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ザブングル讃歌
富野監督作品なのに、どーも語られることが少ない「ザブングル」。
まあ、それなんでかは分かってるんですけどね、
メカに魅力がないから。
なんだかんだ言って、“オモチャ”が世の中引っ張るのよねえ。
ちょっとした偶然でLDBOXを購入して、早6年。
飽きるほどに見続けた作品なんだけど、やっぱり面白い。
富野さんを初めとした、「若手」の強い情熱を感じさせられる作品な訳です。
世界観の説明。
かっては「地球」とよばれた、惑星・ゾラ。
昔に起きた「大異変」により自然環境は激変、
木々の作る森はまばら、大地のほとんどが砂漠化し、
海もまた、土の溶けた「泥の海」と化している。
何よりも、大気に有害な物質が混じり、わずかに残った自然以外では、
トカゲくらいしか生き残れないような、過酷な大地。
この世界に生きている人間達は、大きく分けて2種類、イノセントと、シビリアン。
絶対的な支配者であるイノセントは、謎のベールに包まれている。
彼らはシビリアンに、「機械」を与え、生活する術を教えた。
シビリアンはイノセントに与えられる機械がすべて。
その交換条件となる金とブルーストーンを得るために、
お互いに奪い合い、やがて力を持った商人達によるちょっとした社会を形成していく。
農業なんて、ほとんどない。
イノセントが与えてくれるものに比べれば、自給自足で得られるモノなど、
価値がないに等しいからだ。
自分の才覚で金を得、ブルーストーンを得る。それが最大の価値観。
それを多く得るため、人は機械を求める、力がすべての世界。
こんな世界では、人はこだわりを捨てなければ、生きていけない。
殺人も強盗も、恋人との約束も3日限り、
愛情も憎しみも、それ以上引きずっていては許されない、
生きては行けない世界。
過酷な自然と、力と才覚のみが生きていく条件であるこの世界では、
こだわりそのものが許されない世界なのだ。
支配するものイノセントと、支配されるものシビリアン。
しかし、その世界の掟が、一人の青年によって崩されていくことになる。
主人公ジロン・アモス。
彼が、両親の敵・ティンプを3日の掟を破り、
執拗に追うことで、物語が動き始める。
彼がこだわる姿は、彼の熱い思い入れと「感情」のほとばしりが、
周りの人間を変えていく。
彼が掟を破ったのは、両親への思い。
「人のつながり」に彼はこだわる人間なんだ。
ここの手法、実は結構練られているんだよね。
ジロンの「人のつながり」への強い思い入れこそ、視聴者は感情移入できる。
周りの世界こそが、おかしい。
全く異質な世界が、ジロンを通して変わっていく。
利害を一致しているから仲間なのではなくて、感情でつながっていく仲間達。
また、ここに、SF的理論を展開していくのも面白い。
実はイノセントというのは、かって地球で生活していた人達の生き残り。
既に自分たちではまともに外が歩けないほどに荒廃した自然を前に、
生体改造により、生きていくあたらしい「人類」を生み出した。
それがシビリアンなんだよね。
過酷な自然を生き残るために、闘争本能・肉体を強化した、
新しい種。イノセントは、彼らを管理・見守っていく存在なんだ。
その目的は、シビリアンがこの世界の主として確立したときに、
文明や、この世界の権利そのものを引き渡すこと。
ジロンや、かれのこだわりを受けて、強い仲間に
人として信頼し会える関係を築けるという、
その心の動きそのものが、イノセントの目指した新しい人の資格、そのものなんだ。
もちろん、イノセントの中にはそれを認めず、徹底した管理をしようとする人達もいる、
自分たちが世界の覇者で居続けるために、
積極的に新しい芽をつみ取ろうとする人々が
そういった締め付けが強い地域から、反イノセントとも言える、
自分たちで結束していこうというシビリアンの集団ソルトが蜂起していく。
世界が変わる、そのうねりの中で、ジロンはとても大きな役割を担っていくこととなる。
骨子は、すごくぶっ飛んだSFなのよ、これ。
異世界の革命、という、まあ、観念的っちゃー観念的なんだけど、
だからこそ、きちんと「世界の夜明け」を書けた、これはすごい。
正直、これ以降も、以前も、「リアル」という言葉に押しつぶされて、
ここまではっきり方向性を持った物語を、富野監督は提示できなかった。
もちろん、それの方が現実的ではあるのだけれど。
一種幼く、まさに「物語的」な作品なんですよ。
んで、次は演出。
「パターンだぞ」「そんなのただのパターンじゃないか」
「パターンを言ってしまったぁ」「いくらパターン破りのザブングルとて…」
物語の中、しつこく繰り返される「パターン」という言葉。
これに反対するために、あらゆる努力をしているのが面白い。
お嬢様声で有名な島津冴子さんに、野太い声を出させるは、
主人公ジロンの顔は全然美形じゃない。
主人公メカはいきなり2台あって、しかも途中で交代する。
オモチャのデザインそのものの主人公メカは、実に野暮ったく動く。
些末的に見ても、大局的に見ても、すべてに既存のモノを
変えようと言う反骨精神にあふれている。
違うものを作ろう、今の価値観を壊そう、
そういう、ただひたすら反対のための反対とも言える、
実験要素の強い作品となっているんだ。
富野監督が全面に出てきている、という点でも、
この作品は実はターニングポイント。
裏切る女、戦う女性達、洗脳されて主人公に牙を剥く女。
アニメの女性の地位を変えたのは、ガンダムよりこっちの方が強い。
これにうる星やつらが加わって、もうとんでもない方向に行くんだけど・・・。
男で言えば、ソルトのリーダーカタカム・ズシムが興味深い。
彼はソルトのリーダーなんだけど、組織をジロンに乗っ取られてしまう。
人望を得るだけの器じゃなかったという話なんだけど、
ここら辺のドラマ、人物の書き方は、制作者がのっているのが分かる。
英雄と、政治をするもの、リーダーでありパイロットである、
というキャラクタが描けるか、という意味ではカミーユと
クワトロの関係を考察することすら可能だ。
カタカムはリーダーとしての信頼が次第にジロンに移っていく焦りから、
暴走し、最後は仲間の盾となって死ぬ。
と、思わせて実は生きているんだけど、仲間に声をかけようとしたときは
もうお葬式の真っ最中。
カタカムは、自分がリーダーとしているためには、もう象徴としての、
「すでにいない偉人」としてしか、みなに認めてもらえないことを悟り、
それが「一番カッコイイ」ことに気がついて、
一人寂しく組織から去っていくんだ。
こんな凝ったエピソードで語られるキャラは、そういない。
ガンダムや、イデオン以上に、以降の、ダンバイン、エルガイム、Z…
のなかに、類似性を見いだすことができる。いわゆる「富野アニメ」の
本当の意味での「雛形」は、この時できたんだ。
それなのに、いわゆるオタクカルチャーで、
この作品が取り上げられるのは、驚くほど少ない。
ダンバインの世界、エルガイムは「永野護」で語られるのに、である。
実際、この作品はウケが良くなかった。
何でもそうかもしれないけど、実験作・異色作というのは、
やっぱり受け入れられる部分が少ない。
あまりに「ヘン」すぎたのだ。
ザブングルのデザインから、よく、「過去のロボットアニメを引きずっている
」
という批評があるが、それは違うと思う。
一般受けの部分を、スポイルしすぎたのだ。
「失敗作」の烙印を押され、他の富野アニメ、サンライズアニメと比べて
取り上げられることの少ない「ザブングル」。
「未来少年コナン」に影響されたとしか思えない滅茶苦茶なキャラの動き、
そしてのべつ幕なしにギャグを入れるという、疲れる演出も含めて、
はじめて舞台を与えられ、上滑りするくらい「我」を出した
富野監督始め、スタッフの意気込みが見れる作品だ。
オーラバトラーの美しさとか、永野の世界観とか、もうそういうのは良いから、
この、「偉大なる実験作」をきちんと取り上げて欲しい。
「ザブングル」は、円熟味を増す前の、
実に荒削りなパワーを持った無骨な作品。
そして間違いなく、アニメ史のターニングポイントなんですよ。
もっと、評価をされるべき作品だと、ホントに思う。