デルスウ・ウザーラ
沿海州探検行
アルセーニエフ 著
長谷川 四郎 訳  
平凡社
『デルスウ』は30年前からの夢だった/黒澤 明
 「デルスウ・ウザーラ」の映画化は、ぼくが30年も前から考えていたことことでした。まだ助監督だったころ、たまたま探検記が好きで、「デルスウ・ウザーラ」の原作を読んで、デルスウという人物がとても好きになった訳です。(中略)
ページ 樹木 内容
116ページ シベリヤマツ
エゾマツ
カラマツ
カエデ
カンバ
シホテ・アリニの斜面
小屋からすぐシホテ。アリニへ登りがはじまって、はじめはゆるやかだったが、だんだん急になっていった。この山の東側の斜面には針葉樹の混成林生えている。主としてシベリヤマツ、エゾマツ、トドマツ、カラマツ、カエデ、それから、むく毛のある黄色い樹皮のカンバである。草類はシダ、ネギの一種、スズラン、ビロードモウズイクワ、オランダゲンゲ、ミヤマカタバミ、そして種々のスゲ属よりなる。
118ページ ハンノキ
シラカンバ
エゾマツ
トドマツ
カラマツ
河の付近には森が鬱蒼と茂っていて、ハンノキ、シラカンバ、エゾマツ、トドマツも多いが、とくにカラマツが多かった。これは語の本当の意味で密林(タイガ)である。野生、荒涼、冷淡。あらゆる動物はここを避ける。どこにも野獣の足跡が見当たらない。二日二晩、われわれは一羽の鳥にも出会わなかった。このような密林は人間の心理に影響する。私は同行者たちにみとめた。彼らは黙々と歩き、ほとんど言葉をかわさなかった。
122ページ ハイマツ ハイマツ
以上のようなシホテ・アリニの山々はまったく不毛である。明らかに以前から森林はなかったのである。下のほう(河谷から山の上を見ると、禿げた山頂の近くに緑の草があるように思われる。知らない旅人は早く高山植物地帯へ出ようと、いそいで森の中を通ってゆく。そして草ではなく、ハイマツの地帯に出た時の、彼の希望たるや大きい。この木質植物の根は斜面の高いほうにあって、茎や枝が、ちょうど山をのぼってゆく人のほうに向かい、斜面をひろがりくだっている。
このハイマツの中を通っていくのはなかなか困難であって、斧なしには不可能である。足はしばしば枝からすべり落ち、枝にひっかかって、またがるが、足はほとんど地面にとどかない。また、ハイマツをよけてのぼることもできない。というのは、それは環状をなして、山をぐるりと取りまいているからである。ハイマツより上方には、背の低いイソツツジ、コケモモ、エゾムラサキツツジ、コケ。それからさらにのぼると○苔類、そして最後に不毛の岩となる。
125ページ ナナカマド
カラマツ
カンバ
シベリヤマツ
ヤエガワカンバ
ミズナラ
シツァ河
われわれはそれ以上山背を進まないで、シツァ河の河谷に沿ってくだっていった。高山からおりるにはつねに注意深くして、急いではいけない。ときどき立ちどまって休息し、観察する必要がある。石堆やコケやハイマツは今や後方に去った。そこで私は毛のはえた黒いスグリ属を見つけた。さらに案りると、ナナカマド、小さなカラマツ、低いカンバが生えている。さらに下では、シベリアマツ、ついでヤエガワカンバ、ミズナラ、その他いろんな潤葉樹が生えている。
ページ133 ズナナラ
アムールシナノキ
ダウリアカンパ
山の斜面に生えている疎林は、主として、ズナナラ、アムールシナノキ、ダウリアカンパより成る。
134ページ ガマズミ
シモツケ
ハギ
ヤマハマナス
ハシバミ
アムールシナノキ
ミズナラ
.藪の大部分はガマズミ、シモツケ、ハギ、ヤマハマナス、ハシバミより成る。ついでたがら、ここの石ころの多い斜面で私は、ロシア名のない、キキョウ
を採集したが、これは焼けた森のあとや、ハシバミの藪のあいだに見つかる、ごく普通の美しい顕花植物である。みた目によってつけられた〈鈴〉という
名が、その花のかたり大粒であることを示している。
中略・・・・

河沿いに、また河の中の島の上には細い幹のヤナギの林が生えているが、段丘の上にはアムールシナノキ、ミズナラの疎林が生えている。その向うには高い岩山がそびえて、土地の中国人はそれをヤントンラーザ(煙筒拉子)と呼んでいる。
150ページ イチイ(オンコ)
アムールシナノキ
ハンノキ
ミズナラ
シベリヤマツ
カラマツ
トドマツ
カンバ
ハコヤナギ
エゾウコギ
ノブドウ
マンシュウクルミ
植物および動物地理上の限界
植物についてもアマグウは気候におとらぬ興味がある。山にはたくさんのイチイ(オンコ)が生えている。この木は沿海地方では小さな群れをなしていて、どこにでもあるというわけではない。ムトゥヘ河以南では、それは林の中に孤-立して散在している。ここのアムールシナノキは南ウスリーにおけるほどの大きさにならないが、そのかわり幹が太くて空洞がない。ウスリ−江上流地方、およぴそれ以南においては、これとは反対の現象がみられる。そこではアムールシナノキは大木のように生長しているが、ほとんどつねにその幹には空洞がある。アマグウのハンノキは大へん大きくたり、河沿いばかりでなく、山陰にも生えている。ミズナラはあまり大きくならず、その樹皮は白味をおびている(南部では黒ずんでいる)。ドングリはみのるが、しかし自分から地上におちたいで、はげしい秋風にふきおとされる。ここの森にはシホテ・アリニ以西よりも、木の病気であるこぶが少ないし、ただ河の上流地域で見かけられるだけである。南ウスリi地方ではこういう木のこぶはひじょうに大きくたったのがある。アマグウ界隈ではシベリァマツ、カラマツ、トドマツ、カンバ、ハコヤナギはよく生長しているが、これに反してタモノキやイタヤカエデなど、総じて重い樹種は生長がよくない。エゾウコギはときたま見かけるが、よわよわしい姿であって、頂上が凍傷にやられている。アマグウはノブドウおよびマンシュウクルミの北限と見なされる。前者は丈がひくくて、ただ日当たりのよい、風のあたらたみい場所をえらんで生長し、実は成熟しない。少し北のクスンでは、それはもうぜんぜん見当たらない。マンシュウクルミは、農夫はアマグウでみたことはたいが、かつて洪水の時に河にのって緑の葉をつけたその枝が流れてきたことがあると言う。これによって彼らは、河沿いのどこかに、そういう木があると結論している。
167ページ ダウリアカラマツ
エゾマツ
エゾノダケカンバ
ケヤマハンノキ
ヤマハマナス
ナナカマド
イソツツジ
森はただ河の近くに生えていて、その両岸をふちどり、ささべりのようである。ここで優勢な樹種はダウリアカラマツ、エゾマツ、エゾノダケカンバ、ケヤマハンノキである。山に近い空地にはヤマハマナス、ナナカマドと、そのそばには茎の根もとに葉のついたイヌヨモギが住みついている。これがノヨモギの親類であるとは、一見して誰にも言いあてることができたいだろう。他の場所でわれわれはイソツツジと多数のシダ類に出会った。前者にはあまり大きくない透し細工のような葉がある。後者のうちはじめの種は裏が赤味をおびた微光をはなつ黄褐色がかった葉をつけている。最後のものは葉は単純だが、その優美さは否定できたい。
172ページ カンバ
エゾマツ
シベリアマツ
トドマツ
サルヤナギ
カラマツ
カラマツ
ミズナラ
河谷はますます広くなり、倒木の群れや焼跡はうしろに去った。エゾマツシベリアマツトドマツにかわって、建築材になるようたカンバ、サルヤナギ、カラマツがますます多くなった。

私は酔払いのように歩いていった。デルスウもみずからにうちかち、どうやら歩を運んでいた。前方の左手に高い崖をみとめ、われわれは時機よろしく河の右岸にわたった。ここでクルンベは一度に八つの小流に分かれていた。これが渡河をたいへん楽にしてくれた。デルスウはいろいろと私を元気づけようとした。ときどき冗談□をたたこうとしたが、その顔をみると、彼もまた苦しんでいるのがわかった。・・・中略

河はここで一つの河床となっていて、流れは急だった。河を横ぎってカラマツの大木が横たわっていた。それはひどくゆらいだ。わたるのに長い時間がかかった。はじめデルスウが銃やリュックを運び、それから私がわたるのを助けた。
さらに一キローわれわれはヤントゥンラーザまできた。そこのミズナラ林のほとりの空地でしばらく休んだ。海まではまだ一キロ半あった。河谷はここで急に南東へ曲がっている。残った力を集め、われわれはのろのろ歩いていった。やがてミズナラ林がまばらになって、前方に海が輝いた。
177ページ カラマツ
ハンノキ
ミズナラ
ヤエガワカンパ
シラカンバ
山の植物のうち、草や灌木はたくさん生えているが、これにくらべて樹木は沿海施方のいたるところがそうであるように、ここも貧弱である。まばらな林は主としてカラマツ、ハンノキ、ミズナラ、ヤエガワカンパ、シラカンバから成る。
180ページ モウコナラ
アムールシナノキ
ヤエガワカンバ
シモツケソウ
ガマズミ
小谷を四つ横ぎる。乾いた場所は、モウコナラ、アムールシナノキ、ヤエガワカンバが占領し、その下生えはシモツケソウとガマズミが交互にいりまじつている。小路はわれわれを高い断崖のはずれへ連れていった。それは太古の河成段丘だった。疎林と藪は消えて、われわれの眼前にクスン河の広い河谷がひらけた。ほぼ一キロくらいのところに中国式の家が何軒かみえた。
182ページ ヤナギ
ハコヤナギ
ケヤマハンノキ
クスン河は谷間の左手に沿って流れている。その流れる河床には水のない水路がたくさんあって、これらが排水濠の役目をするから、この河谷は雨にも水浸しになることがない。ウデヘの話によると、この三十年間、ここには一度も洪水がなかったという。
左に高くなっている段丘状の河岸は高さ三十メートル、白い粘土でできていて、その塊りには黄鉄鉱がぴかぴか光っている。山のどこかで土着民はかなり厚い黒曜石の塊りを採掘している。クスン下流の植物はみすぼらしく単調である。河の島の上や乾いた水路の中にはヤナギの一種がしげっている。これらは高いピラミッド型をして、枝は根からすぐ上方へ向かっている。それにまじつてハコヤナギと、少たからぬケヤマハンノキがある。
188ページ ミズナラ
シベリアマツ
腹をたてたリス
十月二十四日、バリ河までいき、二十五日には分水嶺へ近づいていった。山々には鋭い輪郭がなくなり、ゆるやかた斜面の小山となった。この年(一九〇七年)沿海地方には松の実がたくさんできたが、シホテ・アリニの西側にはそれがまったくなかった。これに反してドングリはウスリー注流域にたくさんとれたが、沿海地方ではミズナラは無実花だった。
 われわれは河の左岸をいった。私、デルスウ、ダーツァルが先に、ザハロフ、アリニンが五十歩ほどあとからきた。突然、前方の倒木の上にリスがあらわれた。リスは後足で立って、尻尾を背にくっつけ、松の実をかじっていた。われわれが近づいていくと、リスはその獲物をかかえて木の上にはねあがつた。そしてそこから珍しそうに人間を見おろした。ソロンはこっそりとその松の木に近より、大声で叫んで、力まかせに梶棒でその幹をたたいた。リスはびっくりLて獲物をおとし、もっと高くのぼっていった。
ソロンはこれで満足した。彼は松の実をぴろうと、立腹した小動物にはおかまいなく、進んでいった。リスは枝から枝へはねて、鼻息をならし、この白昼強盗にたいする不満をあらわした。われわれは大いに笑った。ことにデルスウはおもしろがった。彼はこれまでこの方法を知らなかったが、今後は木の実をとるのに、このソロン式を採用することにきめた。
「おこるな」彼はリスをなだめて言った。「わしら、下をあるく。どうして、木の実が見つかる?おまえ、あっち見ろ、あそこに木の実、たくさん、ある」彼は.シベリアマツの大木を指さした。リスは彼の言葉がわかったように、そのほうへ向かっていった。
ついでに、リスについて一言しよう。このげっ歯類の代表者は長い胴体と、ふわふわと毛の生えた長い尾をもっている。小さく美しい頭には、大きな目、長いふさふさした髪で扇形にふちどられた丸い小さた耳がついている。ぜんたいの体色は灰色だが、尾と頭は黒く、腹部は白い。まれには黄色い個所のある変わり種にぶつかることもある。
リスは、その住んでいる場所に食物がたくさんあるかどうかによって、定住したり移住したりする動物である。リスは何が豊作で何が凶作で為るかをい
189ページ ミズナラ
ハシバミ
シベリアマツ
エゾマツ
ち早ぐみてとって、あるいはミズナラの林やあるいはシベリアマツの林や、あるいはハシバミが下生えにある広葉樹林へ、前もって移住する。一日じゅう、それは動きまわっている。天気のわるい時でも、それは巣から出て、木の上をあちこち走る。それは静止に堪えることができないようだ。ただ暗くなると、ようやく丸くなって横たわり、尾で頭をまく。明るくなると、もうリスは府きている。まるで動くことが、水、食物、空気と同じく、生存にぜったい必要なもののようである。
二十年以前、リスの毛皮は一枚ニカペイカだったが、需要とともに値段もあがり、今では一・五〜ニルーブリする。
リスの大敵はテン、クロテン、そして人間だ。
雪まじりの雷鳴
一日じゅう空気には霧が立ちこめていた。.空には羽状の層をなした綿雲がかかっていた。太陽のぐるりにはかさがあらわれ、それがますますかたまって、ついには一つの曇った斑点になった。森の中は静かだったが、もう木の頂きに風がざわついた。
 これは明らかにデルスウとソロンを不安にした。彼らは何やら話し合い、しきりに天を仰いだ、
「こまったね」私は言った。「風が南からふき出したぜ」
「いや」デルスウが引きとった。「あっちからふいてる」そして北東を指さした。
彼がまちがっていると私は思い、反論にかかった。
「鳥を見なさい」デルスウが一言、噂んだ。「あれは風のほう、みてる」
 なるほど、エゾマツの木の上にカラスが頭を北東へ向けて、とまっていた。これは風が羽に沿ってすべるので鳥にとっていちばん都合のいい姿勢だった。
反対に、風のほうへ腹側や尾を向けたりLたら、冷たい風が羽の下からしみこんで、カラスはこ.こえてしまうだろう。
196ページ サンザシ
ヤマハマナス
ガマズミ
キタバドコロ
ミヤママタタビ
チョウセンゴミシ
満州系植物の代表者のうち、ここにはまた幾つかの灌木がある。例えばサンザシ。この果皮は長い管と庁の中に伸びていて、刺状の綿毛が生えている。赤い枝のヤマハマナス。その長持する果実は、ほとんど冬じゅう枝にくっついている。ガマズミ。これは多汁なほの赤い実をふんだんにつけている。攀登植物のうちでは、からみつくキタバドコロ。この雄と雌の標本はべつべつに分かれている。ミヤママタタビ。これは下生えの中に厚い藪をなしている。それから、チョウセンゴミシ。これは赤い漿果の房をつけて、その味はコショウのようた軽いひりひりを口にのこす。
198ページ タモ
カバノキ
アムールシナノキ
クロヤナギ
ミズナラ
ここには植民に適する空地があって、主としてタモ、カバノキ、アムールシナノキ、クロヤナギ、ミズナラの森によって二つに分けられている。クムフゥの河口ちかく、深さ二・八〜三・八メートルの大きな入江ができている。左手には湿地帯があって、以前は入江がもっと大きく、潟をなしていたことを示している。
201ページ カラマツ
カシ
ここの植物は海岸のいずことも同じく貧弱なものである。明らかに針葉樹種が優勢になる。舞台にはますますカラマツが登場し、カシの類は退場する。
204ページ カラマツ
エゾノダケカンバ
エゾマツ
ドロノキ
コブニレ
アムールシナノキ
コルク材
クルミ
ヤナギ
ケヤマハンノキ
ミヤマカンバ
エゾナナカマド
クロミノハリスグリ
ビャクシン
海沿いに北上するにつれて、カラマツ、エゾノダケカンバ、エゾマツがますます多くたる。その一方、ドロノキ、コブニレ、アムールシナノキなどのような樹種はますます少なくなり、コルク材やクルミなどは全く消えてしまう。これに反してヤナギ類、ケヤマハンノキがとくにひろまっている。葉の小さいミヤマカンバは喬木のようになって生えている。ハギは粗葉なエゾナナカマドにその場所をゆずる。海から遠く液い、河の右手の石だらけの斜面で私はクロミノハリスグリを見つけたが、これは茎や枝ぱかりでなく、漿果の葉まで、すっかり刺におおわれている。それからビャクシンもあったが、これは小さな針状の葉が密生した細長い枝な地面にひろげている。
205ページ ハコヤナギ
ハンノキ
シベリヤマツ
ケショウヤナギ
カバノキ
カエデ
カラマツ
夜泊地をえらんでから私はザハロフとアリニンにテントを立てるように命じ、自分とデルスウは猟に出かけた。両岸のここかしこには狭い地帯があって、ハコヤナギ、ハンノキ、シベリアマツ、ケショウヤナギ、カバノキ、カエデ力ラマツなどより成る森が残っている。われおれは低い声で話しながら歩いていった、
210ページ ナナカマド
路の上に切り取られたナナカマドの枝が落ちており、それとならんで、こわれた網の目が一つ、捨てられてあったからだ、と。明らかに、新しい網の目をつくるのに、ナナカマドが必要だったのだ。デルスウはウデヘに、クロテン用の網をもっているかどうか、きいた。ウデヘは黙ってリユックをほどき、たずねた物をとり出した。事実、網の目が一つ新しかった。
214ページ ドロノキ
カンバ
イタヤカエデ
ヤマニレ
イチイ(オンコ)
ホデのあたりから河谷は急にひろくたる。両側の山には針葉樹が生え、下の河谷には主としてドロノキカンバの木をふくむ混成林が生えている。これらの樹種のほかに、ここでわれわれは、灰色の樹皮と茂った木頂をもつ、葉の小さなイタヤカエデや、明るい灰色の樹皮をして美しくバランスのとれたヤマニレや、赤い漿果をもつ特別の針葉樹であるイチイ(オンコ)を見かけた。
215ページ マユミ属
オクヤマハンノキ
ナナカマド
ニンドウ属
灌木ともつかず喬木ともつかぬ種類がある。例えば、長い大花巻の果実をつけた葉の広いマユミ属。黒ずんだ光輝のあるオクヤマハンノキ。また、ナハトフにとくに多いのはナナカマドである。黒い酸っばい暗藍色の漿果をつけたニンドウ属も多い。
242ページ ヤナギ
エゾマツ
 冬、わけても風の強い時は、テントをうまく立てなくてはならたい。その支柱は河の近くに必ずたくさん生えているヤナギの枝で作り、四方に粗布をはりめぐらす。上には煙出しの穴をあけて記く。通風をよくするために、粗布の一枚を少しまくりあげる(普通、これは出入口の側である)。だが、これによって、テントの内部は空気がよくたるが、同時に寒くなる。そこでデルスウの機智がまたもや助けになった。彼は中昧のうつろな木をとってきて、その一端が火のそばに、一端がテントの外へ出るように、地べたに横たえた。この空洞木はよい通風管だった。たちまち風通しがよくなり、テントの中は空気がよくなった。寝床には兵士たちがエゾマツの枝をたくさん切ってならべ、上に枯草をしいた。夜はみなよく眠った。
243ページ シベリヤマツ
ドロノキ
ハシドイ
ウスバヒメ
バイカウツギ
オオメギ
 河の両岸にオアシスのように敢在し、生きている小さな森によって、むかしこの場所にあった植物を推定することができた。ここにはシベリアマツドロノキがたくさん生え、ここかしこには枯れたバラ色の実をつ汁た灌木状のイタヤの暗褐色の枝々がみえており、それとならんでハシドイがあったが、これは黒ずんだ灰色の樹皮をもつ枯れた頂きの枝についた、からからに枯れた実の房によって、どうやら見分けがついた。近くへいくと、ウスバヒメ、バイクワイツギ、そして凍った実のぶらさがっているオメギをみることができた。
251ページ エゾマツ
ダウリアカラマツ
イタヤ
ケヤマハンノキ
エゾマツ
カラマツ
ハンノキ
カバノキ
シホテ'アリニ西面山傾地
 シホテ・アリニの西面はゆるやかだが、しかしアムルウのの水源地帯よりは急である。峠をこえると、たちまち、エゾマツ、ダウリアカラマツの林がはじまる。河の岸にはやわらかな毛の生えた黄色い樹皮のエゾノダケカンバとイタヤが生え、とくにケヤマハンノキが多い。この西面にも、ここかしこに焼けた空地があるのをみると、コケや水気が多いことが、東面からの火の手をくいとめたのだろう。望遠鏡でみると、それが石原ではなくて、焼け跡であることがわかった。

 ナルトに荷をつけて、すぐ出発した。シホテ・アリニをおおうている森は小さくて古くて、薪材の性格をもつ。こういう森の中で野営地をえらぶことは、なかなか困難である。木の根のまきついた石にぶつかったり、コケの下にかくれた倒木にぶつかったりする。さらに骨のおれるのは薪集めだ。

森の中をいって薪を見つけないとは、と都会に住む入はふしぎに思うだろう。ところが、そうなのである。エゾマツ、カラマツは火の粉をとばして、テント、着物、毛布などを焼く。ハンノキは水分が多くて、火よりも煙をよけいに出す。のこるはカバノキのみ。しかるにシホテ・アリニの針葉樹の林の中では、これがただばらばらに散在するだけなのである。この地帯にくわしいスンツァイは、やがて、われわれの野営に必要なものをみんた見つけた。そこで私は停止信号を出した。
254ページ ハンノキ
ウラボシザクラ
ヤナギ
ハコヤナギ
シラカンバ
吹雪
 朝から天気はくもっていた。空中には粉雪がまっていた。日の出とともに風がおこり、正午ちかく、それははげしく突風にかわった。河のおもてに雪の渦巻がくるくるまわった。それは申し合わせたように、不意にあらわれて、一つの方向へ進み、また不意に消えてしまった。巨大たシベリアマツがけわしくそびえ、左右にゆれて、にぶい音をあげて、嵐をうらんでいるようだった。・・・・・中略

 ムイゲ河の中流は混成林でふかぶかとおおわれた広い河谷を流れている。潤葉樹のうちここに生えているのはハンノキ、ウラボシザクラ、ヤナギハコヤナギ、シラカンバである。路上でみた足跡から、ムイゲにはつぎの動物が住んでいると推定される。ヘラジカ、ジ叶コウジカ、オオカミ、カワウソ、リス、クロテン、それから、たぶん、クマ。
255ページ カラマツ
エゾマツ
シベリヤマツ
ドロノキ
クロヤナギ
ハンノキ
ウラボシザクラ
ハシドイマユミ
ヤナギ
ピヤガムウに沿ってさらにニキロほどいき、左岸のよく茂ったエゾマツの林の中に野営した。かぞえてみると、これは海辺から第二十番目の野営だった。・・・・中略

ビヤガムウはベイシラーザをめぐって南から流れ、つづいて西へと転ずる。それは下流にきて一対の支流に分かれ、森におおわれた島を形づくっている。
 上流にはカラマツ、エゾマツが生え、中流にはシベリアマツ、下流にはニレ、ドロノキ、クロヤナギ、ハンノキ、ウラボシザクラ、ハシドイマユミ、幹の細いヤナギから成る見事な混成林が生えている。 

 私はエゾマツの幹を測ってみた。一ヵ所で十ずつ四ヵ所、合計四十の幹を測った。そしてつぎの数字をえた。44―80―103―140センチである。この数字はシホテ・アリニをくだるにつれて、樹質がよくたることを物語る。
256ページ シラカンバ そろそろ野営しなくてはならたかった。私がユルタヘ入ろうとすると、デルスウは、ちょっと待て、と言った。彼はシラカンバの樹皮を棒の先端にまきつけ、それに火をつけて、この松明をユルタの中へつっこんで、叫びながら、ふりまわした。ザハロフとアリニンは笑ったが、ゴリドは真面目た顔をして、火がユルタの中へ入ると、その煙といっしょに悪魔は屋根の穴から出ていく、と説明した。
264ページ ヤチダモ
ドロノキ
コブニレ
イタヤカエデ
ミズナラ
アムールシナノキ
コルク樹
ここの山には優先的に針葉樹が生えている。良好な建築材だ。下の河谷にはヤチダモ、ドロノキ、.コプニレ、イタヤカエデ、ミズナラ、アムールシナノキ、コルク樹の混成林が生えている。
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