デルスウ・ウザーラ
沿海州探検行
アルセーニエフ 著
長谷川 四郎 訳  
平凡社
『デルスウ』は30年前からの夢だった/黒澤 明
 「デルスウ・ウザーラ」の映画化は、ぼくが30年も前から考えていたことことでした。まだ助監督だったころ、たまたま探検記が好きで、「デルスウ・ウザーラ」の原作を読んで、デルスウという人物がとても好きになった訳です。(中略)
はじめに
 100年前(1906年〜1907年)のロシア極東地区の探検記です。
著者は職業 軍人
時代は日露戦争直後

 著者の植物や動物、鉱物に対する深い知識は自然科学者の領域です。また、未開の人種に対する偏見や軽蔑の希薄さはその当時の時代では非常まれだと思います。全体を通して人間に対する深い愛情が感じられます。

 翻訳者がすばらしい。原書の内容もよかったのでしょう。時を経てロシアではポピュラーになり休日に猟に行く時にデルスウのまねをして「アンバ(トラ)!・・・・・・」と叫び、ウスリー地区で流行ったようです。それにしても翻訳は苦労したことでしょう。ロシア語に加え専門用語が必須です。植物学者へ協力の謝意が物語っています。

特記
 著者もデルスウもお互い常に尊敬と敬意を失わない態度が全体にながれます。著者の立場はあくまでも近代人として理論と科学的な洞察ですが、一方のデルスウはすごく理屈抜きに直感的です。20世紀初頭の数少ない残された狩猟民族の自然力が注意深く面白く描かれています。

感想
 私は先ずこの本を先に読み数年後に黒澤監督の映画をたまたま観ました。非常に暗くてただデルスウの「キャピタン、キャピタン」の声が忘れられなく片隅に残っていました。今回再読をして改めて100年前のウスリー地区の自然の豊かさ、民族の葛藤、そして現在ははたしてどうなんだろうか?実際行ったことはありませんが断片的な情報から自然環境は相当な瀕死の状態がわかります。100年間に渡って切り出された木材の量はおびただしい量だと思います。はたしてそれに相当する植林と再生産は如何なものだろうか?山が荒れ河が汚れると海にダメージを与えます。国境を越えておおきな影響があります。どうも悲観的になります。
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