0120 |
吾妹子(わぎもこ)に恋ひつつあらずは秋萩の咲きて散りぬる花ならましを |
0231 |
高圓の野辺(ぬへ)の秋萩いたづらに咲きか散るらむ見る人なしに |
0233 |
高圓の野辺の秋萩な散りそね君が形見に見つつ偲はむ |
0970 |
群玉の栗栖(くるす)の小野の萩が花散らむ時にし行きて手向けむ |
1363 |
春日野に咲きたる萩は片枝はいまだふふめり言な絶えそね |
1364 |
見まく欲り恋ひつつ待ちし秋萩は花のみ咲きて生(な)らずかもあらむ |
1365 |
我妹子が屋戸の秋萩花よりは実に成りてこそ恋まさりけれ |
1431 |
百済野(くだらぬ)の萩の古枝に春待つと来居し鴬鳴きにけむかも |
1468 |
霍公鳥声聞く小野の秋風に萩咲きぬれや声の乏しき |
1534 |
をみなへし秋萩折らな玉ほこの道行き苞(つと)と乞はむ子のため |
1536 |
宵に逢ひて朝(あした)面なみ名張野の萩は散りにき黄葉(もみち)はや継げ |
1538 |
萩の花尾花葛花なでしこの花をみなへしまた藤袴朝顔の花 |
1541 |
吾(あ)が岡にさ牡鹿来鳴く先萩(さきはぎ)の花妻問ひに来鳴くさ牡鹿 |
1542 |
吾(あ)が岡の秋萩の花風をいたみ散るべくなりぬ見む人もがも |
1557 |
明日香川ゆき廻(た)む岡の秋萩は今日降る雨に散りか過ぎなむ |
1558 |
鶉鳴く古りにし里の秋萩を思ふ人どち相見つるかも |
1559 |
秋萩は盛り過ぐるをいたづらに挿頭(かざし)に挿さず帰りなむとや |
1560 |
妹が目を跡見の崎なる秋萩はこの月ごろは散りこすなゆめ |
1575 |
雲の上に鳴きつる雁の寒きなべ萩の下葉はもみちつるかも |
1579 |
朝戸開けて物思(も)ふ時に白露の置ける秋萩見えつつもとな |
1580 |
さ牡鹿の来立ち鳴く野の秋萩は露霜負ひて散りにしものを |
1595 |
秋萩の枝もとををに降る露の消なば消ぬとも色に出でめやも |
1597 |
秋の野に咲ける秋萩秋風に靡ける上に秋の露置けり |
1598 |
さ牡鹿の朝立つ野辺の秋萩に玉と見るまで置ける白露 |
1599 |
さ牡鹿の胸(むな)分けにかも秋萩の散り過ぎにける盛りかも去ぬる |
1600 |
妻恋に鹿(か)鳴く山辺の秋萩は露霜寒み盛り過ぎゆく |
1605 |
高圓の野辺の秋萩このごろの暁(あかとき)露に咲きにけむかも |
1608 |
秋萩の上に置きたる白露の消(け)かもしなまし恋ひつつあらずは |
1617 |
秋萩に置きたる露の風吹きて落つる涙は留みかねつも |
1618 |
玉にぬき消たず賜(たば)らむ秋萩の末(うれ)わわら葉に置ける白露 |
1622 |
我が屋戸の秋の萩咲く夕影に今も見てしか妹が姿を |
1633 |
手もすまに植ゑし萩にやかへりては見れども飽かず心尽さむ |
1761 |
三諸(みもろ)の 神奈備山に たち向ふ 御垣の山に
秋萩の 妻をまかむと 朝月夜 明けまく惜しみ
あしひきの 山彦響め 呼び立て鳴くも |
1772 |
後れ居て吾(あれ)はや恋ひむ印南野(いなみぬ)の秋萩見つつ去(い)なむ子故に |
1790 |
秋萩を 妻問ふ鹿(か)こそ 独り子を 持たりと言へ
鹿子(かこ)じもの 吾(あ)が独り子の 草枕 旅にし行けば
竹玉(たかたま)を 繁(しじ)に貫き垂り 斎瓮(いはひへ)に 木綿(ゆふ)取り垂(し)でて
斎(いは)ひつつ 吾(あ)が思(も)ふ吾子(あご) ま幸くありこそ |
2094 |
さ牡鹿の心相思ふ秋萩のしぐれの降るに散らくし惜しも |
2095 |
夕されば野辺の秋萩うら若み露に枯れつつ秋待ち難し |
2096 |
真葛原靡く秋風吹くごとに阿太(あだ)の大野の萩が花散る |
2097 |
雁がねの来鳴かむ日まで見つつあらむこの萩原に雨な降りそね |
2098 |
奥山に棲むちふ鹿の宵さらず妻問ふ萩の散らまく惜しも |
2099 |
白露の置かまく惜しみ秋萩を折りのみ折らむ置きや枯らさむ |
2100 |
秋田刈る借廬(かりほ)の宿りにほふまで咲ける秋萩見れど飽かぬかも |
2101 |
吾(あ)が衣摺(す)れるにはあらず高圓(たかまと)の野辺行きしかば萩の摺れるそ |
2102 |
この夕へ秋風吹きぬ白露に争ふ萩の明日咲かむ見む |
2103 |
秋風は涼しくなりぬ馬並(な)めていざ野に行かな萩が花見に |
2105 |
沙額田(さぬかた)の野辺の秋萩時しあれば今盛りなり折りて挿頭さむ |
2107 |
ことさらに衣は摺らじをみなへし佐紀野の萩ににほひて居らむ |
2108 |
秋風は速く吹き来ぬ萩が花散らまく惜しみ競ひ立ち見む |
2109 |
我が屋戸の萩の末(うれ)長し秋風の吹きなむ時に咲かむと思ひて |
2110 |
人皆は萩を秋と言ふよし吾(あれ)は尾花が末を秋とは言はむ |
2111 |
玉づさの君が使の手折りけるこの秋萩は見れど飽かぬかも |
2112 |
我が屋戸に咲ける秋萩常しあらば吾(あ)が待つ人に見せましものを |
2113 |
手もすまに植ゑしもしるく出で見れば屋戸の早萩(わさはぎ)咲きにけるかも |
2114 |
我が屋戸に植ゑ生(お)ほしたる秋萩を誰か標(しめ)さす吾(あれ)に知らえず |
2116 |
白露に争ひかねて咲ける萩散らば惜しけむ雨な降りそね |
2117 |
乙女らに行相(ゆきあひ)の早稲(わせ)を刈る時になりにけらしも萩が花咲く |
2118 |
朝霧の棚引く小野の萩が花今か散るらむいまだ飽かなくに |
2119 |
恋しくは形見にせよと我が背子が植ゑし秋萩花咲きにけり |
2120 |
秋萩に恋尽くさじと思へどもしゑや惜(あたら)しまた逢はめやも |
2121 |
秋風は日に異(け)に吹きぬ高圓の野辺の秋萩散らまく惜しも |
2122 |
大夫の心は無しに秋萩の恋にのみやもなづみてありなむ |
2123 |
吾(あ)が待ちし秋は来たりぬ然れども萩が花そもいまだ咲かずける |
2124 |
見まく欲り吾(あ)が待ち恋ひし秋萩は枝もしみみに花咲きにけり |
2125 |
春日野の萩し散りなば朝東風(あさごち)の風にたぐひてここに散り来(こ)ね |
2126 |
秋萩は雁に逢はじと言へればか声を聞きては花に散りぬる |
2127 |
秋さらば妹に見せむと植ゑし萩露霜負ひて散りにけるかも |
2143 |
君に恋ひうらぶれ居れば敷(しき)の野の秋萩しぬぎさ牡鹿鳴くも |
2144 |
雁は来ぬ萩は散りぬとさ牡鹿の鳴くなる声もうらぶれにけり |
2145 |
秋萩の恋も尽きねばさ牡鹿の声い継ぎい継ぎ恋こそまされ |
2150 |
秋萩の散りぬるを見ていふかしみ妻恋すらしさ牡鹿鳴くも |
2152 |
秋萩の散りて過ぎなばさ牡鹿は侘び鳴きせむな見ねば乏しみ |
2153 |
秋萩の咲きたる野辺はさ牡鹿ぞ露を分けつつ妻問しける |
2154 |
など鹿の侘び鳴きすなるけだしくも秋野の萩や繁く散るらむ |
2155 |
秋萩の咲きたる野辺にさ牡鹿は散らまく惜しみ鳴きぬるものを |
2168 |
秋萩に置ける白露朝な朝(さ)な玉とぞ見ゆる置ける白露 |
2170 |
秋萩の枝もとををに露霜置き寒くも時はなりにけるかも |
2171 |
白露と秋の萩とは恋ひ乱り別(わ)くことかたき吾(あ)が心かも |
2173 |
白露を取らば消(け)ぬべしいざ子ども露に競(きほ)ひて萩の遊びせむ |
2175 |
この頃の秋風寒し萩が花散らす白露置きにけらしも |
2182 |
このごろの暁露(あかときつゆ)に我が屋戸の萩の下葉は色づきにけり |
2204 |
秋風の日に異に吹けば露しげみ萩が下葉は色づきにけり |
2205 |
秋萩の下葉もみちぬ荒玉の月の経ぬれば風をいたみかも |
2209 |
秋萩の下葉の黄葉花に継ぎ時過ぎゆかば後恋ひむかも |
2213 |
この頃の暁露に我が屋戸の秋の萩原色づきにけり |
2215 |
さ夜更けて時雨な降りそ秋萩の本葉の黄葉散らまく惜しも |
2225 |
我が背子が挿頭の萩に置く露をさやかに見よと月は照るらし |
2228 |
萩が花咲きのををりを見よとかも月夜の清き恋まさらくに |
2231 |
萩の花咲きたる野辺にひぐらしの鳴くなるなべに秋の風吹く |
2252 |
秋萩の咲き散る野辺の夕露に濡れつつ来ませ夜は更けぬとも |
2254 |
秋萩の上に置きたる白露の消(け)かもしなまし恋ひつつあらずは |
2255 |
我が屋戸の秋萩の上(へ)に置く露のいちしろくしも吾(あれ)恋ひめやも |
2258 |
秋萩の枝もとををに置く露の消かもしなまし恋ひつつあらずは |
2259 |
秋萩の上に白露置くごとに見つつぞ偲ふ君が姿を |
2262 |
秋萩を散らす長雨(ながめ)の降る頃は独り起き居て恋ふる夜ぞ多き |
2273 |
何すとか君をいとはむ秋萩のその初花の嬉しきものを |
2276 |
雁がねの初声聞きて咲き出たる屋戸の秋萩見に来(こ)我が背子 |
2280 |
萩が花咲けるを見れば君に逢はずまことも久になりにけるかも |
2284 |
いささめに今も見が欲し秋萩のしなひてあらむ妹が姿を |
2285 |
秋萩の花野のすすき穂には出でず吾(あ)が恋ひ渡る隠(こも)り妻はも |
2286 |
我が屋戸に咲きし秋萩散り過ぎて実になるまでに君に逢はぬかも |
2287 |
我が屋戸の萩咲きにけり散らぬ間に早来て見ませ奈良の里人 |
2289 |
藤原の古りにし里の秋萩は咲きて散りにき君待ちかねて |
2290 |
秋萩を散り過ぎぬべみ手折り持ち見れども寂(さぶ)し君にしあらねば |
2293 |
咲きぬとも知らずしあらば黙(もだ)もあらむこの秋萩を見せつつもとな |
3656 |
秋萩ににほへる我が裳濡れぬとも君が御船の綱し取りてば |
3677 |
秋の野をにほはす萩は咲けれども見る験(しるし)なし旅にしあれば |
3681 |
帰り来て見むと思ひし我が屋戸の秋萩すすき散りにけむかも |
3691 |
天地と 共にもがもと 思ひつつ ありけむものを
愛(は)しけやし 家を離れて 波のうへゆ なづさひ来にて
あら玉の 月日も来経ぬ 雁がねも 継ぎて来鳴けば
たらちねの 母も妻らも 朝露に 裳の裾ひづち
夕霧に 衣手濡れて 幸(さき)くしも あるらむごとく
出で見つつ 待つらむものを 世の中の 人の嘆きは
相思はぬ 君にあれやも 秋萩の 散らへる野辺の
初尾花 仮廬(かりほ)に葺きて 雲離(ばな)れ 遠き国辺の
露霜の 寒き山辺に 宿りせるらむ |
4224 |
朝霧の棚引く田(たゐ)に鳴く雁を留め得めやも我が屋戸の萩 |
4249 |
石瀬野(いはせの)に秋萩凌(しぬ)ぎ馬並(な)めて初鷹猟(はつとがり)だにせずや別れむ |
4252 |
君が家に植ゑたる萩の初花を折りて挿頭(かざ)さな旅別るどち |
4253 |
立ちて居て待てど待ちかね出でて来て君にここに逢ひ挿頭しつる萩 |
4296 |
天雲に雁そ鳴くなる高圓の萩の下葉はもみち堪(あ)へむかも |
4315 |
宮人の袖付け衣秋萩ににほひよろしき高圓(たかまと)の宮 |
4318 |
秋の野に露負へる萩を手折らずてあたら盛りを過ぐしてむとか |
4320 |
ますらをの呼び立てませばさ牡鹿の胸(むな)分けゆかむ秋野萩原 |
4323 |
時々の花は咲けども何すれそ母とふ花の咲き出来(でこ)ずけむ |
4444 |
我が背子が屋戸なる萩の花咲かむ秋の夕へは我を偲はせ |
4515 |
秋風の末吹き靡く萩の花ともに挿頭(かざ)さず相か別れむ |