ちょい、と手先を湯に浸けて 慌ててふるふる振ったりしている。
「 ははは 拭いてやるよ ・・・ そら 」
守は服のポケットからハンカチを引っぱり出すと < 彼 > の手先と鬣をさっと拭いた。
「 にゃあ~~~ 」
「 ま これも経験さ。 さて 俺も出るかな~~ あ~~ あったまったぁ~~ 」
ざざっと < 露天風呂 > から出れば 吹き抜ける寒風も心地よく感じられた。
「 ふ ~~~ ・・・ いい気分だなあ~ ありがとうな~~ 茶モフ~~ 」
「 にゃあ! 」
また安直な名で呼んで! と 誇り高い*〇жкЯ26世は少々お冠のご様子だが
露天風呂での暖気はかなり気に入っているらしい。
「 さ 帰ろう。 う~ん ・・・ ウチの奥さんもここに誘いたいが ・・・
う~~ん どうかなあ? そもそも温泉に浸かって温まるって発想、ないしなあ 」
「 ・・・ にゃ~あ ・・・ 」
「 そうだよな ま ここは当分、俺達のヒミツにしておくか。 」
「 にゃ。 」
「 あ~~ ・・・ しっかしいい気分だあ~~ ふんふんふ~~~ん♪ 」
「 にゃ~ にゃにゃ~~ 」
< 彼 > も さらさら鬣を寒風に靡かせ、ちょっと得意気である。
「 ふんふん ・・・ しかし 君はほっんとうにこの星について詳しいんだなあ
義父上、いや 先代の貴士閣下のお仕込みかい。 」
「 にゃあ~~ん 」
胸を張り、ぴん張った髭を震わすその姿は 気品もありりっぱなものだ。
「 さすが ・・・ 先代の護り神だなあ。 茶モフ・・・ いや *〇жкЯ26世どの、
俺にもいろいろご教唆願います。 」
守は < 彼 > に向かってきちんと頭を下げた。
「 にゃ~~~おぅ~~~ 」
守の < *〇жкЯ26世 > は 若干怪しい発音だったけれど、なんとか受け入れてもらえた・・・らしい。
「 ありがとう! そうだ、帰り道にはククルの実を拾って帰ろう。 まだまだ取りこぼしが
あるだろう? きちんと収穫しなくちゃな。 」
「 にゃ! 」
< 彼 > もパタパタ尻尾を振って賛意を示した。
大きな葉を袋代わりにして ククルの実 を山ほど拾って帰った。
「 ただいま~~ スターシア~~ お土産があるぞ 」
「 お帰りなさい、守。 まあ なにかしら。 」
帰宅した夫を若妻は最高の笑顔で迎えてくれる。
「 ふふふ ・・・ 俺たちの好物 さ。 ほら ・・・ 」
ざらざらと 葉っぱの中からククルの実がこぼれ出す。
「 さ~~ これを蒸して ああ 焼いてもいいなあ 」
「 まあ たくさんありますこと♪ 嬉しいわあ~~ 」
「 奥さんの好物ですからね~ お好みはなんですか? 」
「 えっと ・・・ うふふ・・・ 焼いても蒸しても好きですわ。 」
「 そうそう これは本当に美味い ・・・ あ? これは熟れ過ぎか ・・・ 」
中に一つ、形が緩んでいるものがあった。
独特の香りを放っているが 悪臭ではない。
「 ほう・・・? 腐敗じゃなくてこれは発酵だな。
」
「 あら 珍しいわ~~ ククルの実が発酵するってめったにないのよ。 」
「 そうなんだ? 発酵させてどうやって食べるのかな? 」
「 わたしも経験はないのですけど・・・ 保存食になるって聞きましたわ。 」
「 保存食? ふうん ・・・ ちょっとやってみるか。 これにルモナの粉を足して
撹拌してみようか。 」
「 まあ なにをなさるの? 見たいわ~~~ 守っていつも面白いこと、発見するのですもの 」
スターシアは にこにこしつつキッチンに付いてきた。
― ククルの実は 餅 に変身した !
餅といっても もち米で作るわけではないのでかなり様子は違ってしまった。
多少の粘り気がある、面白い料理が出来上がった。
「 まあ~~~ 美味しいわ! 」
目を輝かせ味見をしたスターシアは 声をあげた。
「 え そうかい? 」
「 ええ ええ! こういう食感って初めてですけど ・・・ 美味しい!
きゃ ・・・ うふふ オイシイ~~~ 」
彼女は 箸を使って器用にククルの餅を食べた。
「 気に入ってくれてうれしいなあ~~ いや 本当の餅はもっとこう・・・
粘るんだけど・・・ 」
守が作ったのは 橡餅 ( とちもち ) みたいなもので、食感はかなり本来の餅とは
ちがってしまっていた。
「 あらあ~ これ好きですわ。 ククルの実の味がちゃんとするし ・・・
このまま食べても美味しいし なにか調味料をつかっても美味しいわね きっと。 」
「 ああ そうだね。 ・・・うん これは確かにククルだなあ
」
「 ね? あ そうだわ。
*〇жкЯ26世にもあげましょう。
彼って ククルの実が大好きですもの。 」
「 お そうだったな。 それじゃ・・・ 小さくちぎって と ・・・ 」
「 食器をだしますね。 ・・・ ああ これがいいわ。 」
スターシアは王家の紋章入りの小皿を取り出した。
「 ・・・ ! にゃあ~~~~~ん♪
」
< 彼 > は 女王陛下の説明を聞き、初めて見る 餅もどき を素直に口にし ―
すぐに感激の鳴き声をあげた。
「 き 気に入ってくれたの ・・・ かな? 」
「 ええ ええ。 ほら とてもおいしそうに食べていますわ? 」
「 あは ホントだ。 あ~~ よかった~~ 猫が餅を食うのか ・・・ 」
「 これ 美味しいですもの。 ねえ *〇жкЯ26世 ? 」
「 にゃあ~~~~ 」
< 彼 > は 大きな尻尾をぱたぱた振り あっという間に平らげた。
「 ようし。 これで正月を祝おう。 」
「 楽しみですわ~~ イスカンダルでのお祝いの献立もつくりますね。 」
「 頼む~~ ああ 楽しみだな。 おっとそうだ そうだ・・・
王家の墓所の掃除、きっちり済ませてこないとな。 」
「 うにゃ? 」
「 うん。 お前の住処もな、もし不具合があれば修繕するよ。 」
「 にゃあ~~ 」
「 まあ それはよかったわねえ *〇жкЯ26世・・・ 守、お願いします。 」
「 うん 任せておけ。 」
ヒュウ ーーーー ・・・・
王家の墓所がある眠りの杜は 寒風に揺れていた。
「 まずは ご挨拶 だな。 義父上 義母上 ・・・ そしてここに眠りイスカンダル王家の
皆さん ・・ ご無沙汰しています・・ 」
「 にゃ ・・・・・ 」
守は頭を垂れ 静かに祈りをささげた。
「 皆さん、 今日は掃除にきました。 そして義父上の護り神の住処も整えさせて
いただきます。 」
「 にゃおう~~~~~~ にゃおう~~~~~~ 」
*〇жкЯ26世は一際高く そして 長く鳴いた。
彼の張りのる声は 眠りの杜に深く遠く響いてゆく・・・
「 ・・・ああ きっとここに眠るイスカンダルの人々も懐かしく聞いているのだろうなあ 」
さあ 掃除だ! と 守は王家の墓所の清掃を始めた。
そして 墓碑の足元に設えてあった < 護り神 > の住処も ― 彼が小枝やら
大きな葉を上手に組み合わせ、なかなか快適な場所になっていた ― 持参した資材で補強した。
「 う~~ん ・・・ こんなもんかな? どうだい、相棒? 」
「 にゃ にゃあ~~~~ 」
< 彼 > はリフォームされた住居に入ったり出たりしていたが 鬣を震わせ挨拶をした。
「 にゃ にゃ~~~ん 」
「 あは そんな礼なんかいらないよ。 気に入ってくれればうれしいよ。 」
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
「 うん? なんだい 」
< 彼 > は ちょっと憂いを秘めた顔で 守を見つめ歩き出した。
ガサ ガサ ・・・ < 彼 > は 墓所の裏を分け入ってゆく。
「 なにがあるのかい? うん? 」
すぐに < 彼 > は 立ち止まり、守をじっと見上げた。
「 ここになにか ・・・ ああ ・・・ 」
そこには周囲よりも厚く枯葉やら小枝が積まれていて、小さな塚のようになっていた。
守は屈みこんで 隙間をみつめ ― 了解した。
「 そうか ・・・ 茶モフの、いや。 *〇жкЯ26世夫人の奥津城なのか ・・・ 」
「 ・・・ にゃ ・・・ 」
「 ここじゃ可哀想だ。 なあ 俺が*〇жкЯ26世夫人に相応しく王家の墓所の下に
葬り直してもいいかい。 」
「 にゃ ~~~ 」
青い瞳は じっと守を見つめると こくん、とうなずいた。
「 わかった。 任せてくれ。 道具をもってきてよかったよ・・・ 」
「 にゃ ・・・・ 」
守は先に逝った < 彼 > の連れ合いの亡骸を 王家の墓所に丁寧に葬った。
「 にゃおう~~~ にゃ にゃ ・・・ 」
< 彼 > は さかんに守の足元に鬣をこすりつける。
「 あは ・・・ 礼なんかいいよ。 この星で共に生きよう な、 相棒! 」
「 にゃあ~お ! 」
掃除と修復の終わり、墓所はすっきりした様相となった。
「 ・・・ それじゃ ちょいと失礼してっと。
スターシアがな~~ 弁当を作ってくれたんだ。 ほら~~ お前の分もあるぞ 」
守は 隅に座り込むと運んできた包みを開けた。
< 彼 > は行儀よく守のすぐ横に座っている。
「 にゃ? にゃ~~~ 」
「 ~~~ ん ~~~ 美味い! 外で食べる弁当はまた格別だな。 」
「 にゃ にゃ ・・・ 」
弁当を食べつつ 頭上に広がる水色の空を二人で眺めている。
「 ・・・ なあ 茶モフ。 ここもいいがやはり宮殿に戻ってこいよ~
スターシアも望んでいるし な 」
「 ・・・・ にゃ 」
茶モフ君は 少し困った顔をした。
「 そりゃ お前はお前のご主人の側に居たいってのもわかるが ・・・
ここはやはり寒いよ。 義父上も、娘の望みなら喜んで許可してくださると思うぞ。 」
「 にゃ~~~ 」
ぱふ。 茶モフのもふもふした前肢がそっと守の手に触れた。
「 うん? まあ きみの意志を尊重するが ・・・ 検討してみてくれ。 」
「 にゃ。 」
「 よっしゃ ・・・ じゃあ 帰ろう。 晩飯は一緒だぞ。 」
「 にゃ~~ 」
二人は 並んで王家の墓所から宮殿に戻って行った。
― 冬至の日 ・・・ 守とスターシア そして *〇жкЯ26世も一緒に
< 新しい年 > を祝った。
赤い実のつく木と緑の葉の木を 女王陛下は見事に活けてくれた。
「 ほう~~~ これは素晴らしい! 正月の飾り物として最高だよ! 」
「 まあ 嬉しい。 < しょうがつ > の雰囲気、でましたかしら。 」
「 ばっちり さ。 さあ~~ お節料理を食べよう。 」
「 おせちりょうり って ・・・ えっと ・・・ しょうがつ専用のごちそう でしょ? 」
「 そうさ。 ほら ちゃ~~んとあるだろう? 」
守はにこにこしつつ ・・・ 厨房からワゴンを押してきた。
「 うふふ ・・・ そうね。 ククルの実の < おもち > でしょ。
砂護りの < さしみ > でしょ。 あとは 極上の空の雫 ね? 」
空の雫 とは この星の酒でワインやブランデーに似たものだ。
「 ご正解~~~。 さ ・・・ ほら 茶モフ、 どうぞ~ 」
「 にゃあ~~ん ♪ 」
< 彼 > も お節料理を貰い、ご満悦だった。
「 では 春への出発の日に ・・・ 」
「 あけましておめでとう ・・・ ですわね? 」
「 御意~~~ 女王陛下~~ 」
― チリン ・・・ 夫婦はグラスを合わせ 乾杯をした。
「 にゃあ ~~~ 」
そんな様子を *〇жкЯ26世 は 満足そうに眺めていた。
その夜 ―
ヒュウ ---- ・・・ 寒風がクリスタル・パレスの窓を鳴らしてゆく。
「 ・・・ 冷えてきたな 」
「 ええ ・・・ 部屋の温度を上げましょうか?
」
「 いや いいよ。 ・・・ 茶モフ ・・・ やっぱり帰っていったか ・・・ 」
「 ええ。 *〇жкЯ26世にとって < 家 > は 護るべき人の側なのですから。 」
「 そうだろうけど ・・・ 寒いだろうに ・・・ 」
「 彼も父の側に居るのが満足なのです。 それに ほら・・・ 守がお家をリフォームして
くださったでしょう ? 」
「 うん ・・・ でもなあ ・・・ ここで一緒に暮らしたらいいのに ・・・ 」
「 彼は彼の大切なヒトの側に居たいのよ。 でも ・・・ 今度 また誘ってみましょう?
皆で一緒に居ましょうって 」
「 うん それがいいな。 一緒がいいよ、うん ・・・ 」
「 そうですわね。 」
「 さあ ・・・ もう休もうか。 冷えてきたし ・・・ 」
「 ええ 」
「 なあ 奥さん? 姫初め って 知ってるかい ? 」
「 ひめ はじめ ですか。 いいえ? 」
「 新年になってからな 初めて愛し合うこと さ♪ 」
守はさっと愛妻を抱き上げた。
「 まあ ・・・ きゃ♪ 」
「 では スターシア ・・・ 一緒に新年初めの夜 を♪ 」
「 はい♪ 」
― 熱い 熱い 夜 が始まった。
翌日は ぴかぴかの晴天となった。
守はお手製の凧をもって 宮殿の外れにの小高い丘に出た。
「 さあ ・・・ 揚がるか ・・・? 」
糸を引いて少し駆けると 北寄りの風にのって凧はぐんぐんと上がってゆく。
澄んだイスカンダルの空に 水色の空に 白い凧が悠々と泳ぐ。
あは アレは俺かなあ ・・・
「 にゃあああ~ん 」
供をして足元に座っていた < 彼 > は 少し首を傾げ、空を見上げていた。
このまま 穏やかな日々が続くに違いない と 守もスターシアも信じていた。
いや ・・・ そう信じていたかった。
そして 数週間の後の ある朝 ―
「 お早う スターシア 」
「 お早うございます 守。 ああ 今朝も冷えましたね。 」
「 ああ・・・ うん? 今朝は ・・・ 遅いなあ 26世殿は寝坊なのかな 」
「 うふふ そうかも ・・・ でももうすぐやってきますわよ。 」
「 そうだな。 」
寒い 寒い 朝 だった。 ― < 彼 > は ・・・
****************************** Fin. ***************************
Last updated :
03,31,2015.
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