名前を呼ぶ声――セラス(FE 烈火の剣)


 届いたけれども、間に合わなかったのです。


 ニニアン…彼女は、不思議な女性でした。
 地方ごとに著しく文化の違うこのエレブ大陸においても、どの地方の特徴にも合わない…
 そう、言うなれば、俗ではなく、聖の空気を持つ神秘的な女性。弟はそうでも無いのに、そんな点でも不思議でした。

 人に力を与える、不思議な踊り。精霊の力を借りて、発現する力は様々で。
 少し、いえ、少しどころではなく、羨ましかったのです。軍師として指揮は執れても、戦場では守ってもらうこと以外、何もできないわたくしには。

 ニニアンは、この世界の事を知ることが好きなようでした。出身らしい北のイリア以外のことには特に興味があるようで、わたくしやカナスさんの下で、よく本を呼んでいました。
 わたくしとニニアンは、共にエリウッド様に他の人とは違う物を感じていて、よく、その事に付いて話していました。

 エリウッド様を、わたくし達を守るためにその身を差し出した時、わたくしが止めなかったのは、あなたならそうするだろうと思っていたから。
 わたくし達なら、きっと助けられると…思ったから。

 ブラミモンド様は、わたくしにだけ『大切な事を見落とすな』と仰いました。
 突然現れた竜の瞳が、ニニアンと同じはかなさを湛えていると気付けたのも、そのおかげでした。
 …ですが。
 わたくしが気付いたのは、遅すぎたのです。

「ニニアン!」

 声は届いても。

「エリウッド様、駄目ッ!」

 わたくしの手は届かないのです。
 なぜなら、わたくしの前には、リンとヘクトル様がいらしたのですから。わたくしを竜から守る為に。

 声は届きました。ニニアンはその爪を止めたのですから。
 けれども、竜を殺す剣を止めるには、間に合わなかったのです。


 わたくしに出来る事は、出来た事は…
 ニニアンの死を無にしないためにも、と、進む事を促すだけ、でした。


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