夜の静寂を破る兵たちの怒号があたりに響いた。

「いたか?」
「・・・いない!」
「奴はゴリアテの英雄とか言われているガキだ!」
「何としても捕まえろ!」
「まだ遠くには行っていない筈だ、捜せ!」

町の住人たちは突然家に侵入してきたガルガスタンの兵たちに怯え、息をとめて、じっと彼らが出ていくのを待っていた。

古都ライムとフィダック城を結ぶ街道から外れた小さな集落だ。しらみつぶしに捜してもほんの1時間ほどで終わってしまう。ガルガスタンの兵士たちはここに捜す人物が潜んでいないと判断すると慌しく去って行った。

住人たちは去っていく兵の後ろ姿を見ながら安堵のため息をつく。
毎日が緊張の中にあった。



一人の偉大な王を失ったヴァレリアは今、3つの民族が血みどろの紛争を繰り広げていた。
ウォルスタとガルガスタンとバグラムと…。

国土をほぼ2分する形で北をバグラム、南をガルガスタンがその勢力下に置いていた。最も悲惨な立場に置かれていたのが少数派のウォルスタ人たちである。自分たちの国を持たず、ガルガスタン領内の自治区でガルガスタンの圧制に苦しんでいた。



そんな時、“ゴリアテの英雄”と呼ばれる若者が歴史の表舞台に登場したのである。





彼の名前はデニム・パウエル。
かつてはオベロ海の真珠と呼ばれた美しい港町出身の若者だった。ゴリアテは1年前の雪の夜、バグラムが手を結んだローディス教国の暗黒騎士団・ロスローリアンの奇襲を受け住民の大半を失っていた。

その町から後にヴァレリアを解放する若者が出たのも運命であろうか…。

運命という言葉を使うのならば…、国を追放されてこの島にやってきたという5人のゼノビア人に出会ったことは?



ガルガスタンによって、アルモリカ城に軟禁されていた旧アルモリカの領主ロンウェー公爵をわずかの人数で救出出来たのはデニムの力ではなく、彼に手を貸したゼノビアの騎士達の力によるものだった。

聖騎士と呼ばれるランスロット・ハミルトン以下5名のゼノビア人たちの手助けが無かったら、とてもデニムたちの力で公爵の救出は不可能だったろう。だが、ロンウェー公爵は聖騎士でなくデニムを英雄と呼んだ。

ガルガスタンの圧制に苦しむウォルスタ人に希望を持たせるために、政治的な思惑で。
ウォルスタを解放に導く若き英雄の出現。





そして、
デニムの横に彼はいた…。



ヴァイス・ボセッグ。
デニムを反ガルガスタンの戦いの場へといざなったのが彼だった。

ただ純粋に…
ウォルスタ人の誇りと自由を取り戻すために…

ヴァイスは親友と戦いの中に身を投じたのだ。







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