資料−SL発達史と日本SLの型式番号
(The history and naming rule of SL)

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 ■はじめに − SLという英字略称について

 日本では蒸気機関車のことをSLと表記しますが、これは以下の様に蒸気機関車の英語の頭文字を合成した英字略称で、所謂「和製英語」なので英語圏の国では通じないそうです(※1)。しかし今日の日本では、特に鉄道関係の書籍では、極めて一般的に使われて居ますので、当サイトもこれに倣うことにします。
 そしてSL以外にも、鉄道関係書籍で一般的な機関車に関する英字略称

  SL:蒸気機関車(Steam Locomotive)
  DL:ディーゼル機関車(Diesel-electric Locomotive)
  EL:電気機関車(Electric Locomotive)

は使用することにします。
 ところで、産業革命(※1−1)は蒸気機関(※1−2)から起こって居ます。そういう意味でもSLは押さえて置く必要が有ります。

 ■SL発達小史

 『Microsoft エンカルタ総合大百科』を参考に世界と日本のSL発達史の概略を、以下に簡単に纏めて置きます。

 最初の蒸気機関は1690年にフランスの物理学者のデニス・パパンに依って発明されましたが、実際の作動が蒸気の圧力では無く大気圧で動く装置で、効率が悪く実用には失敗しました。その後T.セバリ(※2)やT.ニューコメン(※3)らに依って揚水機に利用される程度に改良された後、1769年J.ワット(※4)が復水器付き改良型蒸気機関(※4−1)を発明して初めて蒸気圧が動力源として用いられ、産業機械蒸気トラクター蒸気船などに利用され「実用の時代」を迎えました。
 そして1804年にイギリスのR.トレビシック(※5)の復水器無しの蒸気機関が最初の蒸気機関車に試用され、ここにSLが誕生しました。1825年にはG.スティーブンソン(※6)のロコモーション号で蒸気機関車の技術的基礎は完成し、ストックトン〜ダーリントン間に最初の旅客鉄道が営業運転されました。そして遂に1929年10月に息子のR.スティーブンソン(※6−1)のロケット号マンチェスター〜リバプール間を衆目の中で駆け抜け、「SLの時代」が幕開けしました。
 以後SLの需要は先進国の間で急速に拡大し、ヨーロッパのみならず取り分けアメリカ大陸開拓で威力を発揮し、文字通り近代社会建設の”牽引車”と成り次代の流通革命を準備しました。

 日本では1872(明治5)年10月14日に新橋〜横浜(現在の桜木町)間に最初の鉄道が開通し −現在この日は鉄道記念日(※7)です− 陸蒸気(おかじょうき)と呼ばれたSLは”文明開化の象徴”として、日本の近代化を”牽引”しました。こうして我が国のSLは戦時中の1935〜45年頃に全盛期を迎えましたが、敗戦から数年後の1950年頃からDL(ディーゼル機関車)やEL(電気機関車)に徐々に取って代わられ、初開通から1世紀を経た1970年代には北海道など一部を除き、殆どが現役引退(=廃車)を余儀無くされました。

 大井川鉄道(正式名称:大井川鐵道)では廃車に成ったSLを動態保存という形で動かし乍ら往年の姿を後世に伝える努力をして居ます。これに対し博物館や公園で展示したり、物置に格納するのを静態保存と言いますが、公園の様な屋根の無い所に置かれたSLの実態は”野晒し”です。

 ■日本SLの型式番号

 現在の日本のSLの型番は1928(昭和3)年の車輌称号規定に則り以下の様に命名されて居ます。

  先頭の1字:動輪の軸数の英字表記
        A:動輪1軸:◎
        B:動輪2軸:◎−◎      :小型客車牽引用
        C:動輪3軸:◎−◎−◎    :主に客車牽引用
        D:動輪4軸:◎−◎−◎−◎  :主に貨物牽引用
        E:動輪5軸:◎−◎−◎−◎−◎:勾配区間牽引用

  次の2桁の数字:テンダー有無の区分と順番(※8、※8−1)
        10〜49:タンク機関車(テンダー無し)
        50〜99:テンダー機関車(テンダー有り)

  後続数字:該当型の製造順番号(1〜9999)

  ★但し、1928(昭和3)年以前に製造された古い機関車については、
   称号既定の適用外です。
   (8620型(通称:ハチロク型)や9600型(通称:クンロク型)など)


 この規定に拠れば、例えば「C108」は以下の様な意味を持って居ます。

  C108 → C|10|8
         ↑  ↑ ↑
         |  | +−− C10型の8番目に製造
         |  +−−−− 3軸型の最初のタンク機関車
         +−−−−−−− 動輪3軸:◎−◎−◎

 「デゴイチ」として人気の高いD51型は「動輪4軸で貨物牽引用のテンダー機関車」(※8、※8−1)である事が解ります。


【脚注】
※1:SL/SLは、steam locomotive の略で蒸気機関車のこと。
 但し「研究社 新英和・和英中辞典」に拠ると「この略のSLは和製英語、英・米では通じない」と在ります。
※1−1:産業革命(さんぎょうかくめい、industrial revolution)は、産業の技術的基礎が一変し、小さな手工業的な作業場に代って、蒸気機関の利用を中心とする機械設備に依る大工場が成立し、これと共に社会構造が根本的に変化すること。産業革命を経て初めて近代資本主義経済が確立1760年代のイギリスに始まり、1830年代以降、欧州諸国に波及。日本では1880年代紡績業の機械制化に始まる。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
※1−2:蒸気機関(じょうききかん、steam engine)は、蒸気の膨張力を機械的な仕事に変える原動機の一種。ボイラーなどで高圧の蒸気をシリンダー内に導き、その圧力でピストンに往復運動を起こさせ、クランク機構に依り回転運動を得る。構造や取り扱いが簡単で、始動時の回転力は大きいが、重量が大きい割に大出力が得難い。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>

※2:T.セバリ(Thomas Savery)は、イギリスの技術者(1650?〜1715)。炭坑の揚水ポンプを動かす、蒸気圧と大気圧とを応用した蒸気機関を発明。パパン、ニューコメンと並んでワットの蒸気機関の先駆と成った。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※3:T.ニューコメン(Thomas Newcomen)は、イギリスの発明家(1663〜1729)。セバリの発明した蒸気機関の原理を応用して、実用的な大気圧機関を完成。ワットの蒸気機関が現れる迄炭鉱や鉱山の揚水機に広く利用された。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※4:J.ワット(James Watt)は、イギリスの発明家(1736〜1819)。ニューコメンの蒸気機関の改良に努め、コンデンサー(=復水器)・弁・調速機などを発明し、効率の高い蒸気機関を発明(1769年に特許)。これに依り、蒸気機関は動力源として広く用いられる様に成った。産業革命期の代表的技術者。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
 尚、ワットは遂に復水器無しの蒸気機関は考案出来ませんでした。
※4−1:復水器付き改良型蒸気機関(ふくすいきつきかいりょうがたじょうききかんしゃ、improvement type steam engine with condenser)は、蒸気原動機に連結し、水蒸気を凝結させると共に、高い真空を作り、蒸気の膨張作用を助ける装置。凝縮機。凝汽器。凝結機。コンデンサー。

※5:R.トレビシック(Richard Trevithick)は、イギリスの技術者(1771〜1833)。1804年、軌道を走る最初の蒸気機関車の製作に成功、乗客及び貨物の輸送に利用した。これが、後にG.スティーブンソンに依り改良・完成された。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※6:G.スティーブンソン(George Stephenson)は、イギリスの技術者(1781〜1848)。1814年進退自由な蒸気機関車の試運転に成功し、1825年ストックトン〜ダーリントン間で最初の旅客鉄道を開通させ、以後は国内外各地で鉄道建設に従事した。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>
※6−1:R.スティーブンソン(Robert Stephenson)は、イギリスの技術者(1803〜1859)。G.スティーブンソンの子。鉄道技術を指導、大ビクトリア橋などの工事にも貢献。<出典:「学研新世紀ビジュアル百科辞典」>

※7:鉄道記念日(てつどうきねんび、Railway Anniversary of Japan)は、1872年10月14日(旧暦では9月12日)に新橋〜横浜間(現在の桜木町)29kmの日本初の鉄道が開通したのを記念して、それから50年後の1922(大正11)年に日本国有鉄道(現JR)が新暦の10月14日を鉄道記念日と制定。鉄道の日

※8:テンダー(tender)とは、蒸気機関車の後部に連結する石炭・水を積載する車両炭水車
※8−1:テンダー機関車(―きかんしゃ、steam locomotive with tender)とは、テンダーを後方に付けた蒸気機関車。テンダーの無いものはタンク機関車と言う。

    (以上、出典は主に広辞苑です)


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