ミルディン様の暇つぶし






 ゼノビアから白騎士の2人がハイム城にやって来たのは秋も終わりの頃であった。突然現れた彼らに城のおもだった人たちは驚き何事かと困惑したが、かつて共に戦った仲間である。歓迎しないはずがなかった。皆、再会を喜びあった。

 歓迎の宴がハイム城で行われた。

 今年は天候不順で作物の収穫は芳しくなかった。豊かだとはいえない城の台所事情だったが、それでも心をこめたもてなしにギルダスもミルディンも笑顔がこぼれた。ヴァレリアはまだまだ貧乏国家だったし、城の生活もゼノビアからは考えられないほど慎ましかった。
 彼らを取り囲んで昔話に花が咲く。女王はゼノビアにいる弟の話を聞きたがった。ギルダスが元気にやっていると言うとカチュアは安心したようだ。

 新しく城で働く娘たちは初めて見たゼノビアの騎士の端正な顔立ちにため息をつく。微笑みかけられると卒倒する者まで出る始末だ。片割れの相棒は冗談を言って娘たちの笑いをとっていた。



 「で、何しに来たの?」
 カチュアがギルダスに聞いた。聞かれた男はきょろきょろと広間を見回し、相棒の姿が見えないのを確認した。
 「ミルディンの奴がな・・・・・・」
 ぼそぼそと言葉を濁らす。もうそれだけでカチュアが彼らの目的がわかった。彼らのというよりは彼のだ。
 「あなたも大変だわね・・・・・・。」
 「彼女は?」
 「いないわ。」
 「いない〜!? どこだ?」
 素っ頓狂な声を上げてヒゲの騎士が聞き返した。
 「バンハムーバ・・・」
 「バンハムーバぁ!? 何でそんなところに?」
 「修行してくるってイグニスかついで行ったわ・・・。」
 それ以上強くなってどうするんだという突込みを心の中で言ってギルダスはカチュアにいつ帰ってくるのか聞いた。

 「さあ?修行に飽きたら帰ってくるわよ。それまでハイムで待っているといいわ。わたしもデニムのことをいろいろ聞きたいし・・・。」
 のん気に答えるカチュアにギルダスは言った。
 「今すぐハイムに呼び寄せろ。俺の身が持たん!」

 「誰の身が持たないのです?」
 背後から聞こえるよく知った声にギルダスが固まった。そうっと首だけを回して後ろを向くとミルディンがにこやかな表情を浮かべて立っていた。

 目が笑っていない! セリエがいないことに怒っているのだ。あたりまえだ。おまえの手落ちだろーが。俺たちがヴァレリアに向かったとこっちには言っていないのだから、セリエが知らずにハイム不在でもそれはおまえが悪いのだろーが!

 「ギルダス、どうしてセリエがいないとあなたの身が持たないのですか?」
 「・・・・・・」
 「ギルダス。」
 言わないとこちらにも考えがありますよとでもいう迫力にギルダスがやけくそで叫んだ。

 「おまえの暇つぶしに付き合わされる俺の身にもなってみろ!だいたいこのごろ少し退屈だからといって何でヴァレリアくんだりまでやって来にゃいかんのだ?俺はザナドゥでのんびり温泉に浸かりたかったんだよ! 可愛い子ちゃんと一緒に!それをおまえがトリスタン様にヴァレリアに視察に俺と一緒に行きたいと言いやがって・・・、おかげで俺は・・・俺は・・・・・・!」

 「カノープスも誘ったのですが断られましたよ。そんなにわたしと行くのが嫌だったら断ったらよかったのに。」
 「・・・・・・!」

 断ったら後が怖いから断れないのだとカチュアは思った。つくづく豪快だと噂されるヒゲの騎士が哀れになる。そして、ある意味無敵のこの男に気に入られたセリエも哀れな事だと思った。ヴァレリア一危険な炎の姉はここにいなくて正解だったのだ。

 「まあ・・・、頑張ってね。」
 何を頑張るんだとかと思いながらカチュアはギルダスの肩をぽんと叩いた。

 「カチュア、今すぐこいつだけをテレポートでバンハムーバに飛ばしてくれ!」
 「無理よ。」
 「カチュア!」

 「ではギルダス、そろそろ部屋に戻りましょうか。」
 ミルディンがとびきりの笑顔で言った。

 嫌だ〜!と声無き叫びを全身で上げているギルダスの首根っこを掴んでミルディンは彼を引きずって広間を出て行った。





 「では服を脱いで下さい。」
 恐ろしい言葉を平然と言う相棒にギルダスは固まる。目の前には
色とりどりの服やその他もろもろが広げてあった。どれもセリエに着せようと思ってゼノビアから運んできた物だった。

 「何で俺が・・・!」
 「彼女がいないからあなたがかわりに着るのですよ。」
 「だからどうして俺なんだ!?」
 「あなたが嫌がるのを見るのが楽しいからですよ。あの取り澄ましたセリエに無理やり着せるのもとてもワクワクしますが、彼女がいないなら仕方ありませんから・・・。」

 きれいな顔で楽しそうにいうミルディンを見て心の底から早くセリエが帰ってくることを祈らずにいられないギルダスだった。





 ミルディン・ウォルホーン・・・

 神聖ゼノビア王国騎士団所属
 暇つぶしはお気に入りのおもちゃをいたぶる事・・・。

 おもちゃこそ哀れである。







変な話です。
最初はミルディンとセリエのラブラブのはずがどこでこんなになったやら?
ていうかわたしまともなミルディンを書いてない!?
帰ってきたセリエもきっと大迷惑する事でしょう。(2003.11.17)



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