名前を呼んで…くれたから。 わたしはずっと、弟と2人きりでした。他に頼れるヒトを知らなくて、たった二人きりでいました。 失う事を怖れていたのは、この地で弟だけでした。ずっと。 けれども、大切な人が、出来ました。わたしたちを受け入れてくれる人たちに、会えました。 なのに…ああ、なのに。 あの人たちの名前が、思い出せない。 竜の生きてはいけない大地で竜の姿になったわたしから、大切な記憶が剥がれ落ちていく。 まだ残っている、優しい面影も、いつか消えてなくなってしまうのでしょうか。 それが恐ろしくて、わたしは急ぎました。 翼を振るうたびに思い出が消えてゆく中、面影を必死で繋ぎとめながら。 たどり着いた時。わたしはほとんど無くしていました。 あの人に、わたしはあの人に、爪を振り下ろそうとしたのです。 …あの人の持っているものが、とても怖くて。 その時に。 「ニニアン! エリウッド様、駄目ッ!」 …… …ああ。 その名前、です。わたしの…大切なひと… わたしは、爪を止めることができました。 その代わりに切り裂かれたとしても、後悔はありません。 「ニニアン…ニニアン…!」 エリウッド様…あなたが無事で…良かった。 良かった…あなたを、傷つけなくて。 「…ニニアン。お願いだ、死なないでくれ…」 …ごめんなさい。もう、まぶたを開く事も出来ません。 でも、泣かないでください… あなたは…この世界を守ってください… 「ニニアン…?」 まだ、名前を、呼んでくれて… 嬉しい…で… |