ミルディンと魔法のランプ 1


 ダルムート砂漠のある町にミルディンという若者が住んでいました。ミルディンは働き者の真面目な青年でしたが、親友のギルダスという男がいつもミルディンに金を借りに来ては有り金全部吸い取っていく有様でしたので、ミルディンはとても貧乏でした。

 近所の人はミルディンにあのヒゲと手を切るようにと口をすっぱくして言っていましたが、ミルディンはただ黙って微笑むだけでした。ミルディンとギルダスは小さい頃からとても仲が良かったのです。

 ある日の事、ギルダスが酒を片手にぶらりとミルディンのボロ家にやってきました。

「お金ならありませんよ。」
ミルディンはギルダスが口を開く前に釘をさします。ギルダスは
「金の無心じゃねえよ。儲け話がある。」
と言いました。
「あなたが持ってくる話にはろくなものがあった例がありませんが・・・。」
「まあ、そう言わず・・・、今度だけは確かだぜ。何たって太守様から直々の話だからな。」
その瞬間、ミルディンはとても嫌な顔をしました。どうしてこの男は馬鹿なのでしょうか。太守様が町のゴロツキに話をすること自体が不自然なのです。何か裏があるに違いありません。そんなことにも気がつかず、ギルダスは得意げにミルディンに何か耳打ちします。

「お断りします。」
やはりミルディンの思ったとおり、ろくな話ではありませんでした。
あっさり親友に断られたギルダスでしたが、そこは押しの一手です。おまえの力が必要だとか、おまえが協力してくれないなら一人ででもやるとか、オレが死んだらおまえのせいだとか・・・、脅したり拝み倒したりでミルディンにしぶしぶ承諾させました。

「んじゃ、次の満月の夜にな。」
ギルダスは鼻歌を歌いながら上機嫌で帰って行きました。

 次の満月の夜、

 砂漠の湖の島の岩山で2つの黒い影がじっとしています。どのくらいじっとしていたでしょうか、微かに馬の足音が聞こえてきました。それも1頭ではありませんでした。40頭はいたでしょうか・・・。足音は次第に大きくなり、ミルディン達の前を通り過ぎて岩山の前で止まります。そして先頭の男が何やら呪文を唱えると、岩山の剥き出しの岩肌が音を立てて開いていきました。男たちは全員が中に入っていきました。

 男たちはダルムート砂漠の盗賊でした。ここは彼らの秘密の隠れ家だったのです。

 ギルダスとミルディンは顔を見合わせると行動に移ります。ギルダスの持ってきた儲け話とは彼らの皆殺しでした・・・。

 ダルムート砂漠の太守は盗賊の横行にとても手を焼いていました。何度か兵を討伐に向かわせても返り討ちに遭うだけでした。困り果てた太守はゴロツキだけど腕のたつギルダスという男に盗賊の首領暗殺を依頼したのです。ギルダスは首領が暗殺されて怒った手下たちが仕返しに城に乗り込んできたらどうするつもりか?と問い尋ね、びびった太守に報酬の5倍アップで盗賊皆殺しを約束したのでした。もちろん自分以上に腕のたつ親友の助太刀を見込んでのことでした。40人の盗賊あいてにいくらギルダス一人で立ち向かっても死体になるのは目に見えてます。ミルディンは結局ギルダスの儲け話とやらに乗らざるを得なかったのです。

 勝負はあっという間につきました。ミルディンは虫も殺さないような優しい顔をしていましたが、盗賊たちに対しては情け無用でした。ギルダスももちろんです。2人の強さは半端でなかったのです。

 ミルディンが部屋の奥にある扉に気がついてそれを開けると、そこには黄金に輝く宝物が山のようにあったのです。

「・・・・・・!」
「・・・・・・!」
 
 目が眩むような宝の山を目の前に2人は言葉もなくぽか〜んと口と開けたまま呆然と突っ立っていました。ゼテギネア中の宝がこの部屋に集められたのではないかと思われる量でした。

 先に我に返ったのはミルディンでした。ミルディンは注意深く宝の山を見回しました。ミルディンの視線がおよそこの部屋にふさわしくない一つのみすぼらしいランプに吸い寄せられ、ミルディンはそれを手にとりました。何故か懐かしい感じがしました。

 ランプはもう何十年も磨かれていないのか埃だらけで、ミルディンはランプの汚れを落とそうとそっと服の裾でこすりました。

 突然、ランプから赤い煙が出てきてきてランプの中からランプの精が出て来たのです!

「願い事を3つ言え。」
ランプの精は偉そうな態度でミルディンに言いました。

「服を脱いでもらえるか?娘さん。」
遅れて正気に戻ったギルダスがそう口を挟みました。
ランプの精はギルダスを横目で睨むと手の中に炎を生んでそれを彼にぶつけました。ギルダスがあわてて服の火を消してる間にミルディンはランプから出てきたランプの精を観察しました。

 ランプの精はきりりとした美貌の女性でした。赤い衣が彼女の目の色にとても似合うと思いました。

「名前は?」
「・・・わたしの名前を聞くのがおまえの望みなのか?」
「・・・・・・・・・そうです。」
「・・・セリエだ。」
「セリエですか。いい名前ですね?」
「おまえは何と言う?」
「ミルディンです。」
「オルはギルダス、そいつの親友だ。よろしくな。」
服の火を消し止めたギルダスが言うのを無視してランプの精はミルディンに早くあと2つの願いを言うように言いました。

 ミルディンは暫らく考えてランプの精に言いました。
「ここにある宝全部を貧しい人たちに分けてあげて下さい。」
ギルダスがぎょっとしてミルディンに何か言おうとするよりも早く、ランプの精はわかったと言いました。次の瞬間はあれほどあった宝が全て消えて部屋の中はランプの精とボロランプとミルディンとギルダスだけになりました。ギルダスはミルディンの胸倉をつかまえてわめきます。

「馬鹿が! ちっとは俺たちに残しておいても良かっただろうに!今すぐ3番目の願いを言って半分・・・、いやせめて2割でいいから返してもらえ!!」

「それが願いか?」
「いいえ。」
「3番目の願いはこれです。わたしの妻になって下さい。」

 ギルダスの顎が驚愕ではずれました。女嫌いと噂があるくらいの親友がこともあろうに美人とはいえ魔物に求婚するなんて、びっくりです。ランプの精も鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしています。ミルディンだけがにこにこと笑っています。

「それは・・・、出来ない」
「何故です?」
「わたしがランプの精だからだ。」
「だから何故?」
「人間と交わればわたしは消える。」
「わたしはかまいませんが。」
「わたしが困るのだ!まだ消えるわけにはいかない。妹たちを探し出すまでは。」
「じゃあ・・・、こうしましょう。妹たちを探し出したらわたしの妻になるということで手を打ちましょう。」
「・・・・・・わかった。」

 こうしてミルディンとランプの精の契約が成立しました。

 ミルディンが古ぼけたランプを再びこするとランプの精はその中に吸い込まれていきました。ミルディンは何事もなかったかのようにランプを服のポケットにしまうとすたすたと岩山を後にしました。ギルダスが親友の後を追って走っていきました。

 満月はまだ空に輝いていました。

 数日後、夜の暗闇にまぎれて砂漠を歩くミルディンとギルダスの姿がありました。盗賊たちの宝を盗んだ疑いで太守に逮捕されそうになった2人はダルムートから逃げ出したのです。盗賊を退治した報酬も貰っていませんが、命の方が大切です。ランプの精の妹たちの手がかりも旅に出たほうが掴みやすいでしょう。
ミルディンはセリエを妻にしようとは思っていませんでした。あの時願いを3つ言えばセリエは2度とミルディンがランプをこすっても出てこないのはわかっていました。願い事を残していてもひょんな事から何か言ってしまえばそれっきりです。ミルディンは召使とは思えないほどの偉そうな態度のランプの精にとても興味を持ったのです。彼女が一緒にいると退屈しないですみそうです。

 横で夜の砂漠の寒さにブツブツ文句を言いながら歩く親友の不機嫌な顔とは対照的に、ミルデンの顔はこれからの旅が楽しいものになると思って嬉しそうに笑っていました。



・・・くだらない話ですみません。(2003.6.1)

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