箒に乗ってハロウィンの夜は











その日一日だけが彼らの世界と人間界がつながっていた。

彼らの世界―― 
異形の者達が闇の中に息を潜め密かに暮らす世界だ。

人間たちに知られないように・・・、
彼らの数は圧倒的に少ない。





その世界にウルスがいた。
何百年も生きる彼らの仲間たちから見たら青年の域にも達していない。
魔法使いの少年だ。

彼だけの呪文はまだ持っていない。
大鍋で薬草を煮込むのが彼の仕事だった。
性格の歪んだ仲間が多い中で
彼は魔法使いにあるまじきほどの真面目な少年だった。
彼のささやかな楽しみは箒に乗って空を飛ぶこと。

もちろん彼らの世界の規則は守って安全運転だ。

秩序を嫌い混沌を好む彼らにとって
規則は破られるために存在する。
魔法使いや魔女たちがハイスピードで空を飛ぶのを尻目に
彼はきっちり制限速度を守っていた。

けれど彼は思っていたのだ。
いつか・・・、
思いっきり空を飛びたいと。

だから、
ハロウィンの夜、
人間界に行って空を飛ぼう。

そこなら規則に縛られることはない。







闇の中、
箒を持った少年が足音も立てずに歩いている。
蝙蝠の夜警団に探知されぬように
おしゃべり好きなダーク・フェアリーに見られぬように
こっそり人間界へ行くつもりだったのだ、
彼に見つかるまでは。







「どこにいくつもりだ?」
闇の中から聞こえてくる声は彼の良く知った者のそれだった。







セバスチャン
ウルスと同じ魔法使いの少年。

悪戯好きな彼はいつも騒動を起こしていた。

今夜もこっそりウルスの家に忍び込んで彼の嫌がることをしてやろうと
夜中に家を抜け出してきたのだ。

だから、いつもなら熟睡して星が落ちてきても気がつかない彼がこんな時間に道を歩いているのを見て驚いた。
彼の向かう先には銀の森が広がっている

銀の森 
今日はハロウィン
彼の手には箒

ウルスの考えることは何でもわかる。
セバスチャンは口元に笑みを浮かべた。

真面目なウルスが人間界に行く。
思いっきり空を飛ぶために。

ついて行く。
こんなに面白いことは他にはない。

ウルスと一緒だ。
彼の箒に二人で乗って、
人間界で悪戯をして、
人間たちを驚かせて、
甘いお菓子をたくさん貰って帰ってこよう。

そう決めるとセバスチャンはウルスに声をかけたのだ。







暗闇に友達の姿を見つけたウルスはその瞬間とても嫌な顔をした。
セバスチャンはますます楽しくなる。
ウルスの嫌がる顔を見るのは楽しい。
生真面目に大鍋をかき回している姿を見るのも楽しい。
トロトロと空を飛んでいるところを見るのも楽しいし、
彼が大きな口を開けて笑っているのを見るのは一番楽しかった。







ウルスの前にゆっくりと出てくる。

「俺も行くよ。駄目だとは言わせない。駄目だといったらおまえがこっそり人間界に行ったことをばらす。」
セバスチャンが彼の箒を持っていないことを確認したウルスが言った。
「二人乗りは禁止だ。」
「だったら今年は諦める?」
「・・・・・・・・・・・・。」
真剣に悩んでいる姿を見るのも楽しくて、セバスチャンは内心笑う。
「ウルス、それを貸して。」
そう言って、彼から箒を受け取った。
「じゃ俺だけで行ってくるよ、人間界。」
箒を足の間に挟んで飛ぼうとする。
「待て・・・、俺も行く!!」

ほら、決まりだ。
二人で行こう。







銀の森、
地面に剥き出しの鉱物が銀色に鈍い光を放っている荒地だった。

重力に逆らって二人を乗せた箒がゆっくりと浮かび上がる。

冒険の始まりだ。

「ウルス・・・。」
セバスチャンがウルスに何か話しかけた瞬間、箒が一気に銀の森の上空にある境界線を越えた。
















恐ろしいほどのスピードで人間界の空を飛び回るウルスの背中にしがみついて
セバスチャンは声にならない悲鳴をあげ続けていた・・・・・・・・・。


























フォーラムに置いた落書きから、ちょっと世界が広がりました。
いろいろ考えるのは楽しかったけど、長くなると絶対完成しないので
全部削って出来たのがこれです。
セブの仕事とか、ウルスと一緒に働くために小細工して自爆したとか、
デイヴィッドはミイラ男の子供で、カルロスは胡散臭い中年の錬金術士とか?

彼らが大人になったらまた別の話が始まるけど
今はこれだけ。







「そして、一つ前を開いたら、箒にのったUrsとSebがいた。
ねえ、なんなんだ、この雰囲気は。
わたし、この真っ黒の中に、猫みたいに目を光らせながら彼らをみてるよ。」

わたしの文章じゃないけど、この文章がとても好きです。
これを読んで、わたしも暗闇の中に同化して彼らの姿をみることを想像したら
この世界が広がったから。




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