無題(カチュアとヴァイス)
ポカポカ陽気のある日、
陽だまりによいしょと座り込んで読みかけの本を読む。
こっそり城を抜け出した時に、寄った本屋で手に入れた小説だ。
巷で流行りの恋愛小説。
身分違いの恋に悩む王女と騎士。
執念深い4人の魔女の陰謀にも負けず愛を貫くその姿に感動の嵐だとか・・・。
城で侍女たちの話を耳にはさんだ。
魔女のモデルはモルーバ様の娘たち?
王女はもちろんうちの女王様。
黒の騎士は彼でしょう?
カチュアはどうしてもそれが読みたかった。
読んでる本といえば政治の本、経済の本、歴史の本・・・。
ちっともわからないし退屈だし、
その後の議論の時間なんて死ぬほど嫌だ。
買ってきてとは恥ずかしくて言えないし、悩んだあげく城を抜け出し手に入れた。
昨日から読んでいる。
ワクワクドキドキ胸が高鳴る。
憎たらしい魔女たちも3人まではやっつけた。
残るは北の至高の魔女だわ。
その前についに二人が結ばれるシーンが・・・・・・。
二人の唇がゆっくりと重なって、
着ている服をお互い脱がし、
生まれたままの姿になって・・・・・・
「よう!」
「うぎゃああああ〜!!」
いつの間に近づいていたヴァイスが後ろから本を覗き込んだ。
「ヴァ、ヴァ、ヴァ・・・!」
カチュアは立ち上がって叫ぶ。顔は茹でオクトパスだ。
「何真剣に読んでんだ?」
そう言ってカチュアから本を取り上げ表紙を見た。
「へ〜〜〜」
ニヤニヤと面白そうに笑う。
こいつにだけは知られたくなかったのに・・・、カチュアは泣きたくなった。
だって・・・、だって・・・、
黒の騎士の面影はカチュアの中ではっきりと一人の男に重なって・・・・・・
何でこんな男が気になるのだろう?
わたしをからかってばっかりの無神経な馬鹿が・・・・・・
「何よ、読んじゃ悪い? 世間を知るのも女王の勤めだわ。くだらない本でもそれが流行れば読むのが女王の仕事だわ!」
頭半分高いところにあるヴァイスの目を睨みつけながら叫ぶカチュアの目は悔しさのためか真っ赤だった。言葉を続ける。
「もういいわよ。そんなくだらないものあんたにやるわ。あんたが読んで世間を勉強したらいいわ!」
「いや・・・、オレもう読んだし。」
そう言ってカチュアに本を手渡した。
「あっ、そう。それはけっこうなことで。」
「面白かったぜ。なかなか。」
「わたしはもう読まないからどうでもいいわよ。」
「そりゃ残念。」
「もうあっち行ってよ!」
「はいはい・・・。」
「はいは一度!」
カチュアに背中を見せて手をひらひらと振る黒髪の幼馴染に本を投げつけようとした時、ヴァイスがくるりと振り返った。
「・・・!!」
「オレその中に出てくる至高の魔女が好きだぜ。」
「どうでもいいって言ってるでしょ!」
「はいはい。んじゃ・・・。」
笑いながらヴァイス退場。
投げそこなった手元の本を眺めてカチュアもとぼとぼと城の中に入って行った。
あんなに胸ときめかして読んでいたのに・・・読む気は失せた。
でも、捨てる気にはなれなくて机の奥にしまって、
カチュアは忙しい日々にその本のことを忘れて・・・・・・
数ヵ月後に思い出して読んでみた。
黒の騎士に誰かさんを重ねるのだけは意識して止めたけど。
ドキドキワクワク胸キュンでラストまでいって・・・・・・・
王女にかけられた呪いが解けて全ての謎が明らかに、
ついでに王女と騎士のモデルが本当は誰なのかも・・・・・・。
共に戦った仲間ならわかるわ・・・・・・
黒い髪の水のセイレーン・・・・・・。
南の魔女はがさつな長女、
東の魔女はひねくれた次女、
西の魔女は落ちこぼれの三女、
北の至高の魔女は・・・
わがままで自己中で生意気で気位とプライドが高い嫌な女は・・・・・・
わたし・・・・・・?
本気で作者の首を絞めたろうかと思ったが、作者はこの国の人間ではないらしい。
まさか・・・まさか・・・鳥か髭?
だが、何よりもカチュアを悩ませたのはあの時ヴァイスが言った言葉だ。
いったい彼はどういう意味で言ったのだろう?
本気?
それともいつもの冗談?
馬鹿みたいだと思った。
いつもヴァイスの言った言葉に揺れている・・・・・・。
2時間弱で書きました。
内容はないよう・・・。
グラシャス家の双子の話は心の準備がいるので
逃避してこっち。
タイトルも思いつかなくて無題。
(2004.11.14)
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