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家
冒険者に家はいらねぇ。
これがライアンの口癖であり、ポリシーだった。
ま、そこまで金が貯まらなかったのも、事実なんだが。
僕だって、演じているのである。
鍵を持って、空き巣におびえるなんて
ファンタジー世界の風来坊である「ライアン」には全然似合わない。
宿屋をふらっと出て、気が向いたところに泊まり、星空を屋根に、
草をベッドに、風に揺れる葉の音を聞きながら眠る。
ま、システム上、宿屋の方が安いので、泊まっているが、
気分的にはそんな感じなんである。
まあ、気心の知れた連中に声をかけ、決まったトコに、
決まったように狩りをする、僕のプレイスタイルを
「冒険者? ぷぷぷ」
と、おっしゃられる方も、多いであろう。
返す言葉も、ございませぬ。
でも、気分は風来坊なんだもん!(←半べそ)
鍵なんざ船だけだって重いくらいよ。べらんめぇ。
それに俺は、本当に必要な荷物なんてものは、書き出せるほどに少ないのだ。
りゅうからもらった、ヴァンクのシミター。これが一番として、
他にもらったり買ったりした、パワーの武器、良い盾、それに秘薬が200ずつ、
後はシルバー数本と、ルーン。
そして、ブリタニア合唱団の衣装。
これでおしまいである。
まぁ、これ以上に、必要だった、
「いろんな人からもらったバレンタインデープレゼント」と、
「かるさんからもらった、青プレート一式」は、
初代ラジェンドラ号とともに、
海の藻屑と消え去ってしまったわけなのだがね、
しくしく。
銀行に入りきらないのは、合唱団の制服くらいなモノで、
それだって、二代目であるラジェンドラ号の船倉に納めておけば、
オールオッケーなのである。
クリーンパッチだって、へっちゃら。
銀行が容積増えるのだもの。どんと来い。
であった。んだがしかし、
家を譲り受けてしまった。
のである。
これをくれたのは、ドロンジョというキャラをやっていた、
もう、十年以上もの付き合いのある現実の方の友人だ。
彼は、UOをやめるのだ。
UOをやめる、UOを始める。毎日このことは繰り返されている。
友人は、このブリタニアから、去ることを、選んだ。
僕に家を残して。
彼が家を僕に渡し、ログオフしたときの言葉が、僕の頭の中に、残っている。
「んじゃね、よい旅を」
彼は、そう、ICQで送ってきたのである。
不覚にも、じんと来ちゃいました。
僕も友人も、キャラを無理に演じてたりとかしていない。
あくまで現実の延長としての、付き合いだったんだ。
でも、彼の最後のせりふは、「ブリタニアの住人としての」挨拶だったんだ。
僕はまだ、このさめない夢の中の住人として、生活している。
彼はそこから、出ていった。
あのせりふは、その、「事実」を教えてくれたんだよね。
時、同じくして、僕は、もう一人のキャラを育て始めた。
名前は、「コルム」。「紅衣の公子」といっても、ほとんどの方はしらんな。
その名の通りの、紅のマントをまとう、戦士に育てるつもりだ。
夢をもう一度見始めた気分だ。
牛を狩り、熊を狩り、オオカミを狩り、オークメイジに、狩られる。
モンスターから逃げ回り、リコールに失敗して煙を出す。
初期装備で馬を持ったキャラに、馬を誉め、刀をあげた。
「ばじめて手に入れたんです」と彼は言って、
「お礼に一曲どうぞ!」と、リュートをかき鳴らした。
なつかしい。
僕も昔は、こうだった。
抜けられないっすよ、UO。
ま、いいか。
僕は、まだ、旅の途中だ。