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最期の日
「突然ですが、米国の発表によりますと、
明日の正午、核ミサイルが東京上空に落下するそうです。
最小限の被害でも本州全域となりそうです。」
アナウンサーが、放心した表情で原稿を読み上げた直後、
テレビは何も映さなくなった。
放火、強盗……逃げ出そうという人々のパニックは、
あらゆる犯罪を誘発した。
パニックになりながらも、
多くの人は、悟った。
逃げる場所はない。
船も飛行機もすべて先を争う人々の手で破壊されてしまった。
何人かは海に逃げた。
地下鉄の一番深い場所に逃げ込むもの、山奥に逃げるもの、
家の布団でフテ寝を決め込むものも少なくはなかった。
そんな中、少数であるが、完全に人々の流れに逆らって進む者達がいた。
彼らの進む場所は、東京。
逃げられないなら、爆心地で、苦しまずに。
そう考えた人は、率としては非常に少なかったが、
中心地とアナウンスされた場所は黒山の人だかりになった。
正午前。
集まった人々は、今はもうただ空だけを見上げていた。
人生最後の日にふさわしいのかどうか、
空はきれいに晴れていた。
キラリと、青い空に銀色の光が光った。
「ミサイルだ」
誰かのつぶやきに、人混みの中の何人かはあわてて逃げ出した。
頭を抱えてしゃがみ込む人も。
しかし、ほとんどの人々は、空を見上げ、
その銀色の光を見つめ続けていた。
銀色の光は、じょじょに大きくなっていった。
どんどん大きくなっていった。
どんどんどんどん大きくなっていった。
どんどんどんどんどんどんどんどん大きくなっていった。
そして……
プチッ。
不発弾につぶされて死んだ人は、ただ独り。
彼にとって、人生は、世界は未曾有の大イベントによって、終わった。
おそらく、世界と運命を共にして終わったのだという、実感をもって。
……これって、理想の死に方だよね、と僕が言うと、
たいがいの人は、あんた変だよ、と、返してくるわけですが、
どーでしょうか?
まあ、若い頃に考えた話って、すぐ人が死んじゃうよね。
もうちょっ元気になれる話も考えないとねぇ。