「乙女はあなたでしょう?」
ゼノビア人の男がデーモンに言った。

「あら・・・?何の事かしら?」
ベルゼビュートと言う名の生き物がしらばっくれる。顔から脂汗が出ているのは気のせいか?

「可憐な乙女があんなに大きな弓を引いて星に恋文を届けることが出来るはずはありません。」

「だからどうしてそれがあたし? アロセールみたいなのがその時代にもいたかもよ。」

「アロセールは馬鹿じゃない。」
きっぱりと言った。まるで目の前の生き物が馬鹿だと断言するように。顔はきれいなのに随分と失礼な男だった。

「あなたは何万年も前から生きている。伝説の時代に生息していたっておかしくはない。」

「それに関してはノーコメントで通させてもらうわ。」
ベルゼビュートは言った。

「あたしはね、あの娘さんたちの夢を壊したくはないのよ。もしも仮にあたしだとしてね・・・。」

そりゃ夢はズタズタになるだろう。可憐な乙女が実はこいつだったなら・・・。

「あたしだとしたら、恋の結末を話さなきゃならないでしょう?」

「星に届いたのですか?」

「届いていたらこんな所にいないわよ。」

「嘘ですね?」

ベルゼビュートがギクリとする。

予想はついた。
恋文を読んだ星が男に姿を変えて地上に降りた。
・・・・・・逃げ出したか、逃げそこなって・・・・・・。

「聞きたい?」

「聞きたくありません!」

「あら、そう? 残念ね。あなたになら聞いて欲しかったかも。」






その時、クレシェンテを調べていたアロセールが言った。
「こんな所に字が彫ってある・・・。神聖文字?」

フォリナー家の娘たちやカチュアが見たが、読めなかった。

「きっと・・・、恋心が綴られているのよ。」
夢見るクレリックの娘が言った。

「時を越えて刻まれる想いね。素敵〜・・・」






女性たちの会話を聞きながらベルゼビュートがミルディンに言った。
「何て書いてあるか・・・知りたい?」

ゼノビアの騎士は暫し考えて参考までにと言った。

「あたしのポエムよ。」






クレシェンテ 想いを伝えて くれしぇんて・・・

(クレシェンテ、わたしの想いをどうか伝えて下さいな・・・)







(2004.3.25)



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