わたしの世界






 つい最近まで彼は余命1年だと宣告されていた。原因は肺ガンである。
15の時から空気を吸うようにタバコを吸いつづけ、肺は真っ黒。咳をしては血を吐き、1年後には地獄の住人間違い無しという運命だった。
 が・・・、
いろいろあって、余命1年はリセットされた。真っ黒だった肺はくっきりクリーン、タバコもすっぱり止めた。タバコの臭いが充満していた部屋は今でもその臭いが染み付いていたが、灰皿はもう必要なかった。

 2度死に損なった男、ジョン・コンスタンティン。
天国と地獄のエージェント、あの世に行く時は天国希望の悪魔祓い。教会の献金を5ドルけちった過去を持つ。その能力は人間の姿に偽装する天使や悪魔のハーフ・ブリードを見分けることだ。

 天使側の彼らは背中に大きな羽根を持ち、悪魔側の彼らは端正な顔の下に醜悪な素顔を隠している・・・・・・。








 今、コンスタンティンの目の前にいる人物の背中に天使の羽は見えなかった。
以前は確かにその人物の背中にある大きく美しい羽根が見えたのに―――だ。。
彼の能力が無くなったわけではない。その人物の背中の羽根が失われたからだ。

 大天使と同じ名の人物は彼のアパートのベッドの上に長い足を組んで座っていた。
古いボウリング場の上にある細長いアパート。窓から外に出ると視界にロスの街並みが中途半端に広がる。住む人間の性格をあらわしているのか、チリ一つなく部屋は常にきれいに片付いていた。

 その彼の部屋に―――。
どこまでも冷たい美貌の持ち主、ガブリエルが居着いていた。つい最近まで神の代行者だったその人物は、

 ―――わたしが人間になったのはおまえのせいだよ、ジョン。

 そう訳のわからん理由をつけて彼のアパートに転がり込んできた。

 ―――責任はとってもらう、ジョン・コンスタンティン。

 何が責任だとコンスタンティンはこの美貌の元半天使に言い返した。
人間になったのは自業自得だ。己の身勝手な欲望の為にこの世界の均衡を壊そうとして、背中の羽根を失った。コンスタンティンも自己中心的な男だったが、この元・神の代行者はさらに輪をかけて自己中心だった。
 感情を排除したその緑の目でじっと睨まれたら、たとえこっちが正しくても折れざるをえなかった。足蹴られ踏みつけられて痛めつけられた過去もある。人間同士対等になったはずなのに、コンスタンティンは今でもガブリエルに頭が上がらなかったから、言い返すのが精一杯で彼は不本意ながらこの現実を受け入れてしまったのだ。

 迷惑この上なく勝手に家に転がり込んでガブリエルは肉は嫌いだとか、部屋が臭いだとか文句だけは言っていた。しかもハーフブリードだった過去の人脈から勝手に悪魔祓いのマネージメントを請け負い、コンスタンティンは毎日毎日悪魔と戦ってくたくただった。

 「・・・俺を殺す気か?ガブリエル。」

 今日も今日とて悪魔との命を賭けた攻防戦の末に悪魔を地獄へ送り返し、スタボロの体でコンスタンティンは自分の家に戻ってきて、崩れるようにベッドに倒れこんだ。

 「殺されても死なないだろう、おまえは・・・。ジョン?」
なんせルシファーのお墨付きだと、少しだけ眉を上げ歌うような口調で反論する。金色の巻き毛に縁取られた美貌はどこまでも冷たいが、ガブリエルの話し方は優しい。過去の仕事のせいか。

 「俺が死んだら化けて出てやるからな!」と非現実的なことをコンスタンティンは言った。

 「それよりも、ジョン・・・。」

 「・・・?」

 「お腹が空いた。人間はほんと不便だね。」

 「・・・・・・。」

 「ジョン、聞こえなかった?」

 「地獄に落ちろ、クソッタレの元ハーフ・ブリード!」
 中指を立ててガブリエルにそう言うと、コンスタンティンは重い身体を引きずるようにして冷蔵庫の中身を確認した・・・・・・。






ガブリエルとコンスタンティンの新婚さん(うそ)
続きます。

やっと二人の性格とかわたしなりに解釈できた気が・・・。

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