3.登場人物紹介@ シャルルと十二勇士
シャルルマーニュ
言わずと知れたフランク国王(作中ではフランス)。後のフランク帝国皇帝。一応主人公なのかなぁ?どっちかていうとロランやリナルドの方が主人公っぽい。
アインハルトの『カール大帝伝』によれば、 彼は190cmの身長を持つ金髪の大男で、かなりの活動家であったらしい。節食と狩りや水泳などの健康の維持に努めると共に、食事のときは酒を好まないで本の朗読をさせてたりしたとか。
寝るときは剣を抱え、朝は一人一人の家臣に仕事を与え、領土のあちこちに出かけて視察していたらしい。これは神経質な性格と、当時のまだ安定してない政権という現状がなせることなのだろう。

本編のシャルルは、国が安定してきているし戦いにも勝っているので家臣思いで度量の広さを出し始めているが、その反面少々判断力の衰えも現れている。
『アーサー王』での、聖杯探しが始まる前頃のアーサー王のような状態と言えるかな。
オルランド(ロラン)
十二勇士の筆頭で、アーサー王の円卓の騎士で例えればランスロットのようなポジションにいる。しかもシャルルの妹ベルトの息子という設定であり、勇敢で明朗快活でといった好感度ランキングで常に上位を狙いそうな健康青年で、典型的主人公格。ランスロットと違うところは、後半も礼節を失うことが無かったということか。
本編でのアンジェリカへの恋は、あくまで魔法の泉の水を飲んでしまったせいということになってるし (いや、登場してすぐに惚れてしまったとあるが、これは男なら誰でもすぐ惚れるほどの美人が来たと言う例えなのだろう)。ブルフィンチ自身は19世紀の作家だが、恋で発狂する話はルネッサンス期にすでに書かれていた。多分当時の作家がランスロットがグィネヴィアとの恋で狂うネタを使ったのかなという気がする。

『カール大帝伝』ではブルターニュ辺境伯ロランの名が確認されてるので、『ロランの歌』での想像上の人物ともいえないらしい。十二勇士のオリヴィエとは親友で、『ロランの歌』では「勇者ロラン、賢者オリヴィエ」といった名コンビらしい。『アルスラーン戦記』でのダリューンとナルサスといったところだろうか。

本編では大きな戦いに参加せずにアンジェリカを捜し求めてあっちこっち旅して、その過程でいろんな敵を倒してる。アフリカのイスラム軍との決着をつける3対3の決闘では、彼の持つ名剣デュリンダナ(『ロランの歌』ではデュランダル) を奪ったセリカン王グラダッソとアフリカの大王アグラマンを討ち取っているので、主人公格の面目躍如といたところだろうか。
そしてロランの話で避けて通れないロンスヴァルの戦いへと向かっていく。
オリヴィエ
ウィーンの領主ゲラン・ド・モングラーヴの息子で賢いし、剣の腕もいいらしい。
「ロランとオリヴィエ」とペアにされるくらい十二勇士で有名なのがオリヴィエ。本編では、少年の頃オルランドとのケンカ相手から友情が生まれてずーっと続くという、典型的「男の友情」話でオルランドと無二の親友ということになっている。しかも『ロランの歌』では、彼の妹オードがオルランドとの許婚として登場する。

本編ではオルランドとリナルドに出番をほとんど取られて、オリヴィエの登場回数は名前の有名さと反比例している。イスラム軍との戦いで軍師的な役割をしていたのだろう。
あと、3対3の決闘には参加しアグラマンに重い一撃を与えている、といったことぐらいが文章上の活躍だろうか。イメージは前述の通り『アルスラーン戦記』のナルサスぽいと思ってるので、明るい皮肉屋(というのはありか?)というか口の悪い善人というか・・・ 難しいけど参謀だ。
やはり「ロランとオリヴィエ」の物語で絶対避けて通れないロンスヴァルの戦いで、 背中を刺されて命が尽きる。
リナルド
この作品では、ロランと並ぶ主人公格。
物静かで礼儀正しく、でも内には頑固でいて熱いものを秘めていると言う性格。『HUNTER×HUNTER』でのクラピカのような存在か。おまけに母親がシャルルの妹ということから、シャルルやロランの親族でもある。しかし十二勇士はシャルルの親族が多いなぁ。まあ封建社会だからそんなものか。この場合、有能だから良かったけど。

ロランにはやや劣るが一騎打ちでも強いし、イスラム軍での夜襲を成功させること等からで軍隊の指揮でも有能。オールマイティーに活躍してる。おまけに弟達も有能で、ナルドがいない時は代わりに指揮を任せられるほどである (でも敗れたが)。
作品中ではその冷静さと頑固さからかシャルルにも面と向かって異を唱えることがあるのだろう、しばしば不興をかっている。君主に意見を言えるのは貴重な存在だが、多分その冷静そうな雰囲気が返って反感を買うような人物に違いない、と勝手に想像。

そんな性格が災いしてなんとも寂しく迎える最期は、逆に意表をついていてこの物語の中でも面白いエピソードだと思う。華々しく散るロランがアメリカ的な健康ヒーローなのと相反する、悩めるヒーローがヨーロッパぽくて好感が持てる。だから一番手にはなれないんだろうけどね。
アンジェリカとのからみが少々取ってつけたようなので、恋愛話が全然印象に残らないが (そういやあ、本編で活躍する妹のブラダマンテとの絡みすらほとんどなかったな)、その分愛馬バヤールとのつながりで多くのエピソードを提供してくれている。 もてそうなんだけどね。

ちなみにこのHPのタイトル「白い山」は、 リナルドの居城モンタルバン(白い山)城から拝借した。
アストルフォ
イングランド人の騎士。設定ではイングランド王オットーの息子にしてリナルドの従弟となっていたので、恐らくオットーに嫁いだ母親がシャルルマーニュの親族なのだろう。

金持ちでハンサムで、だけどおっちょこちょいという憎めないキャラ。功名心が強いのか好奇心旺盛なのか、本編を通じてほとんどどこかに冒険に出ている。その度にトラブルに巻き込まれたり、起こしたり、解決したりと結構な活躍である。狂ったオルランドを正常な状態に戻したのは彼の活躍だから。
ただそのボケ役的なポジションのせいか、あまり話に緊張感がない。もちろんこういうキャラがいないと面白みに欠けるので必要不可欠な存在である。あまり戦闘シーンが無いのは、あまり腕前が良くないからであろう。もちろん並みの騎士よりは強いであろうが。

そんな格好良くて愛嬌のあるアストルフォも運命の輪から逃れることは出来ず、 ガノの仕組んだ罠に飲まれ、異国の地ロンスヴァルで生涯を終わらせるのだった。
チュルパン
レームの大司教。シャルルの宮廷の書記官。実在の人物で、シャルルとその息子ルイ敬虔王の時代まで仕えていたらしい。 聖職者がその学問知識から宮廷に入るのはよくあることなので、チュルパンも書記のみならず色々な知識をシャルルに伝授していたことは 想像に難くない。

作中ではナレーター的なポジションだろうか。作中にあまり登場しないし、シャルルの物語を色々書いてたといわれる人物だし。同時に、この頃では教会から禁止されてなかったのだろう、 剣を使って戦うこともあったという設定なので、ファンタジーRPGにおける神官 (僧侶)といった雰囲気が近いと思われる。でももう初老ぐらいだと予想しているので、 この作中ではその場面はあまり見られないが。

イメージは俳優の津川雅彦のやる、厳しくて優しい人。
マラジジ
リナルドの従弟の魔法使い。だが老人なので、従弟というより叔父に近い。
ファンタジー作品にしばしば宮廷魔術師という役職が登場するので、 マラジジもそのような形で廷臣になってるのだろう。 でも宮廷にいるときは顧問官のような役割をこなし、実際はその魔法の力を活用するため自由な行動が許されていたと思われる。

作中では従弟のリナルドに協力するため、 またはリナルドを捕らえようとするアンジェリカに利用される等で、リナルドの周囲に何度か登場する。やっぱりリナルドが親族としてかわいいのだろう。
リナルドがシャルロの陰謀で宮廷を去った後、 恐らくマラジジも宮廷を去って隠者になったのだと予想できる。

愛嬌のある近所のおじいさんといった感じじゃないかな?
ナモ(ネイムス)
宿将のバイエルン公。本編には名前が何度か登場するぐらいでどんな活躍をしたのかがみえてこないが、十二勇士の重鎮といった存在だと思う。
賢者ネイムスなどという表現をどこかで見たので、多分シャルルマーニュの顧問のような役割をしていたのだと思う。かなりの信頼もされていたのだろうし、リナルドとは違った意味でシャルルに色々と意見を言えた人物ではなかろうか。ドイツぽく厳格なイメージで。

オジエを最初から保護するくらい先見の明もあることだし(もしかしたらより生粋のゲルマンに近いから親近感を持っただけかもしれないが)。預けられたアンジェリカを逃がしてしまうという失敗もしてしまうが、それは堅物だからこそのご愛嬌なのだろう。何事も無く流されてたし。
しかしこの人はロンスヴァルには行かなかったのかな?少なくともこの物語ではアフリカでの戦い以降登場しないので、平和に引退されたものだと思われる。

イメージは『銀河英雄伝説』のメルカッツ提督。
サロモン
ブルターニュ王。しばしばナモと並んで記されるので、宿老の一人だろう。領地経営能力に優れた人なのだと思われる。
少ししか登場しないのでそれぐらいしか書くことがない。バランスの取れた人材なのかなぁ。

イメージは西岡徳馬みたいな感じ。
フロリマール
シルヴァン・タワーの領主で勇敢で最も善良な騎士。イメージとしては純粋で純朴な田舎貴族といったところ。
恋人フロルドリと一緒に旅に出てるところなんて、純愛を信じてるかわいらしささえ感じる。 サー・フロリマールと書いてあったので、イングランド人だろう。

登場していきなりアストルフォに一騎打ちを申し込まれ、負けるという情けない初登場シーンである。しかもその後魔女につかまり、そしてさしたる活躍もないままアフリカの決闘まで行く。その間いつの間にかフロルドリと結婚したことになってるのだが、アフリカでの決戦の前にフロルドリと誓ったと考えるのが自然かな。
そしてアフリカでの決闘でグラダッソに討ち死にする。 ロンスヴァル前に死んだ唯一の十二勇士となってしまった。

え?ていうか彼は十二勇士なの?確か設定ではオルランドの友人となってたな。恐らく以前すでにその勇敢さと純粋さとで高名であり、十二勇士として迎え入れられてたのだろう。そしてフランスの危機に宮廷にフロルドリ共々馳せ参じる途中だったのだろう。
可哀想なのはフロルドリ。結婚したとたん未亡人だからね。きっとその前までが幸せだったと思わないと、悲惨すぎる。
オジエ・ル・ダノワ
デンマーク人の王子。
オジエの母は死に、二番目の王妃は息子ギヨンを愛するあまりオジエを疎ましく思い、 父のデンマーク王ジョフロワがシャルルに敗れて人質を要求されたので、 オジエはパリに送られたのだ。しかしバイキングの地の出身だったせいかグレることなく勇敢で、それでいて自分を抑えることを知っている若者だった。
誕生の時に妖精の女王モルガナが祝福したということから、 容姿も魅力的だったに違いない。またナモ、サロモン、チュルパンなどの宿老が擁護することから、 気持ちいいくらい勇敢なんだろう。

フランス対モーリタニアのイスラム軍の戦いではシャルルマーニュを敵の手から救い、 さらにモーリタニア王カラヒューを一騎討ちで負かせたばかりか、カラヒューと義兄弟の契りを結んでしまうほどのさわやかさんぶり。十二勇士の期待のホープ。惜しむらくは、 彼はつねに離反の可能性があるデンマーク王の人質であるということだ。
だがそのデンマークも、王がギヨンに代わるとシャルルに臣下の礼をとるという順調振りである。

オジエは息子ボルドウィンをシャルロに殺されるということにも我慢してフランスのために戦い、 ガスコーニュに上陸したスルタン(イスラム君主)ブリュイエ率いるアラビア軍との戦いに従軍し、ブリィエを討ち取る手柄を上げる。
そして最後は浦島太郎みたいにモルガナのいるアヴァロン島に行くわけだが、 アーサー王と共に復活することはあるのだろうか?
ガノ(ガヌロン)
シャルルマーニュの物語において欠かすことの出来ない人物。ロンスヴァルの戦いを引き起こした十二勇士の裏切り者。最も印象深い敵役かもしれない。

本家『ロランの歌』においてはロランの義父となっており、ロランの母の再婚相手という設定である。ロランやその他の十二勇士からも疎まれていたようだ。ちなみに『ロランの歌』がガヌロンのモチーフとした人物は、これより2代後のシャルル禿頭王の時代に裏切りで告発された大司教であるらしい。

作中ではそれらの事は書いてなくマガンツァ公とだけ記されており、ロランの母ベルトの再婚についても触れられていないので、この作品でのガノの設定は次のようなものと推測できる。
シャルルマーニュの宮廷貴族として長らく仕える陰謀家で、自らの保身と自分を価値ある人物と見せかけるだけの能弁家であったと思われる。他の十二勇士 (ガノがその一員であるのはシャルルマーニュがだまされていたからだろう)へ不信感を与えていたことから、証拠は出てないがかなりの悪事を働いていたのだろう。一番考えられるのは、着服でかなりの財産を築いていたとか。多分一度ならず追求されているはずだ。

それらの行為にて宮廷で不利なった彼が思いついたのが、ロンスヴァルでの十二勇士抹殺計画ではなかろうか。スペインのイスラム王マルシリウスとはかなり以前からつながりを持っていたらしく、アグラマン襲来時にも同調するよう手紙を送っている。そしてシャルルマーニュ軍に完敗したマルシリウスに自ら交渉に行き、イスラム軍がせめて一矢報いるのと同時に自分の恨みを晴らし、 かつ保身を図る作戦といったところだろうか。

計画は半分成功したが、死ぬ間際にオルランドが角笛を吹いたためにシャルルマーニュに計画が露呈してしまうのは、自分を過信してたというか人の意志の力を思い知らされたというか、陰謀家らしい幕の閉じ方かもしれない。