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父からのプレゼント


グレートマジンガーの「超合金魂」を手に入れました。ぶらりと寄った模型屋に、ぽつんとおいてあったのを見て
買うという言葉のみが頭を埋め、気がつけば
向かいの銀行でお金をおろすために走ってしまいました。
病気だね、ホント。

でもね、グレートマジンガーにはちょっと思い出があるのです。
ジャンボマシンダーって知ってます?
1メートル(はなかったかな?)ほどの ものすごく巨大なソフトビニール製<のおもちゃ。そういうシリーズが、
今となっては遠い昔に出ていたんですよ。そのシリーズの、
グレートマジンガーを持っていたんです、私。

すごく小さい頃のおぼろげな記憶しかありません。
テレビをリアルタイムで見た記憶はほとんど皆無。
だからでしょうか、当時の私は、母によると、
「全然喜んでくれなかった」そうです。
決して安くないおもちゃなのに、察しなさいよ、私。と、
過去の自分にに言えるはずもないのですが、
最近出たポピニカ大図鑑とか言うなつかしおもちゃの本も見てみると
、当時のマシンダーの中でも出来は出色だし。価値のわからんガキだな、俺、ぷんぷん。

・・・・・・そんな私がある日を境にそのおもちゃの評価を改めるのです。
それは、父さんの買ってきてくれた、「ミサイルパンチ」でした。
今でも覚えています。父さんが「ほら」といってくれた緑色の箱には
なんだかわからない手の写真がついているだけ。
当然幼い私には、なんだかわかりません。
父さんは僕の目の前で箱を開けてくれます。中にはやっぱり手だけ。

ところがです。目の前でグレーとマジンガーの腕をはずし、
その無骨な腕をくっつけると、なんだかすごいことに
なるじゃありませんか!
父さんは僕の目の前でジャキンとマジンガーの腕を構えさせると、ボタンを押しました。
飛び出す連続ミサイル!
その時の感激。見慣れていたおもちゃが、まったく違うアクションを見せてくれる、
別のおもちゃになった、それは間違いなく感動でありました。
グレートマジンガーは、その時から僕のお気に入りのおもちゃになったのです。

大人になったから分かるんですけど、父さんは親子関係にはかなり不器用な人でした。
ものを貰うだけが愛ではないのは重々承知してるんですが(苦笑)、
父さんに、ねだってものを買って貰った記憶
は、ありません。いつもおもちゃ屋に行くのは母とで、
「欲しいものをくれるのは母さん」という図式ができあがってしまい。
甘える、もしくは甘えさせてくれる、という関係が少しできませんでした。

それをなんとなく感じたのが、小学生の時の思い出です。
僕は、その日、起きるにはまだ早い時間に、父さんに起こされました。
眠い目をこすりこすりしていた僕の前に、
差し出された箱。それは「マシン・ザウラー」でした。

TVでは放送せず、小さな雑誌展開のみ、
しかもシリーズ第一作とあれば、子どもがねだって衝動買いするしか
売れる方法がないおもちゃ。それを僕に差し出したのです。
確かにおもちゃを貰えばうれしい。それは子どもの本能です。
でも、やっぱり僕の中には疑問がありました。
「な、何故?」当然ねだったことはありません、
欲しいと思ったこともありません。父親は出張帰りに、
いきなり僕に、おもちゃを買ってきてくれたのです。
もちろん出張前に「おみやげ」を買ってくる約束どころか、
素振りを見せたこともありません。

僕は父さんから笑顔を向けられたことはほとんどありません。
父はあまり家庭では笑わない人でした。
その時も僕は笑顔で渡されたという印象はありません、
たぶん照れくさかったんでしょう、「ほら」といって渡されたと思います。
僕はうれしかった。父さんのことを「少し分かったような気持ちになれた」のが、
うれしかった。

僕は大きな声で何度も「ありがとう」を繰り返し、
ちょっぴりわざと父親の前でそのおもちゃで遊んでいました。
今でもまだ外が少し暗い朝の居間で、あの箱を開けた不思議な気持ちは覚えています。


最近(といっても二年くらい前だけど)
まったく同じような気持ちになったことがあったのです。
父さんは小説など、学校の教科書以外に読んだことがない人なんですけど、
その父さんに一冊の本を渡されました。
題名は「テムズとともに」皇太子の書いた留学の想い出の本なのです。
学習院の教授と知り合いになり、一冊貰ったから、僕にくれたのでしょう。
本=僕という図式とともに。
ちょっと申し訳ないんですが、まだ読んでいません。おもしろくなさそうなんだもん。
でも本棚の隅にはきちんとあります。

僕のだらしなさはそれこそ日本ランカークラスで、
一冊の本を探すのに、部屋中をめちゃくちゃにしてしまうのは、日常茶飯事です。
その時、ふとした偶然で、「テムズとともに」が出てきます。
そのたびに何となく、口元に小さな笑みが浮かびます。
その笑みはきっと、父さんが時たま浮かべる家族に向ける
「照れまくった小さな笑み」とそっくりなんだろうな。なんて、思っています。

混沌と化している部屋の中でね。