起きたら――母が死んでいた。
トイレに行きたかったわけでも、喉が渇いたわけでもないのに何故か夜中に目が覚めた。
枕元の時計を見ると、夜中の二時過ぎで、もう一眠りしようかと思ったが、頭が冴えており、そうすることも出来なかった。
全身が痛み、疲労がたまっているのが分かる。それなのに、どうして目が覚めてしまったのだろうか。
そんなことを考えながら、何となく床から立ち上がり、自分に宛がわれた部屋を出る。
少し歩けばまた眠くなるだろう。
そんな風に思ったのだった。
体が重くて、痛い。今日のはいつもよりも酷かった。でも、仕方がない。だって私が悪いのだもの。
私がうまく出来ないから。うまく言うことを聞けないから。だから、いけないんだ。
頭の片隅で、眠くて寝るというよりこのまま痛みで意識を失えそうだと思った。
床で寝ていたのも、部屋に帰るのに精一杯で、部屋に入った途端倒れてしまった。気がついたら、夜中の二時だった。
とりあえず部屋の中心までは這って移動することに成功していたらしい。
母の部屋に足を向けたのも何となくだった。
夜中の二時で起きているわけはないし、仮に起きていたところで何かあるというわけでもない。
早く寝ろ、と言われるだけだろう。それでもどういうわけか母の元へ足が向いた。
痛みで軋む体を何とか動かし、母の部屋へと行った。そうしたらこんな光景が目に飛び込んできた。
「あ……」
目の前で起きていることが分からない。
いや、頭の中の冷静な部分では分かっているのだが、それを認めることを頭が、心が拒否している。
ここで起きていることは現実のはずなのに、現実感がない。
まるで、ふわふわした泡にでも包まれているような、そんな不気味なまるで引き込まれるような、そんな感覚。
だが、その感覚は甘さを伴った感覚でもあった。
引き込まれてしまえば楽になれる。例え、その先が偽りの世界であったとしても。
それはあまりに甘美な誘惑だった。しかし、心のどこかでその誘惑にだけは乗ってはならないのだとも分かっていた。
それだけはしてはならないのだ、と。
「あ、あ、ああ……」
知らず知らずのうちに口からそんな声が漏れる。
これは何?
この倒れているものは誰?
この倒れて血を吐いているのは何?
「ああああ……」
考えるまでもない。
「か、母さん……」
母だ。
大切な、愛するべき、それでいていつもいつも迷惑ばかりかけてしまっている母親。
大分前から自分のせいで笑わなくなってしまった母親。
そんな母親が、血を吐いて倒れている。
助けなくては。
医者ではない自分に出来ることなど高が知れているが、それでも何かしなければ。
そう思っているのに、体が動かない。
「ああああ……」
今まで辛いことばっかりだったのに。哀しい目にばっかりあってきた人なのに。
それなのに。
それなのに、どうしてこんなことになってしまうのだろう。
私のせいだ。私が駄目だったから、私が駄目な子だから、こんなことになったんだ。何もしてあげられなかった。
私が生まれてきたからいけなかったんだ。
「……!うわああああ……!」
少女――フェイト・テスタロッサは母――プレシア・テスタロッサの亡骸を抱きしめて号泣した。
その震えるような、吐き出すような懺悔に満ちた泣き声は使い魔のアルフがやってくるまで続いた。