『 002・赤と青   − 秋日和 − 』    

 

 

 

「 きれいねえ・・・。 マロニエにちょっと似てるけど 色がちがうのねえ・・・ 」

「 うん、日本の秋は もみじがきれいなんだよ。 」

足元に散り敷くいろとりどりの葉を なるべく踏まないように踏まないように きみは歩んでゆく。

「 踏んだって平気だよ? 」

「 あら、だってこんなに綺麗なんですもの、もったいないわ。」

カサ・・・コソ・・・ きみのきれいな脚のもとで落ち葉が遠慮がちに音をたてた。

 

気晴らしに、と閉じこもってばかりいたコズミ博士の邸から僕らは近くの裏山へ出かけた。

 

− ああ・・・。 いつの間にか。 秋になっていたんだ・・・・

 

無我夢中の悪夢の日々、その日その日を生き延びるのに必死だった時をようやくやり過ごし、

再び この国へもどって来て、僕にはようやく周りへと目をむけることができた。

あれから、 あの日から いったいどれだけの月日がたったのだろう。

ふ・・・と気付けば 裏山はみごとなまでの紅葉に包まれていた。

 

「 ほら・・・みて? なんて綺麗な赤・・・! ちいさくてもちゃんとギザギザがあるのね。 」

きみは 子供みたいに歓声を上げてはほっそりした指先で落ち葉を拾う。

「 ギザギザかあ・・・ そうだ、ああ、これがいいな・・・ 」

僕も一緒になって 足元から一枚を拾い上げた。

「 なあに? 」

「 ほら・・・ て・の・あ・が・る・も・み・じ! って出来る葉を捜してごらん? 」

赤ん坊の指先のように広がる葉の先っぽをひとつひとつ指差して僕は数えてみせた。

「 え、え? もう一度やってみて? なあに? 」

「 て・の・あ・が・る・も・み・じ。 幸運のおまじない、とか御守りとか そんなモンなんだけど 」

「 まあ、四葉のクロ−バ−みたいなのね? 」

きらきら目を輝かせて きみは僕の手許をのぞきこむ。

 

 − あ・・・・ いいにおいだ・・・

 

ふいに鼻腔をくすぐったやさしい香りに、僕はどきっとして。

僕のすぐ目の前には 豊かな亜麻色の髪がゆれている。

 

 − ・・・・きれいな色だな・・・ 木漏れ日を集めて縒った金糸みたいだ・・・

 

ぼんやりと見詰めている僕には全く気付かずに きみはぱっと身をひるがえした。

 

「 あら、青いのも落ちているわ。 これならできそうよ? ほら・・・ て・の・あ・が・る・・・・・ 」

色とりどりの落ち葉を両手いっぱいに拾って、きみは屈託なく笑う。

「 う〜ん、案外すくないのね・・・ あっ・・・と 」

「 おっと・・・ 」

いたずらな秋風がさ・・・っと彼女の髪を撫でて吹き抜ける。

僕は せっかく彼女がひろい集めた紅葉を散らばすまいと とっさに手をだした。

 

  − あ・・・・。  あら・・・・。

 

ふと・・・手が触れ合って

ふと・・・ 息がかかるほど そばにいる相手に気付いて・・・

あ・・・なんてやわらかい髪・・・ちょっと紅葉みたいな・・・赤みがかった・・・髪と目なのね

なんて ふかくてキレイな瞳・・・ 海、いや 空を映し取ったみたいな・・・・あお・・・

 

これまで わたし何をみてたのかしら・・・

いままで どうして気付かなかったんだろう・・・・

 

  − なんとも思わずに 平気でごく近くにいたことが ・・・・ 不思議。

 

微笑んでいるように かるく音をたてて風が二人のまわりに落ち葉をおどらせる。

彩錦のコンフェッチがふたりにふり注いだ。

 

  − あ・・・。 あの・・・・。

 

見詰めあっていたことに気付き、 あわててソッポを向き合って。

 

・・・・ なにか。 なにか、言わなくちゃ・・・! え〜と!

 

「 ・・・あ、あら。 ほら、コ、コズミ博士のおうちがみえるわ? 」

「 え・・・・ うん、あ、あの・・・・と、遠くが見える目って 便利だな・・・  」

 

ふたりの 季節は はじまったばかり。

 

( 了 )   Last updated : 9,3,2003.      top