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父との一日
ああう、もう2ヶ月もたってしまった。無精だな、俺。
でも毎日文章書いてるし・・・・って
どっかで聞いた言い訳だね、武雄君。
父が、出張のついでに、家によることになった。
東京の、6畳の、一人暮らしの、僕の家へ。
少し緊張した。
父とは、会話らしい会話など、ほとんどしたことがない。
僕は、おしゃべりだ。誰とでもそこそこ話を合わせられる自信がある。
向こうが会話を避けなければ、であるが。
で、父が来る。
何故か?
それは、次の日に秋葉原に行くためであった。
ブルータス、おまえもか!
っていうか、俺何人の人、秋葉原案内してるんでしょうか?
まあ確かに、オタクの利用価値って、これくらいだよねぇ、とほほほ。
せっかくの初めてのおやじ単独での訪問だってのに、
コンビニ弁当買ってきて待ってたり、
父ならではの「分かってなさ」が大炸裂して、僕はくらくらしました。
もちろん、酒飲めるお店に連れて行ってつまみをつつきながら、
ちびちび飲みましたとも。ええ。
ま、コンビニ弁当と、ビール買ってきてあったのは、
それはそれで実におやじらしくて、にやにやしたことは確かですが。
で、次の日。
秋葉原に着く前、いきなり「上野で下りよう」
と、言い始める父。
「アメ横?」ときくと、
「いやちがう」というお答え。
そして下りてから、さんざか迷ってある方向に歩き出しました。
アメ横とは、もちろん秋葉原とも正反対の方向。
「おお、あった」と父の声。
「うおおおおおおお」思わず小さく叫ぶ俺。
バイク屋! いや、そんなもんじゃない、
バイク横町!!
上野バイク街!
もーなんて言うか、そう形容することしかない、
バイク屋ばっかしの通り。
エンジンふかしている人、部品磨いている人、
ライダージャケットのほこり払ってる人、ぼーっとそれ見てる人。
ああ、いいよねぇ、こういうところ。
たとえ趣味は違っても、心意気は同じ?
何よりも、よだれ垂らさんばかりにそういったバイク、部品、グッズを見ている、
中学生(推定)、高校生(推定)が、いいよね。
ショーウインドウの中の、トランペットにあこがれる黒人少年そのもの。
やっぱり、これがあってこその、専門店街。
バイクは、僕にとっては遠すぎる代物だけど、メカ、スピード、こだわり、機構、
やっぱりいいよね、わかりますぞ。
あの、走るため以外の部品はいらない、というところも、
つけられるアクセサリー全部つけちゃえ、と言っているグッズも、
なんか、いい。
おやじは昔、バイク小僧だったのである。
なつかしそーにバイク屋通りに目をさまよわせる父。
追憶の中の風景。
「30年ぶりくらいか・・・・」とか独白はじめるし。くくく。
そして、例によってこっちを見ず、てれくさそーに言うのでした。
「結婚前、母さんとここに来たんだ」
うひょー、のろけてるよ、聞きました? ねえ。
人生29年、生まれて初めて聞いた、父ののろけ。
会社の部品の買い付けの時に誘ったんだってさ。
もう少ししゃれろや、とうさん。
「上野公園で母さんの弁当食ってなぁ」
このくらいしか話さなかったけど、これは
ほんと、奇跡のような父の言葉と、時間でした。
親父も年とったって事だよねぇ。
で、そんな親父には秋葉原はきつかったです。
元気なのオタクばっかりだし。
秋葉原は、目的のモノか掘り出し物をそれだけ目指していって、
寄り道をほとんどしないで帰ってくる場所であって、
目的なく、多く見てこようなんて人には、地獄です。
すごく疲れた様子で、父は帰路につきました
。
そんなわけで、僕にはすごく収穫のあった日でした。
それなのにこうして文にするのに、2ヶ月かかるし、しくしく。