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リッチ部屋の慣習、本論


 ことほど左様に他人の心が自分に影響を及ぼすブリタニア。
モニターを隔てたつきあい方という独特な価値観を兼ね備えつつ、
ゲームの中での利害関係なんかも絡んでるところは、割と新しいコミュニケーション
だったりするんではないでしょうか。
 それを色濃く感じさせてくれるのが、通称「リッチ部屋」といわれる場所なのです。

ブリタニアのダンジョンは危険なところです。倒しても倒してもモンスターはどこからともなく
沸いてきて、冒険者たちに襲いかかります。
 しかし、冒険者たちは何故ダンジョンのような危険な場所に乗り込むのでしょうか?
それはもちろん、モンスターを狩りに行くからなのです。
 モンスターが与えてくれる、経験値、金、アイテム、快楽を求めて、得物を片手に日夜冒険者は
暗闇を徘徊しているのです。

 モンスターにも自然好かれるものと、そうでないものに分かれてきます。短時間でしとめられて、
しかもおいしいうまみのあるモンスターが人気となるのです。
 ブリの世界だと、リッチはかなりの上位ランクに位置するおいしいモンスターです。中級以上の
冒険者で、回復を頼める仲間がいて、かつそれなりの武器を持っていればそうそう負けるやつでは
ありません。しかもモンスターとすれば比較的裕福(笑)で決まった場所に現れる、とすればその
場所は温泉のように、人気のスポットとなるのです。

 初めて連れていってもらった時から、もうどれくらい通ったか、分からないほどに行っているの
ですが、あの独特の緊張感と、欲望の渦巻く空気は大好きです。
 リッチ部屋と呼ばれる場所は、画面では1.6画面ほどの狭いところに割と頻繁にリッチの現れ
る場所です。
未だに小心者の僕は必ず仲間とつるんでいきます。だいたいは先客がいます。
「こんばんわー」
 僕らはその人が顔見知りであろうがなかろうが、かまわずに必ず声をかけます。だいたい相手は
答えを返してくれます。

実はここに深遠な駆け引きがあるのです。おわかりでしょうか?
 こんな簡単なことで、僕たちは先客がPKでないのかどうかを判断しているんです。
答えを返してくればいい人、そうでなければ要注意。繰り返しますがダンジョンは危険な場所です、
そしてブリタニアでもっとも危険な生き物というのは、他ならぬプレイヤーなのです。こんな頼り
ない判別でも、ないよりはましです。
探りと緊張を交えたきさくな挨拶。
アパートに引っ越してきて、始めて隣の人にする挨拶みたいなもんでしょーかね、気分的には。

 んでその後の「場所取り」というこれまた独特のルールがあります。
部屋の一角にそそくさと入っていき、そこに陣取るのです。このとき、決して先客のテリトリー
を犯してはいけません。
注意しつつ、かつ大胆に場所を陣取る。これがこつです。
運動会場所取りののシートを置きに行くとき、他人のシートを少しずらして広い場所をとるような
狡猾さが必要とされるのです。
 この後も妙な緊張感は続きます。リッチは一度には一匹しか現れません。如何に相手に不快感を与え
ずに、人より多く多くリッチをしとめるか。効率よく、かつ安全に金を得るために繰り返される奇妙な
慣習。これを破るものには如何に恐ろしい報復が待っているか分かりません。部屋の中という狭い空間
に入れられた、見知らぬ人々。呉越同舟と言うほどには殺気だってはいませんが、前述の通り、ブリタ
ニアでは他人は決して安心できる存在ではないのです。

 今日もまたリッチ部屋では明るい声が響きわたっています。裏に様々な思いを込めながら、
この変な慣習は日々続けられているのです。
「こんばんわー」
「ばんわー」


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