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ふたつの星の間で


ターンAガンダムが、9巻までそろった。
LDと、DVDのチャンポンで、しかも全部中古。
オタク的コレクション魂の暴走なうえ、
LDなんて、人に貸すこともできない。
でも、ちょっと語りたい、面白いから。

まず、あらゆる人に拒否感を生み出されるひどいメカデザインとか、
そういうのを弁護するつもりは、ない。
……それでもかっこよく見えてくるんだけどね。

二つの星の、描き方を中心に語っていきたい。 デフォルメされた、
子供っぽい「戦争物語」だけど、面白さが、あるよ。

ガンダムといえば、やっぱり結局語られるのは戦争だ。
舞台は、一度文明が滅んだ地球。
地球に住む人々は、わずかな先史文明の技術を取り入れながらも、
1900年くらい、第一次大戦くらいの文明レベルまで後退している。

車は限られた人しか乗れないような、
「ノスタルジー」のオブラートでくるまれた、
幻想的な過去未来世界が舞台になる。

そこに、月の民・ムーンレイス、が降りてくる。
彼らはかって、地球から“逃げた”人々。
地球では失われた高度な文明を持ち、強力な兵器である
巨大な人型兵器・モビルスーツを先兵に、乗り込んでくる。
彼らの願いは、かって生活していたという、
大地で再び生活すること。
彼らは伝説の緑あふれる大地に帰ってこようとしているのだ。

圧倒的な軍事力の差が描かれていく、前半。

しかし、物語の骨子と、主人公の行動が、
視聴者をドンドン「世界」に取り込んでいくことになる。

主人公はロラン・セアック。
2年前、地球降下作戦のテストケースとして、
月から降りてきた少年だ。

彼は、自分の本当の身分を隠し、
田舎から出てきた少年として生活、
やがて鉱山主に認められ、おかかえの運転手となり、
2年遅れの成人式を迎え、土地の人間となることを許される。

その成人式の日、ムーンレイスの先行部隊が地球に降下をする。
着陸地点であるイングレッサ領の領主グエン・ラインフォードは
対等の交渉をする戦力があることを証明するため、
これを迎撃する。

ムーンレイス側は驚愕する。
MSの技術に比べ、はるかに遅れている複葉の戦闘機で
彼らは攻撃をしてくるのだ。
戦争を知らない軍隊である先行部隊の彼らは、
明確的な敵意を前にして、艦隊戦用の、強力なビーム砲を発射してしまう。

炎に包まれる街、多くの被害者。

そのビームに呼応するように、
成人式の行われていた祭りの舞台に鎮座していた巨大な神像、
ホワイトドールと呼ばれるそれが突如立ち上がり、
先行部隊に向けて、ビームを発射する。

岩にしか見えなかった表皮がはがれたその神像は、
ロランには最新式のMSにしか見えなかった。
ホワイトドールが立ち上がったそのとき、
ロランは主人の娘ソシエとともに、神像の膝の舞台にいたのだ。
そして今、ムーンレイスの炎に焼かれる街を前に、
ソシエを膝に乗せ、ホワイトドールのコクピットに座っていたのである。

圧倒的な、技術の差を見せつけられるグエンを初めとした、地球の人々。
しかし、ホワイトドールの出現をきっかけとして、
鉱山で掘り出される前時代の兵器、MSが、
まるで地球側を後押しし、戦争を拡大するかのように出現。
戦いを求める人達が増えていく。

月からは、女王であり、すべての月の民を統率するディアナが降りてくる。
ディアナは、あくまで平和的な移民をするために、
暴走しようとする軍を押さえつけようとする。
そこには、彼女自身が地球で暮らしたいという、エゴとも言うべき、
強力な想いがあった。

グエンは、この状況を利用しつつ、
先史技術の復活を画策、
そして、ムーンレイスを嫌悪する地球の軍事組織、ミリシャは、
発掘されたMSを武器に、戦いを拡大させようとする。

地球の素晴らしさを知り、大地の民として生きていこうとしたロラン。
しかし、彼は地球側の最強のMSホワイトドール(通称:ヒゲ)の
パイロットとなってしまった。
圧倒的な戦力差がある月と地球の、バランスをとるため、
地球にも月に劣らない技術と、パイロットがいることを証明するため、
彼はパイロットとなる覚悟を決めたのだ。

しかし、高まっていく月と地球の緊張に、彼は苦悩していく。
大地に帰りたいという、ディアナを初めとしたムーンレイスの心は、
彼は大きく共感できる。
しかし、その技術を目にした地球の恐怖と、ソシエの肉親を失った悲しみ、
何よりも、地球と月の架け橋になりたいという大きな想いと優しさが、
手探りであり、必死ではあるが、彼の行動を加速させていく。

ロランは、女性的な弱々しさまでも持った
お人好しとよしのキャラクターとして描かれる。
正直で、まっすぐな、
地球人に罵声を浴びせられる同胞を前に、
耐えきれず自分の出自を告白し、ムーンレイスのみならず、
戦いを望む地球人とも戦い続けると、平和の架け橋になるために戦うと、
言ってしまうほどに。

物語の中心となるのは、ロランとともに、もう一人、いや二人いる。
月の女王・ディアナと
ソシエの姉であり、外見がディアナそっくりなキエル。
アニメ的な設定ではあるが、彼女二人の外見は見分けがつかず、
ディアナのほんの気まぐれで、二人は入れ替わる。

物語は進んでいく。
ディアナの役割を演じる地球人・キエルは、
ムーンレイスを上から眺め、
ディアナの苦悩に共感しながら、地球人との共存を模索し始める。

ディアナはキエルとして、戦争を間近に見て、
自分の想いが戦いを生んでしまったことの恐ろしさ、
圧倒的な戦力を前にしても、闘志ををむき出しにする地球人の怒りと、
統制がとれなくなってほころびを生じさせるムーンレイス、
地球と月、ふたつの立場の生の姿を見る。

さまざまなエピソードが挿入されて、
色々な局面で戦いが描かれていく。

正直なところ、童話だ。
ロランはできるだけ人を殺さないように、
超人的な戦い方をする。
敵のMSの足を切り取るときは、「ごめんなさい」とか、叫んじゃう。

殺意満々で、まじめに戦ってる地球人、
ディアナから「人を殺してはならない」という命令を、
憤りながら、それでも守っている、鎖に縛り付けられた月軍
ディアナ・カウンター。

こっけいな、歪んだ、人の死の描写が少ない、戦争。

どこか牧歌的だが、傷病兵の描写や、
戦争で苦しんでいる人々の描写も、いろいろ入っていく。
富野監督ならではの、
単純で刹那的ではない、独特のリアリティーのある戦いが描かれる。

しかし、である。
月と地球、このふたつの、相容れないかもしれない関係の、
結論は、結局描かれない。

戦争に、結論や、ハッピーエンドはないことはあきらかで、
この作品でもそう。
物語はじょじょに正面の戦争から視点をずらし、

「戦争」を力のよりどころにして、より大きな戦いを求める
グエンと、そして月の武力勢力の一部の暴走を描き、
その勢力が沈静化したところで、幕を閉じる。

正直、こうするしか、悲劇的ではない物語の結末を続けることはできないだろう。

ディアナは、月の女王は、自らの想いを捨てて、
月に戻り、恒久的な月と地球の友好を生み出すため、帰っていく。

女王を再び得た月の人々は安堵し、それでも、
この戦いをきっかけに、地球への移民も継続、
戦いは続きながら、、新しい時代が開かれることになる。

ここまでネタバレしておいていうのもなんだが、
もう一段階色々などんでん返しがあったりするんですけどね。

非常に牧歌的な、現代という「甘くて非現実な」
観念がまかり通る時代が生み出した物語である。
それでいて、胸に差し込んでくるのも、ちゃんとある。

それは、1話限りのサブキャラが、主張らしきものを叫びながら散っていったり、
ひたすら残酷な悲劇を見せつけるのに終始したものではない、
既に老人となりつつある富野監督ならではの、円熟味を感じる物語だ。

それでいて若さを感じさせるものも多々入れてあるところが、また楽しい。
随所の演出は、はっきり言って悪のり気味、
さまざまなアイデアがちりばめられていて、
非常に楽しい作品であるところも、面白い。

やはり、富野監督のガンダムは、他の人のガンダムとは決定的に違う、
そういうことを実感させてくれる物語である。

いろいろなところで、マニアックな仕掛けもたくさんちりばめられているし、
単純に話を追い、少し童話的ではありながらも、
それでも戦いをなくそうと奮戦するロラン、
そして彼を取り巻く人々のドラマを楽しんで欲しい。

アレ的な意見で言わせてもらうと、
ディアナもソシエも、非常に魅力的に丁寧に描かれていて、
かなり萌え。
これも要チェックであるですよ。