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ザ・マン アイ ラブ
今から13年くらい前のソフト。
シンキングラビット製である。
今は絶滅したジャンルである、推理アドベンチャー。
白黒のグラフィックは、アメコミ調グラフィック、
静かなBGMが流れる、美しいシックなゲームであった。
操作性は、最悪。
隣の部屋に行くにも、「イドウ ミギ」とやって、
ドアの前にたたないといけない。
画面の中にドアが表示されてるのにさぁ。
選択式コマンドなどない時代の作品だ。
隣の部屋があることわかるのに1週間かかりましたよ、トホホホ。
それでもこのゲームの雰囲気は最高だ。
「イドウ トナリ」
たとえ私がスーパーマンでも、隣の部屋に行くときはドアを開ける。
って、「アケル ドア」ってやらないと進めんのかい!
会話センスとかは、いい感じである。
物語は、しがない探偵のところに、ひとつの依頼が来ることから始まる。
上流階級の老婦人の依頼だ。
指輪を探してほしい、とのこと。
亡き夫との大切な思い出の品、
当時の貧乏だった夫が全財産で送ってくれた、
とても高価な指輪なのだ。
事件そのものは単純な・・・・はずだ。
物盗りが入り、盗品の中にその指輪がある。
その泥棒を見つければいい。
本来は警察の仕事だが、彼らは指輪だけを特別視はしてくれないだろう。
だからこそ、私に仕事を依頼したのだ。
指輪は意外なところで見つかる。
殺人現場だ。
被害者は、その泥棒。
ゲームの序盤であっさり、指輪は見つかってしまう。
ただし偽物が。
話しに聞いていた高級な指輪の、粗雑なイミテーションだ。
情報を得るため、老婆に指輪を見せると、
老婦人は、その指輪を大事そうに、本当に大事そうに手の中に包み込む。
そしてお礼の言葉。
老婆の家を後にした私の上には、満天の星空。
BGMとともに、幕が下りる。
そう、あっさり終わってしまうのだ。
こ・・・・これで終わり? う、うそだろ?
なんとまあ、いきなりのエンディング。いわゆるバッドエンドってやつだ。
指輪を持っていると、じょじょに犯人の手が私に伸びてくるのがわかる。
泥棒は誰に殺されたのか、何のために?
すべては指輪が理由だった。
この指輪を売った宝石商。それは、アメリカでも高名な商人だ。
彼の仕事の唯一の汚点、それがこの指輪なのである。
彼は昔、このよくできてもいないイミテーションを高価な金で取り引きし、
そのまま売ってしまった。
それがわかったのは、つい最近のこと。
老婦人に恥を忍んで告白し、買い戻すことを申し入れた。
しかし、老婦人はけっしてその要求をのんではくれなかった。
そのことがばれたら、宝石商の名声は地に落ちる。
焦った宝石商は、凶行に及んだ。
これが、事件の真相であった。
宝石商は、追いつめられ、私は警察に彼を引き渡した。
私は、指輪を持って老婦人の家へ
老婦人は、その指輪を大事そうに、本当に大事そうに手の中に包み込む。
そしてお礼の言葉。
老婆の家を後にした私の上には、満天の星空。
BGMとともに、幕が下りる。
そう、さっきのバッドエンドと、
全く変わらない、何一つ変わらないラストシーン。
メッセージも全く変わらない。
たったひとつ違うのは、老婆が、高価な指輪を大事にしているのではなく、
夫との思い出が戻ったことを、心から喜んでいることがわかる
プレイヤーの心だけなのである。
私はこのゲームのエンディングを見たとき呆気にとられ、
そして次の瞬間、熱狂的に興奮した。
すごい、すごいや!
全く変わらないメッセージ、場面、
それを感じるプレイヤーの心にだけもたらされるエンディングなのだ。
この驚き、そして込められた暖かいメッセージこそが、
10年以上たっても、「ベストゲームを1つ上げよ」と、問われたときに、
真っ先にこのゲームの名前を出す理由なのだ。