『 009 ( ゼロゼロナイン ) 』
ど〜〜〜ん ・・・! グワッシャッ !!!!
あちこちで腹の底に響く音が炸裂し、一瞬遅れて土煙があがる。
ちろちろ炎の色も見える。
ザザザ ! ヴィ〜〜〜〜 ! ダダダダダ〜〜〜〜
無機質な機械音やら レーザー光線が飛び交い、実弾も集中的に発射されている。
ザ ・・・ ! タタタ ・・・ !
その中を 数人の人影が走り抜けまたやってくる。
彼らはその俊敏な動きやら銃器の扱い方はとてもじゃないが通常のニンゲンとはかけ離れ
ている。 アンドロイドか・・・?
硝煙の中に瞬時に赤い服やら黄色のマフラーが翻るが 殺伐とした光景にかなり印象的だ。
≪ ・・・ 最後の一人 ≫
≪ ! そうか ≫
≪ 時 至れり ≫
≪ おう。 ≫
≪ ふっふ 待っていたぜ ≫
≪ しっ! ≫
≪ 大丈夫。 僕ガじゃみんぐ掛ケテル ≫
≪ 時 至れり ≫
≪ ― 時 至れり! ≫
その殺伐とした空間には彼らの < ことば > が 盛んに飛び交っていた。
赤い服の男たちは 無表情に障害物を撃破し飛行物体を撃墜すると
やがて無表情のまま収容されていった。
≪ ってことは 0010? ≫
≪ いや。 欠番を埋めるらしい ≫
≪ 欠番? ・・・ あ ≫
≪ そういうことだ。 切るぞ。≫
≪ あ・・・ うん ≫
演習の後は 崖がえぐれ岩石が無造作に撃ち砕かれころがっている。
地上は 空爆の結果穴だらけになっていたが 住むモノもいない場所なので
ただ ただ その無残な姿が広がっているだけだ。
― ここは 太平洋上にある X島。
一見 ただの岩礁だらけの無人島なのだが その実、ある組織の研究開発機関が
集中している重要拠点であった。
サイボーグ兵士開発計画 が 着々と進行しているのだった。
「 本日の演習終了。 」
無機質なメカニカル・ボイスが流れ 赤い服を纏った男たちは顔を見かわすこともなく
それぞれの 収容部屋 に入っていった。
外からのドア・ロックが確認されると 開発計画に携わっている科学者たちは
データを覗きこみ 本日の演習の結果について侃々諤々の議論に熱中するのだった。
≪ 監視ハ おふ ダヨ ≫
≪ サンキュ 001。 で さ 欠番の件だけど ≫
≪ 3 だ。 ≫
≪ だ ね。 現在僕達にはレーダーとソナーがいないからね ≫
≪ へ! な〜んでラストのヤツが 3 なんだよ〜〜 ≫
≪ ― だから その最後の一人 ・・・003 が欠番なのだ ≫
≪ 詳しくは知らないけどね。 ヤツらはどうも最初から
2は飛行実験 3はレーダー& ソナー 4はオール武器 ・・・とか決定してたらしいよ。 ≫
≪ けっ! 律儀なこって ・・・ ! ≫
≪ ふ〜ん ・・・ それじゃ今まで 003 が存在しないってことは ≫
≪ 適正のある実験体が手に入らなかった、ということだ ≫
≪ ふんッ 奴ららしいな。 で その最後の一人の改造は ≫
≪ ・・・ 終ワッタ。 明日ニモ目覚メテ てすと 開始ダ。 ≫
≪ そうか。 健闘を祈る だな。 ≫
≪ そうだね 僕たちにはそれしか言えない。 ≫
≪ どんなヤツなのかな ・・・ ≫
≪ へ?? ナンだよ 009 ? ≫
≪ いや ・・・ 最後の一人、がさ。 どこで拉致されたのかな ・・・ ≫
≪ 知るか どうせ闇から闇へ さ。 ヤツらのこった ≫
≪ どうでもいい。 ともかく我々の脱出計画に協力してくれれば それで十分。 ≫
≪ ほ! お主、相変わらずだなあ〜 ≫
≪ シ。 本日ノ おしゃべり ハ 終了 ダ ≫
≪ ― 了解 ≫
ぷつ。 無機質ばかりの収容部屋の空間に溢れていた ことば が 消えた。
バサ。 ― 009と呼ばれている青年はブーツを脱ぐと そのままベッドに転がった。
・・・ どんなヤツなのかなあ ・・・
ソイツも ・・・ 夢半ばで 悪魔の輩に拉致されたの・・・ か・・・
いつもなら そのまま半ばスイッチが切れた人形のごとく、寝入ってしまうのだが
その夜 009、いや 島村ジョーは なかなか眠ることができなかった。
「 ・・・ あの時 あと2秒、いや 1秒でもいい・・早くハンドルを切っていれば
― 今ごろ ぼくは ・・・ 次のレースに備えてメカニックたちと
ミーティングでもしてただろうなあ ・・・ 」
はあ 〜〜〜 ・・・・ 無味乾燥な吐息が部屋にたまってゆく。
「 たとえ脚一本無くしていたとしても ― クルマ関係の仕事には
かかわっていたっだろう ・・・ どんな身体になっても人間として ・・ 」
・・・ ふう ・・・ 溜息ももう出なくなってきた。
「 ・・・ どんな繰り言も無駄だってわかってるけど。
ああ ・・・ きっと明日にでも目覚める新入りは ― また絶望の海に
溺れるんだろう なあ ・・・ 気の毒に ・・・ 」
ふん。 そんな自分自身の発想に ジョーは鼻先で嘲笑った。
― 絶望 なんて言葉はとっくに意味をなくしていた。
「 ま ぼくには関係ない よな。 」
バサ ・・・。 固いリネンを被り無理矢理目を閉じた。
「 ・・・ ! 」
・・・ わあ ・・・・ !
閉じた目の内で 凄いスピードで目の前に灰色の壁が迫ってきた。
それが人として 島村ジョー として意識した 最後の景色だった。
次の瞬間 その光景はぷつり、とブラック・アウトした。
再び 彼が意識を取り戻した時 ― 赤い特殊な服を着せられ < テスト > と
称したとんでもない状況に 放りこまれていたのだった。
「 ぼくは ― レースのラスト一周でクラッシュ したんだ・・・
そしてその後 ・・・ ヤツらに拉致された。
身よりもなかったぼくは 事故死 として扱われ忘れ去られ ・・・
ああ 誰ももう覚えてなんかいないよ ・・・
― もう忘れるんだ ・・・ ! 島村ジョーは 死んだのさ・・・
ここにいるのは 最新型のサイボーグ 009 ・・・! 」
不意に長い髪を揺らして笑う少女の姿が浮かんだ。
彼女が笑うと 周りの空気までキラキラ輝き、周囲にいる人々も自然に笑みを浮かべた。
「 メカニック・クルーの親戚・・っていってたなあ ・・・
クルマのことなんか全然知らないクセにレースが大好きで 可笑しいでしょ? って
あのコ自身も笑ってた・・・ ぼくは そんな彼女を見ているだけで幸せだった・・・ 」
ふうう ・・ また ため息が漏れる。
淡い想いを寄せていた あのコ・・・ きっとぼくのことなんか気がついてもいないよ
事故の記事を見て もうぼくなんかすっかり忘れているだろうなあ ― 思い返しても仕方がない。
ふう ・・・ もう一度だけ、009は乾いた息を吐きだすと
今度こそ 全ての感覚をオフにして眠りに落ちた。
ザザ −−−−− ・・・! 太平洋の波が海岸に打ち寄せる。
コッ。 崖の上には揃いの赤い服姿が 7人、いや 8人 並んでいた。
ボディ・ガードとしても その位置でスタンバイせよ、との指令がでている。
入日を背に受け メンバーたちは誰もが固唾を飲んで立っていた。
≪ あの もしも ・・・ ≫
≪ シッ! 今 シールドシテイナイ ≫
≪ あ ごめ・・・ ≫
「 浮上まで あと20秒 」
波打ち際に立った科学者がモニターを見つつ言った。
「 ふむ。 予定通りだな 」
「 うむ。 なかなか優秀な実験体のようだな さすがギルモア博士 」
「 世辞はいらん。 機能チェックスタンバイせよ。 」
「 わかっている。 ( クソ ! ) 」
コツン。 小石が崖から転がり落ちていった。
「 うん? ・・・ ああ ボデイ ・ ガードどもだな ・・・ 」
「 集まってくれ。 」
白髭の老科学者が 全員を呼び集めた。
≪ コッチモ すたんばい ≫
≪ 了解〜〜〜〜 ≫
プロト・タイプのゼロゼロ・ナンバー サイボーグ達の間に 密かに緊張が流れる。
ザザザザ 〜〜〜〜〜
< 最終メンバー > 003 が テスト をクリアして海から上がってくる。
チカリ。 金色の髪が陽の光に輝く。 やがて波間からすんなりした姿が現れた。
― !!??? 女性?? いや オンナノコ !
ザ ・・・ ザザザ ・・・ ずぶ濡れの髪を揺らし 彼女は波打ち際に立った。
「 003。 テストはクリアしたな。 」
例の白髭の科学者が一歩、新しい仲間 ― 003 に近づいた。
「 ・・・ テスト ・・・? 」
意外と低い声が 少しばかり掠れ気味に聞こえた。
「 そうじゃ。 これでプロトタイプのサイボーグ兵士、 ゼロゼロ・ナンバー サイボーグ
は全員がそろったことになる。 全員が な。 」
老博士は 念を押した。
「 そうだ 003、お前に 仲間を端から紹介しよう。 」
「 ― な かま ? 」
金髪の女性は 少し目を細めて崖の上に視線を向けた ― その時。
チャ !
サイボーグ達は全員がスーパーガンを構えた ― 科学者たちに向かって。
「 お〜っと。 そのまま手を上げててもらいましょうかな。 」
サイボーグの一人が 端正なクイーンズ・イングリッシュでバカ丁寧に言った。
「 な! なんだと??? お前ら 意識回路が狂ったのか?? 」
「 バカな冗談はよせ。 」
「 ふん! 冗談でこんなこと 出来るかい? 」
ガガガガ −−−−ッ 銀髪の男の右手が炸裂した。
「 わ!!? あ 危ない〜〜〜 よせっ 」
「 警備ロボット〜〜 コイツらを捕えよ〜〜 」
白衣の科学者たちは 全員が浮足立っている。
「 やはり狂っているんだな! 精神コントロールをすべきだった 」
「 ふん。 狂っているのはあんたたちの方だ 」
「 へ! ともかく俺たちは出てく! あばよっ 」
「 左様。 お前らの企みに加担するのは真っ平御免というわけだ。 」
「 そやそや〜〜 ワテらはワテらの意志で生きてくで。 」
「 それじゃ しばらく眠っていてもらうね〜〜 」
茶髪の少年が 微かに笑っても一度 銃を構えた。
「 な ! なんだと!? 」
「 おっと その前に ― 人質を預かっておく。 誰でもいいが ― 」
「 早くしろって〜〜 誰でもい〜じゃんか ・・・そこの白髭のオッサンでいいじゃん 」
「 ・・・・・ 」
端に立っていた科学者が のろのろと歩みでた。
「 ほんじゃ〜 皆さん しばしご休憩を〜〜 」
スキン・ヘッドの男が おどけた口調で、しかし眼光鋭く見回した。
「 ちょっと待ってくれる、007 」
茶髪の青年が その銃を止めた。
「 なにかね 」
「 ウン ・・・あ〜〜 きみもさ〜〜 一緒に来てよ? ね? 」
青年は波打ち際に立ち尽くしている 003 に声をかけた。
「 ・・・ わたし のこと? 」
「 そ。 一緒に行こう! 」
ザワザワザワ ― 固まっていた科学者たちが騒めく。
「 そ そうだ! 003! コイツらをやっつけろ〜〜 」
「 うむ! 003 最新最強のサイボーグだ、君ならアイツらを殺れるぞ ! 」
「 そうだぞ! 裏切り者は 始末せよ! 」
ザク サク サク ・・・ 003はゆっくりと海から上がってきた。
「 ・・・・・ 」
金の髪が夕陽を受けてその場に不似合いなほど華麗に輝く。
彼女は 一歩 一歩 < 仲間 > たちの方に近づいてくる。
「 一緒に行こうよ ね ? 」
「 003〜〜〜 裏切り者を 」
「 うるせ〜〜〜〜 」
バババババババ 〜〜〜〜 のっぽの赤毛が業を煮やしトリガーを引いた。
わあああ〜〜〜 ・・・ 科学者たちはばたばたとその場に倒れた。
「 あ あ〜あ ・・・ もう〜〜 短気だなあ〜 002 」
「 へ! さっさと行こうぜ? なあ 俺たちのダチだろ? 」
赤毛は 気軽に手を差し伸べた。
003は 一瞬目を閉じ ― こくん、と頷いた。
「 行くわ 」
「 そうこなくっちゃな〜 さ 行こうぜ〜〜 キレイちゃん 」
「 わたし 003 なんでしょ! 」
赤毛が差し出した手を 彼女はさっと払った。
「 うお〜〜 キッツ〜〜〜 」
「 ごちゃごちゃやってないで 急ごうよ。 009 案内してやってくれよ 」
「 う うん わかったよ 008。 ねえ きみ ・・・ こっちだよ 」
「 ・・・ 」
さっと濡れた髪を払うと 彼女はゆっくりと仲間たちに加わった。
「 え〜〜と ・・・ ざっと自己紹介するね〜 ぼく は 009。 」
「 002だぜ〜〜 キレイちゃん♪ 」
「 004。 」
「 005 と 001。 」
大男は赤ん坊を抱いていた。
「 ワテ 006 いうねん。 」
「 007 お見知りおきを 」
スキン ヘッドが 大仰に会釈をした。
「 008だよ。 そして ・・・・ 博士? 」
「 うむ ・・・ ギルモアじゃ。 」
人質のはずの老科学者が 一緒に自己紹介をした。
「 ・・・・? 」
「 あ うん いいんだよ。 この脱出計画の発案者はギルモア博士なんだ。
あとで詳しく説明するよ。 今はともかく − 行こう! 」
008が 彼女を促し、全員が歩きだした。
「 ― ひとり、覚醒している 」
振り向きざまに 彼女はスーパーガンを撃った。
「 ・・・ う わぁ〜〜〜〜 」
海に近いところに横たわっていた科学者の身体が跳ね上がりばしゃり、と波打ち際におちた。
「 ! ・・・ 撃ったのかい? 」
「 いいえ? パラライザーよ。 最強にしたけど 」
「 そうか しかし随分手荒なことをするなあ 」
「 あら アイツは特殊防護シャツを着ていて さっきの電磁波攻撃から逃れてた。
そのままにしていたら すぐに本部に通報するわ。 」
「 そうなんだ? 」
「 ふふ … なにを見ているの? アイツは襟の内側にカード型の端末を
忍ばせていたわよ 」
「 え ・・・ きみ 見えるのかい? 」
「 アナタ 見えないの? 」
「 ・・・ ぼくは ・・・ きみほどの超視力はもっていない ・・・ 」
「 あら そう? 009っていうから一番最新型なのかと思ってたわ。 」
「 あ うん ・・・でもきみの方が最新型なんじゃない? 」
「 ふうん ・・・ さ 早く脱出よ! 」
「 あ ああ うん ・・・ けど あの〜〜 きみさ いろいろ聞きたいこととか
あるだろう? 突然さ こんな身体になって 」
「 そりゃいろいろあるわ。 でも今優先すべきは 脱出 よ。
細かいことは無事に脱出できてから聞くわ。 皆〜〜 あの岩影めざして! 」
「 あ ・・・ き きみ 名前は 〜〜 」
「 003 でしょ! 」
003 は 一声叫ぶと金色の髪を靡かせ駆けていった。
「 うわ〜〜 待ってくれえ〜〜 」
「 すげ〜〜 ・・・ バリバリのキャリア・ウーマンってか〜〜 」
「 ごちゃごちゃ言う暇あったら走れ! 」
「 へいへい〜〜 」
ゼロゼロ・ナンバーサイボーグたちは ギルモア博士を援けつつ岩陰から
地下基地へ疾走していった。
それから。 あれやら これやら ・・・ いろいろありまして。
サイボーグ達はそれなりに苦戦もしたが なんとかBGの追手を振り切り
X島からの脱出に成功した。
数度の闘いの後 ― 彼らは極東の島国に身を寄せた。
そこには ギルモア博士の旧友が居を構えていたのだ。
「 ほっほっ〜〜 こんな辺鄙な場所だて、好きなだけ滞在しておくれ 」
その旧友・コズミ博士は 温厚な、しかし天才肌の老科学者だった。
「 すまんな〜〜〜 コズミ君 」
「 いやいや〜〜 どうせ使っていない建物なんじゃ。 ワシも独り暮らしだし・・・
賑やかになって楽しいわい 」
「 本当に大勢で押しかけまして申し訳ございません。 」
金髪美人が きりりとした表情で丁寧に挨拶をした。
「 いや〜〜〜 これは これは・・・ 妙齢のお嬢さん ・・・
存分にお寛ぎくだれや〜〜 手狭じゃったら拡張してもらっても構わんでな 」
「 ありがとうございます。 なにかお手伝いできることがありましたら
何でもおっしゃってください。 」
「 ほっほ ありがとうさん。 家の修繕などをお願いしてもよいかの? 」
「 はい 勿論。 どうぞお申付けください。
え〜と 004 005 それに 008 コズミ先生のお手伝いをお願い。 」
「 了解。 電気系統の修繕は僕に任せてください。 破損個所はどこですか? 」
黒人の青年が ぱっと歩みよった。
「 大工仕事は俺が担当だ。 」
「 力仕事、任せろ 」
「 ワテとグレートはんに厨房は任せてや〜〜 美味しいご飯作りまっせ〜〜 」
「 ほんじゃ オレは買い出し隊だな〜〜 おい ジョーのヤツは? 」
「 さあ ・・・? さっき庭に出てたけど? 」
「 ちょっと探してくるわ。 皆で協力してほしいもの。 」
「 へいへい たのんまっさ〜〜 ヤツと買い出しにゆくからよ
オレなら荷物かついでひとっ飛び〜 ヤツも加速装置で 」
「 ダメよ! 荷物が燃えてしまうわ。 それにね この辺りで不用心に
ふらふら飛んだりしないでほしいわ。 」
「 ! オレ ふらふら〜 なんて飛ばねえぞ 」
「 ともかく。 ニンゲンらしくして頂戴。 009を探してくるわ。 」
「 へ〜い〜〜 ・・・ お〜〜 こわ ・・・ 」
「 はい なにか? 」
「 ・・・ なんでもありません、いってらっしゃい。 」
赤毛は肩をすくめると 大袈裟にお辞儀をしてみせた。
「 ふざけないで。 掃除でもしておいてね。 」
バタン。 皆のリーダー 003は 足早に出かけていった。
「 ・・・ おっかね〜〜〜 ジョーのヤツ 大丈夫かよ〜〜〜 」
「 お前 まだ気が付いてないのか? 」
「 へ?? なにがだよ、オッサン ? 」
「 あっは まあ〜 君が心配することはないよ、002。 」
「 左様 左様〜〜 木は緑に花は紅〜〜 いうこっちゃ。 」
「 ??? 」
ひとり ポカン としているニブチンを置いて メンバー達はそれぞれの仕事に
散っていった。
「 ?? ナンなんだよ〜〜〜〜 」
サクサク サク ・・ 枯草を軽く踏む足音が聞こえてくる。
崖っ淵で 松の木の根方で 彼は海を眺めていた。
003は 少しだけ離れてふわり、と座った。
海風に 彼の茶色の髪がやわらかく揺れている。
「 なにを見てるの、009。 」
「 ・・・ ああ フランソワーズ ・・・ 」
茶髪の青年は ゆっくりと顔を向けた。
「 あの ・・・ よかったら ジョー って呼んでくれないかな。 」
「 ふ〜〜 気持ちのいい場所ね。 ゼロ・・いえ、ジョーのお気に入り? 」
「 え? あ ・・・ そうでもないんだけど ・・・
なんかこう ・・・ いろんなこと 思い出しちゃって さ。 」
「 いろんなこと? ああ あの島を脱出してからの日々ね? 」
「 それも あるけど。 もっと昔のこと。 ここはぼくの生まれた国なんだ。 」
「 そうなんですってね? JAPAN って 高層ビル林立のハイテク都市ばっかりかな〜
って思ってたわ。 ここは ちがうのね 」
「 あは ・・・ それは東京でもごく一部さ。 この辺りはず〜〜っとこんな感じ。
ぼくは この地域で育ってさ ・・・ レーサーを夢見てて やっととっかかりを掴んで
いよいよデビュー戦で ― かなりいいセン行ってたんだけど ・・・ 」
「 ふうん? そうなの。 」
「 ウン。 最後の一周で事故ってさ ― ヤツらに・・・ こんなツクリモノの
身体に か 改造されてしまったんだ ・・・ ! 」
「 ま 皆 似たり寄ったりなんじゃないの? 」
「 だから ぼくは ・・・ へ? 」
「 あなただけじゃないってこと。 突然とんでもない境遇に放り込まれたのは ね。」
「 それは ― そうだけど ・・・ 」
「 で ここは見晴らしがいいわね〜〜 偵察していたの? 」
フランソワーズは かっきり前を そして 左右を見渡しつつジョーに聞いた。
「 い いや ・・・ その。 もの思いに耽ってただけ さ。 」
「 そう。 」
素っ気ない彼女の返事に ジョーはそうっとその横顔を窺う。
白い頬は相変らず引き締まり、 空より海より碧い瞳は活力に満ちている。
「 きみってさ ・・・ あの 怒らない? 」
「 理由がわからなければ 怒りようもないわよ。 」
「 うん ・・・ あの きみって ー 似てるんだ 」
「 似てる? 誰が。 」
「 きみが。 」
「 誰と? 」
「 あ あの・・・ 昔 ぼくが仲良くしてたオンナノコと 」
「 ジョーの恋人? 」
「 え!? い いや ち 違うよ〜〜〜 ただの・・・ トモダチ
」
「 ― へえ 〜〜〜〜 」
彼女は 向き直り正面からジョーをみつめた。
「 009 って 」
「 あ やっぱり怒ってる・・・ ジョー、デス。 」
「 怒ってなんかいません。 呆れているだけ です。 ジョー。 」
「 あきれている??? 」
「 そうよ! オトコノコが〜〜 いつまでもぐしゃぐしゃ過去を思っているの? 」
「 ぐしゃぐしゃ・・・って … 」
「 あなた、009でしょう?? 最新最強のサイボーグなのでしょう?
だったらしゃきっとしなさいよ。 」
「 え ・・・ でも そのぅ〜〜 」
「 BGだってね、また追ってくるかもしれないわ。
とりあえずこの場所をきっちり確保してシェルターにしなければ。 」
「 ― きみって ・・・ すごいんだねえ ・・・ 」
「 すごくなんかないわ。 ただわたしは ― どんな状況でもできるだけのことを
全力でやりたいだけ よ。 そうでしょ? 」
「 それは ・・・ そうだけど ・・・ 」
「 さ! だったらこんなトコで ぼ〜〜〜っと海なんか眺めてないで!
買い出しに行ってきてちょうだい。 皆で協力しなければ。 」
「 ― ハイ ・・・ 」
彼女はさっと立ち上がると さっさと歩き出した。
「 ・・・・・・ 」
ジョーは こっそりため息を吐きつつ慌てて彼女の後を追っていった。
最初はバラバラだったサイボーグ達も 逃避行の間に連帯意識も生じてきた。
― つまりは気楽に無駄口も聞きあう仲になった、というわけだ。
「 博士〜〜〜 結局さ〜 最強って 003 なわけ? 」
「 最強 とはどのような意味かね 」
「 あ〜〜〜 う〜〜〜 つまり、最新式なのかってことだけど〜 」
赤毛ののっぽは相変わらず気安い口を聞く。
「 ふむ、003は最後の改造体なので 基本OSは最新バージョンじゃ。
ジョーよりさらにバージョンアップしたOS、そしてコンパクトなので
生身の部分も多、というわけじゃ。 」
「 へ・・・! ほんじゃ俺やら004のオッサンはガラケーで アンタはスマホってわけか 」
ちょん、と肩に当てられた手を 003は笑って軽く振り払う。
「 ふふ・・・ ガラケーっていうよりも ダイヤル式固定電話 じゃない? 」
「 うぐ 〜〜 言うねえ〜 アンタ ・・・ 」
「 でも 現実でしょ? 」
「 けどよ〜〜〜 ふふぁ〜〜〜 落ち込むぜ 〜〜 」
「 ・・・ でも。 わたし ― 好きよ、 ガラケー ・・・ 」
「 え ・・・ あ そ そう?? 」
彼女の呟きをこっそり拾ったジョーは 一人、耳の付け根まで赤くなっていた・・・
そして。 またさらにいろいろありまして。
最終決戦で地下帝国・ヨミは壊滅、そして彼女は魔神像と共に宇宙に飛んで行き ―
まだ明け染めぬ空に 一際鮮やかな星が 流れた ・・・
「 ― フランソワーズ −−−−−−− !!! 」
ジョーは海の中で歯噛みをし、叫ぶだけだった・・・
いやだ いやだ〜〜〜〜 こんなの、絶対に嫌だあ〜〜〜〜
「 い ・・・ いやだぁ 〜〜〜〜 」
「 ・・・ ジョー ・・・? どう した の ・・・? 」
「 いやだ いやだあ〜〜 絶対にこんなの イヤだぁ〜〜〜〜 」
「 ねえ ・・・ ジョー?? 大丈夫?? 」
白い手が そっと額に当てられた。
「 いやだ〜〜 ・・・・ へ?? 」
「 ジョー・・・ どうしたの ?? 」
碧い瞳が じっと彼を見つめている。
「 あ・・・?? ぼ ぼく ・・・? 」
「 ・・・突然 大きな声だして・・・ 寝ぼけたの? 」
「 ・・・ え あ・・・ ここ ・・・? 」
「 わたし達の寝室よ? ねえ 水でも飲む? 」
ジョーの隣には 柔らかく温かい身体が寄り添う。
薄いネグリジェを通して まろやかな乳房がはっきりと感じとれる。
「 ・・・ ご ごめ ん ・・・ 起こしちゃった ね ・・・ 」
「 それはいいけど ・・・ 」
「 ごめん。 あは ちょっと ・・・ 寝ぼけた カナ〜〜 」
「 そう? あんな大怪我したんですもの 心配だわ〜〜〜
博士に診ていただく? 」
「 あ ・・・ 大丈夫・・・だよ。 ちょっと … その 夢 見てた 」
「 夢??? 」
「 ウン ・・・ ほら あの〜〜 悪夢 ってヤツ。 」
「 そう? それなら ・・・ ほら 安心してお休みなさい ジョー 」
「 うん ・・・・ うは♪ 」
暖かい唇がすっと押し付けられ しなやかな腕が、肢体が絡みついてきた。
「 あ ああ 〜〜♪ ぼくが 009 でよかったぁ〜〜 」
どうやら 島村ジョー君の初夢はとんでもない悪夢だったらしい・・・
**************************** Fin. ***************************
Last updated : 01,05,2016.
index
****************** ひと言 ****************
パロディ ってか コメディ ってか・・・
まあ お正月用小話 であります〜〜〜