バルバスと魔法のランプ




 夜の砂漠の闇の中、砂に足をとられながらよろよろと男が月明りだけをたよりに歩いていた。

 名をバルバスという。サイダバードの牢屋を脱獄して逃走中だった。彼が犯した罪は殺人。親戚の男を金に絡んで殴り殺していた。

 明日が死刑執行日だった。彼は運命を黙って受け入れるつもりは無かったので牢屋の番人を騙してまんまと逃げ出した。番をしていたのはお人よしの若い兵士だった。

 バルバスは砂漠に逃れる前に自分の家に戻って、自分を売った他の親戚連中に報復をした。そして家中の金目の物を袋に入れ、サンシオンかついで家を出た。

 途中で、占いの婆さんに出会った。婆さんは言った。
「北に行くがよい。おぬしの運命が変わるじゃろう!」
「北か・・・。」
 バルバスは友人のマルティムほど歪んでいなかったので老婆の助言を受け入れて北に向かって歩いて行った。

 行けども行けども
 砂漠の月は男に無慈悲な光を浴びせる
 
 砂漠の夜は危険だった。外気は0度を下回る。昼との気温の差は40度以上だ。大地の熱はあっという間に消失して、岩が割れる。

 生き物は息を潜める。男は黙々と歩く。この先に自分の運命を変える何かがあると信じて・・・。けっこうロマンチストなバルバスだった。

 バルバスの足に何かがあたった。
「・・・・・・?」

 それは古びたランプだった。彼は魔法のランプの存在を知っていた。
ではこれが俺の運命か?
彼はランプをそっと擦った。柄にも無く胸がときめいた。

 煙の色は暗くてわからない。けれど出てきたランプの精。バルバスの顔を見て
「きゃあ!」

「・・・・・・・・・・・・」

 ランプの精はランプの中。

 こすってもこすっても出てこない。

「くそっ!おい、おまえ、何で出てこないんだ?」
 バルバスはランプの口から中を覗き込んで尋ねた。中から微かに声がする。
「・・・・・・・・・ら・・・」
「はあ!?、聞こえん。もう一度!」
「・・・・・・・・・から」
「大きな声で!」

 沈黙の後、彼は聞いた、その理由。

「顔が怖いから・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

 彼の運命を変える魔法のランプ。

 中から清楚なランプの精が出てくるのは何時の日か?






 同時刻、サイダバードの町から一人の若者が旅立った。自分のミスから囚人を逃した若い赤茶けた髪の兵士だった。彼を捕まえるまでは町に戻るなと上官から言われた。

「・・・・・・・・・・・・」

 町の城門を出る。

 ダルムートの砂漠が黒く広がっていた。






バルバスとシスティーナのコンビです。
バルバスの不幸話の予感・・・?
(2003.6.30)


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