そのランプを前にしてギルダスは身体が震えてくるのがわかった。
親友のミルディンが持っている魔法のランプと同じ形、同じボロ具合、どう見ても彼女の妹たちのランプの一つに間違いなかった。しかも全体の色調は緑だ。多分、シェリーという名のランプの精がいるに違いない。
ダルムート砂漠の隠れ都市、アリアバードのバザールでギルダスは己の幸運を神に感謝した。
彼がセリエの妹たちの話を聞いたのは昨夜の事だ。ミルディンがいつものようにランプをこするとランプの精のセリエが出てきた。
「何の用だ?」
「用がないと呼び出してはいけないのですか?」
・・・いつもこの会話から始まる。
「妹さんたちのことを話してもらえませんか?」
ミルディンがセリエに聞いた。
「そんなこと聞いてどうするつもりだ?」
「明日はアリアバードに入ります。妹さんたちのことを知らないことには集まる情報も集まりませんよ。」
「・・・・・・。」
「3人で手分けして調べる方がたくさん集まると思いますが。」
「妹たちもランプの精だ。わたしと同じ形のランプの中にいる。」
「名は?」
「2番目の妹がシェリー、3番目はシスティーナ、4番目がオリビア。」
「特徴は?」
「・・・シェリーは妖艶な感じの美人だ。システィーナは清楚な美人。オリビアは可憐な美人だ。」
ギルダスはひゅ〜っと口笛をふいてセリエに睨まれた。美人4姉妹のランプの精か、4人とも侍らせたいとかそんなことを考える。好みは2番目かな?とか勝手に思った。
「シェリーは性格が悪い。ランプの精としては失格だ。」
「システィーナはおっとりして素直だがランプの精としてはあまり役に立たない。」
「オリビアは・・・、彼女の主人は皆破滅している。これまたランプの精としては失格だ。」
素直で可愛げのないセリエもランプの精としては充分失格だったが、これはまあ置いといて。
そんなこんなの彼女の妹たちの情報を仕入れて覗いたバザールの骨董店でいきなりのビンゴだった。店の親父と交渉してランプを手に入れる。多少高くてもいいと思った。このままセリエやミルディンに渡すなんてとんでもなかった。3つの願いを聞いてもらってからだ。ギルダスは3つの願いを考えた。
あれこれと妄想をしたのか、鼻血が出た。
人気のない裏路地でランプを擦った。緑色の煙とともに出てきたのは・・・、
「願いをどうぞ、ご主人様。」
妖艶な美女とは程遠い、年寄りのランプの精。属性は大地の魔法使い、バイアン・ローゼン・オーン・・・。ランプの精のランクは最低レベル。
「世界中の美女をオレのものに!」
「わたしの力では無理です。」
「世界中の富をオレのものに!」
「ああ、それも無理ですね。」
「世界中の権力をこの手に!」
「全然無理です。」
「・・・・・・・・・・・・」
「じゃあ、何が出来るのだ?」
「歌とか・・・?」
爺のランプの精に背中を向けて、ギルダスは思いっきりランプを遠くに蹴飛ばした。何だかとっても悲しいギルダスだった。
夜が更けてギルダスがミルディンたちのところに戻ってみると
「お帰りなさい、ご主人様。」
「おまえがバイアンの主人だそうだな。」
「良かったですね。あなたにもランプの魔人がついて・・・」
「願いをどうぞ、ご主人様。」
「・・・とりあえず、消えてくれ・・・・・・」
力なくギルダスはそう言って、ランプを擦った。
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