おとぎ話のヒロインはいつだって末娘
根性悪いのはその姉たちだっていったい誰が決めたのだろう?








小さなメルヘン








 セリエが帰宅すると花壇でシスティーナが何やら膝を抱えて泣いていた。シェリーとオリビアが慰めているようだった。セリエは涙の訳を聞く。妹はおとぎ話でいつも幸せを掴むのが末娘だと言って悲しんでいたのだ。自分は末娘ではないからきっと幸せになれないと・・・。そんな童話をいくつか読んだらしかった。
 セリエの頭にバナヘウムの優等生の顔が浮んだ。相変わらずシスティーナの片思い中だった。
相手が悪すぎるのだ。彼の頭に恋という文字はない。どうせ不幸になる末妹の姉たちと自分を重ねたのだろうと思う。
 ここで正直に多分相手がアレなら幸せになれないとうっかり言って妹をますます泣かせるような事はさすがのセリエもしなかった。というか、言おうとして言う前にシェリーに睨まれたのだ。この妹は人の心を読めるのかと感心したが、シェリーに言わせれば無神経な姉が何を言うか簡単に想像がつくということだった。

 しくしくしくと泣く妹にお手上げ状態のシェリーは無言で姉に何とかしろと訴える。

 (何故わたしが?)
 (一番上だからよ!)
 (関係ないだろう!)
 (システィーナは姉さんの言う事ならきちんと聞くわ。)
 (・・・・・・・・・)

 仕方がないのでセリエは口からでまかせを言った。
 「昔読んだことがあるぞ、システィーナ。末娘じゃない娘が幸せを掴んだ話。」
 「・・・・・・?」
 泣くのを止めてシスティーナがセリエを見上げた。目が本当?と言っている。
 「ああ、題名は忘れたが確か・・・、そう3番目の娘が王子様と結ばれて幸せに暮らす話だった。」
 「・・・どこで読んだの?」
 「・・・宮殿の蔵書室だ。他にもたくさんあった。」
 システィーナの目がきらりと光った。セリエがしまったと思ったが後の祭りだ。
 「わたしも読みたい。ねえいいでしょう、お城に連れて行って。」
 「・・・・・・・・・。」
 墓穴を掘ったセリエにシェリーが面白がって口を挟んだ。
 「そんな話が本当にあるのならあたしも読んでみたいわ。ねえ、オリビア。」
 「お城にいくの?」
 「そうよ、セリエ姉さんが連れて行ってくれるって。」
 「本当? わたしお城大好き!」
 「ということでいつ連れて行ってくれるの? お姉さま。」
 「・・・・・・・・・・・・そのうちだ。だからもうシスティーナも泣くな。」
 そう言ってセリエは立ち去っていった。システィーナが後ろから叫んだ。
 「セリエ姉さん、大好き!」
 立ち止まったセリエは後ろを向けたまま妹に手を上げて答えた。シェリーが言う。
 「良かったわね、システィーナ。」
 「ん・・・。」
 嬉しそうに返事を返した妹を眺めながら、さてあの姉がどうするか見ものだと思った。








 それからシスティーナやオリビアはセリエの顔を見るといつお城に連れて行ってくれるのかと聞いてきた。その都度あいまいに返事をするセリエがシェリーはおかしくて仕方がなかった。どうするのよと一度聞いたがセリエはその質問を無視してさっさと自分の部屋にこもってしまった。この頃セリエはあまり姉妹と一緒にいる時間をとらず一人で部屋にこもっている事が多くなっていた。








 そんなある日、魔法アカデミーでシェリーはバイアンに声をかけられた。属性が同じ大地の彼はシェリーが小さい頃から特別に彼女の面倒を見ていた。

 「セリエはどうかね?」
 「どうかねって何が?」
 「あまり慣れないことを根つめてやると身体に良くないのだが・・・。」
 「・・・?」

 どうやら姉は慣れないことをやっているらしい。糸紡ぎや機織ではないだろう。シェリーの頭に異国の童話「ナントカの恩返し」とかいう物語の一シーンが浮んだ。恐ろしいものを振り払うように首を思いっきり首を横に振った。

 「先生、セリエ姉さんは何をしているの?」
 「ヴァレリア中のおとぎ話を集めているそうだ。」
 「おとぎ話〜?」
 「どういう心境の変化かはわからぬが、まあ少しは女らしくなってくれればいいがな。」

 はは〜んと思った。どうやら姉はシスティーナに見せる童話を探しているらしかった。部屋にこもって集めた童話を読んでいるのだ。「白雪姫」と「灰かぶり」と「オーロラ姫」の区別もつかない姉にとってはさぞかし苦痛だろう。手伝ってあげて姉に恩を売っておくのもいいかもと思いシェリーは家に帰るとセリエの部屋を覗いてみた。

 セリエの部屋はいつ見ても殺風景以外のなにものでもなかった。ベッドと机とイスと脱ぎ散らかした服と壁のヤリ・・・。茶色にしなびた花が挿してある花瓶とともに机の上に1冊の本があった。シェリーが手にとって見るとそれはどう見ても素人が製本した薄汚れた本?

 セリエが妹のために書いた童話だ。3番目の娘が王子様と結ばれて幸せに暮らすというおとぎ話だ。こっそり仕上げてハイム城の蔵書室に置くつもりだったのだろう。そして妹をよんでわざとらしく見つけたふりをするのだろう。

 シェリーは姉がどんな童話を書いたか知りたくなって題を読んだ。

 「そよ風の若草娘」

 何だかとっても悲しくなるシェリーだった。








どこが小さなメルヘンなのでしょう・・・?
小人が出てきてセリエが寝ている間に本を作るとかだったらメルヘンかも。
(2003.11.27)

セリエが描きました