『 007・たわごと  - 93 version - 』

 

 

 

 ぱちっ・・・・・ 一瞬、華やかな火花をちらして 熾(おき)が爆ぜた。

ゆらゆらと焚火の影が洞窟の土壁で見知らぬ生き物のようにゆれる。

漆黒の闇夜のむこうには つねになにかが忙しなく動いているように感じられてしまう。

南アメリカの奥地、この不思議な大穴の付近には 自然界のにぎやかな沈黙が渦巻いていた。



「 ・・・・ ジョ−・・・ おきてる・・・? 」

いちばん焚火にちかい所から 仰臥したままフランソワ−ズがささやいた。

「 ・・・うん・・・ きみも ねむれない? 」

「 ええ・・・。 なんか、 時の流れが止まったみたい・・・。 ああやってちゃんとお星さまは

 瞬いているだけど・・・。 世界中で あなたと ふたりっきりになってしまったみたい・・・。 」

「 大自然の夜って・・・街なかとは違ったいみで賑やかなんだね。 騒がしいくらいだ・・・ 」

「 ここに・・・ ほんとうに何か、誰かがいたと思う? 」

「 うん・・・ 確信はないけどね、でも否定もできないと思うよ。 」

 

ジョ−は 静かに身体を起こして手近にあった小枝を焚火に放り込んだ。

炎が強くなったと同じだけ 隅々によどむ闇の濃さも増したようだ。

 

「 そうね。 ・・・ このたくさんの音の中で、置き去られた・淋しい魂が泣いているかもしれないわね・・・

 あの、風の都でのように 」

「 ・・・・・・ 」

 

ジョ−のとなりに起き上がったフランソワ−ズの瞳にほのおが映り きらきらと激しく燃えさかった。

 

「 今になって・・・ここへ来てみて・・・ わかるの。 あの女性(ひと)のなみだが。

 すべての物に置き去りにされたあの人の 哀しみ、淋しさが・・・・ わたしも、 同じだもの・・・。 」

「 ・・・・ フランソワ−ズ・・・ 」

「 父も母も。 兄も友だちも・・・。 同じときを分かち合っていた人々はみんな行ってしまった・・・

 わたしを わたしだけを いつまでも変わらぬ姿にしたまま・・・・。 」

 

じっと天を仰いだままの、その白い頬に炎のかげがゆらめき映る。

星のカケラのような きらめく一筋がつ・・・っと零れ落ちてゆく。

 

「 ほら・・・・ 星が流れたわ・・・。 全然しらない星座ばかりね。 」

「 ちいさな星までよく見える・・・・。 それだけ空気が澄んでいるんだね  」

「 そうね。 ・・・・ふふふ・・・ また、いつか・・・・。 置いてゆかれるかもしれないわね、わたし・・・ 」

「 ! 僕がいるよ・・・! きみは、ひとりじゃない。 」

「 わたし、わたしね。・・・・ 怖いの、怖くてたまらないの。 」

「 なにがそんなに きみを不安にさせているの。 」

「 あなたよ、ジョ−。 あなたの、こころが・・・ ときどきとっても遠いわ。 こんな近くにいる、

 肩が触れ合うほど傍にいるのに、あなたの想いはわたしを置いて・・どこかへ飛んでいってしまうんですもの。 」

「 ここにいる。 僕は、僕のこころは永遠にきみの傍にいるよ・・・。 たとえ身体が無くなっても。 」

「 ・・・ジョ−、 おねがい。 やめて、そんな風に言うのは・・・・。 口にだすと、たとえ戯言でも

 悪夢を呼ぶわ・・・ 」

「 ごめん・・・・ でも、信じて欲しいんだ、僕の真実を・・・ 」

 

ふたたび 身を横たえたジョ−は小刻みに震えている細い肩を引き寄せる。 

ジョ−の指が す・・・っと襟元から指し込まれてきた。

「 ・・・・だめよ・・・・ こんなところで・・・。 みんな、いるのよ? 」

「 もう、 寝てるよ・・・ 」

「 ・・あ ・・・・ ああ、 だめだってば・・・・  あん・・・ 」

「 しい〜・・・ きみこそ そんな声だしちゃ ダメだよ♪ 悪夢をよぶんだろ・・・ 」

「 ・・・・・ ! ・・・・ 」

 

カサ・・・・・ 燃え尽くした焚火が崩れ落ち あたりは一段と深い闇の底に沈んだ。

 

( 了 )       Last updated : 9,3,2003.        top