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RAMPOはこんなに、江戸川乱歩


江戸川乱歩という、たぐいまれなる作家がいる。
彼の語る、常識では収まりきれない「妖しい美しさ」に
魅了されるものは、数多い。

しかし
セガサターン持ってて、なおかつ江戸川乱歩を愛するものは、
そう、まさに「奇跡という他はない」確率である。
そこにはまることができた、そう、奇跡を目撃した僕は、
既に布教者として、このゲームを広めるほかはない。
義務、というより、もはや、使命。

ま、そんなに大したことはないですが、
このゲームはとてもいいゲームです。
ゲームで、ここまで質の良くそして濃い乱歩作品のオマージュは
今までありませんでした、そして今後とも、ないでしょう。


まず、このゲームの良い由縁は、
がかかっている」ということです。
後述しますが、質が良く細かい、実写と見まごうばかりの
グラフィックからもそれは感じられますし、
出演者の何人かが、「普通の人が知ってるレベルの役者さん」が出ています。
ということが、どれだけすごいことかは、
ゲームをディープにやっている人ならばご存じのはず。

声優さんじゃないから知らない。
という方は、ディープなゲームをやってる方なので、
申し訳ありませんが、除外させていただきます。

映画とゲームのタイアップ。ここで主語の方が、映画であるのが、みそです。
制作費の何割かは向こう持ち。
ありがとう、松竹!
事実はどーだかしりませんが。

こういう場合、ゲームの出来はへにょへにょになってしまうのが世の常ですが、
ひょっとしたら映画のスタッフより「乱歩への傾倒」がすさまじいのではないか?
との疑問が浮かぶほど、この作品は愛が溢れています。
だからこそ、僕は、このゲームが大好きなのです。

そう、乱歩の傾倒、いや、偏愛。これこそが、このゲームを
僕の中でのサターンソフトランキングNo・1と
声を大にして叫ばせる理由です。

ぼくは、その場面をみたとき、掛け値なしに会心の笑みが浮かびました。
ゲームの本当の序盤のことです。
二銭銅貨が、二つに割れて、中から手紙が出てくる。
うおおおおおおおおおおお!
どうです? どうですか? 血の温度が、100億万度くらい、沸騰しませんか?

・・・・とほほ、俺だけですよね。
そう、昨日試しに、「RAMPO」で検索かけたのに、
ここにふれているページは皆無。
わーん、おまえらが乱歩語るなぁぁぁぁっっっっ

解説しましょう。
「二銭銅貨」って乱歩のデビュー作でね、五百円玉より一回り大きい奴なんですけど、
二人の極貧の男が、持っていた一枚の二銭銅貨が実は空洞の容器になっていて、
その中にはなんと、
当時の捕まった大盗賊の財宝の隠し場所らしき暗号が書いてあって・・・・
という話。

乱歩作品の小道具をそのままゲームの中で使う。
それだけなんです。ですけどね、
ただですね、、銅貨が二つに割れて手紙が出てくる。 と、言うのとですよ。
「RAMPO」で「二銭銅貨が二つに割れる」じゃあ、そう、
雲泥の差があるわけですよ。
分かりますかっ、この気持ちいっっっっ?(テーブルを拳で叩きつつ)

そう、乱歩を知っていれば知っているほど、この作品は、楽しいのです。
当然のごとく、「屋根裏散歩する」事もできるのです。
真っ暗な屋根裏、懐中電灯の恩恵から外れたところは、
ぼうっと、暗い闇だけが広がっている。そして闇の中からぐうっと張り出し、
そして再び闇と同化していく、太い梁。
所々に、階下からの光が漏れている。
そこからのぞく、他人の視線から解放された、本当の人の姿、痴態。
人から見られてることを気付いていない、裸の人の姿。人の、本性。

背筋がぞくっとする、シチュエーションですよね。
ゲームですから、そんなに圧倒される姿を見せられるわけではないのですが・・・・・。

でも、乱れた布団の上に、しどけなく座る和服女性の姿と、
それに背を向けて服を着ている男の姿、ってのは、
考えようによっては、
ぎりぎりをはるかに通り越しているかも

しかも犯人である男の「口元」に特徴を持たせるなんてのは、
原作知っている人にはたまらないものがあります。


他にも様々な「乱歩作品を知っていれば面白いもの」が仕掛けがあります。
ただ、怠惰な僕は、まだ乱歩作品のすべてを読み終わってなくて・・・・。

光栄から出していた、「ヴァーチャル・ガイドブック」なるものがあります。
こいつの出来がすごい。「分かってらっしゃる方々」がつくられた本で、
このゲームの出典作が紹介されている。

ゲーム中出てくる乱歩の経営する下宿屋「緑館」の広告用文章まで載せているのは、
流石です。
扉絵には、耽美画家・丸尾末広氏を使うまでの凝りっぷり。

そしてそこで解説してくれる、乱歩作品へのオマージュとは、
レンズを元にしたトリックは、「湖畔亭事件」
長持ちの中に死体ってのは映画と同じ、「お勢登場」
元侯爵、そして静子の名前はこちらも映画と同じ、「化人幻戯」そして大傑作、「陰獣」
隠し部屋の仕掛けは、「偉大なる夢」
暗号は「探偵小説の謎」
最後の評価画面、「探偵趣味」でさえ、きちんと原作にのっとっているのです。

解説してくれることにより、
スタッフの思い入れがひしひしと伝わってくる、この恍惚感。
たまりませんな。
・・・・ゲームより手に入る確率低いのは、残念なことですが・・・・
こいつがあると、よりディープにゲームが楽しめますよ。ほんと。


さて、ゲームの解説続けましょうかね。

前半部、お勢の不倫劇の話の方は、背景はすべてフルCGで描かれます。
このCGほんとすごい。偏執的って、こういうこと言うんじゃないでしょうか。
最初の乱歩の部屋が、特に圧巻。声あげること、間違いなしっす。
雑然と、ごちゃごちゃと、物が置かれる感覚、人形の首とか、
乱歩なら置いてるんだろうなぁ、と思われる怪しい小物が、てんこ盛り。
しかもね、写実主義の西洋絵画みたいに、写真かと思うようなリアリティーあるのに、
テーマを持って書いてるのが、きちんと分かるんだ。
ここら辺、リヴンなんかも、同じだよね。
んで、乱歩の部屋から出ると、緑館。
「緑館が歩ける」こりゃーあんた。テーマパークなんて目じゃないっすよ、実際。
「緑館」ってのは作家乱歩が経営してた下宿で、おそらくその資料から
起こしたであろう雰囲気は、最高。

なんだか昔の造りの家を歩いてる感じ。
うん、夢見館より郷愁に訴えかけるのは、僕個人の思い出でしょうね。
僕の実家の方は、疎開でお金持ちが別荘に移り住んで、
そのまま居着いちゃった人も少なくなくって、漆喰や、柱の感じが、
この時代のものに近い建物が、多かったんですよ。

子供時代、人の家をきょろきょろと見回していた感じが、喚起される、
硬質なグラフィック。

応接間に、ポーの肖像画が飾ってあるとこなんて気絶したちゃうほどしびれるよ。

で、影絵遊びとか、にやりとさせちゃうところが随所にあって、
殺人事件がある割には、かなり卑近な感じのするこの事件は終わり、

第二部、「大河原伯爵亭のお屋敷」に話は移ります。
ま、侯爵の家なのに、狭いとか、従業員いないなんて、野暮はいいっこなし。
ゲームだから、そんなに広かったら、「遊べない」もの、仕方なし。

この大河原侯爵亭、 実在の埼玉県入間にある、「石川邸」
というところを使ったらしいのです。

「RAMPO」のグラフィックの特徴として、CGと実写の合成というのが
大きな特徴になっているのです。
チープな感じも確かにありますが、サターンの荒い画像で取り込まれた人物が、
硬質なCGの背景の中にいるってのは、独特の雰囲気を醸し出していて、
好きなのです。

そして、この侯爵邸で、それがさらに一段、深まっていきます。
CGの通路に面したCGの扉。
そしてその扉が内側に開いて、実写の人物がでてくる。
扉の中は、実写。
サターンの画像は、お世辞にもクリアーとは言えませんが、
それが逆にいいイメージで、働いている。
CGはやっぱりつるりとした硬質感というか、潔癖感を拭うことは出来ません。
そして実写は、荒いながらも、存在感というか、いや、荒さこそが逆に、
奇妙に「この世のものでない感じ」を醸し出しています。
つるりとした扉の向こうにがさがさした実写の部屋が広がり、
そこから妙に薄い感じの実写の人間が歩いてくる。

重ねて言いますが、このソフトのグラフィックへのこだわりは
半端なものではありません。

荒い荒いといいながらも、補正はかなりの労力を持って、なさったはずです。
だからこそ生まれる、
奇妙な複合画。(専門用語あるんだろうけど、知りません、とほほほ)
その画面は、だまし絵のようです。

夢見館のように、前ボタンを押すとズームアップするのですが、
動画は荒くて、静止画はきれいな、ために、昔のカメラというか、
近眼の人の視界というか、
「不意にピントがあったときの驚き」
というものを感じさせてくれます。
ぼんやりとした、夢の中にいるような、すべてが幻のような、
独特の浮遊感、があります。
えーちょっと調子に乗って書いてるのは強く感じますが、
やってみてください、見てみてくださいよ
「そう言われれば確かにそう感じなくもない」
と、確かにいえますよ。ええ。

さて、もう少しストーリーを書きましょうか。
ネタバレ(業界用語、うひひひ)含むっす。

まあ、細かいところはゲームを楽しんでいただくか、
ご要望があれば全部書くとして、
気に入った仕掛けを二つと、あとラストのところをば(いいのかなぁ?)

気に入ったところ、その一
侯爵の後妻、静子さんの所にある、ライオン頭の剥製の目がレンズになっている。
実に古き良き土曜ワイドショウ的お約束ですよね。
ああ、天知茂よ、あなたは行くのが早かったってばよー。
そして、そこから変態侯爵が自分の妻の着替えを
下男に覗かせて興奮を味わうなんてエピソードは、もうこう、暗い暗い
サイコーだぜ!
サイコ、ですな。

んで、殺人予告ヴィデオ、つうか、8ミリ。
侯爵は自分の母親に狂的なまでの愛を注いでて、母によく似た女を妻に迎え、
母が死んだ年を越えるのを妻に許さず、母が死んだ年、28歳の妻の誕生日に、
妻を殺す計画を立てるのですが、
その前に「殺人計画、リハーサル映画」なるものを作ります。
妻と夫役の役者を雇って、妻に毒飲ませて壁に塗り込め、
最後侯爵役の男が振り返ってにっと笑ってエンドマーク。
監督・脚本・撮影、侯爵。

ばれるぞ、侯爵!

ま、役者さんの「その後」は、語られてないので、
どうなっちゃったか、は、たぶん、そうなってはいるんでしょうけどもね。

この、「馬鹿とはわかっていても引き込まれちゃうもの」というものこそ、
乱歩作品の真骨頂です。このゲームは、その雰囲気を、良く、
とは言わないまでも、がんばって、再現しようとしています。

んで、ラストのお話、まんま書きますよ。
大河原侯爵の家族は、三人。老人である、侯爵、美しい後妻、静子、
そして謎の失踪を遂げた(殺されたのよ、要するに)前妻、麗子夫人との子供、舞子。
もちろん麗子だって見初められ倍以上も年が違う侯爵と結婚したのだから、
舞子はまだ、12歳ほどの、小女だ。お約束の、美少女。

この、血がつながってるんだかいないんだか、緊張感ばりばりの家族関係の中、
実は乱歩が来たときから、隠し部屋で侯爵が死んでた、というのが、
衝撃的な事実、ってやつなんですけど、
事件を調べていくうちに、
「舞子ちゃんが、侯爵に薬と間違って毒薬のませちゃった」ということになりますが、
実は、「身の危険を感じて、侯爵を殺した静子がそう乱歩に思いこませ、
事件そのものを事故として処理をするために、乱歩と舞子を利用しようとした」
ということを、乱歩が解き明かします。
泣き崩れる静子。
そこに・・・・・・・
「なあんだつまらない、ばれちゃったんだ」
と、舞子が出てきて、雰囲気一気に急展開。
そう、舞子は侯爵を殺した罪を静子が自分になすりつけようと知っているのを、
全部知っていたのです。
確かに変態侯爵の血を引く、この12歳の少女は、
あえてそれを黙っていることにより、静子がずうっと良心の呵責と、真実の露見に
脅え苦しむのを見ていこうと、思っていた。と
父の仇と親子仲むつまじいふりをして、ずうっといじめてあげるつもりだったと
あっけらかんと、語ります。

子役独特の、ド下手な演技が、逆にものすごく、怖い。

幼い悪魔、ってのは、ちょっと乱歩作品とは違う気がしますが、
狂気と退廃と悪の侯爵の血は、きちんと幼女に受け継がれている、
というラストは、とてもこう、心躍るものがありますよね。


そして、舞子は、家族のいなくなった広いお屋敷にただ一人、
使用人と莫大な遺産を、そして悪の血を受け継いで、今もいるのです。

終わりの画面は
「また遊びに来てくださいね」という、舞子の手紙にかぶる、少女の笑顔。



この、制作者の趣味丸出しのゲームは、やはり、そういう意味で、
サイコーである、といえます。
上記の乱歩作品を二三個読んでから、もしくは僕のこの文章を読んでから、
「RAMPO」をプレイしてみてください。
絢爛たる愉悦の世界が、あなたを待っているかも、しれません。