西洋の紋章学を説いた【参考文献】△1には、著者が「品位を欠いて悪趣味」の例として掲載した図像の中に中々面白い”秀作”を見出しましたので、私が気に入った図像をこのサブページでご紹介します。
下は蔵書票(※1)の紋章デザインで、貞操帯以外は何も身に着けて無い豊満な女性の、その貞操帯の鍵を鎧を着た兵士風の男が蝋燭の火に息を吹き掛けて消し乍ら今正に開錠しようとしてる図です(△1のp191)。私はこの図から
本を繙(ひもと)く即ち本の表紙を開く事は、貞操帯の鍵を抉じ開ける愉しみに通ずる
という寓意(※2)を読み取りました。
尚、左上の盾の形をした紋章の中に "ex libris" と記されて居ますが、【脚注】に在る様にエクス・リブリスとは蔵書票のことです。
上の蔵書票に対して、生真面目な著者は「こうした蔵書票を自分の蔵書に粘付して悦に入っていた読書人というのは一体どういう人物なのだろうか。」と評し、続けて「何時の時代にもこうした悪趣味の人物はいるもので...」と言い乍ら紹介してる内の一つが以下の図です。
先ず左下の図をご覧下さい。これはウィーンで1502年に出版された『聖遺骨書』に収録された「死の紋章」です(△1のp192)。これは地上の墓石の下に隠された地下世界を表現したもので、「死に神」が中央部の盾形紋章を支え、その下の墓穴の中に死者の骸骨が横たわる構図です。死の匂いがプンプン漂って来る感じですね。ところで中央部の盾の中ですが、良く見ると骨の欠片と共にカエル(蛙)が2匹居て(右下の拡大図)、こんな悍(おぞま)しい絵の中に蛙が居るのが少し滑稽です。
【脚注】
※1:蔵書票(ex-libris[ラ], bookplate)とは、蔵書の表紙・見返しなどに貼り付けて、その所蔵者を示す為の印刷した小票。書票。エクス・リブリス。
※2:寓意(ぐうい、hidden meaning, allegory)とは、他の物事に託(かこつ)けて、それと無く或る意味を仄めかすこと。寓喩。アレゴリー。「―を読みとる」「―小説」。<出典:一部「学研新世紀ビジュアル百科辞典」より>
(以上、出典は主に広辞苑です)
【参考文献】
△1:『西洋の紋章とデザイン』(森護著、ダヴィッド社)。