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仮想詐欺の登場


「この貝殻さ、すっげーきれいだろ?」
「うん、きれいだね」
「いいだろ?」
「う・・・うん」
「んじゃさ、君が今日狩ったイノシシの肉と、交換しない?」
「ええ?」
「いいじゃん。肉はなくなっちゃうけど、その貝殻はなくならないぜ。
それに持ってれば、もっといいものと交換できるかもよ?」
「そ・・・・そうかなぁ?」
「絶対そーだって、これきれいだし。」

 なんて会話が貨幣の最初だって言うのは、よく聞く話。
お金ってのは、人間のエネルギーの代価で、実体みたいなものは
割とないかもしれない。
物々交換を、より明確にしてくれるもの、みたいな。

UOには「モンスター」という無尽蔵に
お金をくれる存在があり、それを元手に人はある程度の経済を循環させている。
プレイヤーが狩りという「仕事」をして
その代償として、お金を得るのである。
高価な所持品を丸ごと失ってしまう可能性のある
PKという存在が希薄になりつつある現在のUOは、
大きな経済の変化があった。
プレイヤーは驚くほど裕福になっていった。
詐欺師が騙し取る金額もびっくりするほど高額になっている。

さて、UOには登場時から、存在していた「詐欺師」。
荷ラマをプレイヤーから故意に売らされた経験ってのは、割とおおいかも。
荷馬、荷ラマってのは、騎乗することが出来ない。
それを知らない初心者は、生まれて初めて乗る乗り物として、
だまされてかわされちゃうのだ。

スリや殺人が容認されているUO。
ネットの罪はかきすて、ということで、ものを受け取っても金は渡さない。
またはその逆もしょっちゅうだ。
逃げることが出来る「リコール」という魔法があるのもそれを助長している。

まあ、UOでの詐欺なんてのはほんの悪戯心だ。
それでも何十万というお金を稼ぐには何時間、何十時間もの時間が必要で、
だまし取ったときの人の精神的犯罪性、
とられた人の怒りと悔しさは紛れもなく本物の犯罪と変わるところはない。
「ゲームじゃないか」というクッションが、
逆に悪辣な犯罪を助長していることも確かだ。

詐欺にあった、もしくは騙し取ってラッキーなんて言う話が
掲示板を賑わせるのはしょっちゅうだ。
さて、ここから本題。

UOそのものにはコミュニティーは存在しない。
出会える人はほんの少しだし、仲間になる人はさらに少ない。
ネットワークゲームという性格上、
UOはインターネットに親和力が強い。
コミュニティーとして発達した掲示板中心のホームページ上では、
ゲームを越えた情報交換、友人募集、取引が行われているし、
ユニークな日記を書いたプレイヤーは、有名人になり、
思わぬところで声をかけられる。
なんだか狭いようで、情報を求める人には妙に広い世界なのだ。

もめ事は、UO内での会話ではなく、主に有名掲示板で行われる。
ここで非常に面白い事態が起こる。
「彼は詐欺です。」
「そーそーおれもおれも被害にあった。」
「ひどいやつだ」
「詐欺にあう隙があるやつが悪い」
「そんなあんたの価値観はおかしい」
といったお約束の書き込みの後、
「そんなことはない、告発者のせりふはでたらめだ。」
という書き込みが出来た瞬間、第三者は不思議空間に引き込まれる。
何が本当のことか、分からない。
それでも無責任な、誰かを悪者にした書き込みは続き続ける。

現実もこれに近いものはある。
陰口、噂、週刊誌。
掲示板の面白いところは、誰でも無責任に参加できることだ。
あほな噂をしている隣の奥さんに「あんた、狂ってるんじゃないの?」
とか、週刊誌の反吐が出るような勝手の記事に、「なにいってるの?」
と誰かに向かって表明できる。
ここでさらに面白いのは、UOという
いわば嘘の世界の出来事だ、ということなのだ。
もう、ホントに何がなんだか分からない。
でも、そこを第三者と捉えたときに、
僕らは非常に変な体験をしていることに気がつける。

不快な思いをしている人がいることや、
悪意を持っている人がいることは確かだ。
だけどそれが全部「嘘というものがある」という前提条件の上で、
ぼやけ、混乱し、ごちゃ混ぜになる。

広く一般に公開されている掲示板は、嘘の渦だ。
なんか、どこかに、「何か」があるという仮定で、人は話をする。
しかも「ゲーム空間」の事例の真偽を求めてしまう。
冷静に考えると入り組んで複雑な、訳の分からない世界の話だ。
これは非常にユニークで、奇妙な体験だ。
もちろん当事者にとっては、「なんて不謹慎な」と、思うだろう。
でも、パソコンを切って、キーボードから手を離して、
自分の財布を見つめたときに、変な安心感と、だからこその憤りがある。

これから、こういう体験をする人が増えてくるかと思うと、
俺たちって時代の最先端を突っ走ってるなーとか思わない?