『 Long Vacation 』
***** はじめに *****
こちらのカップル、 古代守さん と スターシア女王陛下 について
ご存知ない方はこちらをご参照ください → しあわせに暮らしましたとさ
企画 ・ 構成 : めぼうき ばちるど
テキスト : ばちるど
イスカンダルに夏がやってきた。
夏 といっても地球の、いや 日本の夏のように灼熱の太陽が照りつけるほどではない。
しかし 数週間、雨が多い日がすぎたあと、 この星系の母星であるサンザーは
いつにも増して強く そして 華やかな光をなげかけてきた。
それはちょうど 日本の梅雨明けにも似た感覚だった。
ああ ・・・ いい天気だ ・・・・
古代守は 宮殿のテラスから緑の多い庭をながめていた。
いつも早起きの彼なのだが、 今朝は特に早く日が昇る時刻から起き出していたのだ。
「 まあ いいお天気 ・・・ ふふふ ・・・ 夏になりましたわね。 」
後ろから ふわり、といい香りが近づいてきて、彼の愛妻の声がきこえた。
「 ん? おはよう、 スターシア 」
「 守 ・・・ おはよう・・・ 」
2人は腕を絡めあい、 朝の口付けを交わす。
「 ね・・・ ステキな季節になりましたわね。 夏 の期間に入りましたわ。 」
「 ほう? 暦の上では今日から夏なのかい。 」
「 こよみ? 」
「 あ〜 ・・・ う〜ん ?? その、昔からの習慣 というか ・・・ 」
「 まあ そういうこと? そうねえ・・・ イスカンダルでは こんな朝がくると、
ああ お日様が次の季節を連れて来た、って皆で喜びあうの。 」
「 そうか 〜 どこの星だってよい季節は歓迎だよなあ。 」
「 そうでしょ? それにね 穀雨の月のあとは ― 実りの夏、 そして 収穫の秋がくるわ。
ああ 楽しみ〜〜 」
彼女はウキウキと テラスからの眺めに興じている。
「 ふうん ・・・ いよいよもって 今日は夏の始まりの日、ってことだなあ〜 」
「 地球でも ― 似たような風に環境が変化するの? 」
「 うん。 特に夏はなあ なが〜い休みがあるから 学生やら子供達は皆余計に
嬉しかったんだろうなあ・・・・ 」
「 そうなの? ねえ 守。 わたし達も 夏休み ・・・ しませんこと? 」
「 お。 いいねえ・・・ 俺の生まれた国では 夏休みってやっぱり一番の楽しみだったよ。 」
「 ふふふ ・・・ どこも同じってことね。
― それじゃ これから夏の宮に参りましょうか。 」
「 ― え ? 」
守は満面の笑みを湛えている細君の顔を しばし惚れ惚れと眺めていた。
イスカンダルは 海洋の多い惑星だった。
惑星全体に大陸は分布していたが、全体としては海洋部分の方が多い。
そして陸地部分にも 海は深く入り込み、大きな入り江や干潟を作っていた。
妻からだいたいの地理の説明をうけ、また映像でも確かめると、守は妙に懐かしい気分になった。
― そう ・・・ この星はどことなく彼の故郷、三浦半島地方と似ていたのである。
ふうん ・・・ この星にもかつては大航海時代があり
海洋には多くの船が行き来したのかもしれないなあ
守は宇宙と同じくらい海も好きなので クリスタル・パレスが臨む入り江の眺めは
とても気に入っていた。
「 夏の宮 ・・・ この近くにあるのかい。 」
「 ちょっと離れていますけど、 そんなに時間は掛かりません。
子供の頃にはね、 夏になるとサンザーが一番力強く輝く時期、家族で夏の宮に滞在しました。
ねえ 是非御案内したいわ。 」
「 ふうん ・・・ ああ 冬の離宮、みたいなところなのかい。 」
「 そうね。 でも もっと簡素な家なの。
夏の宮には家族だけで滞在して お父様は海の生き物や野菜を獲りにいらして、
お母様がお食事を作ってくださったの。 」
「 ほう・・・女王ご一家がねえ ・・・ で? 王女殿下姉妹は なにをなさっていたのですか? 」
「 え? ふふふ ・・・・ 私と妹は毎年 真っ黒になるまで遊び転げていましたわ。 」
「 あっはっは ・・・ そうだろうなあ、と思っていたよ。 お転婆王女殿下〜〜
それじゃ < 夏の宮 > までご一緒いたします、 陛下。 」
守は 恭しくお辞儀をすると スターシアに腕をかした。
「 では 参りましょうか 」
「 うふふ うふふ ・・・・ はい、お願いたしますわ。 」
見詰めあい 微笑を交わし。 二人はさっそく支度にかかった。
ビークルに荷物を積んで ナヴィゲーター通りに運転して ― 夏の宮 にはその日の午後に到着した。
クリスタル・パレスから だいたいは海岸沿いの道を辿ってきた。
それでも道は時には内陸側に入ったが いつしかひろびろとした海岸に出た。
「 え〜と ・・・ このまま? かな。 」
「 ええ そうですの。 今は海が寄せていますからよくわかりませんけれど ・・・
数時間すれば 夏の宮への通路が現れます。 」
「 通路? ・・・ ああ! 潮が引くと見えるようになるんだろ? 」
「 まあ 守 ・・・ よくご存知ね ? 夏の宮へは海が退いたときにだけ 渡れますの。 」
「 海が退く、か。 なかなか適切な表現だね。 」
「 ?? そうですかしら 」
「 うん。 地球にもな、似たような地形があって ― 俺の住んでいた国じゃなかったけれど
有名な観光地になっていたんだ。 」
「 まあ そうなの ? 海の贈り物はどこの星にもあるのねえ・・・ 」
「 そうだね。 さあ それじゃしばらく < 海が退く > まで 休憩しようよ?
あの〜〜 奥さん? 実は〜 腹ペコなんですが〜〜 」
「 まあ うふふ・・・ ちゃんとランチの用意はしてきていますわ。
後ろの荷物に中に 草で編んだバスケットがありますでしょ、 取ってくださらない? 」
「 はいはい♪ え〜と ・・・」
守は ビークルから降りると 後部の荷物の中にアタマを突っ込んだ。
スターシアはそんな夫をながめつつ 地上に降り立ち海岸の砂地に立った。
ファサ −−−−−− ・・・・・
海風が 地上の熱気を持ち去り吹きぬけてゆく。
「 ふう ・・・ ああ ほんとうに久し振りだわ ・・・ ふうん ・・・ 」
スターシアはその金の髪を風に揺らせ そしてその裳裾も軽やかに靡かせている。
「 ・・・ え〜と ・・・ 草のバスケット・・・ バスケット・・・ と ・・・? 」
守はまだ荷物の中でごそごそやっている。
「 守? 見つかりませんか? 」
「 ・・・ う 〜〜ん ・・・ スターシア ・・・ バスケット ってどんな形なのかなあ? 」
「 どんな形って ・・・ バスケットはバスケットよ? 」
「 でも 立方体は見当たらない ・・・ あ。 草で出来た・・・って コレかなあ? 」
ごそごそ ・・・ やっと彼は楕円形の緑のカタマリを探りだしてきた。
「 ああ それですわ。 すぐにわかったでしょう? 」
「 ― これ バスケット? 」
「 ええ。 この星では この中に食べ物をいれておくの。 持ち歩くときもあるわ。 」
「 へえ ・・・ ふうん ・・・ なるほど〜〜 通気がいいよなあ ・・・ 」
守は感心した面持ちで 楕円形のバスケットを眺めている。
「 で どこから開けるのですか、奥さん。 」
「 ?? 上からですわ? ・・・ 守の故郷ではバスケットは下からあけるの? 」
「 いや そういうことではなくて ですね ・・・ やあ〜〜 これは美味しそうだ♪ 」
結んであった草の編み紐を解いてみると 美味しそうな食べ物が顔を出した。
守は ひとつひとつ取り出してにこにこしている。
「 うふふ ・・・ 守の好きなものばかり作ってきましたから ・・・
さあ あちらの岩陰で頂きましょう。 え ・・・っと パラソルもあるのよ、荷物の中 ・・・ 」
「 あ〜〜 それなら見たぞ。 ちょっと待ってくれよ〜 」
今度こそ、彼は張り切って荷物の中を見回した。
― パチン。
軽い音と共に空中に日除けの傘が広がった。
傘、 といっても半重力を利用した宙に浮く日除けシートみたいなもので、 所謂ビーチ・パラソルとは
全然形状からして違っていた。
「 ふうう〜〜ん ・・・・ しかし これなら嵩張らなくていいよな。 」
「 お気に召しましたか? さあ どうぞ? 」
「 お♪ うわあ・・・ こりゃ御馳走だな♪ 」
「 ずっと運転してきてお疲れでしょう? 沢山召し上がってね。 」
「 ありがとう〜〜 イタダキマス♪ 」
二人は 守の習慣でちょっと手を合わせてから ランチを開いた。
やっと岩陰でのランチ・タイムが始まった。
「 ・・・ ふう ・・・ 海は いいなあ 〜〜〜 」
ひとしきり、妻の手料理に舌鼓を打ったあと、守はう〜〜〜ん・・・! と深呼吸をした。
「 ふふふ ほんとうねえ ・・・ 私も海が好き。 いつも波の音が聞こえていると安心するのよ。
悲しい時も 海を見ていると元気になれるの。 」
「 うん そうだねえ。 俺の育った町は海沿いにあってな。 チビの頃から海は格好の遊び場
だったのさ。 俺が子供の頃は ― まだ 青い海があったから・・・ 」
「 守 ・・・ 」
「 ウチからほんの一跨ぎ・・・って距離だったからなあ。 海とは子供の頃から親しんでいたよ。
うん、夏はもう 朝から晩まで海の近くですごしたぞ〜〜 泳ぐのは当然で 浜から釣りをしたり
潜って漁の真似事したり ・・・ 」
「 まあ 楽しそうねえ お兄さんは可愛い弟さんと遊んであげましたか? 」
「 あ〜〜 それがさ。 俺はがんがん泳ぎ回ったり沖合までボートを出したりしてたけど
アイツは 進はさ −−−− 」
守は言葉を切ると ククク ・・・と 小さく笑った。
「 ?? なあに? ススムさん、どうかなさったの? 」
「 いや ・・・ アイツはさ いっくら誘ってもてんで水には入らなかったんだ。
進のヤツは 沖合いまで泳ぐ俺を尻目に 浅瀬やら干潟での生き物に夢中さ。 」
「 ・・・ 生き物?? 」
「 ああ。 カニとか小魚とかウミウシとか ・・・ ああ わからないよなあ・・・
ほら 海辺にいる柔らかい生物さ。 」
「 え ・・・・・ や やわらかい ・・・?? 」
「 うん。 地球の海の磯溜りにはね こう〜〜 ぬめぬめした生物がいろいろいたのさ。 」
「 ・・・ それって ・・・ どこの海にも いたの・・? 」
スターシアは まるで目の前にその生き物がいるかのように じりじりと守の背中側に移動している。
「 ・・・? もしもし 奥さん? どうかなさいましたか? 」
「 え ・・・ だって守が ・・・ ヘンなこと、言うのですもの〜〜 」
「 ヘンなこと?? 」
「 その ・・・ ぬめぬめした ・・・って ・・・ 」
「 あはは ・・・ やっぱりどの世界でも女性は苦手なのかなあ?
アイツは俺やオヤジには採集した <海辺の生き物> を自慢して見せて回ったけど
お袋にはキレイな貝殻を拾って帰り喜ばせていたよ。 要領、いいんだ〜 アイツ。 」
「 かいがら ? 」
「 あ〜 うん。 貝って ・・・ ここの海にも居そうな気がするんだが ・・・
こう〜〜 二枚の殻があってさ。 巻いているのもあったけど ・・・ 中にその生き物が居るんだ。
食用になるものも多いし。 外側の殻は中には美しいものもあったなあ。 」
「 ・・・ もしかして 恋合せ のことかしら。 」
「 こいあわせ?? 」
「 ええ。 やはり二枚の殻が中身を守っているの。 浅瀬に居るはずよ? 」
「 ほう・・・・ ちょっと見てみようか。 」
「 そうね。 ほら ・・・ 海が退く 時刻になったわ。 」
「 ・・・ おお ・・・ 」
改めて眺めれば 目路はるかひろがっていた大海原は引き潮の時間になっていた。
守はさっそく浅瀬にじゃぶじゃぶと入っていった。
「 あ〜 水がぬるくなっていていい気持ちだよ? きみも来てみないかい。 」
「 うふふ そうね・・・ 今年初めての海さ〜ん ・・・ コンニチワ 」
スターシアは裳裾をひょい、と持ち上げた。 白い素足が ばっちり ・・・見える!
う ・・・ わ ・・・・!
陽の光の中でも こんなに魅惑的なんだ・・・
守の視線は 文字通りその白い脚に釘付けになっていた。
妻の脚が美しいのは十分に承知していたし ― いや、彼の < お気に入り > なのだ。
夜、臥所で愛でる < お気に入り > は 陽光の元でもますます美しい。
「 ええと ・・・ あ〜 ほら! ここ ここに居ますわ・・・ ほら いっぱい ・・・ 」
「 ・・・ え?? 」
じ〜っと彼女の脚を見詰めていたので 声を掛けられどき!っとしてしまった。
「 どうなさったの? ほら・・・ 恋合せ を拾うのでしょう? 」
「 あ ああ うん ・・・ どれどれ ・・・ 」
「 これよ? あ ここにも ・・・ここにも ね? 」
彼女が指すところに 楕円形のペイル・ブルーのモノが砂地から半分顔を覗かせていた。
「 これ ・・・ どうやって獲るのかい? 」
「 どうやってって・・・ 普通に拾うの。 ふふふ・・・別に噛み付いてきたりはしませんよ? 」
「 あ ・・・はは ・・・ こう ・・・っと。 やあ・・・ これが 恋合せ かあ・・・ 」
守は潮の引いた浅瀬から 拾い上げた生物をまじまじと見詰めた。
若干形状と色彩は違うがそれは紛れも無く 貝 だった。
「 恋合せ はね、 対になる相手は世界に一つしかないの。
だからカップルは みんな恋合せ を拾ってお守りにしたりしていたわ。 」
「 ふうん ・・・ なるほどなあ ・・・ 」
彼は しばし感心してソレを眺めていた。
全く異なる星であっても 環境が酷似していればそこに生息する動植物は自ずと類似してくるのだろうか。
自分とこの最愛の女性 ( ひと ) のように ・・・
しかし 恋合せ とは なんと洒落た呼び名なのだろう。
「 ね? 地球の かいがら に似ています? 」
「 うん よく似ているなあ ・・・ ちょっと色が違うけれど。
・・・ そうだ そうだ、 同じような話をお袋が教えてくれたっけ。 対になる貝殻は
この世で一組だけだって ・・・ 」
「 まああ・・・ 不思議ねえ〜〜 地球でも同じ言い伝えがあるなんて。 」
「 そうだなあ。 うん ・・・ 地球の貝殻は白とか薄紅色とかだったと思うよ。
ああ 進がこれをみたら夢中になって採集しまくるだろうなあ・・・ 」
「 まあ そう? 知っていたらいらした時にご案内しましたのに ・・・ 」
「 ははは ・・・ 今度来た時に 教えてやってくれ。 」
「 そうね。 ふふふ 楽しみが増えましたわ。 」
「 うん。 ・・・ お? なあ ・・・ アレが 夏の宮 かい? 」
気が付けば潮はすっかり引いていて 砂地の回廊が浮かび上がっていた。
その回廊の先に島にも似た大きな岩場があり、中に建造物が認められた。
宮、 というよりも少し大きめの別荘、といった趣きの屋敷だった。
極地域にある冬の離宮とは 大分趣きがちがっていた。
「 ええ そうです。 夏の宮はね、 家族だけですごすお家だったの。 」
「 家族だけで? 王家の人々が かい。 」
「 ええ。 夏の宮へ行くときには皆が < お休み > になるの。
だから王宮に仕えてくれていた人々も < お休み > 、それぞれの夏を過します。
私達は 両親と妹と ・・・ 4人だけで生活しましたのよ。 」
「 へえ・・・・?? それは楽しかっただろう? 」
「 ええ とっても・・・! 毎年 夏の宮へ行ける日を心待ちにしていました。
あ この道を辿ってゆけば足を濡らさずに宮まで行けますわ。 」
「 ふうん ・・・ あ 荷物 ! ビークルは ・・・ 通れないよなあ 」
「 手で持って行きましょうよ。 私も持ちますわ。 」
「 え。 だっていろいろ積んできたから結構重いし嵩張るよ? アンドロイドを連れてくる
べきだったかな。 」
「 大丈夫ですわ。 え〜と ・・・ 確かビークルの物入れにあったはず・・・ 」
スターシアは気軽にビークルの所まで駆け戻ると なにかを探している。
「 ??? 」
「 ・・・っと ・・・あったわ。 ほら これ。 」
彼女は掌に丸いメダルみたいなものを並べて 差し出した。
「 重力のね 部分的制御装置なの。 5キロくらいのものまでなら有効です。 」
「 ― ・・・ へえ ・・・?? 」
「 ほら ・・・ ね? 」
カチリ。 スターシアはメダルを荷物に付けるとスイッチをオンにした。
「 え ・・・ うわあ〜〜 これは便利だなあ〜 」
嵩張る荷物 ― 主に生活用品だが ― は ふわり、と守の目の位置くらいまで浮き上がった。
「 でもねえ あまり重いモノには無理なのね。 食べ物とか服とかくらい ・・・
人々は日々の買い物なんかをこれで運んでいましたわ。 」
「 ふうん ・・・ ふう〜〜ん ・・・ 」
守は興味深々・・・といった風だった。
チラリ、 と これは兵器にも流用できるか? と思ったが しかしまあ有効重量に限界が
あるのであれば 日用品の域内での活用、といったところだろう。
「 よし ・・・ じゃあ 行こうか。 」
「 ええ。 」
二人は 腕を組んで砂の回廊を歩んでいった。
サ −−−−− ・・・・・
スターシアは 窓辺に下がっていた紗のカーテンを払った。
サンザーの明るい光が 部屋いっぱいに満ちる。
「 さあ 夏の生活の始まり ですわ。 」
「 やあ ・・・ 気持ちのいい屋敷だなあ ・・・ これは 干草の香り かな。 」
守は 海風と混じった部屋の空気の匂に気がついた。
ほんの僅かだったが どことなく換えたばかりの青畳のイグサの匂に似ていたのだ。
「 ええ そうです。 この宮の床には植物の繊維で編んだマットが敷かれていますの。 」
ああ なるほど ・・・
彼は目をつぶって 懐かしい香りを楽しんだ。
「 え・・・っと? 調理部屋は稼働するかしら。 食料貯蔵庫は生きているはずだし・・・
それから ・・・ バス・ルームも ・・・ 」
スターシアは くるくるあちこちを見回り始めた。
「 お〜い スターシア? なにかお手伝いしましょうか〜 」
「 え? ああ ・・・ う〜ん そうねえ ・・・ あ それじゃ 守は荷物を開けてくださいな。
食べ物は貯蔵庫に、着替えや寝具は寝室にお願いします。 」
「 はい 承りました、陛下。 」
「 うふふ ・・・ そうそう 寝室はそこの階段を上がった二階です。 」
「 了解であります。 」
「 あ 寝室の空気の入れ替えもお願いします。 ・・・・ あら。 」
スターシアは両手に荷物を持ったまま ふっと立ち止まりしげしげと足元を眺めている。
「 ? 床が・・・どうかしたのかい。 」
「 ・・・・ え いえ ・・・ このシミ・・・ まだあるんだなあ〜って思って。 」
「 シミ ? 」
守は彼女の側まで来て 一緒に床を眺めた。
マットの上が その部分だけ少し茶色に変色していた。
「 雨漏りでもしたのかなあ 」
「 あ ・・・ 違うのよ、守。 これね ・・・ 私が作ったの。 」
「 ?? 作った? 君が? 」
「 ええ そうなの。 まだ少女の頃の夏に ・・・ お母様のお手伝いをするんだ! って
言い張って。 お食事のトレイを運ばせてもらったの。 」
「 ほう? お転婆な王女殿下はなかなか家庭的でもいらしたのですな。 」
「 まあ いやな守。 それでねえ ここまで運んできて ― スパイスのビンを落としたの。
あっと言う間に 床に零れてしまって。 一生懸命拭いたけど ・・・ その時のシミです。 」
「 あはは ・・・ しかしまあ労働の記念、だよ。 可愛いなあ・・・ 」
「 あの時はねえ とってもがっかりしてキレイな床を汚してしまったって 半分泣きそうになって ・・・
お父様が笑いながらなぐさめてくださったわ。 」
「 うんうん ・・・ お義父上の気持ち、 わかるなあ〜〜
可愛いなあ〜〜 王女サマは ・・・ 」
「 で ね。 毎年 ここに来るたびにこのシミにも 元気? って挨拶をしていたの。 」
「 ほほう〜〜 ? で? シミ君は今年も返事をしてくれたかい。 」
「 ええ。 久ぶり〜〜って。 」
「 そうか〜〜 うん そうだよなあ・・・ 俺もね、家の柱や壁のキズを見るたびに
いろいろ・・・ 子供の頃のこと、思い出したりしたなあ。
俺たちの場合は暴れて襖を破ったり、進は よく壁に虫やら花の落書きをして怒られていたっけ。
もう ・・・ 地上からは消えてしまったけれど 」
「 大丈夫よ、守。 ちゃんと ・・・ アナタの心の中にそのお家はありますもの。 」
「 うん ・・・そうだね。 うん ・・・ 」
「 さ。 それじゃ・・・ まずは。 始めの杯 を頂きましょう。 」
「 はじめのさかずき??? 」
「 ええ。 ちょっと待っていらしてね。 」
「 ああ ・・・ 俺はこことベッド・ルームの掃除をしておくよ。
ほら ・・・ そろそろ日が傾きはじめているし。 暗くなる前にやっておきたいから。 」
「 そうですわね。 ああ ・・・ きっとキレイな茜色の空がみられますね。 」
スターシアは上機嫌で キッチンに入っていった。
守は ふわふわ宙に浮いている荷物を引っ張って 貯蔵庫やら寝室を巡り歩いた。
― カチン カチン ・・・・ チリン
ガラス質のものが当たる清んだ音が聞こえてきた。
「 ― 守? そこにいらっしゃる? 」
「 おう。 掃除はきっちり完了したぞ。 というか、どの部屋もきちんとなっていたよ。 」
「 まあ それはよかったわ。 お疲れさまでした。 」
スターシアは ささげもってきたトレイをテーブルに置いた。
大振りのクリスタルのグラスは透明な液体をなみなみと湛え露を結んで涼し気だ。
「 やあ 冷たい飲み物かい? うれしいなあ〜〜 」
「 ふふふ ・・・ これ ね。 始めの杯 ですの。
なにか楽しいことやお祝い事の時に飲む飲み物なの。 どうぞ? 」
「 ほう ・・・ お。 これはもしかしてアルコール飲料かな。 」
「 ?? あるこ〜る? ・・・よくわからないけれど 子供はダメって言われてたわ。
それで・・・ 頂く前に、こうして ・・・ 」
スターシアはトレイに置いていたブルーの花を2〜3輪 グラスの中に入れた。
細かい泡が沸きあがり花が透明な液体の中をふわり ふわりと浮き沈みする。
「 へえ ・・・ なんだかオブジェのようだねえ・・・ 幻想的だな。 」
「 そして ・・・ 頂きましょう? ― ステキな夏に ・・・ 」
彼女はグラスを取り上げると 守のグラスにチリン、と当てた。
「 ・・・ こうするのでしょう? 」
「 ああ よく覚えていてくれたね。 うん ・・・・ ステキな夏に 乾杯! 」
「 かんぱい・・・ 」
二人は改めてグラスを合せると 口を付けた。
「 ・・・・ うん ・・・! これは美味い!! 極上のシャンパンだ・・・ 」
「 ・・・ しゃんぱん? 地球の飲み物ですか? 」
「 ああ。 やはり祝い事とかめでたい日に飲んだりするのだけれど・・・
ああ 〜〜〜 これはいい これは美味いよ〜〜 」
守は大き目なグラスを ほとんど一気に飲み干してしまった。
「 あらら ・・・ はい、もう一杯どうぞ? 」
「 お、 ありがとう〜〜 この ・・・ 少しミントの風味は花のせいかな? 」
「 そうよ、まあ よくわかったわねえ。 ええ この花は清涼感を齎しますの。 」
「 ふうん ・・・ 薄荷みたいなのかな? ・・・ うん 美味い〜〜〜 」
「 ・・・ ホント ・・・ 美味しいわ。 ねえ ステキな夏になるわね。 」
「 勿論さ 奥さん。 ・・・ お? 夕焼けか? 空の色が ・・・ 」
「 まあ 本当。 キレイな空 ・・・ 」
二人は グラスを手にバルコニーに出た。
空は茜色からだんだんと濃紺に替わりつつある。
「 あら ・・・ サンザーはもう沈んでしまったのね。 気がつかなかったわ。 」
「 ああ 今晩も満天の星空が眺められそうだね。 」
「 そう ね ・・・ いい夏になりそう。 」
「 そうだな。 これ ・・・ 美味いな〜〜〜 うん、この星でシャンパンが飲めるとは♪ 」
「 うふふ ・・・ 空の雫 も貯蔵庫にありましてよ? 」
「 お〜〜〜♪ よおし 明日はお義父上を倣って 漁をするぞ〜〜
陛下、 滞在中の食料調達はどうぞこの貴士 ( ナイト ) にお任せください。 」
「 ほほほ 頼もしいこと・・・ お願いいたします。 」
「 御意 ・・・ 」
二人はぴったりと寄り添い 夕空を見上げる。
昼間の暑熱は 海風がすっかり持ち去ってくれた。
「 ・・・・ ・・・・・・ 」
「 ・・・・・・・・ 」
いつしか二人は腕を絡めあい 睦み合い ― 夏の光よりも熱く・熱く唇を重ねるのだった。
ふ ぅ −−−−− ・・・・・・
守は身体に残った熱気を 全て空中に吐き出した。
「 ・・・・ 守 ・・・? 」
傍らに伏していた妻が くぐもった声で名を呼んだ。
「 ・・・ ん ・・・ ? 」
「 ・・・ どうか ・・・ なさって ・・・ ? 」
「 いや ・・・ あんまり熱くなったので なかなか身体が醒めないのさ・・・ 」
「 ま ・・・ 」
「 ふふ ・・・ どうしたの? 今夜は ― 最高だった・・・! 」
守はゆっくりと腕を伸ばすと 波打っている妻の黄金の髪を愛撫する。
「 今夜 ・・・ 俺はこの黄金 ( きん ) の海に 溺れてしまったよ ・・・ 」
「 ・・・ もう ・・・ イヤな守 ・・・ 」
彼女は まだ上気した頬を一層火照らせ ・・・ ぱたん、 と顔を背けてしまった。
「 ・・・ もっと 顔 みせて スターシア ・・・ 」
「 や ・・・ まだ ・・・ 」
ピクン ・・・! 薄薔薇色に染まったままの肢体が 軽く痙攣した。
「 あは ・・・ 俺も まだ ・・・ 身体が熱いんだ 」
ふう ・・・ 守はもう一度大きく息を吐いた。
「 ・・・ ああ この部屋のせいかな ・・・ この大きな窓のある寝室の ・・・ 」
「 ― え ・・・? 」
パサ ― 彼は半身をひねり 窓の方に上半身を向けた。
夏の宮 の寝室はどの部屋も海原に面していた。
そして特に主夫妻用の主寝室は海側の壁面が ほぼ全部窓になっている。
幾重にもさがる紗のカーテンを引けば すぐ目の前に大海原をながめることができ、
まるで飛沫のひとつも飛んでくる ・・・ と思わせる迫力だ。
「 ・・・ すごいよなあ ・・・ 海のパワーが直接入り込んでくる気分だよ。 」
「 ふふふ ・・・ 海には 全ての生命の源がありますもの。 」
「 そうだなあ しかし 荒天の時にはかなりの迫力なんじゃないかな?
荒れる波をみていたら 船酔いしそうだ。 」
「 そう ね ・・・ 夏の嵐の夜には ・・・ 一人で眠るのが恐くて ・・・
妹とこの・・・父母のベッドにもぐり込みにきました。
私たち 父や母に代わる代わるしがみ付いて寝ましたのよ。 」
「 うん、そりゃ子供には怖いよなあ ・・・ 」
「 そんなこと、この宮でしかできませんでしたいから ・・・ 嵐は恐ろしかったけど ・・・
ぞくぞくするほど嬉しかったわ。 また来ないかなあ〜〜 って 妹とこっそり
母なるサンザーに お願いしたりしていました。 」
「 あっはっは ・・・ なんて可愛いんだ〜〜 」
守は 再び妻の側ににじり寄ると ぱふん、と覆いかぶさった。
「 ほうら ・・・ 嵐がきたぞ〜〜〜 」
「 きゃあ〜♪ うふふ ・・・ あ ダメだってば ・・・そこ ・・・ 」
「 これは自然現象ですから。 風も雨も激しく吹き荒れ 〜〜〜 」
彼は再び 熱いキスを 彼女の身体のここかしこに落としはじめた。
・・・ 項 ・・・ 耳の後ろ ・・・ 二の腕の内側 ・・・ 乳房の狭間
「 ・・・ きゃ ・・・ ! く ・・・ ・・・・ !! 」
その熱い一つ 一つの 口付けに 彼女の身体はますます染まり熱を帯びてくる。
キスが 太腿の裏側まで辿ってきたとき とうとう彼女は細い悲鳴をあげた。
「 ・・・ く 〜〜〜〜 ・・・・ ぅ !!! 」
「 ・・・・・・ 」
守は両腕を立て身体を支えたまま じっと薔薇色に燃える肢体を眺めていたが
― やがてゆっくりと腰を落としていった。
「 ・・・ スターシア ・・・ 君の身体の中の嵐に ・・・ 呑み込まれ ・・・ る ・・・! 」
「 う ・・・ くぅ 〜〜〜 ・・・・ 」
― 二人は今夜 二度目に頂点にまで昇りつめた ・・・
彼がようやく身体を離したとき ― 彼女は満天の星空の光の下で 全身を濃く染めていた。
・・・ ああ ・・・ !
俺たちは まさに一対の貝殻 だな
いや。 恋合せ だ。
全宇宙の中で 半身に巡り会えたとは
・・・ 奇跡に近いよなあ
なんという僥倖だろう ・・・
― 運命 か。
ああ そうだとも。 俺とこの女性 ( ひと ) は
互いに結ばれるために 生まれてきたのさ
さらり、と妻の黄金 ( きん ) の髪が 守の頬を撫でる。
ふうん ・・・ 俺は 黄金に絡め獲られ
彼女の海で 溺れているよ ・・・
守は 心地好い疲れの中、 深夜のすこし冷えた空気を深々と吸い込むと
すでに熟睡しているスターシアの身体に腕を廻し ゆったりと眠りに落ちていった。
イラスト : めぼうき
「 お〜〜〜い ・・・! 船出するぞ〜〜〜 」
「 ・・・・・ え ・・・・ う ・・・ん ・・・? 」
朝陽がやっと宮の窓を照らす時分に スターシアは時ならぬ大音声で目を覚ませた。
その腕の中で眠ったはずの夫は とうに起き出した様子だ。
「 ・・・ あら。 守? 」
スターシアは 夏用のガウンを羽織ると慌ててテラスに出た。
「 ― 守 ?? 」
「 お〜〜い! スターシア! ここだよ〜〜 」
「 ここって ・・・ どこ ・・・? 」
彼女は テラスから身を乗り出してあちこち眺めてみた。
「 海です! 陛下〜〜〜 海上をごらんください! 」
「 ― え? ・・・・ まあ ・・・! 」
思い切って視線を遠くに飛ばすと ― みつけた!
守は どこで見つけたのか小船を操って少し沖合いまで出ていた。
「 まあ〜〜〜 守 〜〜〜 ! どこでみつけましたの〜〜 ? 」
「 あはははは ・・・ ビークルの車庫の ・・・ すみに置いてあったんだ〜〜 」
「 まあ ちっとも知らなかったわ〜〜 ねえ まだちゃんと使えます〜〜?? 」
「 うん、 なんとか。 少し沖まで出てみるかな。 すぐに戻るよ〜〜 」
「 はあ〜い どうぞ気をお付けになって〜〜 」
「 おう! 任せとけ〜〜 」
夫は巧みに櫓 ( ろ ) を扱い 小船はするすると遠ざかっていった。
「 ・・・ ふふふ もう〜〜 子供みたいなんだから ・・・ 」
スターシアは苦笑すると 室内に戻った。
「 やあ〜〜 ただいま! ほら〜〜 お土産! 」
朝食の用意が出来上がる頃 守は上機嫌で戻ってきた。、
手には取っ手の付いた容器を持っていて その中には ―
「 ?? なにかしら。 ・・・・ まあ よく獲れましたわね! 」
「 うん、 小船の中にな、網らしいものがあったので、沖でつかってみたら ・・・ ほら!
結構 獲れたんだ。 これは確か食べられるよな? 」
守は容器の中で ぴしゃり! と跳ねるヒラメにも似た生き物を指した。
「 ええ ええ。 これは 砂護り というのですけれど ・・・ ふふふ 美味しいわよ〜 」
「 おお そりゃよかった。 うん、後で俺が捌くよ。 」
「 お願いしますわ。 うふふふ ・・・・ 今日の晩御飯は御馳走ね〜〜 」
「 沖で潜ってみたのだけれど ・・・ 結構魚がいたよ。 まだまだ海は生きているね。 」
「 よかった! ・・・ 海や空や 大地や ・・・ イスカンダルに生きるものが
まだ多く残っているって ・・・ うれしいわ ・・・ 」
「 うん。 海の中は圧巻だった。 水がきれいだからず〜〜っと見渡せて ・・・
キレイな色の小魚が群れをなして泳いでいたぞ。 」
「 見たかったわ ・・・ ありがとう〜〜〜 守 ! 」
「 陛下。 どうぞご安心ください。 陛下のイスカンダルはまだまだ元気です。 」
守は わざと大仰に彼女の足元の跪くと 会釈をした。
「 よかった ・・・ 視察、ご苦労様でした。 」
「 俺も懐かしかったよ。 今度は少し泳いでみる。 もっと身体を鍛えないとな〜 」
「 まあ ほどほどになさってね? さあ 朝食にしましょう。 」
「 おっと ・・・ シャワーを浴びてくるよ。 すぐだから・・・
えっと ・・・ これはキッチンの隅にでも置いておくか ・・・ 」
守は 細君の頬に軽くキスをすると、容器を持ってどたばたと出ていった。
― そして 朝食後 彼はもう海と戯れずっと海と共に過していた。
「 あっはっは ・・・ もう〜〜 大漁だな〜 」
「 ほんとうね! あら ・・・ この魚 まだ生息していたのねえ〜〜 」
「 え どれどれ? ほう コイツかあ ・・・ 」
守が運んできた水槽には 沢山のエモノが生きて動いていた。
海の生き物も 姿形は地球のものによく似ていた。
強いて違いをあげれば 色彩の違い、かもしれない。
「 ふう〜〜ん ・・・ ナマコもいれば こりゃカニか? こっちはハゼの子かな? 」
守は改めてエモノを鑑賞し楽しんでいる。
「 すごいわ 守! 漁の天才ね。 お父様もよく釣りをなさったけれど・・・
こんなにいろいろなエモノを釣っいらしたことってなかったわ。 」
「 えっへん! ガキの頃、 故郷の海で鍛えた腕、だからなあ〜
それで ・・・ 食用になるものは いますか、陛下? 」
「 ええ ええ 勿論! ・・・あ ・・・ この ぬめ〜っとしたのは ・・・ 海に帰して。 」
「 あ 獲ってはいけない生物だったかい ? 」
「 ・・・ いいえ ・・・ ただ あの ・・・ 」
「 ?? あの? 」
「 ― ワタクシが気味悪いだけ! 」
あっはっは ・・・ 守は大笑いして、 その < ぬめ〜〜っとしたの > を
イスカンダルの海に帰してやった。
「 よ〜し ・・・ それじゃ 今晩は俺が魚料理に腕を揮うぞ〜 」
「 きゃあ〜〜 楽しみだわ! それじゃ 私はサラダと ・・・ あとは 空の雫 を
開けましょうか。 」
「 お♪ いいですなあ、 奥さん。 うん、それじゃ魚料理には 白 ・・・ じゃなくて。
空の雫 の 黄金 ( きん ) をお願いします。 」
「 はい、わかりましたわ。 あ 守、あとで一緒に貯蔵庫に降りてみない?
いろいろ ・・・ < おさけ > があると思うの、 ご覧になって。 」
「 そりゃ〜〜 願ったり ですな 陛下♪ 」
「 ねえ 私にも飲めそうなもの、教えて? 空の雫 みたいなのが飲みたいわ。 」
「 おお〜〜 それはそれは。 陛下もいろいろお試しになってみてください?
オトナの世界が開けますよ。 」
「 まあ。 私 もうとっくにオトナですわ。 」
「 いやいや ・・・ 酒を初めて知られたのですから〜 やっとオトナの世界に仲間入り
ですかな。 ふふふ あとで一緒に降りてみよう。 」
「 嬉しいわぁ 〜〜 」
「 ランチやディナーに合う飲み物を 探そうよ。 」
「 ええ。 そうだったわ。 お父様とお母様はさまざまな色の <おさけ> を飲んでいらしたわ
子供心にも キレイでいいなあ〜って見ていたの。 」
「 ほう? それで王女様方は何を召し上がっていたのですか? 」
「 ええ ラスリの実のジュース や 水の実の中身 や ・・・ 」
またまた耳新しい名前が出てきた。
「 ふうん ・・・ なあそういうの、 皆教えてくれよ。 」
「 ええ ええ 勿論。 じゃ 今日のお茶タイムには ラスリの氷漬けを食べましょ。 」
「 お。 なんだか美味そうだな。 」
ファサ ・・・ スターシアは手にしていた大きな葉で風を送る。
サンザーの光は きらきらと海面に反射し、浜辺には陽炎がたってきた。
「 ふう〜〜 今日も暑くなりそうだね。
なあ そろそろ水温も上がるから君も一緒に泳がないかい? 」
「 いいわね! ふふふ ・・・ お母様もねえ、 この夏の宮では泳いでいらっしゃったの。 」
「 ほほう? 女王陛下もかあ〜〜 いいねえ。 じゃあ スターシア、君もさ? 」
「 ええ。 じゃあ用意してきますわ。 あ ・・・ 守、 クローゼットにお父様用の水着や
浜で羽織る上着とかありますから・・・ お使いになってね。 」
「 うん、 ありがとう。 」
彼は早速 義父のクローゼットに入り、水着やらリゾート着を拝借した。
「 ふんふん ・・・ なかなか着心地がいいなあ。 これは特別な素材なのかな? 」
海岸に戻って 守はもう一度浅瀬やら潮溜まりを見てまわった。
そこは まさに生命の宝庫だった。
宮に近い浜には 昼顔にも似た植物が白っぽい花を咲かせていたし、防風林の役目をしている
木々も揺れている。
「 ・・・ この星は 生きている。 まだまだ活動しているんだ。 」
イスカンダルは 星としての寿命が尽きかけている ・・・
妻はそう語ったが ― それはまだ先のことかもしれない。
「 うん ・・・ この星を この星に生きる多くの生命を できる限り大切にしよう。
この星を そしてスターシアを護る。 それが この俺の使命なのだから。 」
古代守は豊かに広がるイスカンダルの大海原を前に 改めて心を決めた。
サクサクサク ・・・ 砂浜を踏む軽い足音が近づいてきた。
「 守 ? お待たせしました。 」
「 やあ スターシア ・・・ 準備はできたかい? 」
「 ええ。 」
彼が振り返ると 彼の愛妻は白いドレープの多いガウンのようなものを羽織って立っていた。
「 キレイだなあ ・・・ 海辺用のガウンかい? 」
「 うふふ ・・・ これ お母様のなのよ。 あら、守も・・・ お父様の水着、ぴったりね。 」
「 あは ・・・ そうかい? 着心地、いいなあ・・・ さっきは下着で泳いでたからさ。 」
「 ごめんなさいね、 気がつかなくて・・・ 」
「 いいよ、気にするな。 さあ〜〜 一緒に泳ごう! 」
「 ええ。 」
スターシアは はらり、 とガウンを脱ぎ落とすとすたすたと海に向かって歩き出した。
― え ・・・・・!!!!
「 ・・・ あ あ あ〜〜 スターシア! あ あの ・・・・ 」
「 なあに、守。 どうかなさって? 」
彼女は黄金の髪をゆらし 無邪気に振り向いた。
「 あの ・・・ そ それで 泳ぐの かい? 」
守の愛妻は ― イスカンダルのスターシア女王陛下は その身に
なにもつけてはいらっしゃらなかった
「 ? ええ。 こうして泳ぎますわ。 母も妹も こうして泳いでいましたわ。 」
「 そ ・・・ そうなの かい? ち 義父上は ・・・ なんとおっしゃっていたかい? 」
どうやらイスカンダルでは 女性は生まれたままの姿で泳ぐ習慣らしい。
「 お父様 ??? べつに・・・ なにも?
ええ いつだって父は 母の側にぴったりとついて泳いでましたけど・・・ うふふ 」
「 ! 俺も! 義父上に倣うよ!! 」
守は慌ててスターシアの側に駆け寄り ぴたり、と寄り添い ― 海に入った。
・・・・! 当たり前だよ〜〜
美貌の女房のハダカを 他のヤツに覗かせてたまるかって!
義父上! ・・・ いや おとうさん!
貴方の気持ちが よ〜〜〜〜く わかりますよ!
こうして 守とスターシアの至福の夏が過ぎていった。
イスカンダルでの一年は 二人にとって人生の長い休暇だった ― 最高の Long
Vacation !
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Last updated : 04,02,2013. index
************** ひと言 **************
夏の宮 は かの モンサンミッシェル みたいな処をご想像ください。