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ぼくと200


やはり「自爆」と言うからには、「エイリアンストーム」について語らねばなるまい。
なんていうと皆さんひいてしまうので、中学の時のヘボな思いででも。

運動会の200メートル走です。
遅いんですが、かけっこ好きなんですよ。
体力ないんですが走り終わると呼吸困難になるくらい無理しちゃいます。
五人ぐらいでよーいどん。
この五人の中で一番をとれば、ノートがもらえるのです。
ノートは憧れでした。
がきの頃からダメダメなんで、今までで障害物競争で一回もらったっきり。
ところが小学六年生くらいから、何かちょっぴり足が速くなりました。
ほんのちょっぴりなんですけどね。二等の鉛筆をもらったりしました。
そして中学一年。
スタートラインに立つ僕は、期待で胸が膨らんでいました。
何でかというとね、その列だけ足の遅い人達が多かったんですよ。
「いける。いけるぞこれはっ!」
僕の頭はかってない期待でいっぱいになりました。
胸と頭かぱんぱんって何か凄いんですが、ホントそんなです。
鼻の穴も膨らんでたでしょう。顔も赤くなっていたかも、しれません。
二つ前の列がスタートしました。
ふと見ると、妹と、母がコースの横でこっちを見ています。
妹が、僕に手を振りました。
妹はこういうスタンドプレイというか、感情表現が上手なのです。
僕は下手くそです。
小さく手を振ってぎこちない笑顔を返すのが精一杯でした。
それに今は、それどころじゃなかった。
「ノートだ。一等だ」
今までのあまりに不遇な運動会人生が、僕を狂わせていました。
百円のセイカノートが一体なんだというのでしょう。
その時の僕はノートの使い道まで考えていたりしました。
「そういえば、数学のノート使い切っていたな。あれにつかおう。
 いや、小説用にとっておこうか・・・・・」
大馬鹿です。

でも運動会って多少、こういうふうになっちゃう人、居るんじゃないでしょうか。
なっちゃってましたよ。完全に。
そして前の人達が終わり、僕らの番になりました。
「ばん」
鉄砲がなって、スタートしました。
走る。
走る。
周りの景色はぐらぐら揺れます。
遠かったカーブがどんどん近付いていきます。
気がつけば、
僕の前には誰も人がいないじゃありませんか!
いける!
いけるぜてっちゃん!
僕はインをとるために強引に体を曲げていきます。
その時かすかに、妹の声が聞こえました。
「おにーちゃん、がんばってー!」
おうともさ!
心の中で力一杯返事をして僕は足を踏み込みます。
走る。
手を思いっきり振って走る。
その時でした。
「・・・・おにーちゃんがんばって・・・・・・」
ものすごく激しい息の下で、
不気味な裏声で
競争相手がつぶやきました。
「ぶ」
息が抜けました。

・・・・・・・・・二等でした。
まぁこんな緊迫した瞬間にこんな事を言える人間に僕は勝てるはずもなかったのですが、
なんとなく・・・・ねぇ。
まぁでも、声を掛けてもらうというのはうれしかったことは確かなのです。
一等をとれなかったのは悔しかったけど・・・・・まぁいいよね。

このことを思い出す度に、妹にはかなわないなぁなんて思う次第でございます。



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