『 008 ・ 幻   − 夢 − 』

 

 

− なにか・・・やわらかいモノがふわりと頬をふれて行った気がして。 ボクは目がさめた。

 

ゆっくりと首を まわす。

周囲の穏やかな空気や 光線の具合からココが研究所のリビングだと判断する。

 

− アア。 アノミッションハ ウマクイッタンダネ・・・・

 

眠りに落ちる寸前の 緊迫したドルフィン号での様子をボクはちらっと思い返して少しほっとした。

う・・・・ん、 気持ちいい風だけど。 ああ、もう夏なんだ。 この夏掛け、おニュ−だね ・・・

 

 −  ア・・・アア・・・・ ?  −

もぞもぞと身体を動かして ちょっとだけ声もだしてみる。

「 あら。 目が覚めた? イワン。 おはよう。   じゃあ・・・ そろそろ お茶にしましょうか。 」

ふわ・・・といい匂いと一緒に やさしい蒼い瞳がボクを覗きこむよ。

 

テラスでは 大きな麦藁帽子が上下して。 

パチパチいう植木ハサミの音と ちょっと外れた鼻歌が 聞こえてくる。

 ・・・・  まだ盆栽造りに嵌っているんだ ・・・・

 

「 フランソワ−ズ。 洗濯物、 取り込んできたよ。 ぱりっと乾いて・・・ あ〜いい気持ちだね!」

リネン類の山から クセっ毛の茶髪がのぞいているよ。

「 ありがとう、ジョ−。 もうすぐ、お茶よ。  ブラマンジュがちょうど冷えたと思うわ。 」

「 わ〜♪  あれ、イワン、おはよう〜。 じゃあ、支度ができるまでイワンと一緒にシャワ−、浴びてこようか? 」

「 お願いネ。 イワンの着替えは出しておくから。 」

うん、ちょっと汗かいてたから嬉しいな。 

 

「 やれ・・・。 おお、おはよう イワン。 今年の姫林檎はいい実をつけそうだぞ? 」

「 博士、お茶は何にします? ブラマンジェと、あとスコ−ンがもうじき焼けますけど。 」

「 ああ・・・いい匂いだの。 そうさな、ア−ル・グレイを頂こうかな? 」

あれ、すこし陽に焼けたの? お日様の匂いがするね。  

 

パパと一緒に お風呂に入って

やさしい白い手で ミルクをくれるママがいて

抱っこしてくれる おじいちゃんの大きな手が気持ちいい

 

これが  ボクの家  ボクの家族

ボクは イワン。  ただの甘やかされた・シアワセな・赤ん坊さ。

なんだか  また 眠くなってきちゃった・・・・。

 

 

 

 「 001、001! お願い、目を覚ませて! 」

 

ゼロ・ゼロ・ワン・・・? ナンダ、ソレハ。  エット・・・・ボクハ マダ ネボケテイルノカ・・・・?

ボク ハ いわん。 ・・・・・ チガウ・・・ソレハ タダシイ ニンシキデハナイ。 モウソウ ・ マボロシ ニスギナイ。

 

  ボク ハ サイボ−グ  001 。

 

 ( 了 ) 

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