注意:パラレルっぽいです。写真があったり、そのままのゲーム(中世)の世界じゃないのでお嫌いな方はご遠慮ください。







シェリー、システィーナ、オリビアのフォリナー家の3人の娘たちには毎月楽しみにしている1冊の雑誌がある。
キャッチフレーズは
『HPもMPも読めば全快!乙女の総合情報誌』
その雑誌は…






「天使の果実」






センスの欠片も無い本のネーミングだが、これが主にハイムの貴族や豊かな平民の娘さんたちに人気で手に入れるのも一苦労だった。内容は…まあ宮廷のゴシップやら、ヴァレリアのお勧めスポットやら、化粧品やら、占いや、物語やら…、いきあたりばったりの何でもありの本だ。

で、今月の特集

これが未来の騎士たちだ!
潜入!! バナヘウム仕官アカデミー


太字の文字が表紙を飾る。

愛しの彼のバナヘウム特集とあってシスティーナが喜ぶかと思えばその反対でそれはもう大変だった。バナヘウム始まって以来の優等生がどーんと載っていたのだ。片思いの彼がこんなに写真入で載ったらますます人気が出て自分は見向きもされなくなると落ち込んだ。実際片思い歴3年、恋に無関心のその相手は記事の中でも騎士になる使命とヴァレリアの未来について熱く語っていて、システィーナの前途はなお厳しかった。

他の姉妹はあの朴念仁のフォルカスのどこがいいのか理解に苦しんでいたが、システィーナにとっては運命の人なのだ。大げさに言えば春風が運んできた初恋…。

普段はこういう雑誌に無関心のセリエでも、自分が関係するバナヘウムが記事になっていると知ると見たくなるのが人情というものだろう。長女の権威をフルにかざして真っ先に読んでいたが、あまりに落ち込んでいるシスティーナを見てつい言ってしまった。

「フォルカスの人気があろうと無かろうとおまえの恋はあのバカ相手では成就しないぞ。とっとと諦めた方が賢明だと思う。」

あちゃ〜っとシェリーが頭を抱えた。バカはこの姉だと思う。言われたシスティーナは見る見る泣き出しそうになった。慌てたセリエはさらに墓穴を掘るようなことを言った。

「噂だがフォルカスは卒業するとすぐ駐在武官として外国に飛ばされるそうだ。だから…」
セリエが最後まで言う前にシスティーナは泣き出してしまった。

「姉さん! そんな本当か嘘かわかりもしないことは言わないの。ああ、システィーナ泣かないの…。大丈夫よ。本当でもお父様に頼めばきっと何とかなるわ。ねえ、セリエ姉さん。」
最後の一言は殺気が含まれていた。
“これ以上何か言ったらアシッドクラウドお見舞いするわよ?”

「ああ…そうだな。すまない、システィーナ…」
セリエに謝られてシスティーナが肯いた。

「ねえ、システィーナ…、何か飲むものをいただきましょうか?」
「わたし、ミルクココアがいいわ。」
末妹が言った。
「オリビアはミルクココアね。システィーナは?」
「……要らない。」
「そう? わたしは…果実ジュース。」
「わたしもそれだ。」
そう言ったセリエにシェリーが言う。
「何言っているの?姉さんが用意するのよ。」
「どうしてわたしが?」
「システィーナを泣かしたのはセリエ姉さんだわ。ほらさっさと用意して!」
「…………」
自分を見る3人の妹たちの視線がきついのを感じるとセリエはしぶしぶ部屋を出て行った。
「システィーナ、本当にいらないのだな?欲しくなってももう用意しないからな。」
一応確認だけして部屋を出る。
後ろ姿にオリビアが言った。
「分量間違えないでね!」
「………」



セリエが出て行った後、オリビアが「天使の果実」をぱらぱらとながめていたがある写真に目をとめた。
「わたしくらいの子どもだわ…」

どれどれとシェリーがオリビアから雑誌をとって見る。
そこに載っているのはガルドキ島でオオトカゲを捕まえてる目つきの悪い小汚い少年。
貧乏でも夢に向かってとかいうタイトルだ。

「あら?この子可愛いわ。きっと大きくなったらイイ男になるわね。」
シェリーが勝手に品定めをした。
「この子、デニムくらいかな?」
「デニム…?ああ、あなたの幼馴染ね。」
「今ごろどうしているのかな…、会いたいなあ…」
小さなオリビアも初恋の少年が忘れられないのだ。

当のデニムはこの写真の少年の横にいたのであったが…、写っているのはヴァイスだけだった。デニムはこざっぱりした服だったので貧乏というタイトルにそぐわなかったから。



「ねえ、シェリー姉さん…」
システィーナが小さな声でシェリーにそっと聞いた。
「?」
「これを見てフォルカスがかっこいいと思う人増えるかしら?」
「実物知らない人は…そう思うのでは?」
「……」
ライバルは少ないにこしたことは無いのに…とため息がでる。
雑誌を買い占めてセリエに燃やしてもらえたらいいのに…と出来そうに無い事をつい口にした。



もの思いにふける妹たちをほっといてシェリーが
「セリエ姉さん、手間取っているわね〜。」
とかブツブツ言いながら雑誌を寝転がって読んでいたが突然叫んだ。

「セリエ姉さん!?」

なんとそこにハイムの新装開店うどんやで
兵たちとうどんを豪快に食べる炎のヴァルキリーの姿が……

美貌の戦いの乙女が…うどん……。

セリエは気がついていないのだろう、自分が載っている事に。普段自分の顔や格好とかには無頓着なくせに、フォリナー家の長女でヴァレリアの美貌の戦いの女神というイメージは大事にしている節のある姉だ。

シェリーは笑い出した。
「システィーナ! 安心しなさい。これ以上フォルカスの顔が世の中に出回ることないわ。きっと姉さんフォリナー家の名前を使って雑誌を買い占めて。」

2人の妹が声をそろえた。

「ファイアストームでぼうっ!!」



終わり(2003.2.27)


<後書き>
さりげなく「バルマムッサへの道」・「春の風が…」とリンク。暗い話「バルマムッサ…」を考えるのに飽きると明るい話に逃げるわたしです。写真とか雑誌とか出したので微妙な世界になっています。